夜天の主とともに  17.すべては主のために
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夜天の主とともに 17.すべては主のために

 

 

 

時は健一が翠屋に行き、ケーキを買ってからなのはと別れた少し後の時間まで遡る。

 

 

 

 

 

シグナムside

 

それは突然だった。

 

「命の‥‥危険?」

 

「はやてちゃんが?」

 

定期健診の日ということで主はやてを病院まで送った私たちだったが主はやての担当医、石田先生から話があるということで私とシャマルで話を聞くこととなった。だが、そのこと言葉はあまりにも予想外だった。

 

「ええ、以前に原因不明の神経系の麻痺とお伝えしましたがその麻痺範囲が徐々に上へと広がっているんです。ここ2ケ月はそれが顕著で。」

 

2ケ月前。それを聞いた私たちは思わず目を見開いた。ちょうど闇の書が、私たち守護騎士が覚醒した時期と合致する。

 

「このままでは内臓機能の麻痺にまで繋がり‥‥生命活動が維持できなくなるんです」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「なぜ気づかなかった!!!」

 

自分のあまりにの不甲斐無さにおもわず壁をたたきつける。周りにいた他の患者の方々が驚いてこちらを見るのが分かったが今の私には気を配れる程落ち着けていなかった。

 

「ごめんなさい‥ごめんなさい!!」

 

「お前に言っているんじゃない。‥‥自分に言っているんだ」

 

考えてみればすぐわかることだった。そもそも幼い子供が主という時点で異例だったのだ。魔法に関しての教育を受けずリンカーコアは未だ未成熟。そして闇の書の膨大な魔力のが与える影響力。

これらを足の麻痺に繋げるのはたやすいものだった。

 

「私が‥‥私がちょっとでもはやてちゃんの足を調べていれば‥‥‥ごめんないさい!!」

 

「だからおまえのせいではない!‥‥‥一度守護騎士全員で集まって話し合おう」

 

「健一君には……話すの?」

 

「………いや話すべきではないだろう。主はやてを私たち以上に想っている奴というのはすでにわかってる。こんなことを健一が知れば……」

 

「何を話すって?」

 

「「!?」」

 

気付けばいつの間にか健一が近くにいた。その手にはおそらくお土産であろうケーキの箱が握られていた。

 

困惑した表情から察するに話の内容までは聞いていなかったようだが、私たちの表情を見てとんでもないことがあったという事だけはわかっているようだった。

 

「主はやては…どうした?」

 

「はやてならヴィータと一緒に自販機の方で座って話してましたよ。シグナムさんとシャマルさんだけ石田先生呼ばれってった言ってから来てみたんですけど………何があったんですか?」

 

ここで私は迷った。言うべきか言わないべきか。今知ったこの事実を知れば健一はきっと悲しみで打ちひしがれるだろう。主はやての足が治ることを本人以外で一番願っていたのはこれまで一緒に過ごしてきていた健一であるはずなのだから。

 

(いや、だからこそ健一には知る権利がある…か)

 

迷った挙句私は健一にも伝えることした。

 

「主はやてを家に送った後に時間をずらして集合だ。その時に……話す」

 

「……わかりました。このことはザフィーラにも?」

 

「ああ頼む。ヴィータには私たちから言っておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

主はやてを家にお送りした後、それぞれがばれないように時間をずらして人気のない場所に集合した。

 

「来たか‥‥」

 

「シグナム、病院で何があった。健一も知らんようだから状況が掴めん」

 

「そうだよさっさと話せよシグナム。早く帰らねーとはやてが心配するだろ」

 

「ヴィータもザフィーラも今から話す。だが落ち着いて聞いてほしい」

 

そして私はそこで言葉を切り目を閉じた。そしてゆっくりと口を開いた。

 

「このままでは主はやては‥‥‥死ぬ」

 

シグナムsideend

 

 

 

 

 

 

 

 

健一side

「このままでは主はやては‥‥‥死ぬ」

 

シグナムさんのその言葉に俺の脳はうまく思考処理ができなかった。はやてが死ぬなんてそんな訳ないと。

 

「おいどういうことだよシグナム!!はやてが死ぬってどういうことだよ!!」

 

「今から話すことは推測だが、まず間違いないことだ」

 

そしてシグナムさんははやての足の麻痺は病気ではないこと。その原因は魔力の源が未成熟であり闇の書の膨大な魔力の負荷によるものということ。

 

そして闇の書が覚醒したことでその侵食が早まっていること。加えて自分たち守護騎士を持続させるために極わずかながらも魔力を行使しているという事。

 

「‥‥助けなきゃ」

 

頭が真っ白になりかけていた俺の意識をもとに戻したのはヴィータだった。

 

「はやてを助けなきゃ!!」

 

