いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第五十話 『傷だらけの獅子』と『本能』
闇の書の呪いの塊を吐き出した夜天の書は正常運転をし始めたので安全。
ただし、呪いの塊は目の前にあるのでそれをどうにかしなければこの世界がやばい。
「と、いう訳でアレをどう壊すかの検討会です。管理局側からだとデュランダルで氷結封印して永遠に封印したいんだよな?」
俺は今の状況を簡単に頭の中でまとめて全員に確認するためにも尋ねてみると俺の意見にシャマルが答える。
「あ、あのー。氷結封印は無理なんじゃないかと思います。せいぜいあの暴走体の動きを鈍くするだけしか効果が無いかと思います」
「んじゃ、アルカンシェルだったか。それでアレを吹き飛ばすというのは?」
「アルカンシェルは駄目!こんなところでぶっ放したらはやての家が吹き飛んじまう」
結構な範囲の砲撃らしい。まあ、惑星にダメージを与えるほどの威力らしいからな…。
氷結魔法でも駄目。アルカンシェルも駄目。
「タカ。君やクロウの持つスフィアならどうだ?」
「スフィアの力をあまり過信しない方がいいと思う。スフィアは使えば使うほど強くなるかもしれないけど副作用が怖い。でも、最悪の場合は…」
最悪の場合。再び夜天の書かスフィアに封印するか。
闇の書の呪いを振り切ってからは、スフィアから徐々にだが魔力が溢れてくる感触がある。
正直な所、ペインシャウターを放つまでに魔力は回復している。
これは明らかに『傷だらけの獅子』のスフィアが成長している。
つまり、より一層アサキムに狙われることになったという訳だ。
「高志君。変なことを考えたらあかんよ」
「う〜ん。確実にふき飛ばすにはアルカンシェル並の威力が必要になるんだろ。でも、それを使うと地球が危ない事に…」
「でも使わないと地球が…」
「使っても危ないよ」
はやて。俺。なのは。フェイトの順で思い思いに立案していくが堂々巡りをしている。
アルカンシェルを撃っても地獄。撃たないのも地獄。もはや、詰んでいる状態?
と、思っていたら、これまで黙っていたクロウが全員に言い聞かせるように言葉を発した。
「…宇宙なんてのはどうだ。宇宙だった問題無いだろ」
宇宙空域にはアルカンシェルを搭載したアースラが滞空していた。
最悪の事態になったらアルカンシェルを地球に向けて撃とうとも考えた結果だ。
地球に住んでいる人たちに対して非道とも思える行動だが、ここで暴走体を仕留めなければその何倍もの被害が出る。心を鬼にしてでもアルカンシェルは撃たなければならない。
「まあ、アースラが宇宙空域でアルカンシェルを撃つことが出来るかどうかにもよるけどな」
『舐めてもらっちゃあ困りますなクロウ君。このアースラならアルカンシェルを打ち出すことなんかお茶の子さいさいだよ』
「と、なれば。全員が持つ全ての技をあの黒い球に一斉攻撃。コアが輩出してきたらアリア、ユーノ、アルフ、シャマルでアースラの前に転送。そのあと、アルカンシェルで吹き飛ばす」
管理局側と守護騎士達は上空に向かって飛んで行く。
が、はやてとアリアが俺の傍から離れようとはしなかった。
「…そうか。じゃあ頑張ってくれ俺は遠くから応援するから」
「へ、高志君は手伝わんの?」
「ガンレオンは空を飛べないんだよ」
(マグナモードを使えば別だけど…。とういうか、攻撃もしないのにマグナモードを使ったら俺の精神が焼き切れる)
「ほえ?まじんこで?」
「まじんこで」
「…うそぉお」
「ま、そういう訳だから俺は下から行くからお前等は上から行ってくれ。何があってもいいように対応していてく」
「なら、私に運ばせてはくれないか」
俺が地面を走り出そうとした瞬間にはやての持つ本から銀髪の女性。リインフォースが現れた。
ちなみに『悲しみの乙女』の象徴でもある棺桶型の砲身。ガナリーカーバーは持っていない。夜天の書に収めているようだ。
「お前を怪我させただけじゃなく後始末まで手伝ってもらうのに何もできないのは歯がゆいんだ。だから、せめて、これくらいはさせてもらえないか?」
