リリカルなのは×デビルサバイバー As編
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 あのプレシア・テスタロッサが、起こした事件から数ヶ月。春とも夏とも言えるそんな時期から季節は移ろい、冬と呼ばれる季節に入っていた。

 

 子供は風の子とはよく言ったものであり、手が痛むほどの気温の中、学園に通う子供たちは元気そうにはしゃいでいる。その話の中心は勿論、十二月二十四日にあるクリスマスイブの話だ。とはいえ恋人との逢瀬とかいう話ではなく、サンタから貰えるクリスマスプレゼントを楽しみにしてのことである。

 

 その中、いつも仏頂面をしているカイトが、満面の笑みで歩いている。

 いつもの彼を知る友人たちは、その事について少しの興味とちょっとの恐怖を抱いている。その彼に、いとも簡単に話しかける二人の少女の姿があった。

 

「おっはよ、カイト! 随分ごきげんねぇ?」

「おはようございます。カイトさん」

 

 一人はアリサ・バニングス。もう一人は、月村すずかだ。彼女たちと会話するようになってから、もう数ヶ月。気軽に挨拶をして、下の名前で呼ぶような仲になっていた。

 

「おはよう、二人共。いや、実はさ」

 

 懐から一枚のチケットを取り出す。それはライブのチケットであり、そのライブを行うバンド名はD-VAと書かれていた。

 

「D-VA……初めて聞くバンド名ですね?」

「まぁ、有名ではないからね。だけど、最近一部の人たちの間では有名なんだ。『人の心を癒し、繋ぐような天使の歌声のようだ』ってさ」

 

 何時になく、熱く語るカイト。その様子に、ちょっと引きつつも、アリサは言う。

 

「ちょっと言い過ぎじゃない? 天使の歌声のようだって」

「……まぁ、比喩だし。ていうか、本当に天使の詩だったら、どっちかっていうと昇天しそうだけれども」

 

 一瞬で熱から冷めるカイト。キーワードは自分で言った天使という単語です。

 

「まぁ、それは置いといて。それぐらい、いい歌を歌うってことだよ」

「へ〜……」

「そこまで言うのなら、聞いてみたいです」

「ん。じゃ、今度貸そうか? この前初アルバムを発売してさ、当然それを買ってあるから明日にでも持ってくるけど」

「本当ですか? ありがとうございますっ」

 

 そんな会話をしながら、三人は学園へ向けて歩いて行く。

 以前はギクシャクしていた関係も、半年も経てば慣れへと変わり、新たなる人間関係を築く。それが適応能力の高い子供であれば尚の事だった。

 

* * *

 

 学園へと着き、教室へ入ると登校中のカイトの様にテンションを上げた人物がそこに居た。

 チャームポイントとも言える、ツインテールを揺らしながら、いつもよりも明るい表情をした少女、高町なのはがそこに居た。

 

「おはよ〜なのは。随分とごきげんねぇ」

「おはようアリサちゃんっ! それにすずかちゃんと、カイトくんもおはよう!」

「おはよう、なのはちゃん」

「おはよう」

 

 各々挨拶し、アリサが「で、どうしてそんなに機嫌いいのよ」と、話の続きを促す。

 

「うん! フェイトちゃんから、ビデオレターが届いたんだ」

 

 笑顔でいうなのはを見ながら、カイトはちょっと安堵していた。

 フェイトが元気にでいることに安心したわけだが、実際の所は"フェイトが元気にしている"ということは、少なくとも今は亡きプレシア・テスタロッサの思惑通りであることを、嬉しく感じた。というところにある。

 

「そうなの?」

「うんっ! アリサちゃんと、すずかちゃん宛にも来てるから、あとで渡すね?」

 

 アリサとすずか両名も、なのはと一緒に写ったビデオレターを撮っている。それをなのはがミッドチルダに送ってるそうだ。いや、正しくはその仲介役の人に送っているとのこと。

 

 それから、チャイムが鳴るまでなのは達は会話を楽しんでいた。

 

* * *

 

「あ、カイトくん!」

「む?」

 

 授業も終わった所で、カイトはなのはに呼び止められる。

 

「えっとね、フェイトちゃんからのビデオレターのなかで、クロノくんから伝言があったんだ」

「クロノから?」

「うん。万が一影響が出たら心配だから、クロノくん達が地球に帰ってきたら身体検査を受けて欲しいんだって」

「……別に問題ないんだけどなぁ」

 

