IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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「・・・・・それでは、今日の伝達事項は以上です」

 

俺がダリル先輩を挑発した次の日の朝。いつものように山田先生がホームルームを終える。

 

「あ、そうでした。桐野君、あなたに卒業マッチの挑戦状です」

 

そして思い出したように山田先生が俺に顔を向けた。

 

「でしょうね」

 

「え?」

 

「ああ、いや。なんでもないです」

 

「? 相手は三年二組のダリルさんからですね」

 

予想通りな言葉に俺は頷いて一枚のプリントを受け取った。

 

「それと・・・・・」

 

「何でしょう?」

 

「昨日の夕方、申し込みに来たダリルさんが凄い気迫だったんですけど、何かあったんですか?」

 

「さ、さあ? 分かりませんね」

 

(俺が煽ったんですけどね)

 

俺は肩を竦めてみせる。

 

「まあ、申し込まれた以上断れないから、やるだけですよ」

 

俺はそのまま何事もなかったように席に戻った。

 

「そ、そうですか。頑張ってくださいね」

 

山田先生も少し首を傾げてから教室から出て行った。

 

「・・・・・さぁて、どうしたもんか・・・」

 

俺はプリントに目を落とす。

 

内容は言うまでもなくダリル先輩からの対戦申込みのものだ。

 

「あと六日だよな・・・・・」

 

とりあえずシステム整備はしないといけないな。対戦時に整備不良なんてシャレにならない。

 

(今日からでも整備を・・・・・いやちょっと早いか・・・)

 

「え、瑛斗」

 

「ん?」

 

声をかけられて振り返る。

 

「あ、シャルか。どうした?」

 

「う、うん。あのね・・・」

 

「おう」

 

「・・・え、えっと・・・・・」

 

両手を後ろに組んでもじもじするシャル。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・あの・・・えっと・・・・・・」

 

俺もシャルの言葉の続きを待ってるから黙るしかない。

 

「や、やっぱりなんでもない!」

 

「そ、そうか」

 

椅子からずり落ちそうになるのを堪える。

 

「授業の準備しなきゃね!」

 

そのままシャルはタタタッと走って行ってしまった。

 

「あ、俺も行かないと」

 

今日は一時間目から実戦訓練だ。俺も席を立って教室を出る。

 

(そう言えば今朝、ニュースで今日は特別な日って言ってたけど、なんだったけか)

 

今日は二月十四日だから・・・・・うーん・・・。

 

「・・・ま、いいか。早く行かねえと遅れる」

 

俺は足早に訓練場所の第四アリーナの更衣室に向かった。

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「ふぃ〜・・・・・、今日も疲れましたよ〜っと」

 

夜。今日は男子が大浴場を使える日だ。

 

夕飯を食べ終わった俺は一夏と一緒に湯船につかる。

 

「そう言えばお前、ダリル先輩に卒業マッチに申し込まれたんだっけ」

 

「ん? ああ。まあな」

 

「ダリル先輩の専用機は確か・・・・・」

 

「《ヘル・ハウンドver2.5》?」

 

「そうそうそれそれ。どうなんだ? 強いのか?」

 

「そうだな・・・。聞いた話では、ダリル先輩はフォルテ先輩と二人でゴーレムVを倒したらしい。相当手強いはず

だ」

 

「ゴーレムVって、あの時のヤツか」

 

一夏も驚いたように言う。

 

「しかもハウンドシリーズの武装のメインは実弾。BRFも今回は出番がないだろ」

 

「ふーん。よく分析してるな」

 

「当然さ。こうなると予想して少なからず分析はしてある」

 

「予想してた?」

 

あ、ヤベ。そう言えばほとんどの人は事情を知らないんだった。

 

「い、いや。なんでもない。それより気になったんだけどよ」

 

「おう?」

 

「今日さ、シャルたちの様子、変じゃなかったか?」

 

「変?」

 

「なんつーか、話しかけてきては『やっぱりなんでもない』とか」

 

「ああ、確かに。箒たちも様子がおかしかった」

 

何だったんだろうか。みんな俺たちに何か言いずらいことでもあったんだろうか。

 

