IS 〈インフィニット・ストラトス〉 蘇りし帝国の亡霊 第二話 捜査 |
ブラスコヴィッツは警察署の前で、彼女??―キャロライン・シュナイダーを待っていた。暫くして、署の前に防弾仕様のBMWが現れた。
「すいません、お待たせしました」
「いえ、私も丁度出てきた所です」
「そう言っていただけると有難いです」
「お気になさらず。そんな事より、急いで現場を見て回りましょう。早くしないと日が暮れてしまいます」
「分かりました。乗って下さい」
車に乗り込むと、彼女も焦っていたのか急発進した。そして暫く走っていると、第一の発見現場に到着した。
薄暗い路地で、犯罪を行うにはもってこいの場所だった。
「第一の被害者はゲイリー・ヴェルコ。市内で土産物屋を営んでいました。彼の家はこの少し行った所にあります。ここを通った方が近道になると思ったんでしょう」
「それが彼の命取りになった…」
「ええ。聞き込みでは彼は人柄も良く、誰からも好かれる好人物だったそうで、犯罪組織との接点も、犯罪の経歴も全く無し。完全にシロでした」
「ふむ…」
「ですが、幾つかおかしな点も見受けられました」
「何ですか?」
「被害者のゲイリー・ヴェルコは、護身用としてS&W M-36を所持していました。恐らく事件の日、犯人に向けて3発発砲していますが、いくら周囲を捜索しても弾が発見されなかったんです。あと事件現場から、被害者のものではない、誰かとも分からない血痕が幾つか発見されました。恐らく犯人のものではないかと」
「ちょっと待って下さい。何故被害者が当日発砲していると分かるんです?前に撃ってそのままという事は?」
「目撃者がいたんです。といっても発砲音を聞いて、その直後に遺体を発見したらしいんですが」
「その目撃者とは?」
「娼婦のエリン・マルチナと、貿易商のクラウス・キリールの二人です。二人の証言によると、当日偶々この付近を通りがかり、その時銃声が聞こえたとの事です。そして言ってみると、被害者が…」
「その二人から、他に何か証言は?」
「はい。二人が遺体を発見した時、笑い声を聞いたと」
「笑い声?」
「ええ、何かくぐもったような、不気味な感じを受けたと証言しています。ですが、その…少しおかしいんです」
「?」
「その、聞こえてきた笑い声なんですが…上から聞こえてきたらしいんです」
「上から?」
「はい。見ての通り、ここはそこの角を曲がれば大通りです。誰かが犯人の顔を見ている筈なんですが、目撃者はゼロ。大通りの監視カメラも、犯行時刻に人影を捉えた形跡はありません」
「すると犯人は被害者を刺殺した後すぐ、建物の屋上を伝って逃げたという事になる…」
「ええ、そう思えるでしょう。ですが、ここは目撃者二人がいた所から本当に目と鼻の先です。被害者を殺して逃げたとしても、時間がありません。それに…」
彼女はそこで言い淀んだ。それもそうだ。この辺りは、ニューヨークではよく見かける非常階段なんてものが、まるで見当たらなかったからだ。
両隣の建物の壁を見ると、まるで「絶壁」であった。
「つまり、連続殺人犯は楽々と壁を登れる人物だという事ですか…?」
「今迄の捜査の結果や、そして今の段階からすると、そうだとしか言えません…」
「でもそんな事が有り得るんですか?スパイダーマンじゃあるまいし」
「中々古いのを知ってますね」
「冷やかさないで下さい」
「すいません。しかし…」
「ええ、そんな事『有り得ない』」
言葉がハモり、二人は顔を見合わせ一瞬微笑みを浮かべたが、それもすぐに消えた。
「それと血液だが、先程『誰かとも分からない血痕が発見された』と言いましたね?」
「ええ。恐らく言いたい事はこうでしょう。『最初の事件から数ヶ月立っているのに、何故分からないんだ』、でしょう?」
「ええ、まぁ。そんな所でしょうかね」
「私達も馬鹿じゃありません。確かに、そのジョン・ドゥの血液を確かに科学捜査班に送りました。ですが、一向にその報告がないんです。直接尋ねに行っても『まだ調査中で鑑定結果は出ていない』の一点張り。いい加減怒鳴り込もうと思っている所です」
「それはなんとも…」(もう既に何十人も犠牲者が出ているんだぞ。何故すぐに調査しようとしない?もしかすると、何か圧力が…?)
