天の迷い子 第八話
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Side 詠

 

カロカロカロ、カシャン。

 

「ふう。とりあえずはこんな物かしらね。ん〜〜〜、思いのほか早く終わったし月と一緒に街にご飯でも食べに行こうかしら。」

 

政務を一通り終え、ぐぐ〜〜〜っと背伸びをしながら昼からどうしようかと考える。

よく考えると最近政務政務で息をつく暇も無かったような気がする。

たまには息抜きがてら、ぶらっと散歩にでも行こうかな。

木簡を片付けて、部屋から出る。

まずは月を呼びに行こう。

月の部屋に足を向ける。

途中、侍女の一人とすれ違った。

ぺこりと頭を下げるその手には、水桶を持っている。

 

ごるんっ

 

「えっ?」

 

何かに足をとられて体勢を崩した。

 

ばっしゃーーん!!

 

気付いたときには僕は頭から水を被っていた。

 

「も、申し訳ありません!文和様!ああぁぁ、す、すぐに拭く物をお持ちいた、いたします!!」

 

ものすごくうろたえてるわね。ちょっと可哀相なくらいに。

 

「大丈夫よ、丁度着替えようと思ってたところだし、問題ないわ。」

「えぇっ!でも、でもっ!」

「大丈夫だから、気にしないで。それより、まだ仕事が残ってるんじゃないの?僕の事はいいから仕事に戻りなさい。」

「あぁっ!そうでした!本当に申し訳ありませんでした!」

 

そう言って彼女は慌てて駆けて行った。

とりあえず着替えよう。

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月を連れて街で食事をしようと月の部屋に行くと、ついさっき政務を終えて、東屋で休憩をしているはずだと侍女に聞かされた。

それならと僕は東屋に向かう。

すると、なんだかいい匂いが漂ってきた。

 

「あんた、何やってんのよ。変な物並べて、下らない事に月を巻き込んでるんじゃないでしょうね?」

 

そこには月のほかに、流騎の奴ともう一人男の子が居た。

 

「あっ、詠ちゃん。今ね流騎さんの故郷の食べ物を作ってくれてるんだよ。」

「文和も一緒にどうだ?」

 

二人が同時にこっちを見て僕を誘う。

さっきから漂ってるいい匂いはこれだったのね。

 

「当たり前でしょ。僕だけ仲間はずれにしようなんて、許さないんだからね。それに、あんたが月にちょっかい出さないように僕が見張らなきゃならないんだから。それで?この珍妙な物は何なの?」

「ははっ、仲間はずれが寂しいんならそう言えば≪ぎろり≫…え〜っと、これは“たこ焼き”って言って、小麦粉を溶かして熱したこの形の鉄板で焼いた物の中に、薬味と蛸って言う魚介類を入れた食べ物だよ。俺の故郷の一部の地域ですっげえ人気の食べ物なんだ。」

 

でろんとしたそれを流騎は持ち上げる。

切り取られた部分も合わせると、八本ほどの変な突起の付いた足?が垂れ下がっている。

 

「うげっ、何よこれ。あんたの故郷ではこんな気持ちの悪い物を食べる習慣があるの?月、こんなの食べちゃ駄目よ。毒でもあったら大変なんだから。」

「へう、でもね詠ちゃん、さっき少し焼いてもらって食べてみたら歯ごたえがあって美味しかったよ?」

「ちょっとあんた…。」

「睨むなって。そもそも故郷じゃ普通に食べられてる物なんだから毒なんてないし、商人が観賞用に売ってたものを買い取って、今捌いたところだからこれ以上無く新鮮だしさ。…うん、そうだな。じゃあ食ってみろ美味いから。」

 

丸く焼いた“たこやき”を流騎は箸で掴む。

 

「何で僕がそんな得体の知れない物食べなきゃ…。」

「はい、あ〜ん。」

 

あろう事かこの馬鹿はそのまま僕の口元に寄せてきていた。

 

「なっ!!?≪はもっ≫むぐっ!!≪もぐもぐ、ごくん≫………美味しい、悔しいけど。」

 

びっくりした僕は思わず大きく口を開けてしまい、その隙に流騎にたこ焼きを押し込まれる。

吐き出すことも出来ず食べてしまったのだが、見た目とは裏腹にとても美味しかった。

…でも、何故だろう?耳がじんじんする。

 

「ほら見ろ、美味いだろうが。やっぱり干鋼にたこ焼き用の鉄板を作ってもらって正解だったな。」

「うん、僕も苦労した甲斐があったよ。この丸みを出すのに結構手間が掛かったからね。」

 

うぇーい、とか良く分からない掛け声をかけながら手と手をぱしんっ、と叩き合っている二人。

干鋼って言ったら、霞たちが贔屓にしてる鍛冶屋の弟子じゃなかったかしら?