「もしかしたら二人そろってチャックが全開だったとか」

 

「ははは。そんなわけないだろ」

 

「だよなぁ。そりゃないよな」

 

二人で、あっはっはっはと笑いあう。

 

「・・・・・でも、なんか」

 

「・・・・・ああ」

 

「「不安だ」」

 

こういうのって、一日の終わりにふと思うと不安になるよね。

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大浴場から出て自室に戻ると・・・・・

 

「・・・・・・・ん? 開いてる?」

 

鍵が開いていた。

 

「っかしーな・・・。ちゃんと掛けたはずなのに。・・・・・ラウラか?」

 

とりあえず警戒してみる。しかし部屋には誰もおらず、電気も消えたままだった。

 

「・・・張り紙だ。なになに?『このまま直進』?」

 

矢印と短い文章が書かれた張り紙がドアの近くに貼られていた。

 

言われた通り直進するとまた張り紙が。

 

「『左を見て』?」

 

左を見る。そこにはいつも通り冷蔵庫が置かれている。

 

しかしその冷蔵庫にも張り紙が貼ってあった。

 

「『開けて』?」

 

なぜかハートマーク付きのメッセージだった。

 

ガチャッ ドサドサドサ!

 

「おぅわ!?」

 

すると大量の包みや小箱がが雪崩出てきた。

 

「な、なんだ?」

 

一つを手に取る。カードが入っていた。

 

「『おねーさんからのプレゼントよ。食べてね。 あなたのおねーさんより』・・・・・』

 

・・・・・楯無さんだな。

 

だけどほかにも大量にいろんな色の箱やら紙袋やらがある。楯無さんだけではないようだ。

 

「と、とりあえず開けてみよう」

 

開けてみると中にはチョコレートが。一口サイズの小ぶりなもので可愛らしい。

 

「・・・・・・・・」

 

しかし・・・、楯無さんが作ったものと言うとつい警戒してしまう。

 

(今度は何だ・・・? タバスコか?)

 

匂いを嗅いでみるが、特に変わった匂いはしない。普通に甘い匂いだ。

 

「・・・・・・ぱく」

 

意を決して一つ口に放る。

 

「ウマッ」

 

それは思わず声を出してしまうほど美味かった。

 

「こういうのも作れるならいつもそうして欲しいんだが・・・・・」

 

とか呟きながら食べているとドアがノックされた。

 

「瑛斗。入るぞ」

 

「ラ、ラウラ、引っ張らないでよぉ」

 

「お、お邪魔します・・・・・」

 

入ってきたのはラウラとラウラに手を引かれるシャルと簪だった。

 

「おー。どした。ゾロゾロと。まあ座れよ」

 

俺はとりあえず三人に椅子を用意して座らせる。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「え、えっとね・・・・」

 

「その・・・えと・・・・・」

 

シャルと簪はなにやら、もじもじソワソワしている。

 

するとラウラが俺の前にずいっと迫り、ぐいっと小さな紙箱を押しつけてきた。

 

「受け取れ。チョコレートだ。シャルロットと簪も持っている」

 

「「!」」

 

シャルと簪がビクゥッ!ってなった。

 

「くれんの? 俺に?」

 

「そうだ。開けてみろ」

 

急かされたので開けてみる。

 

「おお。ウサギの形だ。凝ってるなぁ」

 

そこには小さなウサギのチョコレートが四つ。耳の感じまでリアルだ。

 

「味は保証する。食え」

 

「そんじゃ、いただきまーす」

 

一つ手に取って食べる。

 

そのウサギのチョコは甘すぎなくて丁度いい苦味もあり、とても美味しかった。

 

「おお、美味いな」

 

「ふん。当然だ」

 

「「瑛斗っ!」」

 

ずっと押し黙ったままだったシャルと簪が同時に立ち上がった。

 

「お、おう?」

 

「こ、これ作ったから・・・・・!」

 

「食べて・・・・・!」

 

二人ともおっかなびっくりな様子で小さな箱と紙袋を渡してきた。

 

「あ、ありがとう」

 

受け取って開けてみるとシャルのいろいろな形のチョコレートで、簪はチョコチップが入ったカップケーキだった。

 

