真恋姫†夢想 弓史に一生 第三章 第十二話 旅芸人の歌姫達(前編) |
〜聖side〜
昼食後、俺は門の辺りで一刀が来るのを待った。
季節は春先。空には太陽の光を遮るような大きな雲は無く、夏のような日差しがさんさんと降り注いでいた。
「暑い…。ったく、何時まで待たせんだ一刀は…。」
経度としては確か日本の関東とほぼ同じくらい。しかし、遮るものの無い直射日光は、慣れてきたとはいえ暑いものは暑い…。しかも、湿気がない分カラッとして暑いのであるから、体から水分が抜け、汗をぬぐってもぬぐっても出てくる…。
「あぁ〜…。今年の夏はやっていけるかな…。」
等とぼやいていると一刀がやってきた。
「悪い、聖。 ちょっと準備に手間取っちゃって…。」
「遅いわ!! このくそ暑い中で人を待たせるな!!」
「そりゃ、そんな日向にいたら暑いに決まってるだろ。木陰で待っててくれれば良いのに…。」
「あぁ? 俺はそんなもやしみたいなのは嫌なんだよ。太陽はいつでも俺たちの上にあって、いつでも俺たちを見てんだ。だから、太陽の下では人は嘘をつけねぇ…。その方が生き方的に格好いいだろ?」
「まぁ、そうかもしれないけど…。」
「まぁ、細かいのは無しだ。さっさと行くぞ!!」
「あぁ……って俺はどうするんだ?」
「はぁ? お前も馬に乗って付いてこりゃ良いだろうが?」
「だから、前にも言ったけど俺は馬に乗れないんだぞ?」
「その練習もかねて行くんだ。今回は俺の陽華を貸してやる。陽華は利口だから、乗り方を教えてくれるさ。」
「馬に教わるのかよ!!」
「まぁ、習うより慣れろだな。とにかく早く乗れ。何時までも待ってやらんぞ?」
「…分かった。陽華、よろしくな。」
「ブルッ。」
陽華は頭を下げて一刀に礼をしたように見える。そこらへん本当に賢い馬だな…。
一刀はとりあえず陽華の背に飛び乗って姿勢を整える。
「良いか? 陽華が色々とバランスを調整してくれると思うが、それでもお前が手綱を握ってんだ、お前がなるべくリードしろ。後、馬上で大事なのは重心の置き方だ。へっぴり腰だと陽華から落ちるからな。」
「分かった。やってみるよ。」
「よしっ、その気だ。じゃあ、行くぞ!!」
俺は馬の腹を蹴って、駆け始めた。
一刀もそれに習い、陽華の腹を蹴ってその歩を進ませた。
意外なことに、思っていたよりも一刀の覚えは早かった。
初めこそへっぴり腰が危なっかしくて、陽華がスピードを調整していたけど、しばらく走っていると重心は安定し、陽華も自然に走っている。
剣道などの日本武道の基礎である重心は、一刀にとって慣れ親しんだものであったのだろう。その使い方はこなれていた。
しばらく走った後、一度休憩をとることにした。
俺は出る前に用意しておいた竹筒の一つを一刀に渡して、自分も喉の渇きを潤す。
「ふぅ…。一刀、だいぶ良くなったな。」
「そうか? まだ、陽華に助けてもらってるよ。」
「誰だっていきなり馬を完全に操ることなんて出来ないさ。俺だって陽華にまだ助けてもらってるからな。」
「聖が?」
「あぁ。馬と一体になるってのは相当に難しい…。流石にこればっかりは俺もまだまだ発展途上だ。」
「ふ〜ん。完璧に見えてまだ途上があるのか…。」
「完璧なんて誰が言った? 俺は一度も自分を完璧だ何て思ったこと無いぜ?」
「そうなの?」
「当たり前だろ。政治とかはこの世界に来てから始めたことだからな。他にも商業とか人心掌握、数えたらきりが無いくらい未成熟なものがあるよ。はぁ、武芸なら何とかなるんだがな…。」
「そういうチート能力は貰ってないと…。」
「そういうことだ…。まぁ、策略なんかは好きだったから色々と考えたことあるし、今現在習ってるから、まぁどうにかなるとは思うが…。 指揮なんてやったこと無かったから初めは大変だったんだぞ。」
「あぁ〜何となく分かるわ…。聖って学級委員とかやりそうに無いもんな…。」
「そりゃ、あんな面倒なもんやりたがるかよ…。中学までは内申を気にしてやってたけど、高校からは一線引いてたからな。」
「まぁ、某大学の大学生だもんな。そりゃあ良い高校に行ってたんだろ?」
「別に。結構普通だったはずだが…。お前のとこの方が中高大までの一貫校で凄いんじゃないか?」
「あんなの凄くもなんとも無いよ。まぁ、中学に入れたのは奇跡だったけどね。」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんだよ。」
「あっそう…。」
「そういや気になったんだけど…。」
「何だ?」
「某大学ってどこ?」
「知らねぇのに言ってたのかよ!!」
「何となく流れで…。」