そう言えばこの間友達が増えたとか何とか言ってたわね。

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「ほら、もう食べられるぜ≪がっしぃ!!≫ぬおぁ!!って恋!?どうした!?」

「≪ぐるるる〜〜〜≫………恋、仲間はずれ?」

 

瞳を潤ませて流騎にのしかかる恋が居た。

 

「しないしない!!ってか公台の奴に恋を呼んで来てくれる様に頼んだんだけど…。」

「とるねーどちんきゅーきぃーーーーっく!!!!!」

「≪どぼぉっ!!!≫うぶはぁっ!!!!」

「「「流騎(さん)っ!!!」」」

「この〜!ねねを遠ざけておいてその隙に恋殿にちょっかいを出すなど言語道断なのです!!このっ!このっ!ちんきゅーきっくで成敗してくれるのです!!」

「うわぁああ!!ち、陳宮ちゃん!鳩尾は、鳩尾は駄目だって!そこは急所だからぁああ!!」

「止めるななのです〜!これは天誅、天罰なのです!!」

 

蹴られる流騎、蹴るねね、必死で止める干鋼。

あ、流騎がなんかぷるぷるしてるわね。

 

「うがぁあああ!!いい加減にしろ、こんにゃろう!!」

「≪がっし!≫むぎゅ!にゃにをひゅるのでひゅ!!」

「うははははは!!お仕置きだ!うらーーー!!!」

「ひあぁぁああああ!!!!」

 

顔を両手で挟んで持ち上げ、ぐるぐると回転する。

しばらくすると勢いが弱まり、やがて止まった。

 

「「うえええ、き、気持ち悪い(のです)。」」

 

眼を回し、両手を着く馬鹿二人。

 

「へうぅぅ、大丈夫ですか?お、お水を…。」

「あっ、僕やります。…はい、どうぞ。」

 

それを介抱する月と干鋼。

 

「≪もぐもぐ≫………おかわり。」

 

我関せずとばかりにたこ焼きを食べ尽す恋。

騒がしいことこの上ないいつもどおりの日常。

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でも、こいつが私たちの前に現れてから、流れていく時間の色が変わった様な気がする。

皆の雰囲気も変わった。

 

月は暗い表情をする時間が減って、よく笑うようになった。

霞は今まで以上に明るくなった。…まあお酒の量も増えたけど。

華雄は弟分にいいところを見せようと張り切っている。

恋は流騎に懐いていて、一人でいる時間が減った。

ねねは喧嘩友達の感覚なのか、流騎とじゃれている所を良く見るようになった。

 

その境遇だけじゃなく、在り方も考え方も変わった男。

言葉や行動に嘘が無いからか、ストンと心に入ってくる。

変わっていく事に違和感は感じるけど、悪くはない。

 

出来ることなら、こんな賑やかな日々が続いて欲しいわね。

 

 

「ほら、馬鹿な掛け合いやってないでさっさと座りなさいよ。」

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初陣。

 

眼前に広がるは広大な戦場、多数の敵。

それを眼にした流騎は、ぶるりと身体を震わせる。

敵の数に、殺気に、戦場の空気に、そして、これから起こるであろう光景に、恐怖し震える。

死ぬのが怖い、殺すのが怖い、傷つくのが怖い、傷つけるのが怖い。

足が竦む、手が震える、吐き気がする、息が苦しい。

それでも彼は、その場に踏み止まる。

一人の兵として。

 

そして始まる、殺し合いが。

人間が放つ獣の如き咆哮。

剣戟の音、悲鳴、怒号、血と糞尿の臭い。

戦は人を獣にする。

でなければ誰かを殺すことなど出来はしない。

 

しかし、流騎は人のまま戦場に臨む。

誤魔化さず、正面から敵…否、人を殺す事を覚悟した。

 

獣となって人を殺す者、人のまま人を殺す者。

どちらの方が狂っているのだろう。

 

どちらでも構わない。

 

苦しむ覚悟は決めたのだから。

 

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Side 流騎

 

はぁ、怖い、緊張する。

周りを見渡すと大勢の兵士たち。

その数約一万五千。

聴いた話によれば、敵は黄巾賊で、数は約一万だという。

それだけの人数が殺し合うと考えると、気分が悪くなってきた。

 

俺が配属されたのは、李カク千人将の部隊だった。

千人将は、仲頴の父親の世代から仕えている古株の将で、何度か将軍になる誘いもあったが自分はその器ではないと断り、常に前線で戦ってきた武人だそうだ。

 

「お〜い、そこのお前、新兵か?」

 

頭上から声をかけられた。

 