 自分の拳を握ったり開いたりしてから、なのはに返事をすると「駄目だよっ!」と言われてしまう。

 

「何が起きるか分からない。ってお医者さんだって言ってたもん! 万が一ってこともあるんだよ?」

「本当に大丈夫なんだけどなぁ……」

 

 肩を落としながら、カイトはあの時のことを思い出す。

 医者曰く、ジュエルシードの魔力の影響は、カイトにちょっとした変化をもたらした。それは、精神的な物ではなくて、肉体的なもの……と、言えるだろうか? 今のカイトは、リンカーコアが無いのに、魔力を持つに至っている。

 その魔力とは当然、悪魔使いのものでもなく、悪魔のものでもない。魔導師と呼ばれる者達と同系統の魔力だ。

 それは通常では起こりうる事ではなく、異常な事態だといえる。

 

「駄目だよ? クロノくんも、カイトくんの事心配して言ってるんだから!」

「……分かったよ。クロノ達が来たら連絡くれるように言っといてくれ」

「うん、分かった!」

 

 笑顔で頷くなのはとは対照的に、カイトの心は沈んでおり、その思考は様々な可能性について考え始めていた。

 その思考の中身にあるのは、果たしてクロノ達を信用して良い物か? ということだった。

 悪魔の力を知った者が、どんな行動をするのか? それをカイトはよく知っていた。

 

「まぁいいや。さっさと図書館にでも行くかな……」

「図書館……? カイトさんも図書館に行くんですか?」

 

 カイトに声をかけたのはすずかだ。

 

「そうだけど……。月村さんも?」

「はい、ちょっと借りたい本があって。今日は習い事もないし、ちょうどいいかな? って思って」

「そうなのか、なら一緒に行く?」

「はい!」

「なら高町さんとアリサはどうする?」

 

 二人に声をかけるも、二人共首を横に振り。

 

「あたしはパスね。すずかとは逆に、今日は塾がある日だから」

「私も今日はちょっと用事があって、行けないかな」

「なら、仕方ないか……それじゃ行こうか?」

「ですね」

 

 二人は揃って、教室を出て図書館へと向かう。

 

 ………ターニングポイント。そう呼ばれるものが、あるのだとしたら、間違いなく図書館に行くという選択肢がそれに当てはまるのだろう。しかし、その事を当然カイトは知らないし、その先で出会う少女達もまた知るよしもなかった。

 

* * *

 

海鳴市にある国立図書館はかなり大きく、歴史もある図書館だ。

 様々な論文や、古い文献なんかもあり、少々遠くからでもこの図書館に来る人は多かったりする。

 そんな図書館であれば、インターネットでは得る事の出来ない情報を得ることも出来る。と、考えカイトはやってきたのだ。

 

「月村さんは何の本を借りるの?」

 

 図書館へと向かう道中にて、会話の繋ぎとしてカイトはそう聞いていた。

 するとすずかは、鞄の中から一冊の本を取り出した。

 

「え〜っと……ミステリ系の本?」

 

 その表紙は古臭く、一人のイギリスか、イタリア系の紳士がパイプを吸っている絵柄だ。

 

「一見すると、そう見えますよね? 読んでみればわかりますよ?」

「ふむ……」

 

 すずかから本を受け取り、中身をペラペラと読み進める。文面が少々古臭く、遠まわしな表現なども使ってあり、慣れていないと読みにくいかもしれない。というのが、カイトの感想だった。中身をなんとなく理解し、発売日を見ると、三十年以上前に翻訳され、原作は更に古いもののようだった。

 

「恋愛ミステリ。って所? ミステリか、恋愛が好きなのか?」

「私が好きなのは、恋愛小説だったんですけど、お母さんから勧められて読んでみたら嵌っちゃって……」

「へ〜……」

 

 カイトは読みにくいと評価したが、すずかの言うことも少々わかった。読みにくい……だけれど、どこか人を惹きつけるようなそんな文面。そう、文字に人を惹きつける力がある。と言えるかもしれない。

 

「俺も借りてみようかな……?」

 

 ボソッと言ったカイトであったが、当然横に居たすずかには聞こえていた。

 

「本当ですか!?」

「うわっ!」

 

 身を乗り出すように、すずかがカイトに近づく。

 その勢いに驚き、カイトはのけぞる形になる。

 

