IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第三十九話 〜ビーチバレーという名の戦争〜 |
セシリアとシャルロットを見送ったクロウは、横になりながら目を閉じて潮風の匂いを楽しむ。しばらくすると、クロウの頭の上から声が降ってきた。
「クロウ、起きているか?」
クロウに対してこんな喋り方をする人間は一人しかいないが、一応クロウは目を開けて確認する。そこにはクロウの顔をのぞき込み、今にも鼻の頭がくっつきそうな程顔を近づけている千冬がいた。
「うおっ!」
近すぎる距離にクロウは驚き、千冬もクロウの声に驚いたのか顔を離す。千冬はクロウが選んだ黒い水着を着ていた。
「千冬か、仕事の方は終わったのか?」
「ああ、今日の分はな。お前は何をしている?」
「見てわかるだろ、のんびりしている」
言いながら大きく伸びをするクロウ。千冬は何か言いたそうに指を弄んでいたが、意を決した様で顔を赤くしながら口を開く。
「そ、そうか。じゃあそんな服など脱いで私と一緒に海に行かないか?」
千冬が指さしているのはクロウが上に着ているパーカータイプの上着であった。しかしクロウの口から出たのは否定の言葉だった。
「俺はいいから楽しんでこいよ、千冬」
「なぜだ?私と泳ぐのが・・・嫌なのか?」
否定の言葉を聞き、赤かった顔がすぐに戻ってしまう千冬。その顔を見て戸惑いがちに言葉を続けるクロウ。
「いや、そういう訳じゃないんだが・・・」
「じゃあ理由を言ってくれないか、何故だ?」
クロウとしては言わないですめば良かったのだが、あまりに千冬が必死に聞いてくるので根負けしてしまった。ゆっくりとクロウが口を開く。
「・・・こんな傷だらけの男の体なんてみたら、あいつらの楽しい気分が台無しだろうよ」
その言葉を聞いた瞬間、千冬の顔が雷に打たれた様に一瞬で変わる。よくよく見れば露出しているクロウの足には、いく筋も白い線が走っていたり、傷によって毛根が死んでいるのか毛が無い部分があった。その足をみれば、クロウの上半身がどのような状態であるかは見当がつく。
「・・・すまない。察するべきだったな」
「謝る必要は無いさ。この間の事件の時のやつだけじゃなくて、前の世界でついた傷もあるんだからよ」
「・・・そうか」
話しながら、千冬はセシリアが使っていたシートに横になる。しばらく二人は無言で空を眺めていた。しかし無言の空気に耐え切れなくなったのか、今度はクロウから喋り出す。
「まあ、泳ぐ以外だったら出来るぜ。何かしたい事とかあるのか?」
「・・・私としては、こうやってお前の隣にいれば満足なんだがな」
クロウに聞こえないようにそっと呟く千冬。当のクロウには千冬の言葉は届いておらず、聞き返す。
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。そうだな・・・」
千冬がクロウと何をしようか、と悩んでいると声が割り込む。
「(やはりこのままが一番いいのだが・・・) 「ねえ、クロウ〜!!」 ・・・」
クロウと千冬が声のした方向を見ると、シャルロットが手招きしていた。どうやらクロウを呼んでいるようで二人めがけて歩いてくる。
「クロウ、一緒にビーチバレーしようよ!」
「おっ、いいなそれ。よし、やろうか」
シートから体を起こしてシャルロットに付いていくクロウ。しかしいつの間にか千冬もクロウの横にぴったりとくっついて歩きだしていた。クロウの左側にはシャルロットが、右側には千冬が並んでいる。
「あれ?織斑先生もやりたいんですか?ビーチバレー」
「ああ、体を動かすいい機会だと思うのでな。一緒にやろうか、クロウ」
