〜貴方の笑顔のために〜 Sub Episode 華琳の思い |
〜華琳視点〜
何通目だろうか、私は届かない者あてに手紙を書いている。
宛先はそう、あの男。
私のことを唯一知った、いや、理解してくれた男。
私をおいていった薄情な男、
そして何よりも私が唯一愛した男。
そう、彼の名は北郷一刀。
元気?一刀?
そんなたわいもない問いかけから私の手紙はいつも始まる。
そして、この手紙を書くときは決まってあの夜のことを思い出す。
満月が輝く夜、私たちは三国が共に歩く新たな未来のために
そして、今までのことを振り返り、今を祝うために、共に語っていた。
みなが笑い、初めて感じた平和。
いままでやってきた、進んできた道は間違いなんかではなかった、
そう、私は自信を持って言える。
でも、それでも・・
私はふと外を見る、そしてやはり、ね、という思いが心に浮かぶ。
私の心はずきりと痛む。
私が見ていたもの、いや彼はひとり、森へ歩こうとしていた。
この中ではさっきからまったくお酒を飲んでいなく、彼のことを見ていた
私くらいしか彼のことに気づいていないだろう・・
私は、彼の元へと皆に気づかれないようにいった。
彼との別れ・・・
私は知っていた・・いつかはこんな時が来るのかもしれないと。
そんなことを本当に考え始めたのは秋蘭を助けに行くときに
彼が倒れたこと。
私はまさかとおもって、寝ないでずっと書物を読みあさった。
まあ、そんな私に彼は気づかなかったでしょうけど。
・・・それほどまでに、もうあの時、彼の存在は私にとって大きいものだった。
それでも、やっぱり、見つからなかった。
天の御使いの存在とその消失についてのことなどどこにも書かれていなかった。
しかし、私にはそれでも、・・・
そう、まだ抗える方法があるのではないか、
それは
彼が、彼の言う歴史というものに従ってしまえばいい・・
彼が止めたことを無視すればいい・・・
そうすればきっと彼は・・・
そんな思いをずっと抱えて迎えた赤壁の戦い。
最後の戦で私は胸が高なっていた。
もちろんそれは私の天が叶えられるそういった思いもある。
しかし、それ以上にもしこの戦を乗り切ってしまえば
もう、彼のことを心配しなくてもいい・・・
もうずっと一緒にいられる。
そう思ったから・・・
でも、でも、・・
なんで、なんで言うのよ一刀・・・
あなたは、あなたは気づいていないのっ!
もうちょっと、自分のことも考えなさいよ、
いつまでそうしてるつもり、そんなことだからあなたはっ!
そんなことをしたらあなたは!
彼は、赤壁の戦いでは曹操は負ける本来の歴史を知っていた。
しかし、かれはためらいもなく私に勝つ戦を共に進む道を与えてくれた。
わたしはいって欲しくなかった・・
たとえ、負けても私はあなたといられればいい、そうおもってしまった
ことも何度かあった。
けど、そんなのずるいじゃない、教えてくれたら私は、
この戦に絶対に勝たなきゃいけないじゃない・・・
あなたが示してくれたその道を歩いていかなければいかないじゃない。
王として・・
私が取るべき道はもう、ひとつしかないじゃない・・・
一刀・・・
私は、満月の下、そんな自分の思いを思い返す・・・
私が選んだ道、それはきっと、いいえ、誇りを持って正しい道だとそういえる。
けれど、今ここで彼はこの世界からいなくなろうとしている・・
私のまえからいなくなろうとしている・・・
不条理、すぎる。
そんな一言。
だって、彼がいなかったら私たちはっ、
そこで私は考えを飲み込む。
どこまで、よわくなってしまったのかしらね、私は・・
彼がいなくたって私たちは私達なりの道を歩いていたはず。
だから、だからこそ、私は彼がのぞんだ王として有り続けたい。
堂々と前を向いて・・
そんな私が決めた決心さえも彼の一言で揺らぐ・・
「さようなら、寂しがり屋の女の子」
なんでよ、一刀。・・・ずるい、ずるいよ。
最期までそんなことをいうなんて。
私だって私だって、一刀っ!
