IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第十一話
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「一夏、転校生の噂を聞いたか?」

 

「転校生? 今の時期に?」

 

朝、クラス中は転校生の噂で持ちきりだった。俺も朝クラスメイトに教えられたので知らなかったこともあり、一夏に話しかけてみたが、この様子だとたぶんこいつも今日初めて聞いたのだろう。しかし、まだ四月の段階で転入生とは、何とも珍しいことである。まぁそれにはちゃんとした理由があるのだが。

 

「なんでも、中国の代表候補生なんだってさ。多分特例なんじゃないかな」

 

「ふーん」

 

そういえばうちのクラスにも一人、代表候補生がいたな。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転校かしら」

 

噂をすればなんとやら、うちのクラスの代表候補生はいつの間にか俺たちの近くにやってきていた。

 

「このクラスに転入してくるのではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

先ほど自分の席に座るところを見かけた箒も、まるでテレポーテーションの様に俺たちのすぐそばに現れていた。この学校の女子は瞬間移動でも身につけているのだろうか・・・?

 

「どんなやつなんだろうな」

 

「代表候補生っていうくらいだから、やっぱり強いんじゃないのか?」

 

しかし、代表候補生か・・・。セシリアのイメージが強いからなんか性格に少し難がありそうな気がする。

 

「気になるのか?」

 

「気になるんですの?」

 

女の子二人の声が重なる。

 

「ん? ああ、少しは」

 

「俺は後学のためにどんなISか見てみたいな」

 

聞かれたことに正直に答えた俺と一夏だったが、この答えに何の不服があるのか、二人とも少し機嫌が悪くなった。女心は秋の空とかなんとかいうが、これはさすがにコロコロ変わりすぎではないだろうか。

 

「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるのに」

 

「そう! そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けてより実践的な訓練をいたしましょう。ああ、相手ならこのわたくしと、奏羅さんが務めさせていただきますわ。なにせ、一夏さん以外で専用機を持っているのはまだクラスでわたくしと奏羅さんだけなのですから」

 

いや、俺まだ手伝うって言ってないんだけどな・・・。でもまあ、他のクラスメイトだと訓練機の許可申請、機体整備に丸一日費やすので、いつでも専用機が使える俺とセシリアが相手したほうがいいのかもしれない。

 

「ま、やれるだけやってみるか」

 

その気になった一夏。その言葉を聞いてか、クラスのみんなが盛り上がる。

 

「やれるだけでは困りますわ! わたくしと奏羅さんが協力するからには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「織斑君が勝つとみんなが幸せだよー」

 

ちなみに、優勝すると学食のデザートの半年フリーパスがクラス全員にもらえるらしい。これ目当ての女子も多いのだろう。

 

「織斑君、頑張ってねー」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表は一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

クラスみんなが一夏に多大な期待を寄せていた。当の本人はどうやらプレッシャーがかかっているようだが。

 

「――その情報、古いよ」

 

盛り上がりに水を注すように、クラスの入り口から声がする。俺をふくめ、みんなが振り向くとそこには一人の女の子が腕を組んで自慢げに壁にもたれかかっていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

「鈴・・・? お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

また一夏の知り合いか。しかもまた女子。・・・まあ、もともと女子高だから仕方ないのかもしれないが、代表候補生の知り合いっていうのが・・・一体どういう交友関係してるんだろうか。

 

「何格好つけてるんだ? すげぇ似合わないぞ」

 

「んなっ・・・!? なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

せっかくの登場シーンを一夏に思いっきり台無しにされた凰さん。・・・なんだか少しかわいそうに思えてきた。すると、彼女の後ろには文字通りの黒い影が。

 

「おい」

 

「なによ!?」

 

ものすごく痛そうな音が聞こえる。その黒い影、織斑先生の容赦ない出席簿の一撃。まぁ、織斑先生にあんな口のきき方をしてしまったのだから叩かれて当然だろう。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん・・・」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すいません・・・」

 

やはりいくら代表候補生でも、織斑先生にはかなわないのだろう。凰さんはすごすごとドアから離れて行った。

 

「またあとでくるからね! 逃げないでよ! 一夏!」

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

ものすごいスピードで二組のほうへもどっていく凰さん。一夏に登場シーンのこしをおられ、挙句の果てに織斑先生に出席簿で叩かれた彼女には同情してしまう。

 

「・・・一夏。今のは誰だ? 知り合いか? えらく親しそうだったな?」

 

「奏羅さん、あの子って一夏さんの知り合いなんでしょうか・・・?」

 

セシリアにつかまってしまう俺。そのほか、一夏へのクラスメイトからの質問の集中砲火。

 

「ああ、お前ら―」

 

そんな一夏のつぶやきもむなしく、出席簿の音が響いて行く――って、なんで俺まで!?