「はぁ…。某大学は………ってとこだ。」
「えっ!!? じゃあ聖は…。」
「あぁ、まだ学生だけどな。知識はある。」
「本当に完璧超人だな…。」
「だから、完璧じゃねぇって言ってんだろ…。さて、そろそろ行くぞ。向こうに着いたら丁度昼ってとこだろうから、そこで飯にしよう。」
「分かった。」
俺たちは再び馬に乗ると、襄庸の町に向かった。
襄庸の町はここら辺では一番大きい町で、多くの人が住んでいた。
この町の存在は前々から知っていたのだが、来ることが無かった。今回は良い機会なので、町の調査と一刀の物を買うためにここを訪れることにした。
町は明るく活気があり、市場は今まで見たどの町よりも賑わっている様に見える。
お昼を食べ、俺たちは買い物をしに市場へ行った。
買い物は思ったよりも順調に進んだ。欲しい物は大体見つかったし、なにより品揃えが豊富だったのが一番助かった。
ある程度買い物が終わったところで、一刀が不意に思い出した。
「そういえば、出掛けに孫乾ちゃんから頼まれごとをされてなかったか?」
「あぁ、そういえば…。え〜っと確かここに…。あったあった、なになに…。」
「卵に砂糖に醤、玉ねぎに人参…。これって夕飯の買い物か?」
「だろうな…。町に行くって言ったとたん『ちょうど良かった』って言ったぐらいだったし…。」
「はははっ。聖をパシるなんて孫乾ちゃんもやるな。」
「まぁ、いいさ。その分美味しい夕飯が食える…。」
「おっ、優しいんだな。」
「俺は元から優しいぞ…。」
「嘘つけ、俺には優しくないじゃないか。」
「女子限定だ!!」
「男女差別反対!!」
「良いからいくぞ。さっさとここに書いてあるもの買わんと日が暮れる!!」
「あっ!! ちょっと待って!!」
こうして、俺と一刀は再び買い物をするために市場へ行こうとする。がしかし、市場へ行く道は人が多くて通れそうになかった。
仕方ないので、二人で裏道を通って行く事にした。
裏道を通り、市場のある通りに出るところで、人垣が出来ているのに気付く。
その中に、歌を歌っている女の子三人組を見かけた。
その歌声は澄んでいてしかし、心の奥底に重く響くような…。なんともいえない高揚感を俺にもたらした。
「一刀、ちょっとあの娘達の歌聞いていかねぇか?」
「歌? まぁ良いけど…。いきなりどうしたんだ?」
「いやっ、特に理由は無いさ。ただ何となくだよ。」
「ふ〜ん。そんなこと言って、あの娘達が可愛いから聞いていきたいんじゃないの?」
「まぁそれも一理あるかな(笑)」
「そんなこと言ってると、後で知らないぞ。」
ガシッ!!!!
「なっ!!? なんだよ、どうしたんだよ聖。」
「やめろ…。それ以上言うな…。それは大きなフラグだ…。」
その頃、水鏡塾では…。
「えっと…どうなさいましたか? 徐庶さん、凌統さん、諸葛謹さん。」
「あぁ〜気にしなくていいですよ〜馬良ちゃん♪」
「あぁ、ただちょ〜っといつものやつがね…。」
「芽衣、奏。後で三人で話し合うです。」
「「そうですね(そうだね)(微笑)」」
「あの〜なにか、怪しい色の気が見えるのですが…。」
「「「気のせいです(気のせいだね)『気のせいなのです』」」」
これ以上聞いてはいけない…。そういう雰囲気を纏っていたと後に馬良は語るのだった。
その頃の襄庸。
「ゾクッ!!!??」
「どうした?」
「ふふっ…既に手遅れだったようだ…。一刀、俺の死後を頼んだぞ。」
「死ぬの!!!??」
「そのぐらいの悪夢を俺は見ることになるんだ…。」
「モテる男は大変だね…。」
「後に地獄が待ってるなら、今はこの娘達の歌を楽しむかね…。」
「それが良いかもね。」
彼女達の歌に耳を澄ませる。
澄んだ声が喧騒の市場に凛と響き、その歌声には人を魅了する力があり、心をつかまれるような感覚に陥る。
これがアーティストの力なのかな…。
しばらくすると、歌は終わった。
「ご視聴ありがとうございました〜。」
「私達、張三姉妹の歌。いかがだったでしょうか〜。」
「皆さんの心に届いていたら、嬉しく思います。」
「「「「パチパチパチパチ」」」」
「良い歌だったぞ!!」
「気持ちの良い歌声ね。」
「張三姉妹最高!!!」
周りからは歓声が上がり、彼女達を祝福していた。
「ありがとうございま〜す。」
「私達の歌に感動していただけたなら。」
「是非この袋にお金を…。」
ぞろぞろ。
彼女達のその声が終わる前に、彼女達を囲っていた人たちは立ち退き始める。
皆その歌には感動していたが、そのお礼にお金を払えるほど裕福ではないのだ…。しかし、彼女達もそのお金で日々過ごしているわけで…。
彼女達の顔には、明らかに落胆の色が見て取れた。