「え、あ。ご、ごめんなさいっ! 本の事で話し合えると思ったらつい……」

「……まぁ、いいんじゃないか? 夢中になれるものがあるっていうのはさ。…ちょっとびっくりしたけど」

 

 すずかの新たな一面を発見したりと、カイトにとって驚くような事があったが、概ね会話を楽しみながら、図書館への道中を楽しんでいた。

 それから暫く会話を続け、数十分後漸く図書館へと着いた。

 

「少し遠いよな、しょうがないことだけど」

「ですね……」

「まぁいいや。それじゃ、一旦別れようか。お互い本を探さなきゃいけないだろうし。集合時間は、今から二十分後ぐらいで、場所はあそこでいいか?」

 

 カイトは、大きなテレビのある場所を指さす。

 

「確かにあそこなら、分かりやすいですよね。それじゃ、私いきますね」

 

 すずかはそう言うと、本の返却口へと向かった。先ず、彼女が借りていたあの本を返却するのだろう。

 

「さて、俺も行くかな……先ずは、職員のお姉さんにでも聞いてみるかな?」

 

 眼の前で暇そうにしている女性に、カイトは話しかける。笑顔で応対するも、一瞬怪訝そうな表情をされてしまうが、一瞬で笑顔に戻り、場所を直ぐ様教えてもらえた。

 

「……そりゃ、神話関係の本の場所を教えろ。とか言ったら、何だコイツとか、思うよなぁ。俺、小学生だし」

 

 本を物色しながら、カイトは言う。ちなみに、カイトの周囲には全く人がいない。

 カイトは二冊の本を手に取る。これは、とある神について欠かれた本だ。だというのに、この本に書かれている事は全くもって正反対に事が書かれている。

 

 一冊目には、ルシファーと呼ばれる、堕天使が人と共に、神を打ち倒した。と、書かれている。

 二冊目には、ルシファーや人との戦いは描かれておらず、今も健在であり、人を見守っている。というものだ。

 

「ちっ、ネットと情報は同じか……。役に立たん」

 

 だがまだ、目の前に本は沢山あるのだと。思い直し、本に向き合っていく。

 

* * *

 

「あーっ! 駄目だっ、どの本も同じ事しか書いてないっ!」

 

 全く上がらない成果に、少々匙を投げつつも、カイトは身体を伸ばしている。

 

『……しかし、この世界はいいな。要するに、ルシファー様と、人間を揃えれば、確実に神を打ち倒す事が出来るというわけだ』

「それもそうだな……。となれば、仮に神が居たとしても、ルシファー連れてくれば、簡単……じゃないとしても倒す事が可能ってことか」

 

 神話とは、意味のあるものだ。少なくとも、悪魔を使い、悪魔と戦っていたカイトにとって、神話という情報がなければ、ベル・デル……不死の王と呼ばれた、ベルの王を倒す事は、不可能だったはずだ。

 

『……ちなみに良いのか? 集合時間のはずだが?』

「あっ、やべ! 急いで戻らないとな」

 

 ベルの声に促され、カイトは集合場所へと行くが、そこにすずかの姿はなかった。

 

『もう帰ったのではないか?』

「お前らじゃあるまいし。それにすずかはどちらかというと、先に帰るんじゃなくて、待ってる方のタイプだろ。アリサは探しにきそうだけど」

 

 周りを見て、すずかの姿を探す。すると、入口付近の本棚の前にいるすずかを見つけた。

 彼女に声をかけるため、近づくと車椅子に座った少女と話し込んでいるのに気づき、何故彼女が遅れたのか。その理由を何となく、カイトは察した。

 

「よっ」

「あ、カイトさん……って、ごめんなさい! 集合時間過ぎちゃって……」

「いや、いいよ。見つかりやすい場所にいたし、それでその子は?」

 

 カイトは視線をすずかから、下の方……車椅子の少女のへと移す。

 

「初めまして、私は八神はやてと言います」

「はやて……ね。俺はカイト。天音カイト、よろしく」

 

 と、挨拶をした所で、再び視線をすずかへと移した。そこで、すずかが説明しようとするが、その前にはやてが、口を開いた。

 

「えっと、すずかちゃんは悪くないんよ? 私が取ろうとしてた本が上の方にあって、それをすずかちゃんが取ってくれたんよ」

「なるほど、それでか……。あ、ちなみに怒ってないから、そんなに萎縮しないでいい」

「良かった〜。私のせいで、すずかちゃんが怒られたら、どないしよ〜? って思ってたんよ」

 

