Nobody is in my heart without you. ep2 |
やぁ、皆さん。またお会いしましたね。お話の続きを楽しみにしてくれてましたか?
さて、前回はどこまでお話しましたっけ……あぁ、そうでした。『彼女』と少年時代の『彼』の初対面まで、でしたね。
可愛らしかったでしょう、幼い頃の彼。それはそれは絵に描いたように純粋で真っ直ぐな純情少年でしてねぇ、当然ながら貂蝉達が黙っているはずもなく、一体何度二人の逆光源氏計画を頓挫させたことか。……まぁ、かくいう私もKO寸前まで追い込まれたことは多々ありましたが。あのア○フルのチワワのような瞳で満面の笑顔を見せられると、こう、ね。
さて、突然ですが月日は流れ、あの外史の時流にして数年が経ち、彼女が少女から女性へと変化を始めた頃へと、移ります。舞台は変わらず曹本家。皆さんの知るあの娘達も登場しますよ。
では、再び始めましょうか。
これは、世界の次元すら越えて出会った、とある二人の男女の、物語です。
…………
……………………
………………………………
―――ヒーローについて、考えてみた。
5人組の色彩鮮やかな超人戦隊。空の彼方より来たる光の巨人。そして、俺が初めて憧れたバイクに跨る改造人間。皆等しく、確かにヒーローだ。でも、俺にとってのヒーローは彼らだけじゃない。
例えば、親父。ガキの頃から、俺に色んな楽しさを教えてくれた。親父の持っていた漫画が俺の初めての愛読書だった。俺にスノースポーツを仕込んでくれたのも親父だった。何より、俺にヒーローを教えてくれたのは、他の誰でもない親父だった。疲れているはずなのに、日曜の朝からよく一緒になってテレビの前に食らいついていた。
例えば、お袋。俺に漫画だけでなく文学を教えてくれた人。司馬遼太郎を初めとする歴史小説に始まり、シャーロックホームズや金田一耕助などの推理物。ハリーポッターの翻訳本が待ちきれずに原本を購入し、英和辞書片手に自分で翻訳しながら読んでいた姿は未だに記憶に新しい。
俺の両親、実は二人とも小学校の教師をしている。幼い頃からその職場にお邪魔していた俺は、両親の同僚に可愛がられながら、仕事に勤しむその背中をずっと見つめてきた。幼心にその背中はいやに広く見えて、成長してからもノートPCに向かって増えていく白髪混じりの頭を掻きながら仕事に励む後姿は、酷く迷惑をかけた反抗期さえも変わらずにどこか誇らしく見えたのは、ここだけの話である。
『尊敬している人は両親です』こう答えると、大概の人はいい顔をしない。『どうせ建前だろう』とか『人当たりのいいこと言ってるだけだろ』とか、そんな反応ばかりだ。だが、俺は心底二人を尊敬している。ガキの頃、弟が東京のとあるアミューズメントパークで迷子になった時、親父は履き慣れてないサンダルで足がボロボロになるまで走り回っていた。俺が大学受験時代に予備校に通っていた時、お袋は仕事と家事の合間を縫って車で送迎してくれた。俺にとって、間違いなく両親はヒーローなのだ。
ただ、悪を倒す勇士だけがヒーローじゃない。尊敬に値する人物、敬慕の的となる人物もまた、ヒーローと言い表せる。この時点で『ヒーローを目指す』という言葉には二通りの解釈があることになる。そして『((Hero|ヒーロー))』という単語には更にもう一つ、意味が存在する。
主人公。小説や劇、詩などの、主に男性の主役に用いられるそれを授かるというのは、実に大きな意味を持つ。彼らは妥協を許されず、逃避を許されず、敗北を許されない。常に誰かの為に力を振るい、身を盾にし、命を削る。その物語において『ヒーロー』は『主人公』であると同時に『英雄』でなければならない。それが無実な民の為なのか、大切な家族の為なのか、愛する恋人の為なのか、それは彼らの胸の内次第だが。
そう、ヒーローになるというのは、簡単なことではない。強さも、賢さも、時には運さえ味方につけなければならない。それがどれほどのハードルかは、容易に想像がつくだろう。皆が一度は憧れるものの、現実の壁に膝をつき挫折する。見上げる先は遥か空の彼方。手を伸ばせても、届くことはない。
そう、それでも、そうだとしても、
「俺は、決めたんだ」
