魔弾の王と戦姫<ヴァナディース>〜龍の力を操る者〜 |
俺は白崎黒兎。親が何を考えてこんな名前を付けたのかは分からないがそんな名前で高校三年で今日も受験勉強面倒だなと思っていたある日、俺は死んだ。
なんて運がないんだと思ったと同時にこの淀んだ感覚から抜けることが出来るとわかって清々しい気分ですらもいた。
「なのに、どうして俺はこんな所にいるんだ」
俺は二次創作小説でありがちな真っ白な空間にいた。何故か病人が着そうな真っ白な服を着て。
「ったく、何なんだよ。こっから神様でも出て来るのか?」
「その通りです」
俺が後ろを振り向くと、其処には【女神】いや【天使】がいた。金色の髪に結構グラマラスな体型。あれ?どっかで見たことがあるような…。
「初めまして。私はガブリエル。聖書の神に仕えている大天使です」
「はぁ。それでその大天使様が俺に一体どんな御用ですか?」
「あの世界は息苦しかったのではありませんか?血濡れの黒うさぎ(ビー・ラビット)」
「その呼び名は嫌いだ。俺は【オズ】の力を習得してはいたが、けしてその力は振るわなかった。【オズ】の力を使うことを【アリス】が良しとはしなかったからな」
「貴方は本当に【アリス】のことが好きなのですね」
「そんなんじゃない。俺にとって【アリス】は希望だった。でも俺に希望をくれた彼女はもういない。何度世界を壊そうかと考えたか分からない。でもそのたびに彼女の最後の言葉が俺を止める。…まあ、そんな事はどうでもいい。俺に何の用なんだ?」
「…我らが神は貴方の能力を簒奪し、異世界に転生させる事をお決めになられました。その上で3つまで特典を付けることをお許しになられましたので、要望を訊こうかと」
「特典ねぇ。それじゃあ【カードファイト!!ヴァンガード】に登場する龍の力。具体的に言うなら【ドラゴニック・オーバーロード】、【ドラゴニック・ウォーターフォール】、【ソウルセイバー・ドラゴン】、【ドラゴニック・カイザーヴァーミリオン】、【ファントムブラスター・ドラゴン】。この5体だな」
「…まあ、いいでしょう。しかし、武具を媒介に発動する能力にさせて頂きますが構いませんね?」
「それぐらいなら別に構わない。身体的スペックは今と変わらないのか?」
「武具を扱うスキルならその通りです。あくまでも今回簒奪されるのは【血濡れの黒うさぎ(ビー・ラビット)】の固有スキルと今までの生ですから」
「ふむ。なら、ほどほどのイケメンにしてくれ。外見はそちらに任せるが、女性になるとか男の娘とかは止めてくれ」
「分かりました。それで最後の願いはどうされますか?」
「最後の願いは転生した【アリス】の幸せ、だな。俺に生という名の幸せをくれた【アリス】に俺が幸せを贈りたいんだ。出来るかな?」
「…はい。可能です。願いは以上でよろしいでしょうか?」
「ああ。これ以上望んだらさすがに欲が過ぎるって物だしな。俺にとって【アリス】が幸せであればそれでいいのさ」
「貴方は本当に…」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません。どうか、良い旅路を」
「それじゃあな。【アリス】、君に幸多からんことを願っているよ」
俺はそれだけを告げると、真っ白な空間に生まれた扉をくぐった。
「ありがとうそしてさようなら。私の愛しの【オズ】」
「こちらこそ。さようなら。我が愛しの【アリス】」
やっぱり彼女は【アリス】だったんだ。最後に彼女に会えて良かった。たとえそれが自己満足であっても、それだけが俺にとっての幸せなのだから。
ああ、こんな気持ちももう終わりか。この微睡みの中にもっといたい…な…。もう…会えない…けど…それ…でも…俺は…君…の…幸せ…を祈って…る…から…どうか…泣かないで。我が…愛しの…【アリス】…。
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆
何だ?今の夢は。【オズ】?【アリス】?訳分からん。俺の名前はディアル=リュエス=アルディク=フィズィエ=イルト=ツェルン=ジスタート。やたらと長い名前だが、これはお家柄の問題で仕方がない。俺はジスタート王族の第三王子。二つ名を【五天龍の申し子】
誰が付けたのかは分からないが、俺は武具を媒介に五種類の龍の力を使える。炎を司る【オーバーロード】。水を司る【ウォーターフォール】。雷を司る【カイザーヴァーミリオン】。光を司る【ソウルセイバー】。闇を司る【ファントムブラスター】。以上だ。
「殿下、そろそろ時間ですが大丈夫ですか?」
「うん?…ああ、悪いなエレン。大丈夫だから作戦通りにいこう」
