IS〜狂気の白〜 第六話《転生回顧》 |
IS〜狂気の白〜
第六話《転生回顧》
「じゃ、じゃあね。織斑君」
「ああ、また」
帰り支度を始めた一夏に声をかけて早々に去っていく生徒達。
その声音には個人差はあれど、ほぼ例外なく怯えが含まれていた。それは至極当然の反応と言えるだろう。
普通の人生ではまず出会わない人種がクラスメイトなのだ。
狂気を撒き散らし、得体の知れない一撃で教室に傷痕を付け、周囲を威圧する、そんな人物。
少なくとも通常の人生ではまず出会わないし、出会って堪るか。
その狂気は、未だ成熟に至らない少女達の精神を僅かながら削っていった事だろう。
現実として彼女達は、一夏から僅かに溢れ出した狂気を通して、
かつての『ワラキアの夜』の姿とその眼光を幻視してしまったのだから。
彼の男は妄執と狂気で出来ていた。
『ワラキアの夜』としての最後の舞台、そこで繰り広げられた大一番。
あの夜の出演者達とは、比べるべくもない脆弱な心しか持たない少女達にとってそれらは、劇薬と言って相違ない代物だ。
更に性質が悪いのは、以上全ての事を一夏自身が自覚している事である。
本人からしてみれば、これ等の行動は選抜の意味合いを持っていたので、
耐えられず敬遠される様であればそれでも構わないとは思っていたのだが。
教室に残っているのは僅か数名、自身が居残る理由も無し。
そう判断した一夏は、早々に此処から退散しようと足を進めだそうした。
「あ、織斑君。良かった、まだ教室にいたんですね」
「む?」
だが慌てた様に駆け寄って来た真耶に呼び止められる。
その少々落ち着きの足りない様子は、肉体的にとは言え年上だという事をつい忘れさせる。
「いや実に運が良い。ちょうど帰ろうとしていたところでね。それで何かな山田先生?」
「はい! 良かったです。あ、それでですね、織斑君の寮の部屋が決まりまして……」
どうぞ!と、満面の笑顔と共に差し出された資料と部屋の鍵を受け取る。
このIS学園は、将来有望な操縦者達を保護し、他国から事前に勧誘されない様にする為に全寮制という形をとっている。
やはり未来の国防や外交が関わるとなると、政府も必死になるらしい。
ISの保有台数が国力に繋がるのだから当然の制度と言えるが。
そんなことを思考の片隅で考えながら、一夏は真耶に疑問を問うた。
「それは喜ばしい。と、言いたい所ですが、私は一週間程は自宅から通う様に言われていたはずでは?」
「その筈だったんですけど、事情が事情ですから一時的処置として部屋割りを無理矢理に
変更したらしいんですよ。……そのあたり、政府から何か聞いてますか?」
「いいえ、何も。まあ彼らからすれば当然の処置なのでしょう。個人的には問題ないのですがね。
折角の御配慮、甘んじて受け入れる事に致しましょう」
小声で聞いてくる真耶に小声でそう返せば、申し訳なさそうな視線を送ってくる。
一夏の存在は、国からすれば様々な問題要素を抱える、言わば爆弾に等しい。
爆弾でもあり貴重なサンプルでもある一夏の身柄の確保を、
より確実にしたいが為の措置と言う事だろう。
安全の為と言えど、振り回されるのは性に合わないが故に御免被りたいものではあるが、
これに関しては彼女に責はないと、一夏は首を横に振って穏やかな微笑を向ける。
その笑顔に込められた感情と笑顔そのものの美しさに真耶は思わず頬を染めた。
「そ、それでですね! 政府特命もあって寮への入居を最優先にしたみたいです。
一ヶ月もすれば個室を用意できますから、しばらく相部屋でがまんしてもらえますか……?」
気恥ずかしさ故か、機密事項という事もあって大きな小声という器用な音量を出し、無駄に顔を近づけて来る。
「ええ、それは構いませんが……。少し、御顔が近くはありませんかな」
「! ご、ごめんなさい! わざとじゃなくて、えっ、その」
指摘されてようやく気付いたのか、再び顔を赤くし跳ねるように離れていく。
「いえ、気になさらず。それよりも、荷物に関してはどうなるのでしょう。
話を聞く限り、取りに行く、と言うわけにもいかない様ですが?」
「あ、いえ荷物なら――――」
「私が手配しておいた。問題はない」
真耶の声を遮りその後方から千冬がやって来た。
「おや、これは織斑先生!いや、申し訳ない。それにしても、その迅速な行動はさすがの一言」
「何、量も少ないからな。大した手間ではない」
「大方の予想はつきますが、内容の程は?」