ブラスコヴィッツは同情の言葉を述べたが、その内心は疑問に満ちていた。そして彼は、他に何か見落としがないか調べようとした。
「私はもう少し見て回ってみます。何か見落としてるものがあるかも」
「えっ?でもこの付近は警察等が粗方調べましたが」
「ええ…。何か気になる事があるんです。構いませんか?」
「分かりました。ですが何かあったら呼んで下さい」
「はい」
彼は、それこそ路地裏を引っくり返さんがばかりの勢いで見て回ったが、犯人に繋がりそうなものは見受けれられなかった。
「やはり、ここには何もなしか…ん?」
何も見つからず諦めかけていたその時、視界の端で何かが蠢いているのが目に入った。それは一見すると、工場等で見かける排熱時の空気の揺らぎのようなものであった。
「何だこれは…ウォッ!?」
その空気の揺らぎといって良いのか分からないものに、『調べなければ』という思いと、若干の興味本位で近づいてみた。
しかし次の瞬間、突然その揺らぎのようなものが彼を包み込んだのだ。そして彼は知る由もなかったが、この時懐に入れていたあのメダリオンが光り出したのだ。
「大丈夫ですか!!」
「え?え、ええ。私は大丈夫です」
「一体何があったんですか?急に大声が聞こえたから、犯人に襲われたのかと思いましたよ」
「いや、そこの空気の揺らぎのようなものが…」
「空気の揺らぎ?そんなもの見当たりませんが…」
「え?いや、そこに…」
そう言って彼は、今しがた起こった所を指差して示そうとしたが、丁度その時に揺らぎのようなものは消えてしまっていた。
「大丈夫ですか?なんだったら、現場を見回るのは明日にしましょうか?」
「いや…大丈夫です。見間違い、だったかもしれない。それよりも他の現場も見回ってみましょう」
「ええ。ですが無理しないで下さい?」
「有難う御座います。さ、行きましょう」
二人は車に乗り込み、他の現場を見て回った。他の現場は、路地裏や一般家屋、病院や繁華街、学校や警察署、そしてなんと軍の駐屯地付近にまで及んでいた。
「しかし、これだけ見て回っても被害者も事件現場も?がりが全く無い。まるで目に入った者を、無差別で襲っているかのようだ」
「本当にそうかもしれませんよ。ここまで手掛かりが見当たらないと、いっそ清々しさを感じます」
「それには同感です。だがそれよりも、何故こんなに人員が足りないんですか?これだけ少ないと、いくらなんでも捜査のしようがない」
「上層部からは、『捜査に関する人員は追って増員させる』の一点張りです」
「あまりこういう事を口にしたくないが、どうやらその『上層部』とやらは捜査する気がないみたいですね。家の上司から聞かされた通りだ」
「気になさらずに。ここにいる皆が思ってる事です。というよりも、捜査する事自体あまり認めようとしないんですよ。でも、『増員する』云々を聞けただけでも御の字ですよ?最初は事件そのものすら、認めようとしなかったんですから」
「なんだって?」
「第一の被害者、ゲイリー・ヴェルコに至っては『男だから』という理由だけで、碌に調査しようとせずに『突発的に自分を傷付け、死に追いやった。凶器は浮浪者が持ち去ったんだろう』って事にして、自殺で片付けようとしたんです」
「なんだそれは!?手抜きどころの話じゃないぞ!!」
「ええ。しかしその方向で片付けようとしていた時に、次々と事件が起こり隠し切れなくなったんです。それでようやく事件を認め、正式に捜査する事が決定したんです。でもすぐに片がつくと思っているらしく、増員を認めようとしない。それどころか、第二回モンドグロッソの警備の為に、捜査官のほとんどをそっちに寄越してるんです」
「頭が痛くなってきた…」
「それもここにいる全員が思ってますよ。そのせいで一向に捜査が捗らないんです」
二人はそんな愚痴とも言える内容を口にしながら他の現場を何度か見て回ったが、やはり捜査に関するものは中々見当たらなかった。
その後も幾日か捜査を進めたが、やはり人員不足の為か捜査が捗らず、そしてその間にも捜査の為に必要な人員が増やされる事はなかった。
そしてそのまま、とうとう第二回モンドグロッソを迎える事になる…。
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