おや?五周目の一刀君の様子が……12 |
張飛を捕えたその後、右翼は案の定華雄軍が圧勝した。
左翼も斗詩達の援護甲斐無く張遼の活躍により大勝。
中央の呂布は抑えられ、均衡したまま。
流石の呂布も星と関羽の二人には手を焼いたらしい。
「やるじゃないあんた」
軍議の場。一通り戦況を伝え終え、賈?が俺に労いの言葉をかける。
銀華のいない右翼を勝利へ導き、劉備軍の将を生け捕った。
自分で言うのもなんだが、素晴らしい功を上げたな。
「この戦が終われば、正式に将に取り立ててあげても……」
「まだ勝てるかもわからんのに、終わった後の話なんて意味が無いだろう。初戦をうまく捌けただけで浮かれてるのか?」
「なっ!そんなこと……」
一瞬、怒りに顔を赤くした賈?だったが、すぐに表情を変え冷静になる。
「そうね、今するべき話ではなかったわ。それじゃあ明日の事だけど……」
と、明日の戦での戦略を伝え始めた。
まぁ、浮かれる気持ちも分らなくは無い。
初戦を大勝で収められたおかげで、戦の流れはこちらにある。
賈?の考える未来にも、希望が見えてきたのだろう。
だが、油断は許されない。
相対的に見てまだこちらの劣勢は覆せていない。
斥候の報告によると、明日に出陣する軍は曹操軍と袁術軍。
曹操軍は兵一人一人の錬度が高いらしく、袁術軍客将孫策の持つ軍も、精鋭揃いと聞く。
「……儘ならないな」
このまま勝てるならいいが、そううまくもいかないだろう。
保険があるにはあるが……少し計画を早めるか。
「うー、早く解放するのだー!!」
洛陽の牢獄。後ろ手で縛られ頭に包帯を巻いた張飛が何やら喚いている。
「よう。元気してるか」
鉄格子を挟み相対する。
張飛は俺の顔を見ると、鋭い眼光で睨んできた。
「……鈴々を解放するのだ」
「できるわけないだろ。お前は俺と戦って負けて、捕虜になった。選択できる道は二つ。降るか、死ぬかだ」
「なら殺すのだ」
迷いなく、即答される。
「董卓軍に降るくらいなら、死んだ方がましなのだ!!」
何故張飛はここまで董卓軍を毛嫌いしているんだろうか。
……あぁなるほど。董卓軍が暴政を働いているという偽報を鵜呑みにしているわけか。
「なら、話をするか」
見張りの兵から鍵を受け取り退室させ中に入る。
張飛のすぐ近くにしゃがみ目線をあわせた。
眼前にある張飛の眼からは、ありありと敵意が読み取れるが、気にせず俺は話し始める。
董卓は暴政を行っていない事。
権力争いに巻き込まれ、結果諸侯の妬みにより捏ち上げられたこと。
むしろ、大義は連合ではなくこちら董卓軍にあるということ。
全てを話し終えたが、張飛の表情は変わらない。
「そんな嘘で、鈴々は騙せないのだ」
聞く耳持たずか。できれば使いたくなかったが、そうも言ってられない。
計画の通り張飛を動かすには、これしか手はないだろう。
「そうか。なら……」
張飛の顎をとり、正面へと向けさせる。
「これでもか?」
言葉と共に唇を奪う。
瞬間、星の時と同じくある光景が脳裏に浮かんだ。
活気のある大通り。両手を広げ楽しそうに微笑む張飛が、俺へと振り返る。
『鈴々はみんなが幸せになるために戦うのだ』
何気なく、当たり前のように言った言葉。それが張飛の行動理念……信念なのだろう。
頭を巡る一昔前の日々。
あぁ、この信念を貫き通す張飛の強さに、俺は何度も支えられたんだな。
『だから、鈴々も幸せでいいよね?』
『もちろんだよ。鈴々が幸せでいてくれないと、俺が困ってしまう』
俺は張飛を真名で呼び、頭を撫でる。
『ずっと、幸せでいてくれよ……?俺の隣で』
『心得たのだっ!』
臭い台詞を吐きやがる。
そう自分自身に毒を吐くと。急に目の前がフェードアウトした。
「ッ」
気が付けば、地面に寝ていた。しかも上には張飛が乗り、顔を俺の胸へ擦り付けている。
「お兄ちゃん……お兄ちゃんなのだ……」
涙を浮かべ嬉しそうに微笑む張飛に、俺は鼻白む。
星の時と同様、俺に蜀の記憶は戻っていなかった。
ただ、蜀で張飛とどのように過ごしていたかなどが思い浮かぶため、星の時よりは記憶が戻っているのだろう。
「何でいなくなったのだ……鈴々は、お兄ちゃんがいないと幸せじゃないのだぁ……」
いやいやと首をふる張飛の両肩に手を置き、距離を取る。
「俺には、蜀でお前たちと過ごした記憶が無い」
張飛の表情が固まる。
少し、胸が締め付けられるような感覚に陥るが、話を続けようとする。
が、その前に張飛が口を開いた。
「それでも、お兄ちゃんはお兄ちゃんなのだ」
その台詞に、俺は訝しげに眉を寄せる。
「お姉ちゃん達との事を覚えてないのは、すっごく悲しいのだ。でも、鈴々はわかるのだ。お兄ちゃんは、あの時のお兄ちゃんと変わってないのだ」
やはり予想通りの返答。
「ならわかるな、俺が言った事が本当だと」
「うん……分かってるよ。月を助けなきゃいけないのだ」
先程とは正反対の返事が返ってくる。
前の世界と同じ状況ってことがわかったようだ。
「……この後の扱いは追って通達する」
そう言い立ち上がると、張飛は悲しげに瞳を潤ませる。
舌打ちし、張飛の頭を少し乱暴に撫で、牢を後にした。
「ッ!!」
壁を殴る。
顔を俯かせ思い返す。
張飛の悲しげな表情を見ると、胸が締め付けられた。
去り際の表情を見かね頭を撫でた。
以前の自分では考えられない事。
体の内から、自分が自分でない何かに侵される感覚。
記憶を呼び戻す際、こんな副作用みたいなものがあるとはな。
「……俺は、北郷一刀だ」
静かに自分の名前を紡ぎ、歩き出す。
計画は順調。あとは張飛にまかせるだけだ。
俺は自分の仕事をするとしよう。
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コメント | ||
黒歴史なんてもんじゃねぇレベルだし(ホワイト) そりゃ、違う自分の気持ちに左右されるなんて嫌だよね(たこきむち@ちぇりおの伝道師) 自分の過去があんなのだったら俺は死ねるわ(VVV計画の被験者) まぁ〜以前の自分があんなキザで歯がゆい台詞ばっかり吐いてたと思うと、反吐が出るような感じが来るのも無理も無いと思われるねwwww(スターダスト) 今の一刀くんからしたら、反吐が出るほどいやな気持ちになっているんでしょうね。前の一刀くんとしての、「女の子を泣かせたくない」という考えもあいまって、苦しいだろうな(デーモン赤ペン) 自分の意思とは関係なく記憶というレールに沿った行動を取ることを嫌うか・・・・・・。ジレンマですなぁ。(shirou) |
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