いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第四十八話 夢を見る時間を譲りやがれ!
クロノとアリシアを襲った爆発によって巻き起こった粉塵が収まると、そこには傷だらけになったと思われたクロノを覆うように空色の三角錐で出来た障壁が張られていた。
「これは…」
「なにぼさっとしてんのっ!馬鹿弟子!」
目の前のことに呆けているクロノに向かって檄を飛ばす者がいた。
灰色の髪を背中まで伸ばしたギル・グレアムの使い魔リーゼアリアである。
「デュランダルは元々闇の書対策で作られたデバイスなんだ!それを使わないであんたはこんなところで倒れるつもりなの!」
「…アリア。…そうだったな。…すまない。…アリシアを頼めるか?」
アリアの言葉を受けてクロノは自分が手にしている銀色の杖。
デュランダルに目を配ると自分の意志を固め直す。
「まったく、師匠に向かって何て言い草だよ。まったく、執務官様は…」
そう言いながらも未だにスンスンと泣きじゃくるアリシアを抱えるアリア。と、そのときすでに闇の書の意志ともいうべき銀色の髪の女性がこちらに向かって飛翔してくる。
…よしっ。そのまま突っ込んで来い!
ガキンッ。
「っ!」
「…もらった!ストラグルバインド!ユーノ!」
青白い光輪で動きを封じられた彼女にさらなるバインドを仕掛ける。
青い光の鎖が彼女の動きを封じるとともにライトグリーンの鎖。ユーノの手からも拘束の鎖が飛び出す。
「あ、う、うんっ。チェーンバインド!」
ユーノは少し遅れてだが、彼女を拘束することに成功した。
「…無詠唱?」
「((設置型|セット))さ。…まあ、タカやアサキムには効果なかったけどね」
と、自分で言って気が付く。
目の前で拘束している彼女は少なからずともタカやアサキムのように馬鹿げたパワーの持ち主ではないという事。
スフィアの持ち主だとすればパワーを底上げする『傷だらけの獅子』より、全体的に能力を上げる『揺れる天秤』に近いのだろう。
「ぬ、くぅ…」
「しかも弱体化付き。…こんな魔法を教えた覚えはないんだけどね」
「自分達が見てない所でも鍛えていろと言ったのは君だろう」
とはいえ…。
さすがスフィア持ちというべきなのか、僕とユーノの束縛を少しずつではあるが解いて行こうとする彼女になのは達が砲撃を開始する。
「…フォトランサー・ファランクスシフト」
「…SPIGOT。フォーメーションスプリット」
フェイトの周りには無数の雷の光球が。クロウの周りには光輪が浮かび上がる。
「撃ち抜け!ファイア!」
「狙い打つ!」
ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!
雷の光球からは無数の光弾。クロウの光輪からは光線が照射され銀の女性に襲い掛かる。そこには絶え間なく魔力の砲撃が撃ちこまれいく。
さらにその二人の後ろではカートリッジシステムを内蔵したレイジングハートを持ち、なのはがその矛先をその爆心地に向ける
「エクセリオーン…」
ガシュンガシュンッ。
「スマッシャアアアアッ!!」
と、薬莢を二つはき出すとその矛先から放たれた桜色の光線は四つの軌跡を描きながら)その爆心地ごと呑みこんでいった。
その頃、闇の書内部では八神はやてとその中枢を司る女性を象ったプログラムが話し合っていた。
「…確かに楽しい夢はずっと見ていたい。だけどな、起きていないと楽しめないものもあるんや」
『…我が主』
「…私はおきないといかん。でないと、シャマルが私の代わりにごはんを作ってしまう。そんなことになったら全員病院送りや。ヴィータの美味しいご飯を食べた時の顔も見れんし、シグナムも泡を吹くこともない。ザフィーラが人知れずトイレでもどすなんてこともおきなくなるしな」
『…』
(…湖の騎士。何をやっているのだ)
「それに。…もう一人の家族も幸せにしないといかん」
『…主。ですが、私には呪いが…。『悲しみの乙女』という私ではどうにもならない呪いが…』
「もう、闇の書なんていわせへん。『悲しみの乙女』ってのがよくわからんけど、そんなものは私が壊す。そして、新しい名前をあげる。今日から自分の名前は『祝福の風』リインフォースや」
一方、はやてとは別の領域ではタカシの精神をむしばもうとしていた闇の書の呪いたちが焦っていた。
『…まずいぞ。管制システムで夜天の主が目覚めた』
『それはいけない。はやく、この獅子を我等が手中に…』
ガアアアアアアアアア!
未だに眠った状態の高志にさらなる安らぎを見せようとしていた彼等の元に一匹の獅子がこちらに向かって走ってきた。
『あれは…』
『『傷だらけの獅子』か?!どうやって!?』
精神世界であるこの闇の書の中に入ってくるなど考えられないことだった。
グルルルルルッ!
