真・恋姫無双 〜七夕物語〜 第3夜
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「いくら桂花様といえど、隊長を愚弄することは許しません!!」

 

「黙りなさい凪!!いい加減あの男を引き摺るのはやめなさいよ!!」

 

朝から繰り広げられる口論を、一刀は無言で眺めていた。

 

皆が皆、心の整理を付けられた訳じゃない。

 

なまじ賢い軍師たちはともかく、武骨で不器用な凪のような武人ではやり切れない思いもあるのかもしれない。

 

白熱していく口論とは裏腹に一刀は心の中でフッと笑った。

 

こんなにも愛されている自分は、本当に幸せな男だったのだと。

 

ありがとう、と。

 

感謝を言葉にできない現状が、とてももどかしかった。

 

 

 

 

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2日目、軍議の最中にそれは起こった。

 

発端は本当に些細なことだった。

 

桂花が春蘭をからかい、春蘭が滅茶苦茶な論法で言い返す。

 

俺がかつて軍議に参加していた時にも見ていたような光景だった。

 

懐かしいな、とそのやり取りに耳を傾けていたところで、桂花の放った一言が場の空気を凍りつかせた。

 

「あの”バカ並み”にバカなんじゃないの!?」

 

言った途端に、桂花もしまったという表情を浮かべていた。

 

しかし、もう言ってしまった言葉は取り消せない。

 

気まずい空気が瞬時に広がり、誰もが何か別の話題を言おうと口を開き掛けては、下を向いていた。

 

そんな中、一人震える声で言葉を発する者がいた。

 

「桂花様……隊長を、馬鹿にするのは止めてください」

 

悲しみを堪えているのだろうか。

 

辛そうな表情で、けれどもこれだけは譲れないという強い意志を秘めた瞳で、凪は桂花に言ってのけた。

 

「なによ凪……もうあいつは居ないんだし、今は貴女が隊長でしょ。

それとも、貴女はまだあんな薄情な裏切り者を引き摺ってる訳?」

 

売り言葉に買い言葉。

 

桂花の裏切り者という単語は、俺の心を深く抉った。

 

凪に注目が行っていて良かった。

 

必死に表情に出すまいとしているが、俺の顔が強張っているのは間違いないだろう。

 

「っ……!!隊長は、裏切り者なんかじゃないッ!!!」

 

 

ドンッ

 

 

強く机を拳で叩く凪の気迫に、桂花は僅かにたじろいだ。

 

一触即発。

 

次に桂花が何かを言えば、恐らく凪は手を出してしまうだろう。

 

そのぐらいの殺気を秘めた雰囲気が、今の凪にはあったのだ。

 

と、そこでようやく、固まっていた周囲の将たちが二人を止めに入っていた。

 

真桜と沙和が二人掛かりで凪を机から引き摺り下ろし、熱くなっていた桂花を風と秋蘭が嗜める。

 

「凪もカズトのことになると、すぐこれやもんなあ」

 

溜め息を吐きながらいつの間にか隣りに立っていた霞に驚きつつも、

一刀は平静を保ちながらそれに答えた。

 

「文遠様はもう彼のことは気にして居ないのですか?」

 

「そりゃ、気にしとらんっちゅうことはないけどな。

それでも桂花や凪みたく子供みたいに誰かに当たったりはせえへんわ」

 

「楽進殿だけではなく、荀ケ様もですか?」

 

「せや。桂花のあれは照れ隠しみたいなもんやからな。

分かり辛いかもしれへんけど、桂花だってカズトのことは少なからず好きだったと思うで?」

 

霞の言葉を聞き、改めて桂花の方を見てみる。

 

黙りこくって俯いている姿は、どことなく落ち込んでいるようにも見えた。

 

「本心では思ってなくても、それが素直に言えないのが桂花の性格や。

まぁ、皆分かっとることなんやけど、今の凪にはカズトのことしか見えとらんからな」

 

なんにしても、カズトは女泣かせな男っちゅーことやな。

 

そう言って、霞は凪の方へ向かいその頭を軽くはたいて何か言葉を掛けていた。

 

誰もが皆、割り切れている訳ではない。

 

そんな当たり前のことも、自分は分かっていなかった。

 

皆と離れて辛かったのは、当たり前の事だが一刀だけはなかったのだ。

 

そのことを痛感した一刀は、忘れられていなかったという嬉しさの一方で、

そんなことにも気が付けなかった自分の鈍感さに、人知れず唇を噛み締めていた。

 

 

 

説明
これだけ期間が空いて、果たして見てくれている人がいるのやら……。
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