「一刀、良い歌を聴いたんだ。お礼をあげないといけないよな?」
「はぁ〜。まぁ、聖がしたいようにすれば。」
「サンキュー。これで一刀も共犯な!!」
「ちょっ!!?? それどういう…。」
「ほれ!!行くぞ!!」
俺達は彼女達のもとに向かう。
遠目では分かりにくかったが、彼女達は全員が美少女。髪の毛の色もカラフルでなんともアーティストっぽいっちゃあその通りだろう。
「良い歌をありがとう。君達のグループ名は張三姉妹で良いのかな?」
「ぐるーぷ名って…何それ?」
「あぁ、そうか。えーっと君たち三人の歌手名って言えば分かるかな?」
「そうだよ〜。私達は張三姉妹だもん♪私が長女の張角で。」
「ちぃが次女の張宝だよ。」
「三女の張梁です。」
「そうか、良い名前だね。一刀、ちょっと…。」
裏でコソコソと話す。
「この三人、張角、張宝、張梁って言ったが…。本物だと思うか?」
「さぁ…。ただ、本当だとするならこの三人が黄巾の乱の首謀者ってことになるよね。」
「あぁ、だとしたら直ぐにでもとっ捕まえて黄巾賊を解散させれば、戦いが治まるんだが…。」
「もう少し聞いてみる?」
「あぁ、その方が良さそうだ…。」
「あの〜…。どうかしました〜?」
「あぁ、気にしないで張角さん。ちょっとこっちの話。つかぬ事を聞きたいんだけど、君達は旅芸人なの?」
「はい。私達は町から町に移動しては歌って、私達の知名度を上げています。」
「そしてゆくゆくは都で大きな舞台を開いて!!」
「大勢の人の前で歌うのが夢なの〜。」
「おぉ、そりゃ良い夢だ!! …一刀、ちょっと…。」
コソコソ
「一刀、お前はどう思う?」
「やっぱり違うんじゃないか?あの娘ら朝廷を乗っ取ろうとか考えてる気がしないけど…。」
「あぁ、俺もそう思った…。純粋に歌を歌いたいだけって感じだな…。」
「じゃあ、やっぱり別人?」
「いやっ、この世界だと結構変化が起きてるからなんとも言えんな…。ただ、今すぐに危険があるわけでもないのは確かかな…。」
「じゃあ、このままいけば黄巾の乱は起こらないと?」
「かも知れんな…。あの娘らが変な考えを起こさない限り…。」
「ちょっとぉ!!! さっきからちぃたちを放っておいて二人で話すの止めてくれない!!」
「あぁ、悪い悪い…。君達は黄巾賊って知ってるかい?」
「黄巾賊ってあの??」
「そう、色んな町を襲っているあの…。」
「知ってはいますが、それが何か?」
「君達と同じ黄色い布を巻いているんだが…関係あるのか?」
「あなた、まさか朝廷のまわしもの!?」
「いやっ、俺は旅人だし、これは唯の個人的な質問だ。何か、朝廷のまわしものだと都合の悪いことでもあるのか?」
「そういうわけじゃないけど…。」
「いいわ、お話します。」
「人和!!」
「良いのよ姉さん。ここで話さないと疑われるし、それにこの人たち朝廷の人じゃないと思うから。」
「まぁ…人和がそういうなら良いけど…。」
「私達は各地で歌を歌ってます。すると、少なからず私達を支持してくれる方々が現れます。 その人たちは私達が付けてる様な、この黄色い布をすることで私たちを指示してる、と言うことを示しているようです。 しかし、最近は生活すら厳しいくらいに重税をかけられている人もいる時代…。 私達を支持するのにも限界があります。そのうちの一部の人たちが私達を支援し続けるために武装蜂起しているという話を聞いたことがあります。私達も止めるように言ってるんですが…。」
「なかなか上手くいかなくてね…。」
「成程…。直接は関係がないわけか…。」
「関係ないといえば嘘にはなるけど、私達なりにも抑止に努力はしているわ。」
この娘達が言っているのは本当のことだろう。
この事を語る目が真剣であること、そして本気でどうにかしないといけないと思っていること。それらから推測するには十分だった。
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 前の投稿から一週間ちょっと経ってしまって申し訳ありません。ちょっと忙しくて、投稿できませんでした。 今回はたまたま投稿できる時間を見つけたので、投稿しますが、次の投稿はやはり一週間ほど空いてしまうかと…。 なるべく早く投稿できるように善処はしますが、ご了承ください。 さて、今話ではタイトルから想像できるとおり、恋姫夢想原作に出てくるキャラが登場します。 ただ、少しばかりキャラが違うような気がしますが…そこら辺は大目に見て下さるとありがたいです…。 |
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