「ぼ、僕、こういうことしたの初めてだよ・・・・・」

 

「私、も・・・・・」

 

そして二人とも顔を赤くして俯いてしまった。

 

「いや、二人ともよくできてる。ありがたくいただくよ」

 

そう言って俺はシャルのチョコレートをかじる。チョコレートが口のなかでゆっくりと溶けて甘い味が口いっぱいに

広がる。

 

「ん? あ、中はホワイトチョコレートなんだ」

 

流石は料理部所属。芸が細かい。

 

「すごいな。こういうのもできんだな」

 

「えへへ・・・」

 

褒めたらシャルは照れたような笑顔を浮かべた。

 

「瑛斗・・・私のは・・・・・?」

 

簪が上目使いで聞いてくる。

 

「もちろん食べるさ」

 

そして簪が作ったカップケーキを食べる。

 

チョコレート味で、甘い香りがふわりと香った。チョコチップはビターで甘さをいい具合に引き立てている。

 

「美味しいなこれ・・・・・前に食べさせてもらったやつにも増して美味いぞ」

 

「よかった・・・・・」

 

簪はほっと胸を撫でおろした。

 

「ん? チョコレート・・・二月十四日・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、今日はなんかの日だった気がしてよ。なんだっけ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

なんか、三人が絶句してるんだが・・・・・。

 

「ど、どうした?」

 

「瑛斗・・・今日が何の日か・・・・・知らないの?」

 

簪が聞いてくる。

 

「やっぱり何かの日だよな」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

そして三人はくるっと俺に背を向けてひそひそと話し始めた。

 

「瑛斗・・・唐変木通り越して・・・・・非常識」

 

「で、でも、瑛斗らしいというか、なんというか・・・・・」

 

「薄々予想はしていたが、まさかな・・・・・」

 

「お、おいみんな? なんの話をしてるんだ?」

 

俺が声をかけると三人同時にくるっと振り返った。

 

「今日は・・・バレンタインデー・・・・・」

 

「女の人がす―――――ゴホゴホ! し、親しい男の人にチョコレートをあげる日のことだよ」

 

「そんなことも知らないのか、お前は」

 

「あ・・・ああ! そうだ! 思い出した! ニュースでそんなこと言ってた!」

 

「瑛斗らしい反応だね・・・」

 

シャルが苦笑した。

 

「しかし、凄い量だな」

 

ラウラが冷蔵庫の近くの包みたちを見た。

 

「ああこれな。そうなると多分全部チョコレートの類だろうな」

 

「いっぱい・・・・・」

 

「本当に沢山だね。瑛斗、食べきれるの?」

 

「もちろん。貰ったからには食べてあげないと失礼だろ」

 

凄い量だけど、と付け足して俺は包みの山から青い色の小さな紙袋を手に取って中身を取り出した。

 

「お、これも美味そうだぞ」

 

四角形のチョコレートを口に頬る。

 

うーむ、噛めば噛むほど口に広がる・・・・・・・

 

 

・・・・・魚介の味。

 

 

「んばっ!?」

 

数回咀嚼して、俺は卒倒した。

 

「「「瑛斗!?」」」

 

三人が驚いたように立ち上がる。

 

「どうしたの!?」

 

「しっかり・・・!」

 

「・・・おい! ・・・・・えいと!」

 

だんだんみんなの声が遠ざかっていく。

 

この、チョコのような何かを、蟹のような、生魚のような、そんなシーフード味の何かを作った奴は・・・!

 

・・・・・アイツしか・・・おらん・・・・・!

 

「あ・・・・・ぅ」

 

俺は震える手を伸ばしてその紙袋から顔を出しているカードを取る。

 

『瑛斗さんにもわたくしの手作りのチョコを差し上げます。一夏さんと同じものですが、お口に合うと思いますわ。 

セシリア・オルコット』

 

(・・・・・・ああ、やっぱり・・・・・)

 

誰かが俺の手のカードを取って、何か話し合う声とパタパタと足音が聞こえたあと、俺は気絶した。

説明
二月十四日・・・・・
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コメント
瑛斗の鈍感っぷりに我ながら悪意を感じるwww(ドラーグ)
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