恋姫夢想 真・劉封伝 1話
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なんと言えばいいのだろうか。

 

それは不思議な感覚だった。

 

上下左右、全てから押さえつけられているような。

その妙な閉塞感を一時味わうと、急に身体に重みを感じた。

 

 

首を断たれて身体を失い、二度と目覚めぬ眠りにおちた。そのはずだし、そう覚悟していた。

 

だが、不思議なことに先ほど失ったばかりの身体の感覚があるのだ。身体を動かしたくないほどのだるさを感じるが、確かに存在している感じがする。

重い意識が少しずつ軽くなり始めた私へと語りかける声が聞こえた。

 

「お前に機会をやろう。以前と同じ主を抱き、同じように生きるのもよい。生前知りえた知識を用いて元生きた時代と何かを変えるのもよい。はたまた、全く違う主を見つけるのもいいだろう」

 

その声は澄んだ高い声だった。男の声の様だが、女の声にも聞こえる。どこかで聞いた声の気もするが、初めて聞く声の様な気もする。

そして、それの言葉は不思議とすんなりと私の中に染み渡る。

 

「好きに生き、好きに死ね。私はそれを楽しませてもらうとしよう」

 

その声は、ただそれだけを告げて次第に遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

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「こいつ、生きてるか?」

 

次に私の意識が覚醒したのは不意に響く野太い声と、身体を揺すられる感覚だった。

同時に、今まで鈍かった身体の感覚が急速に戻ってきた。

 

これは夢だろうか。そうなるとどこからが夢だったのか。

処刑は?あの声は?そしてこの声と揺すられる感触は?

 

 

 

聴覚、嗅覚も戻ってきた。だが、その瞬間に次の違和感を感じた。

 

木々の燃える臭い、怒声、剣戟の音、助けを求める悲鳴。

 

これは知っている。

 

戦の気配だ。

 

 

戦場で私は目を閉じている。いつ命を落としてもおかしくない状況だ。

夢ならばいいだろう。だが、そうでないのならばこうしてはいれない。

 

その事を把握した瞬間、すぐさま目を開き周りを見渡した。

 

「うおっ!急に目をあけやがった!」

 

目覚めた場所はどこかの家であった。

少々広めの部屋の中、私は部屋の中央で元は狼であろう動物の毛皮を用いて作られた布団で横になっている。

目の前にいたのは武装した男。

統一感のない鎧を所々につけて、抜き身の剣を肩にかけてこちらを見下ろしていた。

そして私の身体の上に目の前の男の右足が乗っている。先ほど揺すられたのはこの足で、ということだろう。

 

「や、やめてください!この方は怪我されているんです!どうか乱暴なことは………」

 

すぐ傍から女性の声が聞こえ、私に乗っていた男の足を払いのけると同時に男と私の間に入り両手を広げて私を庇おうとしてくれている。

 

漢民族とは少し違う、異民族の服装をしたその女性の身体は震えていた。だが、その恐怖を押し殺して負けるものかと男をまっすぐに見返している。

その女性を見て男が下卑た笑いを浮かべるのが見えた。

 

「おい、この女はここで楽しむとしようや。守られるだけの情けない男に見せ付けてやろうぜ」

 

「そりゃいい!楽しくなりそうだぜ!」

 

「精々泣き喚けよ?その方が楽しいからなぁ…ヒヒヒ…」

 

男の声に、同じように笑いながら5人の男が部屋の中へと入り込んできた。最初の男と同じように鎧を着けている場所はまばらだが、剣ではなくこん棒や斧を持っている者もいる。

それをみて女性は顔色を真っ青に変えたが、それでも逃げようとはしない。

 

目が覚めたはいいが状況が全くわからない。

しかし、夢や処刑の事を考えるより、この女性を守るのが先決だ。

この女性が恐怖しながらも私を守ろうとしてくれているのは間違いない。

ならば私も彼女を守ろう。

 

 

 

「すまない。怖い思いをさせてしまったな」

 

布団を払い、身体を起こして女性の肩へと手をおいた。

それに女性は一瞬肩を震わせる程に驚いたが、私の手だとわかるとまた気丈に笑って見せた。

 

「大丈夫です。私が守りますから貴方はまだ休まれてください。貴方は三日も意識をなくされていたんですから…お願いします。私はどうなってもかまいませんから、どうかこの方を傷つけないでもらえませんか」

 

女性はそういいながら男に向き直り頭を深く下げた。

それをみた男達はお互いに顔を見合わせると、心底楽しそうに笑いを浮かべる。

 

「いいぜぇ。お前が俺たちを楽しませてくれるんならなぁ」

 

そう言って女性の身体へと伸ばされる男の手。

しかし、それを黙って見過ごす事など私には決してできない。

それが彼女に届く直前、私がその手を握り締めた。

 

「は?」

 

握られた自分の手を見て、男は不思議そうな声を出しながら視線を送ってきた。

間抜けそうに口は開いたままこちらを見ている男は、私がなぜその手を阻んだかわからない。そう思っているのだろう。

 

「私をおいて話を進めないでくれないか。この女性は君たちには釣り合わない。帰ってくれ」

 

その言葉に男はしばし呆然とした後、ようやく言葉を理解してか一気に顔を真っ赤にした。

思考はどうやら直情型らしい。

 

「ふざけんなよっ!おい!予定変更だ!こいつを先に片付けるぞ!散々苦しめて、さっきの言葉を後悔させながら…い、ギャアァァァ!!」

 

周りの男達が慌てて武器をこちらに向け、その中でも一番近かった男がこん棒で殴りつけてきた。その攻撃を握っていた手を引いて男を盾にして防ぎ、その攻撃で右肩を痛めて剣を落とした男の武器を奪うと、そのまま痛みに蹲る男を集団の元へと転がして返した。思わぬ反撃に驚いたのか、武器をもつ私を警戒したのか、男達は少し距離をあけて家の入り口付近へと後退していく。

仲間でも呼ぶつもりなのかもしれない。

それを見送り、庇ってくれた女性へと向き直った。

 

「あ、あの…」

 

それに驚いた女性が慌てて声をかけてきたが、それを左手で制した。まず状況を確認しなければいけない。

 

「すまない、聞きたいことは沢山あるのだが…まず先に一つ。彼らは何者かわかるか?」

 

「は、はい。最近増えてきた賊徒だと思います。戦士達が村を出た隙を狙ってきたみたいで…」

 

「わかった。彼等の数は?それと彼等は捕らえた方がいいのか?」

 

「多分100人程です…数人位は捕らえた方がいいと思います。きっと証拠があれば太守様や県令様に伝えやすいですし…」

 

「わかった。出来るだけ努力しよう」

 

拾った剣を抜き、入り口を睨む。それだけで視界に入った賊徒達が若干だが怯むのがみえた。その反応だけでも彼等が熟練の兵士ではないのがわかる。

 

「少し出てくる。隠れて待っててくれないか。貴方にはきちんと礼を言わなければいけないからな」

 

視界の端で女性が小さく頷いた。先程の恐怖を思い出したのか、真っ青の顔をしながらも家の奥へと入っていく。

それを見送り、入り口にいる男達へと歩みを進めた。

 

説明
志半ばで果てた男がいた。その最後の時まで主と国の未来に幸あらんことを願った男。しかし、不可思議な現象で彼は思いもよらぬ第二の人生を得る事に。彼はその人生で何を得るのか…
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