チューイッヒの世界 〜にじのことば
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チューイッヒの村に大きな虹が掛かった。それだけで、村は大騒ぎだ。コチビも我先にと家を飛び出して、虹のかかる丘へと向った。

 

そこにはたくさんの村人たちがいて、メリッサやルート、ネリもいる。リスのネリが小さな身体をぴょんぴょん弾ませて、こちらにやってきた。ネコのコチビより小さいのに、クラスで一番元気一杯だ。

 

「コチビー!すごいねぇ、今までに無いくらい大きな虹だってさ!」

 

「そうだねえ、こりゃあたくさんメッセージが書けるね!」

 

大きな虹は消えることなく、しっかりとしている。これなら、多くのメッセージを書き残すことが出来るだろう。

 

「ええとえええと……」

 

さっそく、ネリがうーんとお願いすると、キラキラと虹が輝いた。そして、文字が虹から浮かび上がり、七色になって右から左へと流れていく。

 

 

 

『背が高く高くなりますように! ネリ』

 

 

 

わっと周りで歓声が沸き起こった。笑い声が多かったかもしれない。「ネリが書いたのかあ、お願い事なんだねぇ」「子供が羨ましいなあ」なんて、大人たちはしきりに羨ましがっていた。虹に言葉を捧げるのは子供じゃないと出来ない。大人の儀式を迎えた人たちは、なぜか祈っても考えても、虹に言葉が浮かんでくることは無かった。

 

「じゃあ、私は……」

 

隣のウサギのメリッサが、うーんとお願いする。すると、またきらきらと虹が輝いて、言葉が浮かび上がった。

 

 

 

『お父さん、いつもありがとう。お母さん、いつもありがとう メリッサ』

 

 

 

輝く言葉が現れると、メリッサのお父さんとお母さんが笑ってメリッサの長い耳をくしゃくしゃとした。

 

「ありがとう、メリッサ」

 

「あなたはいつも私たちの自慢の子だわ」

 

メリッサは嬉しそうに頷いた。

 

さて、困ったのはコチビだ。ありがとうって言葉は使いたい。だけど、お父さんやお母さんにありがとうって言葉はいつも言ってるし、なんだかありきたりに思えた。だから、コチビはうんうんと考える。

 

「コチビ、君はどうするんだい? 書かないの?」

 

「う、うーんとうーんと。うん、分かった、これがいい!」

 

コチビは頷くと、うーんうーんとお願いをした。すると、きらきらと虹が輝き……言葉が浮かんでくる。

 

『パン屋のレットーさん、いつもおいしいパンをありがとう。果物屋のレキさん、いつも新鮮な果物ありがとう。メリッサ、ネリ、ルート、いつも一緒でいてくれてありがとう……』

 

その数たるやとても多く、虹一杯にびっしりと書かれた名前はこの村の人たち全てに捧げられたものだった。そしてやっと最後に、一言。

 

『チューイッヒの村の人たち、みんなにありがとう コチビ』

 

「……コチビ、すごい」

 

「素晴らしい言葉だわ。コチビ!」

 

ネリとメリッサがため息をつき、他の大人たちもにっこりと笑った。もちろん、お父さんもお母さんもにっこり顔だ。

 

「だって……ぼく、この村大好きだもの」

 

つられて、コチビもにっこりと笑って見せた。

 

大きな虹は、いつまでもいつまでもコチビの言葉を刻み続け、きらきらと輝いている。其の空の奥には、夕焼けがゆっくりと空を赤く染め上げていた。

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メルヘンファンタジーな、ここではないどこかの物語。
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