IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第四十三話 〜ブリーフィング〜 |
「それではブリーフィングを始める」
千冬が緊張した顔で告げる。場所は変わって現在、クロウ達専用機持ち達がいるのは宿泊場所である花月荘、その内の一部屋であった。元々、宴会や会議をするためなのかそこそこの広さがあるその広間にパソコンやら電子機器などを教員達が持ち込み、今は作戦会議室として使われている。部屋にいるのはクロウを含めた専用機持ちと、千冬、真耶だけであった。
「先程、アメリカとイスラエルによって共同で作られた軍用IS“((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))”が暴走。監視下より離脱したとの連絡があった」
(……予想通り面倒な事になっているな)
クロウが他のメンツの顔を見渡すと、一夏と箒以外は千冬と同じく緊張した顔をしていた。伊達に国家代表候補生を名乗ってはいないのだろう。この事態を理解している様で、黙って千冬の言葉の続きを待っている。
「後に衛星からの映像により福音はこの花月荘から二キロ先の海上を通過することが判明した、時間はこれより五十分後。IS学園の上層部を通してアメリカとイスラエルから要請があった。その結果、我々がこの事態に対処をする事となった」
(……は?)
クロウが千冬の言葉に面食らっているが、千冬はそんなクロウの様子に気づかずに言葉を続ける。
「我々教員は対象海域の封鎖を担当。諸君達専用機持ちは本作戦の要である、福音の対処をしてもらう。質問がある者は手を上げろ」
「……ああ、あるぜ」
クロウが険しい顔をしながら、挙手をする。千冬は顔を変えずに淡々と進める。
「言ってみろ、クロウ」
「お前、本気で言っているのか?」
「……何をだ?」
しらを切る千冬に対して更に踏み込んだ疑問をぶつけるクロウ。
「分かっているはずだろ。こんな作戦、本来は国の特殊部隊が担当するレベルの事例だ。しかもその対象は軍用IS?こいつらの中で対処ができそうなのは精々、軍で訓練を積んだラウラ位だ。そんな作戦、こいつらがやるものじゃない」
「……異論は認めん。これは決定事項だ」
「……分かったぜ。今の返事でな」
そう言って手を下げるクロウ。千冬の真意は今の一言でクロウには察しがついた。
(恐らく、どこからか圧力がかかっているな。それも相当な物が……)
上からの圧力となれば、千冬が嫌々従うのも仕方が無い事だった。いくら元・世界最強と言っても今はIS学園の一教師である。上層部からの圧力を跳ね除ける事など出来はしないのだろう、とクロウは読んでいた。
「他には?」
「はい」
「言ってみろ」
手を上げたのはセシリアだった。緊張した声色で千冬に問う。
「対象の詳細なスペックデータの開示を要求します」
「構わん。だがこれはアメリカ、イスラエルの最重要機密だ。仮に口外した場合、諸君には最低でも二年間の監視と査問委員会による裁判が執行される」
そう言って、目の前のパソコンのキーボードを数回叩く千冬。するとクロウ達が囲んでいる机の上に、投影型ディスプレイによる映像が映し出される。一夏と箒はまだ事態が上手く飲み込めない様で呆然としているが、クロウと国家代表候補生達は食い入るようにデータを見つめる。
(こいつは……。倒すだけなら訳はないかもしれんが、中の人間を助けるとなると……)
「これは……相当厄介ね。攻撃と防御、両方に特化した機体とはね」
「そうですわね。広域殲滅を目的とした特殊射撃型……。私のブルーティアーズと同じくオールレンジ攻撃も行える様ですね」
「攻撃されたら回避するのは難しそうだね。ちょうど僕のリヴァイブの防御パッケージが来てるけど、それでも防御出来るかどうかは分からないね……」
「しかも、このスペックデータでは射撃性能はともかく、格闘の性能が未知数だ。偵察は行えないのですか?」
データを見ていたラウラが千冬に質問する。至極当たり前の質問であったが、千冬はそれを却下した。
「無理だ、対象は現在時速2450kmを超えた速度で飛行を続けている。止めるタイミングは一度しかないだろう」
「そう言う事でしたらチャンスは一回、という事ですわね」
