ねっちゅうしょう |
【櫻子】
「いい加減にしなよ。外で頭冷やしてこい!」
バタンッ
いきなり締め出しを食らってしまった・・・。いや、いきなりでもないか。
いつものように勉強している花子に絡んでいたら姉にこっぴどく叱られて、
素直に謝ればいいものの、いつもの調子で口答えしたら、虫の居所が悪かったのか。
ついに私はつまみ出されてしまったのだ。
ジリジリジリジリ・・・。
「こんな暑かったら頭なんて冷えないよ!!」
姉が見ていた天気予報では今年一番の暑さだとか何とかテレビで言っていたのを
思い出した。私、このままじゃ干からびてミイラになっちゃうよ!
必死にドアを叩きながら叫ぶが、まったくと言っていいほど返事が来ることはなかった。
「マジか」
【結衣】
夕飯や明日までの食料の買出しに出かけていた。安いからってまとめ買いしたせいか
袋が少し重い。更に外は良い天気ではあるが、日差しの強さといったらすごいものがある。
テレビでも今年一番とか・・・。やっぱ軽めに買っておくべきだったか。
帽子を深めに被りながら、早く家に帰って涼もう。と思っていた矢先。
何だか千鳥足のようにふらついている動きをする気配を感じていた。なんだろう。
また京子が変なこと思いついて、変な行動でもしているのだろうか。
深く被ってるせいで、よく見えないせいもあり、私は何事もなく隣を過ぎようとした時。
「あぁ!船見先輩!?」
「ん、その声は・・・。大室さん?」
元気のありそうな声に聞き覚えがある。あまり話したことはないけれど、
前に麻婆豆腐の話をしたときに、えらい手抜きのイメージが強く残っていた。
「よかったぁ・・・知ってる人に会えて・・・」
私に声をかける時とは違い、気が抜けたのか途端に声が震えるように言う。
帽子を少し上げて、大室さんの表情を窺うと。汗だくで、立っているのもやっと。
という状況に見える。
「ちょっ・・・。大丈夫?」
「全然大丈夫じゃありません〜。家から追い出されてから、向日葵の家に行っても
みんな出かけてるみたいで入れないし。あかりちゃんはお姉ちゃんとでかけてるし、
ちなつちゃんは何か作ってるから手が放せないとかで・・・」
「へ、へえ・・・」
申し訳ないが大室さんの心配よりも、その言葉ですぐにちなつちゃんが必死に何かを
作り上げているのを想像してしまった。相変わらずモザイクが入りそうなほどの作品を。
「あっ、さっきスポーツドリンク買ってきたんだ。大室さんもいる?」
「あ、ありがとうございましゅ・・・」
私は袋の中からスポーツドリンクを取り出して、大室さんに手渡すと。
最初はちゃんと握っていた手が緩んできて、ペットボトルが握っていた手から落ちた。
どうも様子がおかしい、私は彼女に声をかけ続けるが返事が来ない。
「おおむろさ・・・」
トサッ
すると、ゆっくりと私の肩へ頭を預けるように倒れてきたではないか。
呼びかけるも返事がない。こんな手の込んだ悪戯をしようとしても、普段の顔馴染み
ではない、私にはこんなことしないと思われた。
「大室さん!」
これはまずい。買い物袋と彼女を一人で連れて帰るのは無理だ。私は大室さんを
抱えたまま、何とか空いた片手で携帯を操作して京子に電話をかけた。
「もしもし、京子。ちょっとやばいことがあって・・・。助けてくれ」
私の声が尋常じゃないことを感じ取ったのか、京子は疑いも無く素早く駆けつけて
くれた。最初こそ何でか、おちゃらけた登場の仕方をしていたが、大室さんの姿を
見るや否や、普段は見せない真剣な表情に変わった。
よくもまぁ、こんなにコロコロ変わるもんだと、改めて関心をしてしまった。
【櫻子】
「ん・・・」
気がつくと私は布団の上に寝ていることに気づく。おでこには冷えピタらしきものが
貼り付けてあるようだ。すごくだるい・・・。その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「大丈夫?」
それは船見先輩のもので、私は慌てて体を起こそうとすると、頭がくらくらして
倒れそうになる。
「あっ、ちゃんと休んでおきな」