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

(俺はあんまり関係ないんじゃ・・・?)

 

織斑先生に少し理不尽さを感じながら、今日の一日は始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏のせいだ!」

 

「奏羅さんのせいですわ!」

 

昼休み、箒とセシリアは俺と一夏のところに来るなり突然俺たちを怒鳴りつけた。

 

「なんでだよ・・・」

 

おそらく理由は一つ。午前中だけでこの二人は、山田先生に五回くらい注意を受け、織斑先生に大体三回くらい出席簿で叩かれていた。しかしなぜ俺たちのせいにされなければいけないのか。

 

「怒るのはいいけど理由を教えてくれよ」

 

しかし、俺の願いは受け入れられず、

 

「いやだ」

 

「いやですわ」

 

と瞬時に却下された。まったくもって理不尽である。

 

(言えるわけないだろう。一夏と転校生のことを考えていたなどと)

 

(言えるわけないですわ。奏羅さんとどのようにして二人っきりで訓練するか考えていたなどと)

 

「まぁ、話なら飯でも食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」

 

「む・・・。ま、まあお前がそういうのなら、いいだろう」

 

「そ、そうですわね。言って差し上げないこともなくってよ」

 

一夏の言葉に同意した二人と俺、そしてクラスメイト数名で学食へと向かった。

学食に着くとすぐに自販機で食券を買う。俺は今日の昼ご飯にカツカレーを選んだ。ちなみに一夏は日替わり定食。日によって違う料理が楽しめるから気に入っ ていると言っていたのでこれなのだろう。箒はきつねうどん、セシリアは洋食ランチを頼んでいた。よくこの二人とは食事をするのだが、大抵はこれを食べている。よく飽きないよな、この二人。

 

「待ってたわよ、一夏」

 

俺たちの前に一人の女の子が立ちふさがる。噂の転校生、凰鈴音さん。

 

「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

 

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

ちなみに彼女の手はすでにお盆を持っており、その上にはラーメンが乗っている。

 

「のびるぞ」

 

「わ、わかってるわよ! 大体、あんたを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

なんだか騒がしい子だな。そう思いながら俺は食堂のおばさんに食券を渡した。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気をしなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ・・・」

 

なんかもの凄いひどいことを言ってるような気がする。この子はなにか一夏に恨みでもあるのだろうか? しかしここまでの話を聞く限り、この子も箒に続く、一夏の幼なじみらしい。

 

「あー、ゴホンゴホン」

 

「ンンンッ! 奏羅さん? 注文の品、出来てますわよ?」

 

ついつい一夏と転校生を見ていたら自分の料理が出来ていることに気がつかなかったらしい。セシリアに注意されてしまった。

 

「向こうのテーブルが空いているな。行こうぜ」

 

一夏が凰さんを含めた全員に促す。十人くらいの大移動なので正直座れるか不安だったが、すぐにテーブルにつけたのはラッキーだった。

 

「鈴、いつ日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかりしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 

「そうだな。一夏、この子と付き合ってるのか?」

 

箒よりも親しそうに話している様子をみて、なんとなく質問してみる。まぁ、箒にとっては恋敵ともいえるのだろう。他のクラスメイトも興味津々とばかりに頷いていた。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってるわけじゃ・・・」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだ」

 

「・・・・・・」

 

「? 何睨んでるんだ?」

 

「何でもないわよっ!」

 

なるほど、そういうことか。この子も箒と同じような子なのだろう。いわゆる、意地っ張り。

 

「幼なじみ・・・?」

 

この言葉に怪訝そうに返す箒。この子のことを知らないとなると、また違う時期の幼なじみなのだろう。

 

「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだったろ? 鈴が転校してきたのが小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」

 

結構ややこしいな。しかし、なるほど。だから箒と凰さんは面識がないのか。

 

「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼なじみで俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ふうん、そうなんだ」

 

凰さんはじろじろと箒を見る。箒も対抗心を燃やしているのか、負けじと見返していた。

 

