IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第四十二話 〜忍び寄る脅威〜
[全1ページ]

臨海学校二日目。今、一年生全員は四方を切り立った崖に囲まれたビーチにいる。生徒達が何列かに別れて並んでいる中、千冬の号令が響きわたる。

 

「さて、これから各班に振り分けられたISの試験運用を行う。一般生徒は前もって振り分けられている装備の試験運用、専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員迅速に行うように」

 

生徒達から元気の良い返事が響く。固まっていた生徒達だったが、班ごとに分かれて作業を開始した。千冬の所にはクロウを含めた専用機持ちが集合する。しかしその場にいるのが不自然な人間が一人呼ばれた。

 

「ああ、篠ノ之。お前はこちらに来い」

 

「何ですか?」

 

疑念の声を上げながらも、千冬に従い班から離れて専用機持ちのグループに近づいてくる箒。

 

「?なあ千冬姉、何で箒も呼ぶんだ??」

 

その瞬間、どこから取り出したのか千冬の出席簿による一撃が一夏の頭に直撃する。頭を抑えて悶絶する一夏を放っておいて千冬は話を進める。

 

「何度言ったらわかるんだ、この馬鹿者。篠ノ之、お前には今日から──」

 

千冬が言葉を続けようとした瞬間、上空からキィィーーンという何かが飛来する時の特有の音がクロウの耳に届いた。クロウが上空を見上げると、何かが浜辺に向かって飛んで来る。

 

「(なんだありゃ?・・・まさか!?)」

 

クロウは先月の襲撃事件の時から、自分の身が世間の注目の的である事は十分に理解していたため、少し神経過敏になっていた。前の世界の経験から言ってもこの臨海学校の最中に何処かの組織が仕掛けてくる可能性は十分にある、と考えていたクロウ。こちらに来る飛来物を見た時の反応は早かった。

 

「全員、ISを展開!落下地点から離れろ!!」

 

「「え??」」

 

一夏と箒はいきなりの事に頭が回らないようだが流石は代表候補生、その名は伊達ではなかった。上空の飛来物を見た後クロウの言葉の意味を理解し、クロウを含めた五人は一瞬でISを展開する。一般生徒の盾になるように円形陣形をとりつつ、おおよその落下地点から距離をとると同時にラウラが状況確認をする。

 

「ミサイルの場合、私とクロウ、シャルロットが一般生徒の盾となる!鈴、セシリアは不測の事態に備えろ!!よろしいですか、クロウ!!」

 

「ああ、それで構わん。来るぞ!!」

 

話している間に、ミサイルは上空100メートルまで迫っていた。そのまま物凄い速度で浜辺に向かって落下するが、何と地面に着く数十メートル手前でスピードが落ちる。そのまま速度を減衰し続け、浜辺に突き刺さった。ぽかんとする一同だったが、クロウがその物体を見て惚けた声を上げる。

 

「・・・に、にんじん??」

 

そう、その飛来物は全体が流線型でありオレンジ色、先端には緑色のへたの様な物が付いている。どこからどう見てもかわいくデフォルメされた人参だった。クロウ達が呆気に取られていると、その人参の真ん中に一本の線が走る。次の瞬間、その線に沿って人参が真っ二つに割れ、中から人間が出てきた。

 

「あっはっはっは!!引っかかった、引っかかった!!会いたかったよ、ち〜ちゃ〜んって・・・」

 

その女性は人参の中から出てくると、いきなり大声で笑いだした。そして千冬の姿を見ると、土煙が巻き起こる程のスピードで走り出すが、千冬の顔を見て固まる。

 

「・・・・・・」

 

「あ、あれ〜?どうしたのかな、ち〜ちゃん?ほら、束さんだよ?束さんが来たよ??」

 

千冬の顔は見事なまでに無表情を保っていた。普通ならその顔を見ても何の感情も抱かないだろう。しかし、背後から出る般若のオーラが一緒となれば話は違ってくる。

 

「・・・さまは」

 

「ん?ど、どうしたのかな?き、聞こえないよちーちゃん??」

 

「貴様は一回頭を冷やして来ぉぉぉぉぉい!!!」

 