「一刀っ!」
私は華琳として彼の名を叫ぶ・・しかしもう返事はなかった・・
そこに彼の姿はなかった・・・
叫んでももう届く声はなかった。
なかない、絶対に泣かない・・
そう、きめていたのに次から次へと涙がこぼれて止まらない・・
私はどれくらい一人で泣いていただろう・・・
満月が輝くその空に・・
もう、声は届かないってことはわかってる・・
けど、それでも・・・
あなたと過ごした日々は私にとって大切なものだったから・
私にとってかけがえのないものだったから。
本当にあなたのことが好きだったから・・・
「・・・だから、こそ、よね。一刀」
そう、いつまでも泣いていてはいけない。
彼が命懸けで示してくれた道だからこそ、私は胸を張って堂々と
歩いていかなければいけない。
彼に恥じないように・・
彼が歩んだ道を汚さないように・・
彼が見たわたしのあるがままに。
「華琳さまー、」
しばらく私がいなくなって探しに来たのだろう。春蘭が私を探しに来たみたい。
もう、行かなくちゃ。
一刀・・・また、会いましょう。
私の涙はあなたに預けるわ。貴方ともう一度会うそのときまで。
私は春蘭とともに宴会の席に戻る。
そして、みんなが抑えるのも無視して何本もの酒を飲み干した・・
まったく、酔えない・・そう思いながら。
翌日私は早速、話をするために王座の間に皆を集めた。
「ったく、一刀のやつはどこへ行ったんだ、」
「あんな、変態。どうだっていいわよ」
「うちは一緒にのもうとしたんやけど、みつからなかったしなー。どこにおんねん」
「ふふ、霞、それは、決まっておろう」
「たいちょー、変態さんなんですー」
「兄ちゃんなにしたのー?」
「兄様・・」
「こら、沙和、隊長がそんなことするはずが」
「ほぉー凪―、なにを想像したん??」
「一刀さまが、ああしてこうして・・・ぶほっ」
「はーい、稟ちゃん、とんとんしますよー」
そんな日常すぎるほどの会話・・・
彼女たちはまだ知らない。私が知っている真実を。
私は彼女たちをみながら、そして会話を聞きながら思う。
やっぱり、彼女たちにも彼の存在は大きいものだったんだと・・
大切なものであるのだと・・・
だからこそ、
だからこそ、私は伝えなければいけない。
真実を。
かくしてはいけない。
彼のことは、絶対に。
「皆、ここにあつまってもらったのは、何をするためでもない。
ただ、重要な話がある、から」
手が震える・・
きっと、私は怖いんだろう・・自分で言ってしまえばそれが、
改めて“事実”として私のところに返ってくる。
それでも、私は言わなければいけない。
ごまかしてはいけない。
「華琳様、どうかなさったのですか?」
私が黙っていると、秋蘭がそんなことを訪ねてくる。
しっかりしなくては。
私だけではないのだから・・
「みんな、よく聞いて。これは嘘偽りのない事実よ。」
そういって、私は大きく息を吸い込む。
いうの、いうのよ華琳。
逃げてはいけない。
「天の御使い、北郷一刀は天からの役目を終え、天へと帰還した」
私はそう、おおきな声ではっきりといった。
ずいぶんと静かだ・・私はみんなを見渡すと、
みなはそろって何も言わないまま私を見ている・・・
そのどれもが、なにをいっているか理解できない、そんな顔だった。
「・・・ちょ、ちょーまちーや、華琳。 ・・・そんなん、嘘にきまってる、やろ」
霞がそんな震えた声で私に聞いてくる。
その目はかすかな希望にすがりつくような霞らしくない
頼りない目だった。
「私はいったはずよ、先ほどの言葉に嘘偽りはない。
北郷一刀は、
一刀はこの地にもういない」
とたんに霞はそのばで膝をつき、涙を流し始めた・・
おそらく私がみたはじめての彼女の本当の涙・・・
それにつられ、みながまるで虚になったかのように、涙を流す。
あの、春蘭でさえも、そして桂花でさえも・・
それでも、私はもう、泣かないって決めたから、
私は前を進むって決めたから・・
「それでも、私たちは私たちには天命がある、まだ歩いていかなければ
いけない道がある」
「そして、私たちが道を堂々と歩いてゆけばきっと、いいえ必ず・・
道はまた、天の意志と交差する」
わたしはそんなことを言い切った。
そのあと、皆がどうしていたのかはわからない。
わたしはそれだけ言って、王座の間をあとにしたから・・
そこまで思い出して私は筆を置いた。
しばらくは大変だったのよ・・皆、仕事が手につかなくて・・
あなたを探しに行くと言って聞かない子も何人もいたわ。
それでも、私が言った言葉をだんだんとみんな分かって
くれたみたいだから・・・
きっと、あなたが帰ってくるって。
みんな、そう思っているから・・・
だから、はやく帰ってきなさい、一刀。
皆が待っているのだから。
あなたの居場所はいつまでたっても、ここにあるのだから。
あなたのいる場所は私の隣なんだから。
説明 | ||
これは、蜀での反乱が起きる少し前の話。 宙天に輝く満月をみながら華琳は筆をとっていた。 それは、彼女が彼女である時間だった。 |
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コメント | ||
華琳だけじゃなく、魏将全員がきっと、将として女として揺れているんでしょうね・・・・・・・・・切なすぎます。(act) 覇王として、一人の女として揺れる華琳の心・・・・・・切ないですね(本郷 刃) |
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