絶対に、守ってみせると。運命だろうが、大局だろうが、歴史だろうが、知ったことじゃない。翻す。覆す。打ち壊す。ぶち破る。諦めない。屈しない。やれるものなら、やってみせろ。
俺は、絶対に、
「俺は、ヒーローに……」
…………
……………………
………………………………
「今日も、駄目だったかぁ……」
溜息と一緒に漏れた言葉。鮮やかな茜色に染まるせせらぎも、今は何度目かも忘れた落胆を程よく加速させるだけ。
裏手の森の奥、私だけの秘密の場所『だった』川原。夕暮れに塗り潰された川面に独り言を投げ入れても、何かが変わる訳もなく。
「どうして名前くらい聞いておかなかったかなぁ、あの時の私」
また会える気がする、なんてあの時は思っていたけれど、結局あの少年にはあの日以来一度も会えずにいた。街で子供達を見ればその中に面影を探してしまうし、気が付けば思い出すのはあの子に言われた言葉ばかりで、
「……ふふっ」
我ながら重症だと思うし、だからこそ周囲には何も教えていない。出自どころか名前も知らない、それも年端もいかない少年相手の話なんて、したところで何がどうなるとも思えないし、それに、
「はぁ、参っちゃったなぁもう」
自ずと端を持ち上げて笑顔を浮かべてしまう唇に。勝手に浮き足立って落ち着こうとしない心に。そして、それに不快感の類を一切合切感じていない自分自身に。
「……初めてだったんだから、仕方ないじゃない」
綺麗だ、なんて言ってくれたのは。
必要だ、なんて言ってくれたのは。
あれから、それまで以上に自己研鑚に勤しんだ。知らないことを減らし、出来ることを増やし、ほんの少しだけど、お洒落なんかにもちょっと手を出してみたり。
義父さんは言ってくれた。『最近のお前はよく笑うようになった』と。『どこかで遠慮しているような態度が気にかかっていた』と。かえって無駄な心労をかけさせていたことに申し訳なさを覚えつつも、その事実に私の杞憂は余りにも呆気なく霧散して、
「君のおかげ、だよ」
健やかに育っているならば、今頃は生意気盛りの腕白坊主かもしれない。物静かな真面目君になっているかもしれない。
ねぇ、君は何を見て、何を聞いて、何を知って、何が変わったのかな?
私は、沢山変わったよ。例えば、
「姉様、やっぱり今日もここにいたんですね」
「……華琳」
後ろからの声の主は私と同じ金髪をくるくるに巻いている少女。私は片方で長く巻いているけれど、この子は私の半分くらいを両方で巻いている。深い海のような蒼の瞳。血縁関係なしでここまで似通うというのも珍しい。だからこそ、内面の一層の違いに劣等感なんて感情を抱いてしまう事になってしまったのだけれど。
「迎えに来てくれたの?」
「部屋にも書庫にも練武場にもいないとなれば、姉様ならここでしょう? 何かあるといつもここに来てるじゃない」
曹孟徳。私の従妹にして、本物の天才。齢十にして孫子、荘子を紐解き、芸術分野にもその才覚を遺憾なく発揮。普通の人間の成長を足し算とするならば、この子はきっと掛け算で成長していくとすら思わせる。
「前から気になっていたのだけれど、姉様はここで何をしているの? こういってはなんだけど、そんなに何度も見に来るようなものなんで、ここにはないじゃない」
「……まあね」
あれ以来、時折この子をここに連れてくるようになった。今となっては、私が感じていた後ろめたさも無意味なものに他ならないし、何よりここで曝け出していた『本当の自分』を知って欲しかったから。まぁそれまで、全てでこそないけど虚構の自分しか見せていなかったから、等身大の私の言葉を聞いた時、この子は大層驚いていたけれど。
「人をね、待っているのよ」
「人を?」
「そ」
ふと、話してもいいか、なんて思った。この子にならと、今なら思えた。だって、
「……こんな時間まで姉様を待たせるなんて、酷い男がいたものね」
ほら、誤魔化すでもなく、馬鹿にするでもなく、ちゃんと受け入れてくれる。勝手に誤解して、勝手に勘違いして、勝手に距離を取っていたあの頃の自分はもういない。それだけの時間を、この子と過ごしてきた。過ごしてくるようにした。今までがそうでなかった分、この子をもっと知ろうと、解ろうと、受け入れようと、そう思えるようになれたのも、
「あら、私、一言も男の人だなんて言ってないわよ?」