「あ〜れ〜!!!」

 

何と千冬はそのまま謎の人物の襟首を掴み、海に放り投げる。宙に浮かぶ人間というものを初めて見た一夏達はぽかんと口をあけて呆然としていた。そしてザブーン!!という音と共に海中に沈む人物。呆気に取られていたクロウだが慌てて正気に戻りブラスタを解除し、あまりの怒りに肩で息をしている千冬に近づいて事情を問いただす。

 

「お、おい千冬。何だあいつは?」

 

「はーっ、はーっ。・・・ああ、アイツは篠ノ之 束。ISの生みの親だ」

 

「マジで!?あいつが!?」

 

「ああ、まあただの馬鹿でもあるが・・・」

 

話している間にザブザブと歩きながら近づいてくる束。生徒達は事情が分からずに呆然とするだけだった。

 

「ひどいなあ、ちーちゃんは。束さんじゃなかったら危なかったよ??」

 

「いきなり乱入しておいて何を言う。もう少し常識を考えろ、この馬鹿」

 

「あのう、ここにはIS学園の関係者以外は──」

 

「ん?おかしな事を言うね、ISの関係者と言うなら、この私が一番のはずだよ?」

 

「は、はぁ・・・」

 

真耶が教師としての立場から注意を促すが、あっけなく反論される。流石に生徒達も不審に思ったのか、ざわざわと騒ぎ始める。

 

「はぁ、貴様のせいでこの有様だ。せめて自己紹介位しろ」

 

「しょうがないなぁ〜、私が篠ノ之 束さんだよ、はろー。はい、終わり」

 

その言葉を聞いた生徒達は一瞬、何を言っているのか分からない、といった顔をしてからようやく理解が追いつく。その瞬間、驚愕の声が走った。

 

「「「「「え、えええええ!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

ようやく生徒が落ち着き、試験運用が再開する。束は人参の中で服を着替えて専用機持ちのグループに合流していた。先程と同じく何故か箒も専用機持ちのグループに混じっており、一夏がその疑問を千冬に尋ねる。

 

「あのさ、千冬ね・・・織斑先生。なんで箒もいるんですか?」

 

「それか・・・束、さっさと用件を済ませろ」

 

「そ、それでなんですが頼んでいた物は?」

 

何故か束ではなく箒が束に質問する。束は大声で返事をして大空を指さした。

 

「ふふふ、既に準備済みだよっ!!さあさあ、あれをご覧あれ!!」

 

その指が指す方向を全員が見ると何やら再び物体が落下してくる。今度は先程の様な流線型の人参ではなく、四角い箱の様な物であった。大きな音を立てながら浜辺にそれは着陸する。そして箱の一面が開き、中から何かが出てくる。

 

「じゃじゃーん!これこそ、束さん特製IS、現行機の中で最高スペックを誇るISなのだ〜!その名も“紅椿”!!」

 

中から出てきたのは、真紅に染まった一機のISだった。ウイーンと音を立てながら動作アームによって外に出てくる。

 

「さあ、箒ちゃん!今すぐ((初期化|フッティング))と((最適化|パーソナライズ))を始めるよ。ささ、こっちに来て!!」

 

「・・・お願いします」

 

「堅いなぁ〜、お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ??」

 

「早く始めてください」

 

「まあそれもそっか。じゃ、始めるよ〜」

 

箒がコンテナから運び出された機体に近づく。束が目の前に出したコンソールで指示を与えると、紅椿が展開され箒に装着された。

 

「すぐに終わるからね〜。それ、ピッ、ポッ、パッと」

 

ふざけた口調とは違い、その指は物凄い速度で動いていく。その光景を黙って見ているしかない専用機持ち達。その中でクロウだけが動き、千冬に近づいて小声で話かける。

 

「(おい千冬、さっきのあいつの言葉、本当なのか?)」

 

「(何がだ?)」

 

「(あの機体が現行機の最高スペックって話だ。まさかとは思うがブラスタ以上か?)」

 

「(いや、それは無いだろう。お前のISの正確な能力は恐らくあいつも知らん。ブラスタを除いた現行機、という意味だろうな)」

 

