憑依とか転生とか召喚されるお話 第四章 暗黒のトラウマと朱然
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 第四章 暗黒のトラウマと朱然

 

 

 

 

 

 何故、俺は此処にいるのだろう?

 

 まず初めに朱然は眠っていた。

 普通に日が落ちた後に目を瞑り、落ちるように、それはぐっすりと、だ。

 目が覚める切っ掛けは、何故かよく寝たはずなのに身体が軽い倦怠感を訴えていて、更には安定しない寝床と寝返りが打てない事だった。

 どうにも上記のように寝心地が悪く、半ば寝ぼけ眼で薄らと眼に映る風景はまず、横になっていた場所よりも幾分も高い視線位置。

 一層の違和感を感じると共に視線を下げると、まずはボロボロになった何者かの姿で、男にはない柔らかな線と凹凸のある身体……つまりは女性に担がれている訳だ。

 その女性は朱然の知る女性である春蘭で、今度は前方へと視線を向けると悠然と進む華琳と、追随する秋蘭の後ろ姿が見える。

 特徴的な髑髏を象った装飾品に加え、華琳は金髪であり、独特の髪型。

 一目見れば見間違えはしまい。

 ようやくハッキリと目が覚めたところで朱然は自身の身の確認をする。

 まず体が動かせない理由だが、それは単純に体を縄でグルグル巻きにされているからだ。

 次に喋る必要もなかったので特に気にしなかったのだが、猿ぐつわをされていて少し息苦しい。

 

 ……そもそも何で俺は捕まって、こんな文字通りの荷物扱いされているんだ?

 寝ている最中は記憶なんぞ無いし……いや、夢で凶暴な猪と戦っていたような気が……。

 

 夢の内容はともかく、朱然が現状の状態になった理由の推理を始めようとすると不意に春蘭が止まった。

 

 ん?

 

 視線をまた動かして目に止まったのはとある店。

 そのとある店の種別は主に女物専門の服を取り扱う店で、それは朱然にとってトラウマの宝庫だった。

 

 あー……嫌な予感しかしないぞッ☆

 

 思わずキャラに似合わない語尾の星を付けてしまうほどに朱然のトラウマは根が深いというほどでもないが、養子の後に義母によって遊ばれたというだけの話。

 そのまま服屋に入って行く華琳様御一行。

 

 俺を女性専門の服屋に連れて行く意味があるとすれば……間違いなく義母さんの同類としか思えない……しかも華琳は完璧主義者。

 やるなら最後まで徹底的に((着せ替え|や))られる可能性が高い……!!

 

 その事に行き着いた朱然は当然、かなり本気で暴れ出す。

 

「むッ?! 華琳様、朱然が起きたようです!」

 

「意外と早かったわね……」

 

 ふむ、と某探偵達がするお馴染みポーズで少しだけ思案する。

 

「できれば、お早く指示を……朱然は一見、華奢な癖に力は私を上回りますッ!」

 

「気絶させなさい」

 

 焦り出す春蘭に対し、華琳は想定内と言わんばかりの冷静さと冷徹さを以て即座に命令を降す。

 それ程までに迷いなく春蘭の台詞を食い気味に言い切った。

 

「もがっ?!」

 

 何故に?!

 間違いなくッ、このつるぺた金髪ツインドリルヘッドめッ、俺で遊ぼうとしてやがるなッ!?

 

 あんまりな事をしようとする仮の主に対し、本当に言えば間違いなく首を撥ねられ、全身ミンチされても可笑しくはない罵倒を朱然は吐き出すが、口が塞がれているのためにできた事といえばモゴモゴと唸る事と暴れると書いて、無駄な抵抗をする事だけだった。

 

「許せ、朱然……ふッ!」

 

 春蘭は朱然の華琳への罵倒を他所に、即座に華琳からの命令を実行し、全力で暴れる朱然に対してあらん限りの力を込めて頚椎へと手刀を落とす。

 

「もごッ?!」

 

 痛てぇッ?!