「そうね、一撃必殺の攻撃力が求められるわ。となると・・・」
示し合わせた様に四人がクロウと一夏の顔を交互に見る。しかしクロウが一夏の顔を見るに従い、全員の視線が一夏を向く。当の一夏は慌てるばかり。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺がやるのか!?」
「一発で仕留めるとなればアンタの零落白夜か、クロウのSPIGOT位しか無いのよ」
「じゃ、じゃあクロウじゃダメなのか!?」
クロウに問いかける一夏だが、クロウは難しい顔をしていた。
「……すまん、一夏。恐らく俺の武装じゃ搭乗者の身が危険になる。より確実さを求めるなら、お前の零落白夜の方が適任なんだよ」
クロウはあくまで搭乗者の身の安全も考慮した発言をする。どうしていいか分からない、と言った様子の一夏に選択肢を用意するクロウ。
「もちろん、俺でも行けない事は無い。スフィアを使わなければ手加減はある程度までは出来るだろう。お前にそんな危険な事はさせたくないのも事実だしな。お前が嫌だって言うなら、無理強いはしない」
クロウに言われて考え込む一夏だったが、決意の眼差しを浮かべながら顔を上げてしっかりと言い放つ。
「……分かった。俺がやるよ、クロウ」
「すまんな、一夏」
「よし、それではブリーフィングを続ける。詳しい作戦内容だが、達成目標は福音の行動停止。まずは対象の地点まで移動をしなければならない。何か案がある者はいるか?」
福音を止めに行くのが一夏に決まった所で千冬が細かい作戦内容を詰めにかかる。千冬に言われて挙手したのはセシリアだった。
「はい、私のブルー・ティアーズに本国から送られた強襲用高機動パッケージが送られてきています。それならば、福音の速度にも対応出来るかと」
「ふむ、現状では超高速で接近しての一撃離脱が望ましいだろう。オルコット、超音速下での訓練時間は?」
「約20時間程です」
「適任だな。それでは──」
「ちょっと待〜った。その作戦はちょっとタンマなんだよ、ちーちゃん」
千冬が決定事項を述べようとするといきなり部屋に声が響く。全員が天井を見上げると、いきなり天井の板が一枚外れ、束が部屋に降りてきた。
「……山田先生、彼女を室外へ」
頭を抑えてため息をつく千冬。束はニコニコと笑うだけで自分から出る気は全く無い様だった。
「は、はい。篠ノ之博士、こちらに」
「ちょっとちょっとちーちゃん!ここは断然紅椿の出番なんだよ!!」
「何?」
束は部屋のパソコンに何やらケーブルを繋ぐと数度操作、すると机の上のディスプレイに紅椿のスペックデータが映し出される。束が胸を張りながら自信満々に喋り出す。
「見て見てちーちゃん!!パッケージなんて使わなくても紅椿なら、超高速で行動が出来るよ!!」
「ふむ……」
束の言葉を聞き、千冬も食い入る様にディスプレイを凝視する。クロウ達は束の勢いについていけずに黙るしかなかった。
「普通の状態でもそれなりの速度は出るんだけどね。展開装甲を調整すれば完璧!!私って天才だね!!」
「あ、あの姉さん。展開装甲って何ですか?」
すると今まで黙っていた箒が聞き慣れない言葉を聞いて声を上げる。箒のみならず、他の全員もその言葉を聞き慣れない様で首を捻っている。
「教えてあげるよ箒ちゃん!!展開装甲っていうのはね、私が開発した第四世代の装備なんだよ!!」
「「「「だ、第四世代!?」」」」
各国の代表候補生達が驚きの声を上げる。それもそうだろう、今現在諸国は必死になって第三世代ISを開発しているというのにいきなり第四世代IS。しかも個人の専用機してしまうとは、各国の争いの種になる事は容易に想像出来る。
「はぁ、何故貴様はそう問題の種を持ってくるんだ……」
頭に手を当てて痛みをこらえる様な表情をする千冬。しかしそんな千冬にも構わず箒相手に説明を続ける束。
「それでねそれでね、“パッケージを必要としない万能機”っていうのが紅椿、ひいては第四世代の設計コンセプトなんだよ。これで今回の作戦にも完璧に対応出来るよ!!」
(万能機か、ブラスタの設計思想に少し似ているかな・・・)
クロウは益体も無い事をぼんやりと考えていたが、次の千冬の言葉で思考が凍りついてしまった。
「……ふむ、束。紅椿の調整とやらは、どの位で完了する?」
(…何だと?)