「(それにしてもあの女、自分のした事を理解してんのか?あんな物、各国が喉から手が出る程欲しい物だろ?自分の妹が危険に晒されてもいいって言うのかよ)」

 

「(いや、あいつはそんな事は考えていないだろう。束は自分の欲求に素直過ぎる女だ。だが先程の言動から察するに篠ノ之が奴に専用機を頼んだんだろう)」

 

「(マジか!?だとすると箒も浅はか過ぎるぞ、自分が頼んだ事が世界にとってどれだけ重要か分かっていなさすぎるんじゃねえか?)」

 

「(まあそう言うな、恐らく一夏の周りで自分だけが専用機を持っていない事に焦りでも感じたんだろう。そう心配ならばお前が諭してやれ)」

 

「(まあ、いずれ言わなきゃいけない事だとは思うがな・・・)」

 

クロウと千冬が小声で会話している間に紅椿の((一次移行|ファーストシフト))が終了した様で、鈍く光るだけであった紅椿の装甲が輝き始める。PICにより箒を乗せたまま、地面から少し浮かぶ紅椿。

 

「じゃあ少しテストしてみよっか〜。箒ちゃん、飛んでみて。そう考えるだけでいいから」

 

「分かりました」

 

紅椿に繋がれていたケーブル類が音をたてて外れていく。箒が目を閉じて集中すると、物凄い速度で空中に飛び出した。

 

「うおっ!!」

 

飛び上がった時の余波で浜辺の砂が舞い上がる。上空にいる箒を一同が見ると、空を滑るように飛んでいた。

 

「じゃあ装備の実験するよ〜。右手のが“雨月”で左手のが“空割”ね。データを送るよん」

 

地上では再び束が物凄い速度で指を走らせていた。上空の箒の両手に日本刀が握られる。

 

「まずは“雨月”の解説〜。雨月は対単一使用の武装で打突に合わせてエネルギーの刃を放出する武装だよ!まあ射程はアサルトライフル位だね」

 

束の説明を聞き上空で雨月を構える箒。右手に握った雨月を突いた瞬間、その打突に合わせて刃の周囲に赤いエネルギーの球体が出現してそこから何条ものレーザーが飛び出る。

 

「次は“空割”ね。そっちは広域殲滅とか対集団仕様の武装だよ。振った範囲に自動で展開するからね。じゃあ武装テスト行ってみよ〜!」

 

そう言って再びコンソールのボタンに触れた瞬間、束の隣に大型のコンテナが出現した。しかしそれはただのコンテナにはあらず。

 

「マジかよっ!?」

 

いきなりコンテナからミサイルを十六発、連続で箒に向かって撃ち出す束。上空の箒は左手に構えた空割を振るう。一瞬遅れて空割の剣筋に沿ってエネルギーが帯状に広がり、ミサイルを全て撃墜した。

 

「やれる、この紅椿なら!!」

 

「(・・・やはり、この世界の科学力は凄まじいな。いや、あの女がぶっ飛んでるだけか?)」

 

「じゃあ箒ちゃん。あとは自由に飛び回ってとにかく慣れてね。飽きたら戻ってきていいからね〜」

 

そう言ってコンソールの前から離れると、束は一夏の方に近づいてきた。にこにこと笑いながら近づいてくる束の笑顔に不信感を覚えるクロウ。

 

「(何だ?この女、何かが引っかかる・・・)」

 

「ねえねえいっくん、白式見せてよ。束さんは興味津々なんだよ?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

そう言うと一夏は白式を展開。先程まで紅椿が繋がれていたケーブル類を白式に取り付け始める束。コンソールに白式のデータが表示されているのか、束はそれを見て難しい顔をする。

 

「う〜ん、不思議なフラグメント・マップを形成してるね。見たことないなぁ・・・、やっぱりいっくんが男の子だからかな?」

 

「束さんでも分からない事ってあるんですか?」

 

「そりゃあるよ!それといっくん、何でいっくんがIS乗れるのか知りたい?」

 

「え?まあ、そりゃ知りたいですよ」

 

「じゃあさ、いっくんをナノ単位まで分解していい?」

 

「良い訳ないでしょ!!」

 