 気で強化してたから良かったものの、一般人なら頚椎骨折で死ぬ威力だったぞ!?

 

 普通ならば痛い程度では済まされないのだが、そこはやはり呉の老将だった朱治に鍛えられただけあって、力だけではなく防御力も並みの人間のそれを十分に上廻っているからこそ耐えられたのだろう。

 

「何ッ?! 一撃では無理だとッ?!」

 

 驚愕に目を見開いた春蘭は、未だ暴れ続ける朱然に対して次なる行動……いや、攻撃に移る。

 

 ならば一点集中でその守りを穿つまでッ!!

 

 そんな無駄な気合と共に春蘭は手刀を閃かせる。

 

「ならば……今ッ、必殺のぉ、三連撃!」

 

「もがっ、もが、もごッ?!」

 

 んまっ、つぁ、ちょぎ?!

 この……阿呆……必殺、して……どうす、る……。

 

 朱然は春蘭の首チョップで意識が暗転した。

 

 

 

 

 うっ……首が……。

 

 その強烈な痛みによって薄らと目覚めたたがしかし、完全覚醒には至らない意識が外界の音だけを朱然に漠然とだが送ってくる。

 

 何か……騒がしい?

 

 朱然で遊ぼうとしていたのは華琳、春蘭、秋蘭の三人のはずだが、明らかにそれ以上の騒がしさに聴こえ響く。

 女三人寄れば姦しいとは言うが、やはり騒がしい。

 

「……きゃ……こん……美……見た……いわぁ……!」

 

 知らない人の声がする……何か食べてんのか?

 

 朱然は間違いなく今の状況を薄々……そう薄々気付いているが、認めたくないが故に逃避し始めている。

 

「……秋蘭……次……スカー……着せ……」

 

「……御意……許せよ……」

 

 華琳の声……スカーの後はトか?

 秋蘭に着せてもらっているのか?

 

 そんな逃避とは裏腹に脚絆の感触が無くなり、昔馴染まされてしまった心許無い感覚に苛まれる朱然。

 

「……では……どうで……フリル……リボン……」

 

 春蘭は華琳にフリルとかリボンとか着せるつもりか?

 まあ、華琳なら似合いそうではあるけどな。

 

 朱然の無造作に括られていたはずの長髪が解かれ、櫛で丁寧に梳かされてからポニーテールにされている感触が伝わってくる。

 

「……下着……着せ……様……?」

 

「……ま、まあ……下はやめ……上はパッ……入れ……しょう……」

 

 むっ?

 下着まで着させる気か華琳?

 胸のあたりが締め付けられている感覚が……何だろう?

 

 悪乗りも佳境となったのか、どうやら女性用下着を付けられた上にパットを入れられているらしい。

 最早、男の尊厳も風前の灯だろうが、流石に下までは手を出したくなかったのか無事のようだ。

 

「……仕上げ……化粧……可愛……仕立てな……」

 

 化粧?

 最近の女性専門の服屋は化粧までするのか?

 顔に何か塗りたくられているような……って、もうやってられるかッ!

 

 ようやく完全覚醒によって身体が動くようになった朱然は現実逃避を止めて跳ねるように飛び起きた。

 

「……させん!!」

 

「は、離せぇぇぇ……!!」

 

 即座に野生の感のようなものである超反射によって朱然を背後から羽交い絞めにする春蘭とジタバタと暴れる朱然。

 そもそもパワー差によって朱然は脱出できるはずだが、試着させられている物が明らかに高い服だということを理解してしまったがことで全力を出せなくなってしまった。

 要らぬ出費を出すのは主義に反するのだ。

 

「これは……予想以上の出来だわ……。 でも、女として自信をなくしそうね……」

 

 家出から華琳の客将となるまでの間は野宿もザラであり、先に話したように養子に出された後のとある出来事と、着せ替え人形にされたことによって朱然は自分の容姿に少しコンプレックスのようなものを持っている。