 はやては胸に手をあてて、ほぉ…っと一回息をつく。

 このはやてという少女が優しいのか、それともカイトが怒っているように見えるのか、少々気になる所ではあるが、どうでもいい事だろう。

 

「それで、カイトさんは借りる本、決めたんですか?」

「いいや。目的の本が見つからなかったから、とりあえず、すずかが借りてた本を借りてみようかな? と」

「そう言うと思って、本を持ってきておきました!」

 

 すずかから一冊の本を受け取る。表紙を見ると、確かにすずかが借りていた本と同じものだった。

 

「ん、ありがとう」

「はい。どういたしまして」

「それじゃ、受付に向かおうと思うけど……大丈夫か?」

 

 カイトが聞くと、二人共頷いた。どうやら、二人共借りたい本は既に、持っているらしい。

 

「それじゃ、三人で受付カウンターにいきますか」

 

* * *

 

「…日が暮れるのも、早くなってきたな」

 

 紅色に見える太陽を見ながら、カイトは言う。季節は冬であり、十七時近くなると辺りが暗くなっていく。

 

「……そういえば、八神さんはどうするんだ? 車椅子で帰るとなると、陽もくれて暗くなるけど?」

「あ、大丈夫や。迎えがそろそろ……あっ! ヴィータ! シグナム〜!」

 

 はやてが突如腕を振り始める。彼女の視線の方向を見ると、赤毛の少女と、ピンク髪の女性がカイト達のほうへと歩いてくるのが見える。

 

「はやて〜!!」

 

 赤毛の少女が、手を振りながらはやての元へと走ってくる。

 

「お迎えありがとうな、ヴィータ」

「良いって! これぐらいお安い御用だよ! ……んで、そいつらは誰だ?」

 

 ヴィータと呼ばれた少女の視線が、カイトとすずかに向けられる。

 

「えっとな、図書館で本を取れずに困っていたところを、こちらのすずかちゃんが助けてくれたんや。こっちの男の子はカイトくん。すずかちゃんの……お友達? 彼氏さん?」

「「いや、友達だ(です)」」

 

 二人揃って、恋人である事を否定する。

 

「だ、そうや。悪い人達や無いから、心配せんでも大丈夫や」

「ん、はやてが大丈夫だって言うなら、信じるけるけどさ」

 

 はやてとヴィータが会話している間に、ピンク髪の女性――シグナムと呼ばれた女性がカイト達に近づいてきた。

 

「二人共、ある……ではなく、この子が世話になった」

「そんな! 私なんて、本を取っただけですし……」

「俺なんて、何もしてないし……礼を言われる事じゃ無いと思いますけど?」

「それでもだ。世話になったことに、違いはない」

 

 なんだろう……? と、カイトはこの女性にちょっとした違和感を感じていた。なんというか、堅苦しいと言える言葉遣いに違和感を感じているのかもしれない。

 

「君は……?」

 

 カイトに視線を止め、シグナムはカイトの髪を少し払った。

 

「なんですか?」

「い、いや……髪に埃がついていてな。それを払っただけだ」

「あ、そうなんですか? ありがとうございます。図書館で埃がついたかな? まぁいいか。……迎えも来たことだし、俺はそろそろ帰るよ」

「私もですね。バスの時間もあるし、遅くならない内に、帰らないと」

 

 カイトとすずかは携帯で、時間を確認している。そろそろ、子供が一人で出歩いていると、補導されてしまう時間帯だ。

 

「なら、一緒に帰らへん? その……途中まででもえぇから」

 

 はやてにそう言われ、カイト達は顔を見合わせ、同時に頷く。はやての懇願するような顔を見れば分かることだが、はやては人との接触に飢えている。だからこそ、会話をするだけででも、この少女は嬉しそうに笑うのだ。

 

「……別に構わないよな?」

「はい! 途中まで……私の場合バス停までになるけど、それでもよかったら」

「うん! それでええよっ」

 

 二人の了承を得て、はやては満面の笑みを浮かべ、それに釣られるように、ヴィータとシグナムもまた笑みを浮かべていた。

 

 「おかしなものだ」と、カイトは思いつつ、すずかや、はやて達と帰路につくのだった。

 

 

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 というわけでAs編です。

 今回の話は、半年も経てば人の関係は少し変わる。そんな感じです。

説明
As編
1st Day 八神はやて
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