IS~音撃の織斑 十八の巻:記憶と涙 |
Side: 三人称
「あの鳴き声、何だったんでしょうか?二人して走って行きましたけど。あ、皆さんは今から手当に行って下さいね。」
「だが、完全な命令違反だ。戻ったら懲罰トレーニングと反省文の山が待っているぞ。どうだ、嬉しいだろう?」
いつもの調子に戻った千冬はそう言いながら花月荘に戻って行く。だが、その中で一人、簪が抜け出している事は誰も知らなかった。
Side out
Side: 一夏
浜辺に向かうと、巨大な黒い物が海の中に浮かんでいた。
「あれは・・・・?!」
「化け鯨だな。」
「鯨?!」
妖怪で化け鯨と言う物があると言うのは聞いた事はあるが、まさか魔化魍でそれがあるとは思わなかったな。ここまでデカいと色々笑えて来る。
「コイツはあまり姿は現さない。海底から少し登って来て海水と一緒に人間を丸呑みにしちまうからな。それに外皮は滑り易いから管の音撃じゃなきゃ倒せない。行くぞ。」
師匠は左手首の音響を指先で爪弾き、俺も音角を軽く打ち鳴らした。それを額にかざすと、 灰色の旋風と雷が師匠の周りに吹き荒れ、俺は竜巻の様に立ち上る緑色の炎とその炎が帯電する赤いスパークに包まれた。
「っらあ!」
「はあっ!」
それを振り払うと、俺達の姿は変わった。メタリックシルバーのボディーに紺色の前腕と隈取り、そして前に突き出た一本の角を持つ鬼と 暗緑色のボディーに赤い隈取りと前腕、際立つ三本の角を持つ鬼の姿に。師匠は何時見ても威風堂々としている。
「さてと、行くぞ。」
「はい!」
師匠はアサギワシ、俺は茜鷹を使って空に舞い上がった。断空を使ってある程度ダメージを与えながらも尻尾や伸び縮みする無数の触手の様な髭を掻い潜り、空気弾を撃ちまくった。だがやはり効いている様で効いていない様に見える。
「荊鬼、構えろ。」
師匠が音撃管『陣風』に音撃鳴『鎌鼬』を連結させた。もう鬼石を撃ち込んでたのかよ・・・・俺もそれに倣って鬼石を撃ち込むと、木枯を銃口に取り付けた。
「音撃射、((大嵐一掃|たいらんいっそう))!!」
「音撃射、((天嵐一陣|てんらんいちじん))!!」
管の音撃のデュエットで化け鯨は思いっきり暴れ始めた。やっぱり二人だけじゃ出来ないのか?
「おお、やっておるな。」空からそんな声が聞こえた。この声・・・・まさか・・・!
「トウキさん?!」
「荊鬼、やっておるな。化け鯨が相手なら、拙僧も加勢しよう。」
そう、ディスクアニマルの中でもかなり古いケシズミガラスの背には法衣を纏って数珠と錫杖を携えた坊さん、トウキさんが立っていた。肩には巨大な音撃金棒『烈凍』を担いでいる。あれは他の鬼でも持ち上げる事すら出来ない程の超重量の筈なのに何故かあの人は持ち上げる事が出来る。未だに解明されていない謎の一つだ。
「音撃殴、一撃怒濤!」
巨大な銅鑼から放たれる清めの音は下級の魔化魍なら一撃で粉砕出来る程の威力を持っている。それに音撃管二つから放たれる清めの音をまともに食らい、化け鯨は遂に爆散した。トウキさんはいつの間にかどこかへ消えてしまったが。
Side out
Side 石動鬼
「イバラキ、アイツを許せとは言わないが、もう少し優しくしてやれ。」
化け鯨を倒した後に変身を解くと、俺はそう言ってやった。
「でも・・・・・今更許せなんて。」
「分かってる。あいつを憎みでもしなきゃ今までの修行が無駄になるとでも思ってるんだろう?」
黙ったまま何も言わないのは図星だな。変身を解かないのも顔を見られない為か。
「俺はお前に人の憎み方を知る為に鬼にした訳じゃないんだぞ?まあ、正直な所、どの世の中にも嫌いな奴は腐る程いるが。だがな、恨めしくても憎くてもアイツはお前の姉だ。どう足掻いてもそれは変わらない。それに比べて、俺と過ごした時間は((織斑千冬|アイツ))よりは濃いが、俺は所詮赤の他人だ。だから俺よりも、アイツを優先した方が良い。お前が一番最初に守るべき存在だ。」
相変わらず黙ったままで何も言わないが、俺には分かる。アイツの中では全てが綯い交ぜになって整理を付けようとしているんだ。