 そのせいか、衣服のデザイン程度ならば今までテレビを通して幾らでも見る機会があったために十分ではあったが、自分を着飾ることが余り好きではなくなってしまった。

 

「ええ、これは……女であれば、そこらの者が放っておかなかったしょう」

 

「どこからどう見ても女のようですね! 華琳様!」

 

 喜びとも苦悩ともつかない表情の華琳。

 感嘆する秋蘭。

 満足げな春蘭。

 そして、試着室の鏡に飛び込んできた朱然の姿。

 それは暗黒の時代の再来。

 

 外見的には確かにウケは良いんだろうけど、自分的にはNGだッ、恥ずかしすぎて直視できないッ!

 

 女装し、化粧し、偽の胸を装着してしまった自分の姿。

 

「イィィィヤァァァァ――――ッ!!」

 

 朱然的にはトラウマでも、華琳達からすれば間違いなく、かなりの美女のような男である。

 そもそも初対面では相手の容姿で第一印象がほぼ決まると言っても過言ではない。

 それを踏まえれば朱然は優男ではあるし、気の練度によって超人的な力を振るう朱然にとっては贅肉と共に無駄な筋肉も無くしていったためにそれに拍車をかける結果に。

 叫んだが逃げ出せない、というよりも逃げることの方が朱然にとって間違いなく被害が拡大する。

 だから逃げられない。

 この店から逃げ出せば多くの人の目の触れる。

 

 それだけは……それだけは、なんとしても避けなければならないッ!

 

 朱然はすぐさま着替えようとしたが、いつまで経っても春蘭が朱然を羽交い絞めにしているために身動きが取れない。

 

「華琳! 客将にも拘らずこの仕打ち! 何の恨みがあってこんなことをっ?!」

 

 おおよその回答はなんとなく察しはついていたが、堪らずに朱然は叫ぶ。

 

「あら、その者に似合う服を着せているだけよ? いいじゃない、似合っているのだから」

 

 シレっと本当のことを腕を組んで、言う華琳。

 その口元が若干、笑みの色を含んでいたのを朱然は見逃さない。

 

「そもそも女の格好で似合っていると言われても嬉しかないわぁっ!!」

 

 朱然の心の叫びだった。

 女装が似合うからといって素直に喜べるようになるほど、朱然は染まっていない。

 普通に男の格好で褒められる方が嬉しいのである。

 

 

 

 

 

 抵抗したが結局、様々な服で着せ替えられた。

 途中で知らないお姉さんや女の子、たまたま来た凪、真桜、沙和達まで加わってそこは混沌と化した。

 沙和は阿蘇阿蘇を読んでいたので俺が自分でデザインした服とかも着せられてしまう。

 主にこの世界の呉服屋は無駄に洗練された器用さで朱然のデザインを作り出すのだ。

 現代でありふれた物から、マニアックなものまで。

 なので、メイド服、セーラー服、ブレザー、どこぞの格闘ゲームに出てくるような物などの、いわゆる防御力など合って無いようなアレなデザイン、明らかに露出過多な物まで様々に。

 流石に後半は性別の壁によって装着できなかったからこそ助かったが、前半部分は問答無用とばかりに迫られ、人の波という物に飲まれた。

 その波が引く度に朱然の姿が、髪型が、服が変わっていく。 

 

 朱然は何か大事なものを無くした!

 この後、最終的に無理やり連れ出され、警邏の兵や町民達は女装朱然の可憐さに心を奪われたとか、奪われなかったとか……。

 その日の夜、曹操の城のいたるところで不機嫌な客将の姿が兵士達に目撃されたのは、つまりはそういうことだろう。

説明
青年は偶然にも根源に至り、命を落とした。
次に目覚めた時、青年は別の人生を歩み始める。
青年は次こそ、大事な人を守るために朱然として走り出す。
これは、青年が初めて恋をした恋姫の物語。
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憑依 転生 召喚 真・恋姫†無双 

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