「分かりました。しかし殿下、我慢はしないで下さい」
「分かっているさ。それじゃあ作戦通り…王子を捕まえて来るよ」
俺たちが今いるのはディナント平原。相手はブリューヌの王子が俺たちの相手だ。二万五千対五千の戦い。こちらは数の差で圧倒的に不利だが…まったく負ける気はしない。相手は完全に油断しきっているから夜襲すればまったく問題はない。だがその前に、相手方の王子…確かレグナス王子だったか?を捕虜にする。そうすれば被害を最小限に抑えられるからな。
「成功したら空に向けて雷を放つ。失敗したら炎を撒き散らす。…だったよな?」
「そんな不安そうに確認しないで下さい。こちらが不安になりますから。」
「それはすまんな。しかし、エレン。この部隊のの総指揮官はお前だろう。あんまり俺に遜ってると部下の連中に嘗められるぞ?ほら!シャキッとしろ」
「…分かった。でもそちらもちゃんと生きて戻ってきてくれ。それ以上はどうでもいいのだから」
「総指揮官の言うセリフじゃないな。それは。まあ心配すんな。お前は部下を信じ、自分を信じて行動すればいいんだ。俺は俺にできる全力を尽くすから、お前はお前にできることをやれ」
「ああ!行くぞ皆の者!目標は敵本陣だ。いくら後衛と言えども、本陣は精鋭で固めているだろう。だが私は行く。貴様らはどうする!?」
全員が武器を掲げていた。こちらは大丈夫そうだな。ならば俺も俺にできることをやろう。俺は槍を持って自分の中にいる龍に語りかけた。
「開戦だ。準備はいいな?【カイザーヴァーミリオン】」
『誰に物を言っている。いつ何時であろうとも、我らは貴様の力だ。存分に振るうがいい』
「上等だ。さあ、奴らにブリューヌの連中に告げようではないか。終焉の時を告げる稲妻をな!!」
『我は雷の化身と呼ばれし存在。我らが主と共に障害となりし者を瞬時に貫いてみせようぞ!』
俺は雷を身に纏い、高速で空中を駆けて敵本陣に気付かれずに潜入した。皆、酒を飲んで浮かれていたおかげだった。そしてほぼ同時に後ろの方が騒がしくなった。エレン、始めたか。俺も早く用事を済ませようと思いテントに入ると、1人の男性と使用人が襲われていた。マズい!俺は持っていた槍を襲っていた男達に向けて、文言を口にした。
「全てを瞬時に貫く高速の雷!終焉の時を告げる稲妻!【ヴァーミリオン・サンダーボルト】!!」
槍の形状が変化し、身に纏っていた雷が刃物を持っていた男達全員を同時に貫いた。彼らのような非道であろうとも痛みを長引かせるつもりはない。何百ボルトという電気で一瞬で焼き尽くしたからだ。
「い、一体何が…?」
「大丈夫ですか?お二方」
「!?…どなたでしょうか?助けて頂いた事には感謝しておりますが、身分をお明かし頂きたい」
「良いでしょう。我が名はディアル=リュエス=アルディク=フィズィエ=イルト=ツェルン=ジスタート。ジスタート王国第三王子。そちらはレグナス王子とお見受けするが…正しいかな?」
「なっ!?もう敵の手がここまで来ている?そんな馬鹿な!!」
「信じる信じないは貴方達の自由だけど…貴方達の命運はこの俺が握っていることを忘れないでくれよ」
「っ!?それなら早く我々を殺せばよいだけでしょう?まあ、ただではやられませんが」
「どういうつもりか知らないけど、俺は貴方達を殺すつもりはありませんよ?」
「…はい?それならば何故貴方はここにいるのですか?」
「単刀直入に言わせて頂きますが、貴方達を捕虜にしてこの不毛な戦いを終わらせる為です。勿論、捕虜になったからと言って不当な扱いをする気はまったくありません。むしろ王子の待遇で扱わさせて頂きたいと考えてもいます。諸々の話は我々についてきて頂いた後にします」
「…分かりました」
「レグナス様!?」
王子は物分かりが良いようだ。あのままじゃ平行線だったからな。俺は槍を空に向けて一筋の雷光を放った。すると後方で悲鳴が聞こえた。そして俺はテントの外に出て叫んだ。
「我こそはジスタート王国第三王子、ディアル=リュエス=アルディク=フィズィエ=イルト=ツェルン=ジスタート。貴様らの主、レグナス王子は我らが手中にある。即刻戦闘行為を中止して、自らの巣に帰るが良い!」
「ならば貴様の首を落として我らの手柄にさせて頂くまで。死ぬがいい!」
「…やっぱりこうなるか。ならば貴様ら全員を始末するまでの事だ。
全てを瞬時に貫く高速の雷!終焉の時を告げる稲妻!【ヴァーミリオン・サンダーボルト】!」
俺は雷でさっきの男達と同じように、周りにいた兵士たちを皆殺しにした。目測だがおおよそ40人程だ。そいつらを瞬殺すると誰も挑んで来なくなった。自分で言っておいてなんだが、軟弱な奴らだな。王家に対して忠義の心はないのか?