「一つ昔話をしてやる。ある鬼は、サポーターである弟と大喧嘩をして、そのまま魔化魍討伐に向かった。弟の方は食い殺されてしまい、鬼の方はその魔化魍を倒した。だが、その鬼はしばらくの間姿を消した。悔やんでも悔やみ切れない罪から逃げようとした。無駄だと分かっていたのに、逃げようとした。だがある時気が付いた。いつまでもそれを気にしていたら何も始まらない。その罪は死ぬまで一生背負って行かなければならないってな。そしてまた鬼に復帰して弟子を取って、今でもどこかで生きているんだ。家族はな、一番失っちゃ行けない何物にも代え難い宝だ。」
「はい・・・・」
「早く戻れよ?ISスーツは恐らく燃えてなくなってるだろうからな、着替えを用意しておいた。」
岩陰に隠しておいた袋の中からアイツの服を出してやった。変身解除して急いで服を着ると、アイツは戻ろうとしたが少し離れた岩陰に気配を感じ、そこに向かって石を投げた。
「そこで何をしている?出て来い。」
一夏も薄々気付いていたが、俺の言葉で確信を持ち、音叉剣を構えた。恐る恐る出て来たのは、少し刎ねた水色の髪に眼鏡をかけた生徒だった。
「お前・・・・!」
「尾けられていたか。」
糞・・・・これでまた話がややこしくなって来た。
「一夏・・・・?貴方、誰・・・・?」
Side out
Side: 一夏
やばいやばいやばい・・・・俺はとりあえず何も言わずに走り去った。花月荘の前に辿り着くと、部屋に戻って荷造りを始めた。明日には出るんだしな・・・・
「い、一夏・・・・」
振り向くと、そこには織斑千冬が立っていた。
「何だよ?用事があるならさっさと言え。これが終わったら俺は風呂に入るんだ。師匠に言われたよ、嫌でもお前は俺の姉だってな。」
「私は・・・・」
「お前には生きて償ってもらう。だから、お前は死なせない。」
「そうか・・・・お前の師匠に感謝しなければな・・・・」
必要な物以外を全て詰め込み終わると、俺は部屋を出た。
「完全に許すまで、先は長いぞ、千冬姉。」
それだけ言うと、俺は温泉に向かった。
(先は長い、か・・・・・待て、今アイツは何と言った?今さっき・・・)
温泉の中で、俺は湯船の中に潜った。自分でも分かる。俺は今泣いていると。何でだ?何故あの時俺は切っ先を引いた?殺す程憎かった筈なのに・・・・!!そう思いつつ、俺は隣の水風呂に頭を突っ込んだ。涙はもう止まった。残るのは・・・・・戸惑い。それだけだった。師匠には『不殺』のポリシーを死守する様に言われたが・・・・
「はあー・・・・・」
それに、篠ノ之と鳳の事もある。俺はあいつら曰く幼馴染みだったそうだが・・・・・・たしか、篠ノ之は剣道をやっているんだったな。剣道か・・・・・剣道・・・・
Side out
Side: 三人称
「織斑千冬。」
海とそれを照らす眩い月が見える崖の近くで、市は千冬を呼び止めた。千冬は彼を見ると、深々と頭を下げた。
「今まで、弟を守ってくれた事を心から感謝する。」
「いや、俺は何もしちゃいない。アイツは『自分』を守りたかったから俺の所に来たまでだ。」
「『自分』を、守る?」
その言葉に、千冬は眉を顰めた。
「ああ。アイツは只の『弟』のレッテルが大嫌いだった。あいつは昔からお前の弟であるから周りがチヤホヤしてくれると言う環境の真っ只中にいた。自分を変える為に、アイツは修行して、強くなって、挫けて、何度も死ぬ様な思いをして今に至る。口では言い尽くせないな、アイツの努力は。お前もあの戦いを通じて分かった筈だ。一夏の孤独と苦しみを。その努力は、主張をしている。『俺は、俺であり、俺にしかなれない。故に俺は他の何者でもない。変えられないし、変えさせない。』」
「強いな、今の一夏は。」
夜空を見上げて、千冬は呟いた。
「何を寝ぼけている。当然の結果だ、俺が鍛えたんだからな。お前達姉弟の仲は少しだけ取り持ってやった。後はお前がどうするかに掛かっている。言って置くが((仲直り|コレ))に関してはアイツは筋金入りの頑固者だぞ。」
「それは十分に分かっている。」
