恋姫夢想 真・劉封伝 3話
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剣を捨てた波才と部下達は、すぐに取り押さえられた。

駆けつけた異民族の戦士達の数は300を超えていた。その全てが騎兵であり、その装いから戦闘にも慣れているように見える。

背中には矢筒も見えるし、只の騎兵ではなく騎射もこなすのかもしれない。

もし波才達が降伏していなくとも、騎兵の機動力で包囲され、攻撃範囲外から弓で仕留めていた事だろう。

お互い錬度はあれど、数がまず違う。兵の力に大差ないならば数の差は決定的だ。

 

しかし、負傷者の手当てやら捕虜の武装解除などで忙しいのはわかるが、私はどうしたらいいのだろうか。

服装は同じような物を着ているとはいえ、部外者である私が集落内を無闇に動けば賊徒の残党と見られかねない。誤解を招く行動は避け、ここで応対を待つのが無難だろうか。

 

 

一段落着いたことでようやく考える時間ができた。

これまで動いてきて、これが夢でない事は間違いないだろう。

ならば、何なのか。

私は処刑されずに逃がされたのか。

いや、確かにあの時、首に急激な熱を感じた。

あれが斬られたというのでなければなんなのだろうか。

 

考えながら斬られていたはずの首へと手をやると、どうやら布が巻いてある。

それが何なのか調べるために触っていると、どうやら首を一周するように傷がついているようだ。そこからは切り傷の痛みがあった。

そういえば、あの家の女性は怪我人だと言っていた。この首の傷のことかもしれない。

まさかこの布の下はくっついていないのか?

自ら傷を確かめたい所だが、鏡は持ち合わせていないし、水場も知らない。

 

看病してくれていた女性に、首の傷がどうであったかを聞くのが間違いないだろう。

 

そう思考していると、戦士達を10人引き連れた傷だらけの男が私の元に歩いてくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

「客人、娘達から話は聞いた。集落の危機を救ってくれた事深く感謝している」

 

誰かに話を聞いたのだろう。厳しい表情をしたまま告げた言葉と共に、後ろに引き連れた戦士達と揃って頭を下げた。おそらくは集落の中でも上の立場でありながら真摯に感謝の言葉を告げるその男には素直に好感が持てた。

 

「いえ、私もこの集落の者に助けられた身ですから。恩を返したまでです。こちらからも感謝を」

 

そう言って私も頭を下げて返した。

三日。三日も意識の戻らない見ず知らずの者を看病してくれたのだ。

その恩は計り知れない。恩には恩で返すのが人のあるべき姿であろう。

それをみてか、顔を上げた男はわずかに顔を綻ばせている。

 

「私達が村を出てから君は保護された。私達は君に感謝される事は出来ていないよ。君の感謝は君を世話をした者達に直接告げるといい」

 

そういって笑うその者は、どこか人懐こくも見えた。

 

「自己紹介が遅れたな。私の名は((丘力居|きゅうりききょ))。遼西烏丸族の大人を任されている者だ」

 

 

 

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丘力居との自己紹介が終わったあと、村の外に先程建てられた大きなゲルで開かれる部族の集まりにくるように言われ、私はそのままそちらへと向かった。

 

ゲルに入るなり、様々な者達から一様に感謝の言葉を告げられた。

涙ながらに感謝の言葉を告げる者もいれば、私の武勇を褒める者もいた。

一斉に感謝を告げられるとさすがに断りきれず、数人が感謝の印として酒等を渡してきた。

酒くらいならと、つい受け取ってしまったがそれがいけなかった。

 

我も我もと皆が贈り物を持ってき始め、次々と積まれる酒瓶と食料、動物の毛皮に弓や槍等の武具、毛皮を贈るものもいれば、山羊や豚等の家畜や馬まで贈る者が出だした。

さすがに娘をやると言い出す者は断れたが、おかげで私が座った場所の近くには様々な食料と共に酒瓶も多数積まれ、置き場のない武具の山と動物は集落へと運ばれたらしい。

 

最初の一人を受け取ったせいで大半は断りきれなくなった。

大人である丘力居殿の元にもこれ程の食料は置いてない。

目覚めてから何も口にしていないので、ありがたくもあるのだがさすがにこれは受け取りすぎだ。

後でどうにか返す算段を立てねばと考えつつ、加熱してきた烏丸族の話へと目を向けた。

 