「そうだね〜。七分、いや五分で終わると思うよ?」
「そうか、では作戦を伝える。織斑、篠ノ之両名による接近後、織斑の攻撃による対象の無力化又は撃墜。二人は準備を始めろ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
立ち上がって千冬に反論するのは、先程まで作戦の中核となっていたセシリアだった。いきなり外された事に疑問を感じているのだろう、千冬に食ってかかる。
「私ならば、確実に成功させてみせますわ!!」
「だが、そのパッケージは既にISにインストールしてあるのか?」
「う……そ、それは……まだですが……」
セシリアの声が尻すぼみになると共に、座り込む。しかしもう一人、千冬の言葉に異論を抱く者がいた。
「さて、それでは──」
「俺も反対です、織斑先生」
立ち上がったのはクロウだった。束もいることで口調もいつもの物ではなく、敬語に直している。険しい表情をしながら、千冬の顔を真っ直ぐに見つめるクロウ。
「この作戦は一夏とセシリアにやらせた方が成功率は高いと思います」
「クロウ!私を侮辱するのか!?」
言われて箒も立ち上がる。目の前で“お前は使えない”と言われた様なものなのだ、箒の怒りも理解出来ない物ではないだろう。だがクロウが論点にしていたのはそんな矮小な事では無かった。
「じゃあ聞くがお前、超音速下での戦闘経験はどの位あるんだ?」
「そ、それは……」
「何もお前が弱い、と言っている訳じゃない。日々の特訓でお前の実力は一般生徒の中で群を抜いているのは確かだと俺は思っている。だがいきなり実戦、しかも慣れない機体でこんな作戦は無茶が過ぎる」
「だがしかし、時間の都合上篠ノ之の方が適任なのも確かだぞ」
「ですが、搭乗者の命を一番に考えるならばセシリアの方が良いと思います。篠ノ之では、まだ荷が重すぎる」
「じゃあさ、お前も一緒に行けば?」
千冬とクロウの論争が平行線になりつつあると、口を挟んだのは意外な事に束であった。いきなりの事にクロウを含めた全員が押し黙る。
「……」
「そんなに心配なら、お前も一緒に行けばいいじゃん?そこまで言うなら行っていいよ、特別に許してやるからさ」
「束、口を慎め。お前に作戦の決定権は無い」
「えへへ、ごめんねちーちゃん」
「……どうだ、ブルースト?お前も一緒に行くか?」
「……分かりました、俺も同行します」
難しい顔で返事をするクロウ。その頭にはこの作戦に対する違和感が渦巻いていた。
(何だこれは、何かがおかしい……。一騒動あるな、これは)
そう、クロウはまだ最初に感じた疑念を払拭できずにいた。箒の出撃に反対したのも、箒の身を案じての側面が大きい。恐らく彼女では突発的な事態には対応出来ないだろう、とクロウは踏んでいた。千冬が作戦の概要を説明する。
「それでは作戦を発表する。織斑、篠ノ之、ブルーストの三人が対象に接近。織斑の攻撃で対象を無力化、又は撃墜を目的とする。各員、直ちに準備に取り掛かれ」
千冬の号令により、部屋の面々が慌ただしく動き始める。束が箒を連れて外に出る様に促している。
「さあさあ箒ちゃん、早速紅椿の調整をしようじゃないか!!」
「は、離してください。自分で歩けます」
ふすまを開けて出ていく二人。それを追う様に千冬も部屋から出ていく。
「私は準備があるので一旦席を外す。織斑、ブルーストは各自、機体調整をすませておくように」
ふすまが音を立てて閉まると同時に一夏達が同時に息を吐いた。
「あー、緊張した」
「それにしても、クロウも一緒に行く事になったけどいいの?」
半ば無理矢理同行する形になったクロウを心配しているのか、シャルロットが身を案じる発言をする。
「いや構わないさ、それに今回ばかりは何か嫌な感じがするんでな」
「?どういう事ですの?」
分からない、と言った顔でセシリアが問う。一夏達もクロウの言葉に興味を持ったのかクロウを中心に車座になって集まる。
「まず、前提条件から何かがおかしい。相手は軍用機だそうだが、そんな簡単に暴走なんてするものなのか?」
一同に疑問を投げかけるクロウだが、直接的に軍に関わった事の無い一夏達は互いの顔を見合わせるばかり。だがラウラはその問いにはっきりと答える。
「それはまずありえません。暴走などしたらアメリカ、イスラエル両国の汚点になります。入念な準備の元、行われた実験だったはずです」
「その通りだ、だが現実に暴走している。これは何処かおかしい」
「じゃあアンタ、この事件には何か裏があるって言うの?」
「ああ、少なくとも俺はそう思う」
「じゃ、じゃあクロウ達危ないんじゃない!?」
クロウの話を聞いて慌て始めるシャルロットをゆっくりとクロウが落ち着かせる。
「落ち着けシャルロット、その為に俺が行くんだ。何かあっても一夏と箒には傷一つつけさせねえよ」
「俺も頑張るぜ、クロウ!!」
「ああ、銀の福音とやらにはお前の武装が一番有効だからな。頼りにしてるぜ、一夏」
「ああ、任せろ!!」
話が一段落した所でクロウが立ち上がり話を締めくくる。
「さてと、俺と一夏は準備に入る。お前達も不測の事態に備えておけ」
「「「「「了解!!」」」」」
説明 | ||
第四十三話です。 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
7629 | 7292 | 7 |
コメント | ||
頑張ってください、次回から楽しみです〜(氷狼) 今回で、にじファン時代の最終話、続きをずっと待ってたので次回が楽しみです(フジ) |
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