「一つ。待ち合わせにこんな場所を使うのだから、姉様は相手の存在を公にしたくはない。二つ。こんな時間まで待ち続けられるということは、姉様は相手のことを憎からず想っている」
「……華琳?」
「三つ」
ピッと立てる人差し指。『口を閉じろ』と言わんばかりにその指を私に向けて、
「姉様の顔」
「……顔? 私の?」
「姉様、待ちぼうけを食らった割に、そんなに嫌そうな表情をしてない」
「そう?」
言われて顔に触れてみるけど、自分の表情なんて傍から見なければそうそう解らないわけで、
「それで姉様、正否のほどは?」
「ん〜、ほとんど正解、かな」
「ほとんど? 完璧じゃないってこと?」
「えぇ。正確には待ち合わせじゃなくて、私が勝手に待ってるだけだからね」
「勝手に待ってる? どれくらい?」
「そうね、3年くらい、かな?」
「3ねっ……本当に?」
流石の彼女も驚きを禁じ得なかったようだ。ただでさえ泰然としているこの子の、ふとした時に見れるこの表情は、正に年相応の女の子そのもので、思わず笑いを漏らしてしまう。こんな女の子相手に嫉妬心を向けていた前の自分が嫌になるのと同時に、こういう素顔まで見せてくれるようになった((現在|いま))をとても嬉しく思って、
「姉様、そんなに待ってる相手って誰なの?」
「ふふっ、さぁね。ほら、帰りましょ? 日が暮れると、帰るの大変になっちゃう」
「ちょっ、姉様!?」
今はほんの少し湧き上がる悪戯心に身を任せながら、私は鼻歌混じりに帰路へとつくことにした。
綺麗に塗り潰された深紅が、徐々に濃紺に飲み込まれていく空を仰いで、
―――ねぇ、君は今、どこにいるのかな?
…………
……………………
………………………………
翌日。朝早くから私は広間に呼び出された。
「姉様」
「おはよう、華琳。この集まり、要件は聞いてる?」
「いえ、私も。一体、何なんでしょう?」
先に来ていた華琳に尋ねるけど、彼女も知らないらしい。
「春蘭、秋蘭、二人は何か聞いてる?」
「おはようございます、華陽様。私達も、何も聞いてはおりません」
「そのご様子では、華陽様も」
「えぇ、起きたら突然侍女に『広間で叔父様が呼んでいます』とだけ、ね」
その華琳の両隣、常日頃より共にある二人の姉妹もまた、首を横に振る。私や華琳とも従姉妹同士になる彼女達は夏候家でも特に武芸に秀でた姉妹。濡羽色の長髪が特徴的な姉は豪剣の夏候惇、空色の短髪で片目が隠れている妹は神弓の夏侯淵。二人の息の合った戦法は、そう易々と破られるようなものではない。
「おぉ、揃っているな」
と、背後より聞きなれた声が一つ。揃って振り向いた先には壮年の男性が一人、にこやかな笑みを浮かべて立っていた。
「叔父様」
「お父様」
「曹嵩様」
曹巨高。華琳こと曹操の父親であり、大長秋たる曹騰の息子にあたる。が、実子ではなく夏候家より迎え入れられた養子であり、華琳との血縁関係はない。忠孝を重んじるつつましやかな人物で、嘗ては太尉(簡単に言えば防衛大臣や国防長官)の地位まで昇ったが、これより訪れるであろう大乱の世を避けるためにここ、瑯邪郡へと避難したとのこと。叶うならば緩やかに余生を過ごしたいと、以前こぼしているのを聞いたこともある。
「済まないな、皆。こんな早朝から呼び出してしまって」
「いいえ、構いませんわお父様。お父様が直々に呼び出されることなんて滅多にないんですもの」
「それで、私まで呼ばれたご用件というのは何なのでしょうか、叔父様?」
「うむ、今回は華琳ではなく華陽、君に話があってね」
「私に?」
これは更に珍しいことだ。曹家現当主である彼が実子たる華琳ではなく私に要件とは。
「実はな、君に付き人を与えようと思っておるのだよ」
「……付き人、ですか?」
「あぁ、華琳に春蘭と秋蘭がついているように、君にもつけるべきと思ってね。ちなみにこれは、兄さんからの強い希望でもある」
「義父様も、ですか?」
何故私に、とも思ったが、義父が関わっていると思えば話は別だ。ここ数年で解ったことの一つとして、義父は結構な親馬鹿である節があると言うことがある。子宝に恵まれず夫婦揃って年老いてしまったからか、養子とはいえ初めての娘である私はどうやら文字通り『目に入れても痛くない』ほどであるらしく、