「時に、茂みで俺達の会話を聞いている馬鹿な奴はどこのどいつだ?」
それを聞くと軽く溜め息をついてその茂みに向かって石を投げ込んだ。
「束、出て来い。」
「ぶーぶー、ちーちゃんは酷いなぁ?!!」
茂みの中からメカニックなウサ耳カチューシャを着けた束が現れた。周りにはディスプレイが幾つも浮遊している。
「赤椿の稼働率と白式のスペックデータを見直していたら会話が耳に入って来たのだー!」
「お前か、この熱心的性差別の価値観を世界中に広げた馬鹿は。」
「ん????君は一体何者なのかなぁ??いっくんとはどう言う関係?」
「アイツは俺の弟子だ。ま、今じゃ殆ど自立しているがな。」
「あっそ。」
「じゃあ、俺はもう行くぜ。用事は済んだからな。」
それだけ言うと、市は風の様に消え去った。
「ねえちーちゃん。」
「何だ?」
「今の世界は、楽しい?」
「上手くは言えないな。」
「そっか。」
そして束もまた姿を消した。
現在旅館では、学園の生徒達が花月荘での最後の食事をとっていた。代表候補生達と一夏はしつこく福音との戦いの詳細を聞こうとしている。
「ねえねえ何があったの?」
「教えてー!」
「駄目だ。万一教えた場合俺もお前らも全員監視と事情聴取を二年近くは繰り返す事になる。そんなノイローゼになる様な事をやりたいか?」
「う・・・・」
「分かったら静かに飯を食わせろ。俺達は疲れてるんだ。」
「でも一夏は無謀過ぎるよ!」
真向かいに座っているシャルロットが不機嫌そうに一夏を指差した。
「一人で福音を倒しに行こうとするなんて。」
「過ぎた事を一々言うな。それに傷は全て何の問題も無く塞がったんだから。」
一夏はどこ吹く風と言った様子でそれを無視してお茶を飲んだ。
「そう言う問題ではない!命が惜しくはないのか、お前は?!」
近くで座っていた箒が一夏を睨み付けた。
「食事の席で怒鳴るな、篠ノ之。行儀悪いぞ。命は当然大事さ。何時どこだろうと人間は死と隣り合わせだ。だからこそ、俺はこの一年も、次の一年も生きられる様に鍛えて、祈る。命とは散ると分かっているからこそ、賭ける価値があるんだ。」
「哲学的ですわね、一夏さん。言葉がお深いですわ。」
セシリアは感心した様に何度も頷く。
「まあ、俺の師匠の知り合いの受け売りに俺の言葉も混ぜてあるってだけだがな。」
「散るからこそ賭ける価値がある・・・・流石です、兄様。」
食事を済ませた後、一夏は箒と鈴音を呼び出した。
「思い出したよ。お前達が誰なのか。剣道の元同門と、俺に酢豚を食わせてくれるってそう言ってたよな。箒、鈴。」
「思い、出したのか・・・・?」
「本当に・・・・・?一夏・・・?」
「ああ。長い間待たせて済まない。だが、俺はもうお前達が知っていたあの頃の俺じゃ無いんだ。全て思い出しはしたが、もう遅い。まあ、久し振りにあって今でも十分ピンピンしているみたいだから、あまり心配はしていないがな。」
そう言って歩き去ろうとしたが、鬼の戦士とは言えやはり人間、体のダメージが完全には抜け切っておらず壁に寄りかかった。その拍子に腰に吊ってある音角が落ちてしまう。
「これは・・・・何だ・・・?」
拾った箒の手からそれを奪い取り、再び腰に吊る。
「只のお守りだ。」
そう嘘をついて部屋に戻ると、一夏は壁を背にしてずるずると座り込み、静かに泣き始めた。その様子を密かに簪に見られていた事も知らずに。
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新しい魔化魍、登場です。 | ||
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コメント | ||
てかシャル朝食の席で思いっきり福音って言っちゃったよ…。(神薙) ヒロインは簪・・・なのか・・・? そろそろ周りの人たちに鬼の存在がばれてきましたね・・・どうなる一夏?(デーモン赤ペン) |
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