『悲しみの乙女』の呪いから解放された彼女に『傷だらけの獅子』『揺れる天秤』を欲するという意思は完全になくなっている。
だが、その時の記憶と感触は残っていたリインフォースは少しでも力になりたい一心でもあった。
「…リインフォース。て、うちはどうなるんや?」
今のはやてはリインフォースの補助で空を飛んでいる。
これからの総攻撃にはリインフォースも全力で補助しなければならない。
「あ…。それはそのぅ」
その様子を見ていたアリアがさっさとしろ言わんばかりに指示を出す。
「はあ、そこの銀髪がはやての嬢ちゃんとユニゾンしてその子を運べばいいでしょ」
「し、しかし、それだと主に負担が…」
「うちは構わんよ」
「俺もだ。それじゃあ、ガンレオン待機モード」
ちなみにアリシアはユニゾン済みである。
「ほな、いこうか。リインフォースお願いや」
「は、はい。それは皆さんを運ばさせてもらいます」
リインフォースとユニゾンしたはやてに運ばれながら高志は海鳴の夜空を飛んで行った。
「と、いう訳で僕等がそれぞれ持つ最大の魔法であの黒いエネルギー体を砕き、中にあるコアを露出させたらユーノ・アルフ・アリア・シャマルで転送するでいいかな?」
クロノは全員が来たことを確認した後、手順を説明していく。
「これから攻撃を行うのは、僕とフェイト。民間協力者からなのはとクロウ。そして夜天の書の主のはやて、ヴィータ、シグナム。前衛の遊撃にザフィーラ。後衛の遊撃にタカ。で攻撃を開始する」
ちなみに攻撃班は二組に分かれる。
前衛組はヴィータ。フェイト。シグナムの三人で彼女達の攻撃を、あの暴走体がプログラム上の防衛処理で邪魔しようとした場合ザフィーラが受け止める。
後衛組はクロウ。なのは。クロノ。でその三人の補助、防御を高志が請け負う。その時はマグナモード使って、それを殴り飛ばすという偉く原始的なやり方ではあるが…。
忘れがちだが、ユーノ。アルフ。アリア。シャマルの四名も補助に回ってもらうが、転送時に使う魔力に支障をきたさない範囲内で全員の補助をしてもらう。
今までの話を聞いてはやては疑問に思ったことがあったのか手を挙げて質問をする。
「あ、あの高志君は攻撃役に含まれていないんですか?高志君の攻撃力はこの中だと一、二を争うものやと思うんですけど…」
闇の書だったころの夜天の書を通じてガンレオンのペインシャウターの威力を知っているはやてはクロノと高志に質問をする。
「ああ、それはだな。タカは空を飛べないのは知っているな。タカのペインシャウターを使うという手段もあるが、射程距離が他の皆に比べて短いんだよ」
ヴィータやフェイトのカートリッジシステムを((全力全開|フルドライブ))で放つ魔法と比べるとペインシャウターの方が射程はある。
しかし、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「あの暴走体は((海の上|・・・))にあるからなぁ…」
高志はため息をつく。
ガンレオンが海の上をホバリングできるならいいが、それは今現在は無理。
繰り返すようだがガンレオンは飛べない。
その為、攻撃の有効範囲まで近づくことが出来ないのだ。
ペインシャウターを放つにしてもマグナモード。飛行状態になるのは確かであるが正直な話、成長した『傷だらけの獅子』の力が暴走して暴走体を抑えている補助組のユーノ達を巻き込む可能性がある。
なにより、今からやろうとしている攻撃はタイミングが命である。
全員が一斉に攻撃してもお互いの攻撃を相殺し合っていたら目も当てられないだろう。
「…まあ、クロノの攻撃の時に凍った海の上でペインシャウターを放つよ」
(スフィアの力は使いたくはないけど、この状況だ。出し惜しみしていたらマジで世界が滅ぶからな)
「…ほうか」
はやては何やら不満。というか、不安げな表情を見せる。
自分とリインフォース。ひいては守護騎士達をも救ってくれた『傷だらけの獅子』がそばにいないのが不安になっていた。
そんなはやてにクロウ、なのは、シグナムが声をかける。
「…心配すんな、はやて。守護騎士や管理局の皆がいるんだ。絶対成功させる」
「そうだよ。はやてちゃん」