何故か二人から殺気に似た何かを感じ取ったクロウだったが、理由が全くわからないので特に気に留めずにそのままコートに向かう。そこには既に一夏、鈴、セシリアがいた。
「おっ、クロウ連れて来たのか。早くやろうぜ!!」
「って言っても一夏、三対三でやるとしてもチーム分けどうするのよ?」
「じゃあ俺はクロウと同じチームになるよ、後どうする?」
この発言を聞いたセシリアとシャルロットは同時に同じ事を考えていた。
「「(一夏(さん)!!空気を読んでよ(下さい)!!)」」
しかしそもそも空気を読む、なんて高等技術が一夏に出来る訳が無く、なし崩し的にクロウと一夏が同じチームに決定してしまった。セシリアとシャルロットは恨みの視線で一夏を見ているが、全く気づかない一夏。
「はぁ〜、じゃああんた達はアタシと一緒のチームね。ほら、こっち来なさい」
一夏を睨みつつも、クロウの事を物欲しそうに見て固まっている二人を鈴が無理やり反対側のコートへ引きずって行く。ここに一夏&クロウ&千冬VS鈴&セシリア&シャルロットの構図が完成した。
「ふふふ、これで小娘共を合法的に始末出来る・・・」
何やら物騒なセリフを自陣のコートで口走っている千冬。クロウは若干気づいていたが、一夏は千冬が放っている不穏な空気に全く気づかずに談笑していた。
「やるからには勝とうぜクロウ!」
「あ、ああ。しかし俺としては千冬の言動の方が気になるんだが・・・」
「クロウと一緒に遊ぼうと思ったのに、何で織斑先生まで付いて来ちゃったんだろう・・・。違うチームになっちゃうし、一夏の馬鹿・・・」
「一夏さんのせいですわ・・・。許しませんわ・・・」
反対側のコートでは、シャルロットとセシリアが呪詛の言葉を吐き続けていた。鈴はその光景を見て頭を抑える。
「全くアンタ達は・・・。それよりまず目の前の事に対処しなさいよ。ほら、千冬さんがアンタ達の事を狙ってるみたいよ」
「「ひぃっ!!」」
二人が千冬の方を見るが、思わず悲鳴を上げてしまう。そこには瞳を輝かせた獲物を狙う猛獣がいた。あまりの恐怖にセシリアの体がブルブルと震え始める。シャルロットは何かを考えているようで難しい顔をして黙っていた。
「あ、あ、あ、あれは何ですの!?本当に人なのでしょうか!?」
「・・・セシリア、提案があるんだけど」
「何ですの、シャルロットさん!?」
「約束したよね、旅の最中は抜け駆け禁止だって。あれ、無しにしない?」
「え?」
「多分、織斑先生はクロウを狙ってくる。僕たちがバラバラじゃあ確実に勝ち目が無いよ。だから旅の最中だけは協力しようよ、どう?」
「そうですわね、そうしましょう!!」
みるみるうちにセシリアが元気を取り戻し、二人はがっちりと握手を交わす。その二人からは、千冬に負けるとも劣らない、ゴゴゴという擬音が聞こえそうな程のオーラを放っていた。目からは鋭い眼光を放ち、千冬に真っ向から対峙する。
「やってやる(やりますわ)!!」
「・・・・・・」
そんな覇気がみなぎっているセシリアとシャルロットの横で、余りにもテンションが高すぎてついていけない鈴の姿があった。
「なあクロウ、なんかシャルロットとセシリアからオーラが見えるんだけど・・・」
「・・・ああ、俺にも見える。しかし、何であんなに張り切ってんだ、あいつら?たかがビーチバレーだろうに」
「ふふふ・・・面白い。一夏とクロウは私にトスだけ上げてればいい。他の全ては私がやるからな」
千冬の顔は完全に肉食獣のそれであり、その恐ろしさはクロウと一夏が反射的に従う程のものであった。
「「サ、サー!イエッサー!!」」
こうして女達の戦争と言う名のビーチバレーが始まった・・・。
〜試合中〜
※ここからは音声でお楽しみ下さい。
「きゃっ!!」
「大丈夫、セシリア!?」
「ま、まだいけますわ!シャルロットさん、決めてください!!」