「まあ関係ないか…。もう夜が明けるし、戦闘も終わる。王子に来ていただこう」
「レグナス様、お急ぎください!」
「ち、ちょっと待ってください!」
「どこに行かれるおつもりで?」
「決まっているでしょう!ここから逃げ出すに…」
「それは我が名と、ジスタート王国に対する侮辱か?侍女風情が大きく出た物だな。…舐めるのもいい加減にしろよ」
「くっ!元はと言えば貴方達ジスタートが戦争を仕掛けてきたせいでしょう!?」
「それを了承したのはブリューヌだろう。大体此度の敗因はやる気で軍を分けた事と、戦争が始まったのに浮かれていたから。全部そちらの慢心の所為ではないか。責任の擦り付けとは恐れ入る。そのような国だから発展しないのだ」
「ブリューヌを愚弄する気ですか?」
「先に侮辱したのは貴様だろう。私は協力的な者は傷つけないが否定的な者は一切の容赦なく殺す。覚えておくことだ。それに私は数多の人を殺している。今更貴様を殺す程度の事を躊躇すると思っているのか?ここにはジスタート軍がいる。探させる位容易いに決まっているだろう。こちらの手を煩わせるな。大体逃げ出した捕虜にまで俺が気を払うと思うか?まあ、捕まった後は大変だな。それにレグナス王子の性別もばれるだろうし、ブリューヌは内乱の一途を辿るだろう。知ったことではないが」
「何故その事を…」
「体格を見れば大凡のことは分かる。おそらく誰かの為に男装しているのだろう?俺に貴女の覚悟を汚すような事をさせてくれるな」
「すいません。此度の慈悲、感謝します」
「理解してくれたなら結構です。もうすぐ味方がこちらに向かってくるとは思いますので、少々お時間を頂きますが、構いませんね?」
「こちらに何かを言う権利など無いでしょう?ならばそちらの指示に従いますよ。…その代わりと言ってはなんですが、性別のことは内密に」
「他人の弱みを握って粋がるつもりは無いですから、大丈夫ですよ…おっと来たみたいです」
「あれは」
「殿下!ご無事ですか!?」
「あのなエレン。非戦闘員に負ける程弱くはないし、もし兵士が来たって俺に勝てるものか。【五天龍の申し子】の呼び名が廃れるってもんだ。ところで…そいつは誰だ?」
エレンの副官であるリムアムリーシャの後ろには、見知らぬ男の姿が見えた。見た所ブリューヌ人のようだが…弓矢?あの凄まじく弓が軽視されている国にそいつを使っている奴がいるとはな。
「彼はティグルヴルムド=ヴォルン。伯爵だそうです。彼を捕虜にしても構いませんよね?」
「エレンの好きにしな。俺にとやかく言う権利は無いんだからな。さあ、戻るぞ!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
王子達に馬を用意して、俺たちはジスタートに戻った。思っていた以上に呆気ない戦だったな。と思いながら。
説明 | ||
魔弾の王と戦姫<ヴァナディース>の世界に記憶を失った状態の主人公がジスタート第3皇子となって大暴れする話。 | ||
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