当たり前の如く一夏が全力で拒否する。しかし拒否された束は矛先をクロウに向けてきた。

 

「じゃあさ、((あれ|・・))は?」

 

クロウを指さす束。あれ呼ばわりされたクロウは多少なりとも反感を覚えた。

 

「ダメですよ!!当たり前じゃないですか!!」

 

「えー、あれだったらいいと思うんだけどな」

 

「おいおいアンタ、本人の目の前でそういう事を言うのはやめてくれ。せめて俺がいない所で話してくれよ」

 

今まで一夏と話していて上機嫌だった束だが、クロウに話しかけられると態度が一変する。さっきとはうって変わってクロウに向ける敵意を隠そうともしない。

 

「うるさいなぁ、じゃあ譲歩として痛くない様にするよ。ちゃんと後で元に戻すから」

 

「悪いな、俺は美人の言う事は信用しない事にしてるんでな」

 

「束さんに検査してもらえるんだよ?光栄に思いなよ」

 

「体をバラバラにするって言われて誰が喜ぶんだ?拒否するのが当たり前だろ」

 

クロウとしては受け流しているつもりなのだが、束が全力で突っかかってくるのでどうも落とし所が見つからない。事態を察してか、千冬が仲裁に乗り出した。

 

「束、お前もいい加減にしろ。とっとと篠ノ之のISの調整作業を終わらせてしまえ」

 

「分かったよ、ちーちゃんがそう言うなら仕方無いね」

 

何故か千冬の言う事にはあっさりと従い、てくてくと元いたコンテナの隣に移動する束。その時、真耶の叫び声が浜辺に響いた。

 

「お、お、織斑先生!!」

 

「どうした、山田先生?」

 

「こっ、こっ、これを!!」

 

真耶が千冬に手渡したのは一枚の書類。それ自体は何の変哲もないただの書類に見えたが、その内容を見た瞬間、千冬の顔色がみるみる変わっていく。

 

「ど、そうしましょう!?現在もこちらに接近中だそうで──」

 

「静かに、生徒達に聞こえる。・・・とにかく」

 

言葉を切ると、千冬は何やら手話を始めた。いきなりの事に真耶は驚いていたが、すぐに同じように手話で会話し続ける。一般生徒達にはその意味が分からない様だったが、クロウには判断出来た。

 

「(まさか、軍隊式の手話か?)」

 

今千冬と真耶がしている物は、普通の手話とは違う点が多々あった。代表的な物としては、手の動きが通常の物と比較しても早すぎるのである。しかもそれに類似した物にクロウは見覚えがあった。

 

「(あの時も使っていたからな・・・)」

 

暗い過去、軍隊時代に((潜入任務|スニーキングミッション))などで似た物をクロウも使用した経験があるのだ。一分程、千冬と真耶が手話で会話すると、唐突に千冬が声を張り上げる。

 

「全員、注目!!今現在より、全ての予定を中止。我々教員は特殊作戦へと移る。各自、速やかに宿泊施設へと戻り、決して部屋から出るな。いいな!!」

 

いきなりの千冬の宣告に生徒達がざわざわと騒ぎ始める。そんな生徒達を再び一喝する千冬。

 

「異論は認めん!!速やかに部屋へと戻れ、許可無く部屋から出た者は我々が身柄を拘束する!!以上だ、急げ!!」

 

そう言って、千冬はクロウ達のグループに近づいてくる。千冬の背後では旅館に戻るため生徒達が準備を開始した。

 

「専用機持ち達は集合しろ!!各員、私の後についてこい」

 

千冬の号令を受けて降りてくる箒。全員が列を作って千冬に付いていく中、クロウは一人考えていた。

 

「(こりゃあかなりヤバイ事が起きているな。さて、どうなる事やら・・・)」

説明
第四十二話です。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
8162 7787 6
コメント
いやはや・・・ここまで続きが気になるのは久しぶりに読みました、次回も楽しく読ませてください。(鹿島 遥)
タグ
IS インフィニット・ストラトス SF 恋愛 クロウ・ブルースト スーパーロボット大戦 ちょっと原作ブレイク 主人公が若干チート ハーレム だけどヒロインは千冬 

Granteedさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com