「よっと。えらい緊張してるみたいだからよ、上官の俺がちょっくら解してやろうかと思ったんだ。」

 

馬から飛び降り、俺に顔を近づけにかっと笑うその青年は、名を高順といった。

少しはねた灰色の髪、切れ長の眼、赤い瞳、そして悪戯好きの子供のような笑顔が印象的だった。

 

「しっかし硬くなってんなあ。初陣っつったら滅茶苦茶緊張するから気持ちは解るぜ。でもまっ、今回の相手は正規の軍隊じゃねえし兵の数もこっちが上、しかも近くにはこの俺の千人隊がいるんだ、そうそうやばいことにはならねぇって。」

 

見たところ俺と一つか二つ位しか離れてなさそうなのに堂々としてて、しかも“俺の千人隊って事は彼は千人将らしい。

この若さで千人将って事は、才覚的には遼姉や雄姉に劣らない武人なんだろう。

 

「もったいないお言葉です、千人将殿。申し送れました。私の名前は流騎と申します。」

 

歳が近いとはいえ上官。

失礼を働けば罪になり、ひいては仲頴や遼姉達にもいらない迷惑がかかってしまう。

そう思い、俺は跪づき拝手をする。すると、

 

「知ってるよ、流騎。よく張遼の姐さんや華雄の姐御達と鍛錬してるだろ?あの人達の鍛錬に良くついていけるもんだって結構有名だぜ?それに今は馬から降りてるだろ?だから今の俺はただの高順だから普通に喋ってくれりゃいいぜ。畏まられんのはなんかむず痒い。」

 

頭をがしがし掻きながら苦笑を浮かべそう言う高順。

 

「それじゃあお言葉に甘えてくだけさせて貰うな。しかし高順はすごいんだな。俺とそんなに変わらない歳なのに千人将だなんてさ。」

「うははははは、もっと褒めろもっと褒めろ!よっしゃ、敵は俺が全部叩き潰して≪ボコッ!≫いてぇ!!何すん…げっ!!」

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誰かに頭を叩かれ、高順が振り向くとそこには凛々しい少女が立っていた。

少し釣り眼がかった大きな眼と水色の瞳、ショートカットにした黒髪にカチューシャのような物を着けている。

佇まいは凛としていて、意志の強さを感じさせる。

 

「高順、君はそうやって調子に乗るといつも失敗するだろう。そこの君も、彼をあまり持ち上げないでくれ。付け上がるから。」

「こ、公明、なんでここに。」

「私も左軍の配置になったからに決まっているだろう。」

「こいつは徐晃公明って言ってな、口うるさい小姑なんだ。」

 

俺にそう耳打ちする公明。

 

「誰が小姑だ、誰が。大体お前が真面目に仕事をしないから…。」

 

始まるお説教。

つかなんで俺まで正座させられてるんだろう。

 

「解ったか?」

「「は〜い、わっかりました〜。」」

 

おお、ハモった。

 

「よろしい。しかし、君たちえらく息が合っているな。初対面だろう?」

「ははは、まあそうなのですが、「待て。」…はい?」

「高順には砕けた口調なのに私にはそんな畏まった話し方をするのか?」

 

口を尖らせてそんな事を言う公明殿、もとい公明。

つまりは普通に話せと。

 

「えっと、初対面なんだけど、意外な位にこういうノリがしっくり来るんだよな。」

「おっ、お前も?俺もそんな感じがしてたぜ。」

「なるほど、全員が似たような思いを持っていたということか。」

 

ほんの少しの雑談だったけど緊張が解けているのがわかった。

緊張が解け、恐怖が顔を出し、それを覚悟で押さえ込む。

 

「ふふ、いい顔だな。君も私達と同じ側の人間ということか。」

「まだ全然弱っちいけどな。まっ、もしお前が生き残れたら、俺が飯奢ってやらぁ。」

 

二人がぽんっと俺の肩を叩く。

 

俺は槍を握り締める。

泣こうが、吐こうが生き残る、その思いを籠めて。

 

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あとがき

 

流騎君の初陣です。

まあ、戦闘シーンはありませんが。

 

しかしまあ、無茶苦茶間が開いてしまいました。

いや、ストックがね、切れちゃいましてね。

…頑張ります。

 

さて、初陣も済んだ事ですし、そろそろ反董卓連合に入れそうですかね。

…多分。

 

あっ、ちなみに流騎君の武器なんですが、まだ完成してないので支給品の槍を使っています。

そろそろ出来るんじゃないでしょうか。

 

では、また次回。

 

説明
どうも、へたれど素人です。
久しぶりの投稿です。
文脈とか滅茶苦茶かもしれませんが、ご勘弁を。
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