「管理人格。…いや、リインフォースの話だとあの暴走体のコアを守る魔法障壁と物理障壁が四枚ずつ。我々の攻撃が通じれば破れます」
なのは。フェイト。クロウ。クロノ。の管理局組で四枚。
シグナム、ヴィータ、はやて。の夜天組が三枚。
そして、最後のダメ出しになのは・フェイト・はやての三人同時攻撃でもしもの時の為に残った障壁を残らず剥ぎ取る作戦でもある。
残りのメンバーはそれを邪魔されないように補助するだけなのだ。この場でもし、邪魔者が乱入してきても残りのメンバーが抑えている間に事を済ませればいい。
ちなみに暴走体のコアを露出させないと、目の前にある暴走体は宇宙空間に転移させることは出来ないそうだ。
アサキムがこの場にいても抑える自信はあった。
そう、((この場|・・・))だったら。の話だが…。
『…残り時間二分を切ったよ。皆準備はいい』
空中に現れたエイミィが声をかける。
その言葉に全員が頷いた。
そして、闇の書事件終結へのラストアタックが正に始まろうとしていた。
(…『傷だらけの獅子』はようやく『本能』の意志を目覚めさせたか。だが、未だに起きたての所為か。それともその力を使うのを嫌がっているからか完全には覚醒していない)
『傷だらけの獅子』の力を引き出すのはその痛みからくる『本能』を引き出さないといけない。
高志は『本能』とは逆の『((自暴自棄|やけくそ))』に近い性格だった。
誰かと一緒に生きていく。誰かの傍に寄り添って『生きたい』という『本能』とは真逆でアリシアやプレシア達が幸せになるのなら別に自分はどうなろうと構わない。
それこそ命すらいらない。自分はこの世界の住人ではないのだから。といった趣向で戦ってきた。
だが、闇の書の呪いの中で『たった一人で生きていくのは嫌だ』と自覚し、アリシアと『傷だらけの獅子』に助けられたことで本当の気持ち。『誰かと共に生きていきたい』=『共存((本能|・・))』に目覚めた。
この世界で何のつながりも持たない高志は自分でも気づかないうちに自分と過ごしてくれる誰かを『本能』的に探していた。
その自覚により高志の『傷だらけの獅子』のスフィアは成長を果たした。が、未だに覚醒したばかり、高志がこのまま力を使うことを自嘲したら再び『本能』を自覚する前に戻ってしまう可能性もある。
なのは達が各攻撃位置にまで移動しているものを見て『知りたがりの山羊』を持つ青年は考える。
(今、僕が彼等を妨害しても、再生している途中のシュロウガでは邪魔をしても止められるのは目に見えている。となると、彼等を妨害するのは得策ではない。だとするならば…)
アサキムは彼女達から目を逸らし、闇色に染まった空を見つめる。
(彼等の希望を砕くとするか…。この世界は滅ぶかもしれないが、『傷だらけの獅子』が覚醒するなら安いものだ)
今から行うことを完遂すれば、最低でも『傷だらけの獅子』はそれに抗う為にその力を躊躇わず使い、スフィアを完全に覚醒させるだろう。
『悲しみの乙女』も、その優しすぎる心を悲しみに沈め増長を促せる。
『揺れる天秤』も上手くいけばその心を揺らせるかもしれない。
この世界を救う為に命を懸けてスフィアを覚醒させる。もしくは世界を見捨てて自分の命を選ぶ。その心は大きく乱れる。
『太極』の呪いを受けた青年に『死』はない。
その呪いは彼が望んでいる『死』とは全く逆方向の力が働き、リインフォースに砕かれた体は再生していく。
その象徴ともいえるアサキムの鎧、シュロウガの各関節に埋め込まれた宝玉に不気味な光が灯る。
そして、アサキムは最後になのは達を見納めるととある場所に転移する。その時に発せられたのは『闇の書の呪い』よりも重い『太極の呪い』の光。
その色は混沌としていた。皮肉なことにそれはなのは達が期待を寄せ、尚且つ、最後の一手となる兵器と同じ((虹|アルカンシェル))をも彩っていた。
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第五十話 『傷だらけの獅子』と『本能』 | ||
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