「生活必需品だな。着替え、日用品、それと携帯電話の充電器程度か。……不満か?」
「いいえ、感謝こそすれ不満などと! むしろ、要らぬ面倒を掛けたようで……。
いやはや全く、何事も急に決める物ではないね」
敬愛する姉に手間をかけさせた事への謝罪に、その原因への小さな棘を含みつつ、
大仰な仕草で感謝を伝える。
「じゃあ、時間を見て部屋に行って下さいね。それから夕食は六時から七時までに
寮の一年生用食堂で取って下さい。ちなみに入浴に関しては、各部屋にシャワーが付いていて、大浴場も有ります。
ですが、えっと、その、織斑君には大浴場は……」
言葉を濁す真耶に、一夏は鷹揚に頷く。
「ええ、分かっています。さすがに、うら若き乙女たちと入浴を共にするつもりは毛頭ありません。御安心を」
「ごめんなさい……。で、でもそうですよね!男の子ですから、女の子と入りたいって言われたらどうしようかと……」
その奇抜な発想を聞き、一夏は、彼女を要注意人物のリストに加える事にした。
しかしそれは既に手遅れだったろう。
何故なら、その会話の『断片のみ』を耳に入れてしまった教室内の少女達は、後に『一夏色欲魔説』を校内の一部へと伝播させていくのだが、それはまだ一夏の預かり知らぬ所だった。
「んん! 山田先生」
「あ、す、すみません! そ、それじゃ私達は会議があるのでこれで。
織斑君、道草食っちゃダメですよ」
「ではな織斑。まっすぐ寮へ向かえよ」
「無論、従わぬ訳にも行きません。では失礼、御二方」
そう言って一夏は二人に背を向けて目的地へと歩き出した。
……教室内で行われる密談に、幾許かの悪寒を感じながら。
「ふむ、1025室。間違いないね」
寮へと歩みを進め、無事に部屋へと辿り着く。部屋番号を確認しドアの鍵穴に受け取った鍵を差し込もうと――――
「む。開いている、だと」
――――したところで既に鍵が開いているのに気付き、鍵を引っ込めて思考する。
(既に扉が開いているという室内には先客が居るという事。山田君は個室ではない様な事を言っていた。
ならば先客は十中八九ルームメイトのはず。IS学園に男子は一人のみ。必然、同居人は女性となる)
刹那と経たず思考を終えた一夏はまず人として、男として礼儀を守ることにした。
詰まる所それは単純明快、入室の際の作法。『ノック』と『声かけ』である。
コンコン
「済まない。誰か居るかね?開けられる状況ならば開けて欲しいのだが」
しかし、返事はない。もう一度、今度は少々強めに叩き再度呼びかけるが、無言。
一夏は状況を踏まえ、再度思考を開始した。
(返事がないのは中にいないから? 否、鍵の掛け忘れの可能性もあるが、ノックの音に気付いていないと考えるべきだ。
資料の間取り図では、決してこの音量が届かないはずはない。音に気付けない行動をしている?
睡眠中か……食事直前のこの時間に? 或いは……入浴中。大浴場があるのに? 汗を流したかった? この学校の部活動は初日の活動はなかったはず。
……情報が少ないな。やれやれ、意を決するとしようか)
今度はたっぷり時間を掛け――――と言っても一夏に取ってであり、実際は一秒きっかり――――
幾つかの可能性を考えて出した結論、思い切って入室することにした。
もう一度だけノックをしてから、扉を開く。
「失礼するよ」
男は度胸、とばかりに(そんな思いがあるか不明だが)入室し、歩を進める。
奥へ進めば、なかなかの広さの部屋に大きなベッドが二つ鎮座し、壁際には同じく二つの勉強机がある典型的寮の部屋といった内装だ。
……内装の豪華さはさすが、と言った所だろうが。
室内にルームメイトの姿はなく、シャワールームと思しき扉の向こうから水音が聞こえる事から一夏は自身の推測が当たっていた事を知ると同時に今後について考えを飛ばす。
結局、自身の経緯を書置きに残して一足先に食事に向かう事にする。
書置きをテーブルに置き、早々に退出しようとした。が、『世界』はそれほど甘くはなかった。
どれだけ思考を巡らそうと、正史を覆すのは難しいという事だろうか。
「誰か居るのか? ……ああ、同室になった者か」
奥にある曇り硝子の扉の向こうから、とても聞き覚えがあり、この先の未来を想起させる声が一夏の耳に届いた。
「シャワーを使っていてな、このような格好で済まないが……」
(いや待て私、足を止めるな部屋を出ろ。確かに想像出来ない未来を求めていたが、これは違うだろう……!!)