「伯父様の溺愛っぷりも相変わらずということですね」
「はははっ、そう言ってやるな華琳。親はいつまで経っても子供を心配するものさ。それに、先に待つ戦乱の世を慮れば、当然の配慮だ」
親子そろっての苦笑。しかし曹嵩は直ぐに表情を安らかな笑顔へと変える。愛娘に注ぐ視線は暖かさそのものであるかのようで、思いやる気持ちがありありと現れていた。
「まぁ、華琳達を見て解る通り、常日頃より側につく者だ。君も年頃だし、無理にとは言わん。ただまぁ、一度会ってみてはくれないか。私も兄さんも太鼓判を押せる者を選べたと思っている」
「お父様が太鼓判を?」
驚愕に目を見開く華琳。それは私も同様だった。あの曹巨高が、そして義父が太鼓判を押せる人物。並大抵の者ではないことは想像に難くないが、それだけに私なんかの付き人にさせていいのかとも思ってしまう。
「やがては我が曹家に仕えてもらいたいとも思っている。その見定めもかねて暫くの間、試用期間とでも思って共に過ごしてみて欲しい。その上で駄目だというのならそれでも構わないと、彼もそう言ってくれている」
「そう、ですか。でしたらまぁ……え?」
あれ、今、確か、
「叔父様?」
「ん? なんだね?」
「今、聞き間違いでなければ、『彼』と」
「あぁ、そうだ。彼は男性だよ。年頃の君に同年代の異性の従者を、と我々も最初は渋ったのだがね、それを差し引いても彼ほどの人物はそういないと考えての話だ。だからこそ、最終的な決断は君自身に委ねようと思ってね」
「は、はぁ。そう、ですか……」
男性、と聞いてから緊張感が殊更に増した。今まで勉学や鍛錬に励んでばかりで、同世代の娘達の常識を私は持ち合わせていない。確かに装飾なんかにも興味はあるが、それが世間でいう常識に達しているか、その自信がないのだ。そもそも、まともに話したことのある異性など義父や叔父様などの親族を覗けば数えるほどしかいない。この場合、兵士達も上司と部下のような会話しか交わしていないので、数えに含めるのは無理があるだろうし。
「…………」
後ろから無言の圧力を感じて肩越しに背後を覗き見てみると、華琳が見るからに不機嫌になっていた。無理もない。この子は男嫌いの節がある。とはいえ、その原因はこの子が見てきた男性というのが未だに帝都の上層部に巣食う老獪達ばかりであるから、なのだけれど。
「彼は中庭で待っている。行って来るといい」
「叔父様は同行されないのですか?」
「ここから先は、君たち自身で築いていかなければならないものだからね。人と人同士の関係だ、親族とはいえ、他人がおいそれと口を挟んでいいものではない。既に選定の時点で我々の意見は通しているんだ、後は君次第だよ、華陽」
そう言うや否や、叔父様は広間を後にした。残された私達は顔を見合わせて、
「……取りあえず、中庭に向かいましょうか」
「……そうね。春蘭、秋蘭、貴女達も来なさい」
『はっ』
…………
……………………
………………………………
―――その男は、余りに筋骨隆々であった。
丸太のような双腕。無駄を極限まで削ぎ落とされた肉体は偉丈夫と呼ぶに相応しく、申し訳程度のように纏う甲冑は果たして役割を果たすのかと疑問を抱いてしまうほどであった。そして何より目立つのがその眼光を遮る黒い硝子の眼鏡。元より厳つい強面が、それによって更に威圧感を醸し出している。そこらの道でも歩こうものなら、十人中十人が目を背けるなり距離を取るなりするだろう。気の弱い者なら、肩がぶつかるだけで泣き出してしまうかもしれない。
そんな男が、
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
『…………』
私達の視線の先、一人で黙々と片腕のみでの腕立て伏せに励んでいた。滴る汗は一滴もなく、まるで絡繰仕掛けの人形でも見ているかのように悠々とその動作を繰り返す。はっきり言って、異様な光景であった。
「あの、貴方が、私の付き人になってくれるという人、なのかしら?」
いつまでも静観したところでどうしようもないので、思い切って話しかけてみる。すると男は動作を中断し、ゆっくりとこちらへ顔を向けて、
「……あぁ、これは失敬。本日分の鍛錬が途中で終わっていましたので」
