The Duelist Force of Fate 1 |
第一話「召喚者の誤算」
召喚。
古今東西の魔術様式において散見されるソレの知識は殆どの場合において生贄を必要とする場合が多い。
それは此処に無いモノを何処からか持って来るという常識外れの外法だからだ。
死人の召喚を目指した魔術師は数多い。
幻想動物を目指した者も多々いるだろう。
しかし、最も召喚において難しいのは英霊の召喚に他ならない。
神話クラスの神霊召喚なんてものは殆ど無謀、人の域で行える召喚はせいぜいが英霊までが限界だろう。
物語の中にしか登場しない神とも人とも言われる者達。
一つだけ確かなのは英霊が実在し、それを召喚する術が存在するという事だ。
大聖杯の寄る辺に従い、冬木の地にソレが召喚されるのは妥当と言える。
数百年前、人の身には過ぎる魔法を用いて造られたシステムは未だに健在だ。
魔術刻印を受け継いだ者なら、そのシステムが生み出す祭典に参加しないわけがない。
自らの意味を掴み取るならば、その手に刻印を宿して宿願に到れと心の内で誰かが叫ぶ。
「―――聖杯の寄る辺に従い」
万能の願望器に願いを。
「―――抑止の環より来たれ」
六人の同類を薙ぎ倒して。
「―――天秤の守り手よ!!」
そう覚悟した時、魔術刻印が駆動する。
魔力が体を駆け抜けていく。
手応えが心を振るわせる。
そして、魔方陣は消えた。
「?」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン。
「んな!? な、何の音よ!?」
慌てて地下から階段を駆け上がる。
廊下を走り抜けて扉を開け放つ。
「――――――」
そこにいたのは・・・赤いジャケットに帽子を被り、白いTシャツとジーパン姿の男だった。
疑問。
私は何を召喚したのか。
少なくとも英霊とは西欧においての英霊。
更に言えば、英霊と呼ばれるだけの業績を残した偉人のはずだった。
この聖杯戦争において東洋の英霊を呼ぶシステムは存在しない。
しかし、現代ならば手に入ってしまう衣装を身に纏い、キョロキョロしている男は少なくとも英霊の類には見えない。
そこら辺にいるちょっと痛い人でも召喚してしまったのか。
ありえない。
しかし、英霊の残した遺物が無くてもどうにかなると高を括っていた代償がもしも召喚儀式の失敗だと言うなら、もう笑うしかない。
それ以前に召喚されてきたという時点で男が何者か確かめないわけにはいかなかった。
「―――あ、あんた誰!?」
「・・・・・・」
「え? 呼んだのは、わ、私よ・・・アンタ・・・英霊・・・なのよね?」
「・・・・・・」
「は、はぁ!? 気付いたら此処にいたって!? どういう事!? アンタ英霊じゃないの?!」
「・・・・・・」
「え、デュエリスト・・・って、ちょ、ちょっと待って!? う、上手く事態が飲み込めないんだけど・・・ア、アンタのクラスは何なのかしら?」
「・・・・・・」
「デュエリストって、んなクラス無いわよ!? 真面目に答えて!? それともアンタ記憶でも失ってるって言うの!?」
「・・・・・・」
「そんな事よりデュエルしないか? って、デュエルって何よ?! 決闘でもするっての!?」
私は混乱する。
何かが致命的に狂ってしまったような、歯車が外れた時計を眺めているような、壮絶な手違いの気配が私の心を鷲掴みにする。
「な、何ゴソゴソしてるわけ!?」
男が腰に備え付けてある何かのケースから何か取り出した。
「デッキはあるか? 何よそのカード!? カードゲームでもしようって言うの!?」
男がスタスタ歩いてくるとカードの束から一枚抜き出して、こちらに見せる。
「これがデッキでこれがカード? いや、誰もそんな事説明して欲しいなんて言ってないから!」
私は思わず手でカードを払おうとして、気付く。
「―――これ・・・まさか・・・?!!」
顔から血の気が引いた。
どうして、どうして気付かなかったのかと私は後悔する。
「ッッッ、あのワカメ2012!?」
私が思い出したのは今日もしつこかったあの男の顔だった。
いつも近寄ってくるあの男。
相手にしていないのに近づいてくるあの男。
どうしてあそこまで無神経でいられるのか分からないあの男。
その男から今日プレゼントされたものを懐から取り出す。
【これプレミアなんだぜ? いいだろ? 結構コレクターの間じゃ高くて値が張るんだよ。珍しいって? なら、遠坂にやるよ。え? 要らない? まぁまぁ、この間の借りを返す意味だからさ。売ればそれなりの金額になるし】
貰っておけるものは貰っておく主義だ。
先日、道で男達に絡まれていたのを見ていられず助けてしまったのが仇になるとは思ってもいなかった。
「う、迂闊だったわ・・・まさか、こんな事になるなんて・・・」
売れば宝石を買う資金の足しになるかと無造作に身に付けていたのは一枚のカード。
今正に英霊らしい男が持っているカードだった。
(こんな歴史の浅そうなカードゲームが西洋の英霊を生み出すなんてアリなのかしら? どう考えても英霊なんて無理な気がするんだけど・・・いや、でも、こいつ・・・)
「・・・・・・」
私を見ている帽子を被った英霊らしき男はキョロキョロと辺りを見回していた。
「ね、ねぇ・・・アンタは英霊なのよね?」
「・・・・・・」
「時々、救世主にも悪魔にもなれると評判だった? い、いつの時代の英霊なのかしら?」
「・・・・・・」
「分からないって何なのよ!? じ、自分が何の為に呼ばれたかは知ってるわよね?」
「・・・・・・」
「それは知ってるわけね。まぁ、いいわ。で、よく分からない自称【デュエリスト】の英霊さんは何が出来るの?」
「・・・・・・」
「デュエル・・・って。まさか・・・カードゲームしか出来ませんとか・・・言わないわよね?」
私は顔が引き攣るのを自覚する。
とんでもないもの引き当てた感覚。
それは言わば神社で大凶を引いた時のような。
「デュエルが出来ればそれでいい? は、はは・・・」
私は絶望的な気分で天を仰いだ。
「あはははははははははははははははははははははははははははッッッ!!!」
少しだけ自棄になって私は誓った。
「あのワカメえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
復讐を誓った。
「・・・・・・」
そんな私を困ったようにそいつは見ていた。
自称クラス【決闘者(Duelist)】のサーヴァントが・・・本当に・・・困ったように・・・・・・。
To be continued
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遠坂凛は気づかなかった。己の聖杯戦争が歪んでしまった事に・・・今、新たな世界の幕が上がる・・・。 | ||
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