夜天の主とともに 16.変化 |
夜天の主とともに 16.変化
健一side
はやてに誓いをしてからはや2カ月が経ち10月の下旬となり、季節は完全に秋へと移り変わっていた。
「あれから色々あったよなぁ‥‥」
夏休みの終わり、久しぶりに旅行から帰ってきた父さんと母さんが帰るなりに新たに知った料理を教えてくれた。長い間休業していたというのに今では前以上にレストランにお客さんが来るから大変だとぼやいてたっけな。
あと、学校で高町なのはさんが声をかけてくれたよな。クラスが違うし、喘息で休むことが多々あったからほとんど会うことがなかったのに、どうにも初めて会った時から忘れたことはなかったらしい。彼女曰く、
「友達のこと忘れるわけないの!」
なんとも嬉しいことだ。それからはクラスが違うからいつもと言うわけにはいかなくなったが時々学校で会って話したりした。高町さんの友達のアリサ・バニングスさんや月村すずかさんとも話したりした。
ただやっぱり一番衝撃的なことがだったことは……一か月前、つまり9月に再び俺が発作で倒れ病院に行った時のことだった。その時に父さんたちから聞いた言葉は……
「…正直やっぱりきついなー」
実際に自分がそういう場面に遭遇するとは思ってなかっただけにその時はかなり動揺したものだ。今でさえ表情には出さないようにしてるが時々不安になる。
「………俺が今どうこう考えたところでどうにかなるわけでもないし父さんたちも動いてくれてるしなんとかなるだろ」
すでに2人は海外に再度行っており探している。そんなに何回もお店を休業してもいいのかと言ったが、
『そんなことお前が気にすることはない。何かあったら連絡するんだぞ』
『体調が悪くなったりしたら学校に言って無理せず休むのよ。学校にもそういう風に伝えておくから』
そう言って二人は海外へ行った。いつもいつも心配かけてばかりだよな俺って。
と言っても子供の俺にはどうすることもできない。なら前向きに行こう。
「それよりも今日ははやての定期検診か。ん〜翠屋でなんか買ってってやるか。高町さんにも今度行くって言ったし」
まぁなるようになるさ。そう思いながら俺は翠屋へと足を運んだ。
健一sideend
なのはside
私、高町なのはです。つい最近ひょんなことで魔法少女へとなってしまったのですが今はそれも休業中で、翠屋でお母さんとお店のお手伝いをしてます。
「はいなのは。これ1番テーブルのところにお願いね」
「は〜い!」
といっても注文されたケーキとかをお母さんから受け取ってそれを運ぶだけなんだけどね。いつかは私も作れるようになりたいなぁって思ってます。
ケーキを運び終えてカウンターへ戻ろうとすると来店を知らせるベルが鳴ったのでそのまま振り返りざまにお迎えした。
「いらっしゃいま、あっ」
「どうもです」
扉から入ってきたの健一君だった。
「いらっしゃいませなの。さっそく来てくれたんだ」
「約束してたしね。まぁここで買うのは初めてじゃないけどね」
「そうなの?」
そうやって健一君と話しているとお母さんが様子を見に来ていた。
「どうしたのなのは?あら健一君じゃない」
「こんにちは桃子さん」
「お母さん健一君のこと知ってるの?」
「そうよ。健一君は常連さんだからよく覚えてるわ」
そう聞いてちょっとびっくりした。少なくとも私はここで健一君と会うどころか見たこともなかったから。
「そうなの、健一君?」
「うん。まぁ常連って言っても来はじめたのは今年の四月くらいからなんだけどね。最近は予約して郵送してもらうことの方が多かったかも」
「へぇ〜」
ちょうどその頃はユーノ君と出会ってジュエルシード集めのお手伝いをしたころだった。だから会えなかったんだ。
「なのはも健一君のこと知っているみたいだけど、なのはのお友達ってことでいいのかしら?」
お母さんに顔を覗き込まれるようにそう聞かれて健一君はしどろもどろになっていた。そういえば学校でとっても久しぶりに会った時もこんな感じだったかも。
「そうなの!」
「だったら奥で健一君とお話でもしたら?なのはは一旦休憩したらどうかしら?」
「ありがと、お母さん。健一君もいい?」
「あまり長くはいれないけどいい?」
「全然いいよ!」
健一君をお店の奥に案内して座った。そのあとお母さんがサービスでお店のお菓子を出してくれた。
向かい合って座っていると健一君がお店の中をきょろきょろしながら見渡していた。どうしたんだろ?おどおどしてるわけでもなく興味津々といった感じだった。
「健一君?」
「ん?あ、ああごめん。こんなにケーキとかクッキーとかそういうお菓子を作ったりする調理場を見るのはあんまり見たことがなかったからつい」
「健一君お料理するの?」
「えっと、まぁ家がレストランやってるからその影響もあってけっこうやってるかな」
