混沌王は異界の力を求める 2
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「断る、と言ったら?」

 

人修羅の言葉に最も早く反応したのはシグナムだった、彼女は己のデバイス、レヴァンテインを素早く抜くと、その刃先を人修羅へと向ける。

 

「悪いが、こちらもはいそうですかという訳には行かなくてな、断ると言うのなら力ずくでもつれて行かせてもらうぞ!」

 

「シグナム!?」

 

警告するシグナムを、咎めるようにフェイトがシグナムの名を呼んだ。しかし、目先に刃を向けられているにも関わらず人修羅は一切動じない。

 

「テスタロッサ、こいつは危険だ。簡単に言うことを聞く奴じゃない、なら気絶させてでも連れて行ったほうが良い」

 

「俺を気絶させられると思ってるんなら、よほど自信過剰だな」

 

「何ッ!?」

 

シグナムは人修羅へ向けていた剣を更に突き出し、人修羅の喉元へ突きつける。だが人修羅は喉に刃が触れているというのに表情一つ変えない。

 

「自信過剰かどうか、試してみるか?」

 

シグナムのその攻撃的な態度に人修羅は宥める様に、しかし余裕を持って言った。

 

「おいおい、そんな物騒な言葉向けんなよ、別に行かないって言ったわけじゃないだろ?」

 

そのとき、いきなり人修羅が動いた。喉元の刀身を素手で掴み、脇に投げるように刀身掴んでいる右手を振るう。この人修羅の動きは流石のシグナムも予想できなかったようで、剣に引っ張られるようにバランスを崩した。

 

「ただな…」

 

そして人修羅は素早く左掌をフェイト達に向ける、刀身を掴んでからこの間僅か0.4秒。フェイトもシグナムも人修羅の動きの速度に対応できていない。

しかしそんな二人にお構い無しで人修羅は前方に突き出した左掌から火弾を放った。

 

『アギ』

 

火弾はフェイトとバランスを崩すシグナムの間を抜け、二人の背後へと飛んでいった。

 

バランスを崩されたシグナムだが右足で踏みこたえ、倒れることは無かった。踏みこたえたシグナムは人修羅へ抗議するように言った。

 

「何を――――」

 

する、と言う声は生まれなかった。背後から火の爆ぜる音と。

 

「ギャァァァァァァアアアアアアア!!」

 

という鳥の声のような鋭い悲鳴が上がり、シグナムの声をを塗り潰したからだ。驚いたフェイトとシグナムは、弾かれたかのように振り返った、するとそこには、黄金のマスクをつけた桃色の小さな人型「ヤカー」が全身から嫌な臭いのする煙を上げ、炭化した腹部をさらす様に仰向けに倒れていた。人修羅が上げていた腕を下ろしながら言った。

 

「ここは少々散らかってる様なんでな、片づけてからじゃ駄目かと、そう聞きたかったんだがな」

 

人修羅の言った直後に、何処に隠れていたのか二十匹前後のヤカーが三人と炭化した仲魔の亡骸を囲うように現れた。

 

「ゥルイィィイィアアアアアアアアアア!!」

 

ほぼ同時にヤカーは全員で奇声を上げ、飛ぶように、跳ねるようにして三人に襲い掛かって来る。

 

フェイトは自身のデバイス、バルディッシュを構えながら素早くはやてに報告を入れる。

 

「複数体のアンノウンと遭遇しました!これから迎撃に入ります」

 

(了解や!気ぃつけてな)

 

「はい、いくよ!バルディッシュ!!」

 

【Yes sir】

 

バルディッシュの返事とともに、既に戦闘を開始していたシグナムとヤカーを片付けに入る。

 

フェイトとシグナムはヤカーに対し、的確な攻撃を入れていく。手足の短いヤカーはその見た目通り動きもそこまで速いわけではなく、攻撃の予備動作も大きいため、硬度の高い黄金のマスクにさえ攻撃を弾かれなければ何の問題も無く戦える相手だった。稀に雷撃を放ってくる個体も居るが、通常の攻撃よりもさらに長く特徴的な動作をするので、二人は造作も無く避け、倒すことが出来た。

 

二人はヤカーを順調に葬っていく、しかし二人から少し離れた場所に居た人修羅は始めの一体に火弾を当ててからは、一度も攻撃をしようとはせず、ヤカーの攻撃を緩々と回避しているだけだった。

 

「あの二人、人間のクセに中々やるね」

 

いままで、黙ってくれていたピクシーから声が来る。

 

「ああ、でも、千晶にも勇にも遠く及ばない」

 

「あたりまえじゃないの」

 

このとき初めてピクシーが隠していた姿を現す。彼女は今までずっと人修羅の右肩に乗っており、人修羅と会話していたのだ。

 

「ねぇ人修羅? なんでさっきからかわしてばっかで攻撃しないの?」

 