「す、すみません」
そういえば、先輩と会ってからの記憶が一切ない。私はあの時、
途中で倒れてしまっていたのか。
普段、気を遣わない向日葵にばかりやらせていたから今まで何とも思わなかったが、
そんなに接したことのない船見先輩だったから、何だか申し訳ない気持ちになった。
でも、体力がだいぶ奪われてる私には今すぐ動くなんて余裕がないわけで。
それに無理にでも帰ろうとすると、多分この人は止めると思う。
あかりちゃんたちの話を聞いてればなんとなくそう思えた。
「はい、スポーツドリンク。氷で冷やしてあるから、ゆっくり飲んでね」
「あ、ありがとうございます・・・」
最初に受け取ったのはペットボトルだったものが、今は綺麗なコップに注がれている。
氷が溶けてカチッとコップとぶつかる音がした。私は喉が渇いているのを感じて
遠慮なくいただくことにした。
「ぷは〜!うまい!」
涼しい部屋に冷たい飲み物。あまりに心地の良い空間に私はここから離れたくない
気持ちが強くなってしまう〜。と悩む振りをしながら布団の上に再び横になって
ゴロゴロする。
「調子戻るまでゆっくりしてな」
「ありがとうございます!」
ほんとに、姉たちと違って優しいなぁって、つくづく思うのだった。
しばらくしてから、少し体調が戻ってきたみたいで、そろそろ帰ろうと思って
体を起こそうと思った時に先輩が近づいてきたのを感じた。
「大丈夫?」
「は、はい」
「どれ・・・?」
そう言うと、さりげなく私の額に手を当ててきた。顔の位置も少し近い気がした。
それまで何ともなかったけど、顔が近づいてくるとドキドキするというか。
改めて先輩はかっこいい系なんだなって、思えた。それに、優しいし。
「・・・」
それに、何かいい匂いするし・・・。何か胸の中がもやもやして気持ちが悪い。
そんな気持ちに耐えられずに私は声を上げながら先輩の手を払う形で
体を思い切り起こした。
「ぬわああぁぁぁ・・・!」
「!?」
それは先輩にとってもいきなりだったらしく、起き上がりの私の顔の位置とほぼ
同じ高さにあったから・・・。
先輩の唇と私の唇が触れて重なってしまうアクシデントが発生してしまったのだった。
お互い、驚きのあまりに体と頭が硬直してしまう。その間にもお互いの唇の感触や
少し息がかかるのを感じる生々しさを味わってしまった。
「うわああああああああ!」
私は言葉にならない奇声を発しながら、玄関まで走っていって外へと飛び出した。
どれくらい走っただろうか。気がつけば、倒れたであろう公園の前に着いていた。
そして、頭が真っ白で訳がわからない状態だった私はふと我に返って一言呟いたのが。
「あちぃ・・・」
先輩とのあの事故のことは忘れてはいないが、考えるとまた顔が熱くなって
のぼせそうになるから、必死に考えることを止めたのだ。
でも・・・船見先輩はどう思ったのだろうか。それはちょっと気になる所である。
「あ・・・」
お礼も何も言わないで飛び出してきてしまった。ちょっと失礼だったかな・・・。
そんなことをぼ〜っと考えていると、少しは太陽の日差しが弱くなったとはいえ、
また具合が悪くなる前に家に戻ることにした。さすがにもう許してくれるだろう。
許してくれなくても、向日葵んちで誰かしら帰ってきてるだろうし。
また落ち着ける場所が出来てから考えることにした。
触れた唇に指を当てて私は憎憎しいくらいに晴れている空を見てから。
「まぁ、いいか」
そう自分に言い聞かせながら家路を歩んでいく。このドキドキともやもやの正体が
掴めないまま、新鮮な体験を後にして。慣れた、いつもの日常へと戻っていくのだった。
お終い
説明 | ||
マイナー絡みが無性に書きたくなる病にかかっています。 ということで、船見さんと大室さんのお話。 受け付けねえなぁっていう方以外はよろしければ見てってください。 ちょっと無理があるかもですがwタイトルもダジャレめいてるしw |
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