「初めまして。これからよろしくね」

 

「ああ、こちらこそ」

 

はたから見ると一般的な握手だが、俺には二人の間に火花が散っているように見える。なんというか、一夏を含んだ三角関係の予感がする。

 

「で、こっちの男子はだれ?」

 

あー、やっぱり聞かれたか。出来ればそのままスルーして欲しかったんだが、さすがに俺も男子なので気にはなるだろう。俺が凰さんでも聞く。

 

「こいつは奏羅。この学園に入った時に知ったんだけど、こいつもISを動かせるからって、この学園に入ったらしいんだ」

 

こんどは俺のほうをじろじろ見てくる凰さん。・・・なんでセシリアがこっちを睨んでくるのだろうか。

 

「あんたも、これからよろしく」

 

「あ、ああ」

 

彼女と握手をするのだが、なんでだろう。ものすごく誰かの視線が刺さっている気がする。気のせいということにしておくが。

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

「・・・誰?」

 

「なっ!? わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの!?」

 

「うん、あたしほかの国とか興味ないし」

 

「な、な、なっ・・・!?」

 

顔が真っ赤に染まっていくセシリア。なんだかセシリアは最近こんなパターンが多いな。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくし貴方の様な方には負けませんわ!」

 

「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

自信満々で答える彼女。たぶんこれは素で言っているのだろう。まぁ悪気がない分、怒る人はいる。その怒る人は俺の横にいるのだが。

 

「い、言ってくれますわね・・・」

 

「まぁ、落ち着けセシリア。ご飯が冷めるぞ」

 

そう言いながら俺は自分のカレーをすくって、それをセシリアの口の中に突っ込んだ。

 

「か、間せっ、キ・・・!」

 

セシリアはさらに赤くなっていったが、口数が少なくなったので落ち着いてくれたのだろう。なぜだか周りからは「いいなー、セシリアだけー」とか「抜け駆けは許さないって言ったよね」とか「後で私たちと対話しようか・・・」とか聞こえてきたが俺には関係ないし、なにがなにやらなのでスルーしておこう。

 

「一夏、アンタ、クラス代表なんだって?」

 

「お、おう。成り行きでな」

 

「ふーん・・・」

 

そういうと麺がなくなったのか、彼女はどんぶりを持ち上げ、直接スープを飲んでいく。何とも女の子らしくない豪快さだ。普通、レンゲとか使うだろうに。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

どんぶりを置いた彼女の口から、一夏にISを教えるという言葉が出てくる。あーあ、まずいぞ。誰かさんが反応してしまう。

 

「そりゃ、助か―」

 

ダンッ!と机が叩かれ、箒が立ち上がる。やっぱり反応してしまったか。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

 

『私だ』を強調する箒。やれやれ、どうやらまた喧嘩が始まるような・・・いや、始まってるな。ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める箒と凰さん。まったく、もう少し周りを気にすればいいのに・・・。なんか途中からどうでもよくなってきたので、しばらく話を聞いていなかったが、最後のほうで、どうやら今日の放課後に第三アリーナで訓練をするとかどうとかという話になっていた。

 

「じゃあ、特訓が終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」

 

ラーメンのスープを飲み干すと、彼女は一夏の答えを聞かずに食堂を飛び出していった。なんというか、台風みたいな子だったな。

 

「一夏、当然特訓が優先だぞ」

 

箒に釘を刺される一夏。対抗心を燃やすのはいいが、もうちょっと考えようがあるんじゃないだろうか。

 

「セシリア、俺たちも参加するか?」

 

ちょうどいい機会なので、俺も特訓に参加させてもらおうと思い、前に約束していたセシリアを誘ってみる。しかし、セシリアは無反応だった。というか、俺がカレーを口に突っ込んだ時と同じポーズの様な気がする。

 

「セシリアー?」

 

彼女の顔の前で、手を振ってやっと反応を返してくれた。

 

「あ、えっと、なんでしょう?」

 

「いや、俺たちも放課後に特訓しないかと・・・。まぁボーっとしてるみたいだし、疲れてるなら――」

 

「や、やらせていただきます!」

 

「いや、元気無いなら無理しなくても――」

 

「大丈夫ですわ! わたくしはこんなにも元気ですわ!」

 

「あ、ああ・・・。そう・・・」

 

自分は元気だというアピールをするセシリアを見て、俺はなんだか放課後が不安に感じてきたのだった。

 

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