涙を流しながらシャマルに詰め寄る。

 

「シャマルは治療系の魔法得意だろ?ならそんなの治してくれよ!!」

 

「ごめんなさい‥‥私ではどうしても無理なの」

 

それを聞きヴィータが泣き崩れる。守護騎士のみんなの中で一番はやてに懐いていたのはヴィータだったのだからそれも無理はない。

 

「本当に……方法はないんですか?」

 

俺は藁でもすがるような思いでシグナムさんに聞いた。するとザフィーラとアイコンタクトを取りそして答えた。

 

「我らにできることはあまりに少ない。だが…方法がないわけではない。」

 

「本当ですか!?その方法は?」

 

「闇の書を完成させ主はやてを真の主として覚醒させるのだ。そうすれば主はやては大いなる力を手に入れられる。足も治るはずだ」

 

それに続くようにしてザフィーラが繋げる。

 

「少なくとも闇の書の侵食は止まる」

 

「つまりはやては助かるんですね?」

 

何もしなければはやては死んでしまう。だけど助かる方法はある。なら俺の答えはもう決まってる。

 

「‥‥‥‥なら俺もやります」

 

「……わかっているのか?これから我らがやろうとしていることは違法行為だ。何もお前まで加わる必要はないのだぞ。本当の家族もいるのだろう?」

 

夜空を見上げあの優しい父さんと母さんを思い浮かべる。今も俺のためにいろんな海外で方法を必死に探してくれている2人を想うと心が揺らぐがそれでもだ。

 

「きっと……怒るでしょうね。でも、はやてがそれで助かるなら俺は何でもやります。俺もはやての騎士になるって誓ったから」

 

俺はシグナムの目をまっすぐ見た。やがて俺の意思が固いということに気付いたのか重々しく頷いた。

 

「‥‥‥わかった。ならばこれからは上下関係などない。さんなどやめろ、お互い対等なのだから」

 

「わかりました。だけど将はやっぱりシグナムだ」

 

「承知した。これから出るが異存はないな?」

 

「はい‥‥いやちょっと待ってください。俺だけ外出した理由が不十分なんでもう一度はやてのとこに行ってきます」

 

「いいだろう」

 

 

 

 

――――少年移動中

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえりけん君。あれみんなは?」

 

何かを隠していることをばれないようにするためいつも通りに接する。

 

「まだ用事があるって。あと俺もちょっと自分の家に戻るよ。随分長い間放っておいたから」

 

「そっかぁ。それはしゃぁないな」

 

いつも通りの笑顔のはやてが目の前にいる。なのにこのままだと死ぬなんてそんなことには絶対にさせない。

俺ははやてを抱きしめた。

 

「け、けん君!?」

 

はやての動揺は体から伝わる。そして心臓の鼓動も力強く伝わってくる。そうだ、はやては生きてるんだ。だからこそこれからも変わらず生きていてほしいんだ。

 

「はやては…俺が絶対に守るから。‥‥絶対だ」

 

「‥‥フフッ、それ前にも聞いたで。どしたんや?」

 

「何でもない。ただはやてを抱きしめたくなっただけ。これから自分の家に何度か戻らないといけないことがあるからここに来れないことも多くなると思う。でもまた来るから」

 

「そっか、うん。じゃあまたね」

 

そう言って俺は家を出た。

 

目指すはとあるビルの屋上だ。

 

 

 

 

 

 

たどり着くとすでにみんながいた。ザフィーラが俺に聞く。

 

「もういいのか?」

 

「うん、ちょくちょく自分の家に戻るから来れないこともあるって言っておいた、だから大丈夫」

 

「ならば…始めるぞ」

 

俺を含む五人を囲むようにして紫の魔方陣が広がる。各々が自分のデバイスを装着する。

 

(主の体を蝕んでいるのは闇の書の‥呪い)

 

(はやてちゃんが闇の書の主として真の覚醒を得れば)

 

(我らが主の病は消える。少なくとも進みは止まる)

 

(はやての未来を血で汚したくねぇから殺しはしない。だけどそれ以外ならなんだってする!!)

 

(俺は誓ったんだ。はやてにどんなことがあろうと絶対に守ってやるって。だからそのためなら俺は!)

 

(申し訳ありません。我らが主。ただ一度だけあなたとの誓いを破ります。)

 

魔方陣が一際おおきく輝く。それに応じるかのようにバリアジャケットが展開されてゆく。

 

「ゴメンなジェットナックル。俺の独断で」

 

〈謝らないでください。私はマスターの力になれるならサポートは惜しみません〉

 

「ありがと」

 

「それでは行くぞ!!」

 

 

 

 

全ては我が主のために、愛する家族のために‥‥。

 

 

 

 

 

 

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