 

 

「皆殺しにするべきだ!!我等の同胞を何人殺めたかわかっているのか!それに奴等は賊、生かしておく理由もあるまい!」

 

「いや、太守に伝えて我等の保護を頼むべきだ!これから荒れるこの地で生き残るためにも、どこかと繋がりをもたねばなるまい。その為にもこいつ等は生かして引き渡さなくては!!」

 

「公孫賛が我等の言うことなど聞くものか!我等の捕虜を奪われ復讐の機会を失うだけだ!それよりもここで我らの恨みを晴らし…」

 

「公孫賛よりも劉虞様に伝えたほうがよい。あの方の方が我等の意見を聞いてくれる筈だ」

 

「貴様!!また漢の皇族に媚を売るつもりか!!」

 

すごい言い争いだった。

彼等がそれぞれに真剣に部族の事を考えて発言しているのはわかる。だが取りまとめるべき丘力居殿は静かに瞠目し、何かを考え続けているようだった為に話は収まらない。

 

丘力居殿はこの部族を烏丸族といった。確か遼東や遼西辺りにいる部族だったはずだ。

 

なぜ成都にいた私がこのような場所にいるか、それは問題だがそれよりも気になることがある。

公孫賛。劉虞。彼らの名だ。彼らは大分前に死したはず。

確か劉虞は公孫賛に、公孫賛は袁紹によって滅ぼされた。

 

だが烏丸の者達は今生きているかのように話している。

 

烏丸は周辺の軍や太守の情報を知らないほど愚かな部族ではない。むしろ智勇に優れ、彼らの騎兵は曹操の軍の中でも非常に優秀な存在だったはずだ。

そんな彼等がこのような場で真剣に誤情報を話す訳がない。と、いうことは…

 

 

「よう!客人、飲んでるかい?」

 

不意に隣から声がかかり、思考を中断して声のかかったほうを見た。そこには包囲された中心で双剣を振るっていた女性がこちらに酒の入った瓢箪を掲げていた。

酒が進んでいるのか、ほのかに頬に赤みがさした彼女の容姿を改めて見直した。

金色の猫っぽい瞳で興味深くこちらを見つめている彼女は、日に焼けたのか薄く色が抜けた茶色の髪を一まとめにして顔の左側から下ろしていた。その髪型は活発そうな彼女に妙に落ち着きを持たせていた。

体格は私より少し小さい位。体つきは女性としてはつつましいほうであるだろうが、彼女の輝くような魅力にしばし見とれてしまった。

それをみて不思議そうに首を傾げた彼女に気づいて、慌てて杯を空けて彼女の前に差し出した。

 

「かたじけない」

 

「何堅苦しいこといってんのさ!あんたは俺らの命の恩人なんだぜ?もっとふてぶてしく振舞っても誰も文句は言わないさ」

 

酒を注ぎ終えると、彼女はバシバシと私の背中を叩きながら輝くような笑顔を見せた。

言葉遣いは荒々しいが、これも私と武を奮う者であるから、それも仕方の無い事なのかもしれない。

 

「いや、しかし…」

 

「いやーアンタ強いよね!!!俺もそれなりに使えるつもりだったんだが、アンタにゃ敵わないさ!」

 

腕を組み、瓢箪の酒をそのまま飲みながら身振り手振りを加えて賑やかに話す。

自然に私の前の食料を摘みながらも彼女は笑みを浮かべたままだ。

 

「いや、私は…」

 

「そうだ!アンタさ、次の大人にならないか?アンタは俺達の部族じゃないけど、部族の娘の一人にでも婿にくりゃその権利も生まれるし、そうなりゃあんたのあの武、大人になるのは決まったようなもんさ!!」

 

ふと思い立ったように手を叩き、無遠慮に私への距離を詰めてくる。思わず後ずさるが、関係なしに近づく彼女は止まらない。

 

「あの、話を…」

 

「それがいいよ!アンタもそう思うだろ?いや、そういえば俺もそろそろ婿をとらなきゃいけないんだったな…ま、女らしくない俺じゃアンタは嫌だろうけど…」

 

「あの、そんなことは…」

 

「おっ!そうかい!?嬉しい事いってくれるね!!!俺より強い男がいなくて困ってたとこなんだ!」

 