冬眠明けの熊のようにのっそりと起き上がる体躯は私達よりもずっと大きかった。私と春蘭、秋蘭が概ね同じ身長で、同年代の女性としては平均的であるはずなんだけど、その私達で彼の肩に届くかな、と首を傾げるくらい。それくらい、彼の上背は高かった。
それに反して、声は随分と低い。風貌と相まって威圧感が割り増しだ。前もって関係者だと聞いていなければ、自分から話しかけるのも躊躇われただろう。はっきり言って、これほど男としての要素が濃い人物を、私は初めて見た。
「貴女が、曹子丹殿で?」
「え、えぇ。それじゃあ、やっぱり貴方が?」
「はい。本日より、貴女様の付き人として試用期間に入らせていただきます、名を王双、字を子全と申します。以後、よろしくお願い致します」
「あ、えっと、えぇ、宜しく」
外見に反した随分と礼儀正しい態度に思わず面喰ってしまう。膝をつき深々と頭を下げるその姿は、本当に同年代かと疑いたくなるほどに堂々としていた。
「その、顔を上げてくれないかしら? そんなに畏まられると、少し話し辛いというか、ね……」
情けないと思うかもしれないが、私はあまり肩肘張ったやり取りが好きではない。曹家らしからぬと華琳にもよく言われるけれど、居た堪れなくなるよりはずっとましだ。
ゆっくりと顔を上げる王双。こんな見るからに傑物染みた者が私の付き人になる。一挙に肩の荷が重くなった気がして、次の句が口から出てこない。
すると、
「ふぅん、礼儀は弁えているようね。最低限の教養はある、ということかしら?」
「……華琳?」
物怖じというものを知らない我が従妹が、眉間に皺を寄せてその迫力満点の顔を覗き込んでいた。見定めるようにじろじろと暫く見続けた後で、
「あなた、付き人になるということがどういうことか解って?」
「はい」
「主の如何なる要望にも応え、如何なる命令にも従い、如何なる難題も退けなければならない。それが、あなたに出来る?」
「なんなりと、こなしてみせましょう」
「……いいわ、だったらまずその腕前から見せてもらおうじゃない。春蘭」
「はっ」
「行けるわね?」
「いつでも構いません」
彼が即答したのが気に食わなかったのか、華琳は後ろの春蘭へ目配せと同時にそう言った。言葉足らずでも通じ合う二人。幼少の頃よりずっと一緒だったからこその繋がりが、この子達にはある。
そして、
「あなた、この春蘭と仕合いなさい」
とんでもないことを言い出した。
「夏候惇。この界隈で曹家に関わる者なら、この子の豪剣は承知でしょう? この子の剣、あなたに退けられるかしら?」
「ちょ、ちょっと華琳!?」
それは流石に無茶というものだ。春蘭と秋蘭はこの年にして既に何度も戦場に赴き戦果を挙げている。兵達との演習でも、春蘭の相手には常に兵士達が50人以上ついているのだ。いくらなんでも1対1では。
そう、思ったその直後。
「当然です」
更に不機嫌を刻む眉間。睨みを強める華琳に、彼は事も無げに即答した。
そして、
「一つ、確認が」
「……言ってみなさい」
「私の実力を見せるのはいいとして、別に彼女を倒してしまっても、構いませんか?」
「何、ですって?」
微動だにしない表情で、彼は余りに簡単にそう言ってみせた。
「……いいでしょう。来なさい。練武場はこっちよ」
身を翻し、いつもより大股で歩き出す華琳。足音は普段より遥かに重く早く、不機嫌は加速の一途を辿っているようで、
「ちょっと、今なら間に合うわよ!? 訂正した方がいいんじゃ、」
「曹真殿」
立ち上がり、私を遮る一言。見下ろす黒硝子越しの眼光は余りに真っ直ぐで、
「見届けて、頂きたい」
「…………」
何故か、酷く惹かれた。唇を真一文字に閉じ、寸分も揺らがずに威風堂々と立つその姿に、私はかける言葉も見つからずに茫然と立ち尽くすことになって、
その直後、私達は思いもよらなかった光景に愕然とする羽目になった。
(続)
後書きです、はい。
勢い任せの自己満SS、まさかの第2弾。なんかね、書きたくなったんだ。うん、言いたいことは解ってる。早く本編更新しようとは思うんだがね、来月頭に大学院試験もある訳で、時間を頂戴。お願いします。
……あ、第4回恋姫祭りには多分参加、できる、と、思う、よ?