しかし無情にも足は動かず、『世界』は目前の不条理から逃れることを許しはしない。してくれない。
ガチャ
「私は篠ノ之 箒だ。これからよろしく…………え?」
浴室から現れた、バスタオル一枚の見事に均整のとれた少女の肢体を前にして、普段はなかなか崩れる事のない
一夏の笑みが僅かに歪み、同時に目の前の人物が誰なのかを認識した箒の顔が、
凛々しき武士から恥じらう乙女のそれに変わって行き、その艶やかな唇が開かれる。
「い、い、いちか……?」
その瞬間、織斑一夏史上五本の指に入るスピードで箒との間合いを詰めた一夏は、箒の口を掌で包んで塞ぎ、顔を近づける。
ますます真っ赤になって暴れようとする箒だったが、その体には何時の間にか黒い布が巻きつけられていて、動きを阻害していた。
それでも暴れようとする箒は、バランスを崩し、部屋の中央に鎮座するベッドへと倒れ込んでしまう。
それを見た一夏は好機とばかりに顔を近づけ、その耳に囁きかける。
「眠りなさい」
そして箒は動きを阻害する物体への怒り、裸を見られた羞恥心、好意を寄せる人物との
近すぎる距離に頭に血が上り、更にもう一つの要因によって彼女の意識は半ば強制的に眠りの世界へと旅立った。
何とか騒ぎになる前に片付いた、と一夏は静かに息を吐く。
正直に言って、傍から見れば犯罪一歩手前の行動ではあったし、それを自覚もしているのだが、
(とりあえずの目標を果たした事だし、後でフォローと言う名の心理誘導で有耶無耶にしてしまえば良いだろう)
というやや行き当たりばったりな選択をしている辺り一夏の動揺が見受けられるので、少々の奇行も然も有りなんと言うべきか。
一夏は、箒に布団を掛けながら先程の自分らしくない行動からは目を逸らし、現在の自分とこれからについて考える事にした。
「何とか、成功したか。あまり得意な分野ではないので肝が冷えたが、……杞憂だったか」
そう一人ごちた一夏の視線は自身の指先へと向かっていて、その指先には『回転する黒い球体』が在った。
彼が箒に使用し、今この謎の球体を作り出している術。
その名称を『魔術』と言い、本来はこの世界で見ることは叶わないはずの力だった。
かつて一夏がズェピアだった頃、死徒の中でも指折りの実力を持っていた要因の一つ。彼が死徒に成り下がる以前から習得し、またその分野において天才と称される程に習熟していた技能が在った。
それが、『魔術』と呼ばれるもの。世界に存在する、『世界』より現れた一つの力の具現と、その体系である。
彼がほぼ一瞬で思考を終えるのも、教室に傷を付けたのも、突然布が出て来たのも、箒を眠らせたのも、全て魔術によるものだ。
しかし、その魔術もやはり異世界の力であり、更に魔術の発動には素養が必要となる。
いくらズェピアとしての高度な魔術知識を持っていても、一夏の肉体自身に素養が無くてはそもそも使用する事が出来ない。
はずだった。
結論だけ言ってしまえば、織斑一夏はその素養を、『魔術回路』を持ち合わせていたという事になるのだが、
詳しくは、現時点では割愛する事としよう。
一夏のもつ自身への疑問は尽きない。どうして転生したのか、どうして前世の記憶を持ったままなのか、何故一夏の肉体は魔術回路を持っているのか。
数多の疑問を持ちながら、それらのいくつかには結論を、それでなくとも推論を立ててはいるが、
決してその全てを知ろうとはしていない。
これは本来、有り得ない事だった。
かつての『ズェピア』ならば、その探求に新たな生を費やして居たかも知れない。
しかし『一夏』は、それ以上に大切なものをこの世界で手に入れていた。
かつての500年の価値観を覆すものが、この世界には在ったと言う事だろう。
そうして現在。
一夏は魔術回路を流れる力の源『魔力』を用いてかつてのズェピアの魔術を再現しつつも、
あくまで、ただの人間・織斑一夏して生きていくことを選んだ。
……世界唯一のIS操縦者として認知された彼が、ただの人間と言えるかどうかは、別として。
一夏は考えていた。
己の過去を、己の現在を、そして未来について。
取り分け今一番に考える議題は――――
「……箒をどう処理すべきか、だね」
今目の前で、バスタオルと一夏が魔術で作り出した幻影の衣で身を包まれた彼女。
ベットの上で、情欲を誘うあられもない姿で気絶する少女。
このまま寝かしておいて、先程の事は誤魔化せても、裸の彼女を放置していたらどうなるか。
彼女の性格上、実力行使で掴みかかって来るだろう事は想像に難くない。
性犯罪者の誹りは、流石に受けたくは無かった。
「仕方あるまい。仕方ないが……。やはりこれは違うだろう……」
結局その後、目覚めた箒が先程の一連の流れを思い返す事で、赤面しながら所持していた木刀で斬りかかって来るのを防ぎつつ、弁明を続けた結果。
彼と彼女は、見事に夕食を食べ損ねる事となってしまった。
説明 | ||
狂気の白第六話です。 今回は正直、私的に一番の駄文ですね。 御都合主義の大盤振る舞いとなっております。 設定の練込もほとんど足りず、キャラの再現もまるで駄目。 精進の足りない未熟な文ですが、どうぞ、読んで嗤ってくだされば幸いです。 ではどうぞ。 ※この話に書かれていた転生に関する記述を、第二話《学園入学》の冒頭に挿入しました。 これから読んで下さる方は、お手数ですが第二話をもう一度読み返して下さい。 八月十七日二十一時二十二分 更新 |
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コメント | ||
一番の駄文ということですが・・・、今までのものと比べても大して変わらないので問題無いかと思います(斑鳩弍號) 待ってました!クロスオーバーものって難しいですよね。頑張ってください。応援しています(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊) |
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