「もしかしてあの『時野レストラン』かしら?」
カウンターから顔を出してお母さんがそう聞いた。お母さんが驚いたような顔をしてるのは久しぶりに見た気がする。
「はい、そうです」
「あそこは応対も雰囲気もそして料理も美味しくて有名なのよね〜。」
後ろで話を聞いていたお母さんがそう言うのを聞いてすごいなぁって思った。私は昔からお料理苦手だからなおさらそう思うのかも。
「健一君すごいんだね」
「すごいのは父さんと母さんで俺じゃないよ。俺もまだまだ上達しなくちゃ」
「それでもすごいと思うの。はぁ〜私もできたらなぁ……」
そしたらユーノ君に作って‥‥はっ、私何考えてるんだろう。ちょっと恥ずかしいくなってきたの。そんなことを考えてるとお母さんがとんでもないことを言った。
「じゃあ健一君に教わったらいいんじゃないの?」
「えっ?」
「ちょ、ちょっとお母さん!?」
びっくりしすぎて思わずコップを落としてしまった。でも、落ち切る前に健一君がキャッチしてくれた。そのことに礼を言いながらも私はお母さんを問いただした。
「にゃ〜!?いきなり健一君に何言ってるのお母さん!!」
「だってなのはいつも言ってたじゃない。私もできたらなって。ほらさっきも」
「そうだけど……」
「(それに色々作れるようになったらなのはの好きな子に作ってあげられるかもしれないわよ)」
「(にゃ!?ななななに言ってるのお母さん!)」
「(ふふふっ、お母さんの目はごまかせないのよ♪)」
「どうしたんですか?」
「な、ななななんでもないよ!!」
「?」
健一君は相変わらず不思議がってるけど何かに気付いたわけじゃないみたい。心の中で一安心しながら頬に手を当てたらまだ熱い気がする。お母さんがあんなこと言うからだ。
(でも確かに教えてもらえたら私も上手になるかも。そしたら………)
「で、どうかしら健一君?」
健一君を見ると顎に手を当てう〜んと唸りながら考えていた。それも仕方ないと思うの。いきなり友達の親に我が子に料理を教えてやってくれないかと言われて即答できる人はまずいないと思う。
そしてその答えは悩んだのか1分後になって返ってきた。
「高町さんがいいなら俺は大丈夫です」
「ほんと!?」
思わず私は健一君のほうに身を乗り出した。健一君は若干引きながらも答えてくれた。
「幼馴染のやつのとこにも教えたりしてるからあんまりできないかもだけどそれでもいいなら」
「うん、ありがとなの!でも幼馴染の子にも教えてるんだね」
「いや幼馴染には教えてないよ」
「?」
「俺と同じくらい料理上手だし。教えてるのはその幼馴染の家に住んでる女性なんだけど……」
そこではぁ〜、と重く深いため息を健一君はついた。気のせいか眼にはあきらめの色しか見えない。なんとなくだけど料理の話題でその人のことは触れないほうよさそうだ。
そこからは他愛のない話をしてた。不意に健一君が腕時計を見て立ち上がった。
「えっとそれじゃ俺はそろそろ時間なので行きます」
「今度はゆっくりいらっしゃいな。歓迎するわ」
「ありがとうございます。あ、ケーキ6つお願いします」
「私がやる。6つでいいんだよね?」
「ありがと」
箱に丁寧に6つケーキを入れるとお金と引き換えにそれを健一君に渡した。そして店を出る直前で健一君が振り返った。
「さっきの料理を教えることだけど詳しい日程とかはまた明日学校であった時にでも話そう」
「うんわかったなの。ありがとね、健一君」
「じゃあまた」
そう言って健一君は店を出て行った。
翌日私は学校に行って健一君と日程について相談するため探した。なんだかんだ言っても私自身楽しみにしてたみたい。
どうせなら私たちも教えてもらいたいとアリサちゃんとすずかちゃんが言ったからそれもお願いするために健一君のクラスに言った。でも、
「……いないみたいなの」
「お休みのかな?」
「昨日会ったときは元気そうだったんだけど…」
あともう少しでHRなのに健一君の姿はなかった。健一君と同じクラスの子に聞いたら病気か何かでよく休むことがあるらしい。
「いないなら仕方ないわね。明日にでもなれば来るかもしれないその時にお願いしてみましょ」
「ごめんねアリサちゃん、すずかちゃん」
「なんでなのはが謝るのよ。無理言ったのはこっちなんだから」
「そうだよなのはちゃん。また明日みんなお願いしに行こ」
「うん!」
体調でも崩したのかなって思ったから次の日に会おうと思った。しかし、次の日も健一君は来てなくてお休みだった。その次の日になってもやっぱり健一君は学校には来ていなかった。
季節は冬の12月。健一君はいまだ学校に来ていない。
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