………駄目だ。酔いが回っているからだろうか、私の言葉を聞いてくれず、そもそも口を挟む隙がない。何か納得したようにうんうんと頷きながら、なおも言葉は続けていく。

 

「いや、けどよ、義理の親父が過保護でさ。俺より強くなくちゃ娘はやらん!とかほざいたせいで、求婚に来る奴すらいなくてよ。まったく、烏丸の戦士達も根性がねえよな」

 

彼女の容姿だ。多少勝気なところがあろうとも、それ以上の魅力があるのだから普通ならば引く手数多の筈。それなのに勇猛を誇る烏丸族の戦士達が竦む。

それはさすがにまずいのではないだろうか。

 

 

「ま、アンタなら問題ないさ!親父を倒して俺をしっかり貰ってもらわなっ!!!いったぁ…」

 

不意に、喋り続けていた女性がその言葉を止めた。

見てみれば、頭を抑えながら蹲り、その後ろには私が目を覚ましたときに傍にいた女性が拳を握り締めて立っていた。

 

「((董頓|とうとん))!貴方は一体なにを言っているのですか!この方が困っておられるではないですか!」

 

「((楼班|ろうはん))〜痛えよ…舌も噛んじまったし…」

 

「貴方がこの方に迷惑をかけるからです!すみません、董頓は武芸に秀でてはいるのですが、少し他人の話を聞かないところがあって…」

 

慌てて頭を下げてきた女性は申し訳なさそうに眉尻を下げて、若干涙を浮かべながら謝罪の言葉を告げた。

それに私も慌てて頭を下げて返す。

 

「こちらこそ挨拶が遅れました。私の看病をしてくださったそうで、御礼を申したいと思っていたのです。私の名は劉封、字は公徳と申します」

 

「私も貴方に助けられたのですから、私からもお礼を言わせてくださいませ。本当にありがとうございました。私は丘力居の娘、楼斑と申します。一族の者を助けて頂いた事も重ねて御礼を…」

「そういや自己紹介してなかったな!俺の名前は董頓。よろしくな。それよりも…」

「董頓!貴方はまた!!!」

 

二人で賑やかに話し合う彼女達は、傍から見れば非常に仲が良いのがわかる。お互い気心が知れた仲なのだろう。

楼斑は董頓とは対照的に女性的な体つきをした大人しそうな女性だ。背は私の肩位しかない小柄な身体だが、黒い艶やかな髪を一纏めにして董頓とは逆に顔の右側から流してある。

その少し垂れた優しそうな茶色い瞳を今は細めて董頓を叱り付けていた。

 

 

 

「貴方はいつもそうです!会話は相手の意見も聞かなくては成り立たないと言っているでしょう!少し静かにして待っていなさい!」

 

「…はーい」

 

「………わかればよろしい。お待たせしてしまってすみません、劉封様」

 

楼斑は董頓の返事に僅かに不満そうな表情をしたものの、これ以上は待たせるわけにはいかぬと切り替えたようだ。ようやく私のほうに向き直ってくれた。

 

「いいのですよ。楼斑殿。二人の会話は見ていてとても楽しいものでしたから…あ、いえ、すみません」

 

つい、笑ってそう言ってしまったが、失礼なことをいってしまったと慌てて謝る。

しかし楼斑はそれを聞いても怒らずに嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「そういってもらえると救われます」

 

その笑顔にしばし見とれてしまったが、後ろでの議論はますます過熱し続けているのに目を奪われた。私の視線に気づいた楼斑は恥ずかしそうに顔を伏せた。

 

「お見苦しい物をお見せして申し訳ございません。しかし、ちょうどこの事をお願いに来たのです」

 

そう言って顔を上げた楼斑は、私をまっすぐに見据えた。それは先ほどまで楽しげに話していた女性ではなく、歴戦の武官、文官の威風を秘めた視線。

思わず姿勢を正して話を待つ。

 

「賊を捕らえたのは劉封様の手腕によるもの。その処遇を劉封様にお任せしようと思っています。部族のものへは私と父から言い含めますので、お好きなように扱って構いません」

 

楼斑はそのような驚くことを言ってのけた。

 

説明
志半ばで果てた男がいた。その最後の時まで主と国の未来に幸あらんことを願った男。しかし、不可思議な現象で彼は思いもよらぬ第二の人生を得る事に。彼はその人生で何を得るのか…
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恋姫夢想 恋姫†無双 劉封 劉備 公孫賛 

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