「うん!いっけぇ!!」
「くっ、貴様ら中々やるな。しかし!!」
「・・・ほら千冬、上げるぞ」
「これで終わりだぁぁ!!」
「「きゃあああ!!!」」
「ねえ一夏」
「何だ、鈴?」
「・・・あたし達っている意味あるのかな?」
「・・・どうだろうな」
「「まだまだぁ!!」」
「このっ!!」
「・・・俺、帰ってもいいか?」
「「「だめだ(だよ)(ですわ)!!!」」」
〜旅館・大広間〜
現在クロウ達一年生は、大広間の座敷で夕食の真っ最中だった。わいわいがやがやと騒ぎながら、それぞれ食事の感想を述べたり、舌鼓を打ちながら食事をとっている。クロウももれなく豪勢な夕食を味わっている最中であった。
「うん、やっぱ刺身はいいもんだな」
「へえ、やっぱり前の世界でも刺身ってあったの?」
クロウに質問するのは隣に座っているシャルロット。今はクロウと同じく浴衣を着ている。二人だけ、と言うわけではなく生徒全員が浴衣を着ている。
「ああ、元々文化的にはそんなに大差は無いからな。シャルはどうだ、日本の料理は?」
「うん、すっごく美味しいよ!」
「そうか、そりゃ良かったな」
言いつつも自分の膳に箸を伸ばすクロウ。今度はわさびをつけて食べてみる。
「?ねえクロウ、その緑の食べ物って何?」
「ああ、これはわさびって言って風味を際立たせたりするんだ。食べられないって奴もいるが、中々いけるぞ」
「へぇ〜、そうなんだ。じゃあ食べてみようかな」
感心するシャルロットは、クロウが少量取っていたわさびを山の状態のまま口に持っていく。慌ててクロウが止めるが遅かった。
「お、おいシャル!やめろ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?」
鼻を抑えて涙目になるシャルロット。わさびをそのまま食したのだから当然の結果と言えよう。心配したクロウが声をかける。
「お、おい大丈夫か?」
「う、うん。とってもおいひいよ・・・」
「いや、涙ながらに言われても説得力がないんだが・・・」
ギリギリ笑顔、と呼べる表情を保っているのは素晴らしいという一言に尽きるがその目には涙が溜まっていて、今にも泣き出しそうだった。
「・・・・ううっ」
クロウの隣で苦悶の声を上げているのはセシリア。どうやら正座が苦手な様で、先程から足が小刻みに震えていた。
「なあセシリア、そんなにきつかったらテーブル席に移動したらどうだ?」
クロウとしては至極当たり前の提案だったが、物凄い勢いでセシリアに却下された。
「それだけはありえませんわ!・・・わざわざこの席に来た意味と言うものが」
ぶつぶつ呟きながら、正座という名の苦行に耐え続けるセシリア。あまりの痛みに食事も満足に取ることも出来ない様で、セシリアの食膳に盛られた料理は全く減っていない。
「はぁ〜、じゃあどれが食べたいんだ?」
「え?い、今何と??」
「だから食べさせてやるよ。ほら、どれがいいんだ?」
セシリアから箸を受け取り、質問するクロウ。セシリアは一瞬惚けた後、急に落ち着きがなくなる。
「え、そ、それでは!そのお刺身をお願い致しますわ!!(クロウさんが食べさせてくれるなんて!チャンスですわ!!)」
「ほら」
刺身を軽く正油につけて、セシリアの口に運ぶ。数度咀嚼すると、セシリアは何故か恍惚の表情を浮かべた。
「はぁぁ・・・美味しいですわ」
「そうか。そりゃ良かった」
そう言ってセシリアの口に食べ物を運び続けるクロウ。こうして臨海学校一日目の夜は更けていく。
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第三十九話です。 | ||
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