まるで自分の主を守るかのごとく高志にまとわりついていた闇の書の呪いを威嚇する獅子。だが、
『無駄だ』
『どうやって入って来たかは知らぬが、この精神。沢高志という人間は現実ではない。我等が見せる((悪夢|ゆめ))を望んでいる』
ガアッ!
高志は目覚めない。
獅子はそれを認めたくないのか彼に近付こうとする闇の書の呪いともいえる黒いもやを振り払う。
そして、その獅子の体が淡いスフィアの輝きを放った。
その光はある少女の形を象ると眠っている高志に飛びついた。
『あれは『傷だらけの獅子』の!?』
『いかん!アレを。アレを止めるんだ!』
「…ん〜?」
温泉旅館で出された豪華な刺身を食べながら俺は首を捻っていた。
…味がしない。
まるで、これは…。
「タカ。あなたが望むならずっとこの世界にいてもいいのよ」
「そうだぞ。もう、誰からも狙われることもない。ただの生活に戻れるんだ」
ああ、やっぱりこれは…。
「夢の世界」
「兄貴があの世界に来る前。兄貴が死ななければありえた世界」
…夢。なんだよな。
母さんがいて、父さんがいて。弟たちがいる。
だけど…。
「((アリシア|あの子))の事は忘れてもいいの」
「大丈夫。彼女はあなた無しでも生きていられる。家族がいる」
「でも、兄貴には。あの世界には兄貴の家族はいない」
「でも、ここにはいる」
…そうだな。
俺は。俺には…。
≪お兄ちゃん!嫌だよ!≫
…俺には。
≪行っちゃいやだよ!≫
「……妹が、いるんだよ。どうしようもなく、甘えん坊で、マセガキで…」
≪行かないで!一人にしないで!≫
「コロコロ笑うけど。凄く泣き虫な妹がいるんだ。だから…ごめん」
≪お兄ちゃん!≫
「行かせるものか!」
「我等の新しい憑代!」
俺の言葉を聞いて俺の両親の顔が醜く歪む。いや、変形すると俺に襲い掛かってくる。
「我等の無念。怨念を晴らすためにも!」
「我等が贄になってもらう!」
ああ、あの((違和感|・・・))はやっぱり、こいつらだったのか。
こいつらは俺の家族じゃない。
俺の家族ならよっぽどのことが無い限り止めはしない。逆に背中を押して送り出そうとするのに対してこいつ等は引きとめようとしていた。
家族を侮辱された気がしてむかむかしていたが、同時に少しだけ感謝もしていた
「…いい夢を見せてもらったよ」
闇の書の意識の中で高志は涙を流しながら目覚める。
目覚めた先には一匹の獅子と体全体が光っていて輪郭しか見えない少女の象。
そして、その自分達を覆い隠そうとしている黒いもや。
眼の前の獅子と少女が自分を起こそうと呼び掛けてくれた。黒いもやは自分に夢を見せていたんだと直感的に判断した。
「…だけど、な。それでもやっぱり。家族を汚されたとなるとさすがの俺も温厚ではいられない。なにより…」
俺は目の前で俺の目覚めに戸惑っている少女の象の頭を撫でる。
「こんな俺を必要としてくれる。((人|おれ))の((アリシア|妹))を泣かせたんだ。許せるわけねえだろ!」
ガァアアアアアアア!!
獅子が咆哮をあげると同時に俺の体はガンレオンの鎧で被われていた。
「…俺は、俺の事を大切だと。そばにいてくれと泣いてくれる人の為に俺はこの獅子の力を使う!」
『やらせるか!』
『何故、貴様等だけが二度の生を謳歌できる!』
『私達だって生きたかった!』
『我等だって生きたかった!』
闇の書の呪いが我も我もと、ガンレオンとなった俺に覆いかぶさってくる。
その呪いの声を聞いていると彼等も生きたかったのがよくわかる。
俺と同い年の奴もいた。年上の人もいた。女の人。男の人。
老若男女。様々な人達の声が聞こえた。だけど…。
「お前等、全員。俺やアリシアより年上じゃねえか…」
ガンレオンの背中の装甲が開き凶悪な翼を展開する。
両手足の関節も大きく開き、兜の顔の部分も大きく開き俺の頬にあたる生ぬるい空気を感じる。そして、俺の目からは赤い涙がしたたり落ちていた。
「だったら年上は年上らしく、我慢しろや…」
人生を俺達より長く過ごしたんだろ?辛い事ばっかりかもしれない。だけど、呪いとしてまで落ちるまでの、叶えたい夢があったんだろ。
だったら…。
初めてマグナモードを使った時とは違う。だけど、それ以上の力を感じる。
凶悪な翼から炎が吹き荒れる。体の節々からも力が溢れる。
「俺達に((人生|夢を見る時間))を譲りやがれぇえええええ!!」
俺の叫びに応えるかのごとく、ガンレオンの放つエネルギーに闇の書の呪いは欠片も残さず吹き飛んで行った。
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第四十八話 夢を見る時間を譲りやがれ! | ||
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