「ん? いやあの二人がどのくらい戦えるか確かめておこうと思ってな」

 

「なんで?」

 

「だってさ、さっきあいつ等は自分たちのことを隊長、副隊長と言ったろ?、なら恐らくこの世界で俺達が交渉するのは、恐らくあいつ等の組織だ。どうせ付いていくんだったら、あいつ等のレベルを知っておきたい。まぁヤカーに負けるようなら、付いてってやろうと思わなかっただろうがな」

 

「人修羅って案外子どもっぽいよね……」

 

ピクシーは苦笑い。

 

「でも、このヤカー何処から来たんだろ? あたし達のとこのヤカーじゃないんでしょ?」

 

人修羅は丁度、爪で顔を狙ってきたヤカーの攻撃を身をそらして、かわしながら答える。

 

「たぶん、どこかのデビルサマナーが送り込んできたとかだろうな」

 

「サマナーが? でも並みのサマナーだったら人修羅に攻撃なんかしないでしょ? 文字通り、格が違うんだから」

 

「だろうな。よほどの自信があるのか……それともそれも解らない新米か……どっちだろうな」

 

人修羅は思案する表情を作っていたがふと気付いた。

 

「つか、ピクシー。お前なんでいつの間にか姿を現してんだ?」

 

「えー、だってずっと見えなくするの疲れるんだよ?いいじゃんちょっとくらい」

 

「お前にとってはそんな疲労微々たるものだろうが、いいから消えてろ」

 

「ちぇっ」

 

そこで人修羅は会話を切り、ピクシーが再び姿を消したのを確認してから、フェイトとシグナムの戦いに視線を戻す。どうやらもう既に、ヤカーは殆どが片付いてしまったようで、最後の1匹をシグナムがしとめようとしているところだった。

 

「紫電―――」

 

シグナムのデバイスに炎が宿る。

 

「一閃!!」

 

居合いの形で放たれたその斬撃に対し、最後のヤカーは回避行動をとろうとしたのだろう。しかしシグナム攻撃の方が数段速くヤカーはもろに攻撃を喰らい弾き飛ばされ、人修羅の前まで転がってくる、そのヤカーはどうやら即死は逃れたらしいが、放っておけば間違いなく死に至る傷を受けていた。

 

倒れた状態のままヤカーは、自身を見下ろしている人修羅を見上げる形で言った。

 

「ゥルイィィィ……ァアァァ……シ……シヌゥ…タ…タスケテクレェ………」

 

人修羅は足を折りヤカーの頭と同じ高さまで頭を下げた。

 

「どけっ!邪魔だ!!」

 

シグナムがヤカーに止めを刺そうと、人修羅に退く様に声を上げた、しかし人修羅は、その言葉が聞こえていないかのように、ヤカーに喋りかけた。

 

「助かりたいんだったら俺の仲魔になれ、じゃなきゃ俺が止めを刺してやろう」

 

ヤカーは人修羅の言葉に何度も頷き言った。

 

「ゥルィィィ、ナ、ナカマ!ナカマァ!」

 

その言葉に人修羅は頷くと、ヤカーに手を翳し唱えた。

 

『ディアラハン』

 

一瞬の間を置いてヤカーが立ち上がる、死に至る傷を受けていたヤカーが突然全快したのを見て、背後でフェイトとシグナムが目を見開いているが気にしない。

 

「ウルィィィィ、ウォ、ウォレ幽鬼ヤカーコンゴトモヨロシクゥ」

 

ヤカーが人修羅に一礼。その様子に満足した人修羅は全快したヤカーに。

 

「じゃあ、行ってろ」

 

「ウルィィィィ」

 

短くそれだけ人修羅は言うとヤカーから離れ、いまだ何が起こったか理解できていない二人に声をかける。そのときには既に仲魔となったヤカーの姿は跡形も無く消えていた。

 

「随分と派手にやったな、おい」

 

辺りに散らばっているヤカーの屍骸を眺め、踏み越えながら人修羅は周囲への警戒を解かないフェイトとシグナムに近づく。

 

「でも、この辺りのは((粗方|あらかた))片付いたようだし、な」

 

人修羅は二人のほんの数十センチの所まで近づく。フェイトは既にヤカーの襲撃を知らせた人修羅を警戒していないようだったが、シグナムは未だに人修羅を鋭い目つきで睨んでいる。

 

「お前達、俺に同行をお願いするんだろ、付いてってやるよ」

 

「あっ…ああ、わかった」

 

素直に付いて来ると言った人修羅に対し、釈然としない様子ではあったが、六課の二人は機動六課本部へ人修羅を連れて行った。

全力で空を飛ぶ二人に余裕で走って付いていった人修羅は、またも彼女等を驚愕させたという。

説明
第2話 初戦
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タグ
女神転生 人修羅 リリカルなのは クロスオーバー 

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