で、
あい、時間が思いっきり飛んでます。決してメンドイからではないよ? 後で飛んでる間の時間はちゃんと書く。まずは『華陽』視点での真面目な物語。後半は『俺』視点でのネタ満載の物語。前半はシリアス基本。後半はネタ基本。俺がネタに走るとどうなるかは『瑚裏拉麺』で知ってるよな?
まぁ、これはまた気が向いたら更新だから、いつになるかは知らん。
相変わらず気長に待って頂戴。
でわでわノシ
…………先日でとうとう23になりました〜
説明 | ||
ども、峠崎丈二です。投稿92作品目になりました。 またもや書いちゃったよ、管理者時代SS。早く本編書けよって声をものの見事にスルーしながら書いちゃったよ。いや、だってしょうがないじゃん。現実逃避しようと思ったらこのネタが出てきちゃったんだもの。 はい、本編どうぞ。 コメントに感想etc、ついでに支援宜しく。 |
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コメント | ||
アーバックスさん>彼女が曹真ですからね。王双は詳細の多くが未だに不明の武将ですから、個人的にもいじりやすいんですよ。登場する漫画や小説なんかの殆どでも筋肉質ですし(ここ重要) 当然ながら、最も配慮すべき勢力である●は登場しますよ。皆の想像とは、ちょっと違うかもしれませんが。(峠崎丈二) 王双になりましたか…●との戦いに注意ですねw 私もバイクに跨るヒーローはとても好きです^^続き楽しみにしていますね〜。(アーバックス) アロンアルファさん>いつ、彼女に全てを明かすのかも、楽しみにしてて下さい。(峠崎丈二) 骸骨さん>どうやら彼曰く、そんな目論見があったようで……俺の記憶にはありませんがww さて、どんな風に驚くでしょうね。(峠崎丈二) 一丸さん>実家に帰る度にお袋に似たような事を言われます(昔は〜)ww ちなみに外見は真・三國無双6のケ艾にサングラスを搭載すると非常に近いです。(峠崎丈二) 狼>見かけはオヤジ、頭脳は子供、だもんな(ぉww この時点ではまだ彼女も年相応、だからな。そんなに回数かける気ないから、結構時間軸は飛び飛びになるぞ。(峠崎丈二) たこきむちさん>有難う御座います。見た目はアラサーだとよく言われるんですけどね……ww(峠崎丈二) さてさて成長した少年は、どれほどの男になったのかを彼女の前でどう示すのでしょうか?楽しみです。(アロンアルファ) 漢女たちの逆光源氏計画だと!? なんて恐ろしい…((((;゚;Д;゚;)))) さて、次回丈二さんの強さを見た彼女達の反応が楽しみです。(量産型第一次強化式骸骨) あんなに、かわいらしかった丈二さんが、丈二さんが〜〜〜〜〜、むさ苦しい漢に〜〜〜〜うわ〜〜〜ん、ぐれてやる〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・あっ、とても面白かったです。次回の丈二さん無双楽しみにしてます。では、次の作品の楽しみに待ってます。(一丸) その若さが恨めしい・・・と言う冗談はさておきw いやあ、華陽さんてば乙女ですね〜。さてさて、次回はどんなネタに走ってくれるか、楽しみにまってるよ〜ww(狭乃 狼) 気長に待ってますんで、気負わなくていいですよ〜てか、23才?若いですね〜。誕生日、おめでとうございます!(たこきむち@ちぇりおの伝道師) |
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