裏庭物語 第1箱
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第1箱「いつも通りだよな」

 

『序章・その壱』

 

今回の語り部:((杵築|きつき)) ((樹|いつき))

 

 

 

 新生徒会長が就任宣言を行った学園集会が終わって。

 

 俺は自分の教室―――つまり一年二組の教室へと戻ってきて、一息吐いた。

 

「ふ〜。やっと家に帰れる」

 

 

 ((杵築|きつき)) ((樹|いつき))

 

 所属:一年二組

 性別:男

 血液型:AB型

 趣味:写真撮影

 

 

 俺の簡易プロフィールだ。名前から間違われやすいのだが、俺は男である。

 

 辺りを見回すと、クラスメイトはみな新生徒会長の話題で盛り上がっているようだった。あちらでもこちらでも。彼女と同じ中学出身の俺は何故か誇らしかった。自分の知り合いが話題に上ると、こう、なんというか、その人を詳しく知ってるという軽い優越感の様なものが込み上げてくるのは何故だろう。

 

 黒神めだか。

 

 AB型。十月二日生まれ。世界に冠たる黒神グループの跡取り娘。偏差値九十オーバー。あらゆるスポーツのタイトルホルダー。

 

 彼女を全て語ろうものならきっと十三話分くらいは余裕でかかるだろうから、ここではこれくらいに止めておこう。今ここで重要なのは、彼女が新入生、つまり一年生で、この壮大なスケールの箱庭学園の、なんと第98代生徒会長に就任したことだ。それも98%という異常な支持率で。

 

「黒神のやつ、ホントに生徒会長になっちまったな〜。スゲーっちゃあスゲーけど、いつも通りっちゃあいつも通りだよな。樹、お前もそう思うだろ?」

 

 自分の机に座って帰宅の準備をしていた俺に、茶髪でスポーツ刈りの男子が絡んできた。

 

 

 ((寄田|よりた)) ((頼|たより))

 

 所属:一年二組

 性別:♂

 血液型:AB型

 部活:空手道部

 

 

 こいつは俺の親友。という設定らしい。俺や黒神と同じく箱舟中学出身だ。名前から誤解されやすいのだが、こいつは実は頼りない。

 

「おい、樹! 『♂』とか『設定』とか『頼りない』とか、お前失礼すぎ! “親しき仲にも礼儀あり”って寛容句あるの知ってるか?」

 

「寄田、地の文を読むな。それからお前は“慣用句”も変換できないのか。ガッカリだ」

 

 まあ俺は寛容だからお前のことをバカとは言わないけどな、と言って、俺は自分の荷物をバッグにまとめ、さっさと帰路につこうと試みる。

 

「樹! ちょっと待て! 止まらないとお前しか知らないお前の秘密をみんなにバラすぞ!」

 

 こいつは本気でバカなんじゃないか?と、本気で思った。

 

「なんだよ。何か用か? 俺は早く家に帰ってジャンプの今週号を読むんだよ」

 

 そう。確か今週号は『ネガ倉』がCカラーだった。一刻も早く読まねば。寄田に構っている暇など無い。

 

「ジャンプとかいつでも読めんじゃん。でも空手道部の体験入部は今しかできないぜ?」

 

 どうやらこいつは俺を空手道部へ勧誘しているらしい。

 

「寄田、お前は俺が中学の時部活動選びで失敗したの知ってるだろ? だから高校ではぜっっっったいに部活は入らないって決意してることも」

 

 それにまた武道とは。勘弁してほしい。

 

「まあそー堅いこと言わずにさあ。マジでスッゴい楽しいからうちの部。部長なんて動物と、そして“動物で”話すことができるんだぜ? 見てみたいだろ? な? 一回見学するだけでいいからさ」

 

 全く、しつこいやつだ。

 

 つーか今の話には明らかにおかしいところがあるのだが、少しでも興味がある素振りを見せたらこちらの負けだ。箱庭学園の部活動はとても盛ん故に、勧誘の強引さは非常に異常。一度体験入部したら最後、入部届を書くまでせがまれるに違いない。

 

 よってここはスルッとスルーするとする。

 

「あ、ちょっ、おい! 今日体験入部来ないんなら、俺の秘密をみんなにバラすぞ!」

 

「どうぞお勝手に」と一言言って、教室を出た。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ギャアアアアア……」

 

 悲鳴。

 教室を出た直後に悲鳴が聞こえてきた。

 

 声のした方向を見る。すると黒神が人吉の頭を掴んで一年一組の教室から出てきた。死にかけの魚のようにピクピク動く人吉を見る限り、黒神に無理やり連れていかれているのは明白である。きっと生徒会に入れ、みたいなことを言われているのだろう。

 

 黒神に生徒会長就任祝いでもしようと思ったが、二人は俺がいる位置とは反対の、生徒会室の方向へ向かったので、諦めた。また今度にしよう。

 

「さ! とっとと帰って『ネガ倉』読もー」

 

 独り言を呟き、下駄箱のある方向へと向き直した。すると、今まで俺の背後に立っていたらしい一人の少女が目に入った。隣のクラスの女子だ。行き道を塞いでいて非常に邪魔である。

 

「……えっと……ちょっといい……?」

 

 しかも話しかけてきた。

 

「内牧さん、何か用? そしてそれは俺の『ネガ倉』を止められるだけの用件か?」

 

「へ……?」

 

 俺が何を言っているか分からないのか、目を丸めている内牧さん。あんな面白い漫画を知らないなんて損をしていると思う。

 

「……あ、いや、別に大したことじゃなくて……。ちょっと話聞いてもらいたいだけなんだけど……。……じゃあ明日の放課後なら空いてる?」

 

 ちょっと話聞くだけなら今からでもいいけど、と言う前に明日の話になってしまった。

 

「まあ空いてるけど」

 

 俺がそう言うと、黒髪を二つ結びにした髪型のその少女――((内牧|うちのまき)) ((薪|まき))さんは、パアッと満面の笑みになってこう言った。

 

「じゃ、じゃあ、明日の放課後、一人で体育館裏に来て……! 約束だよ……?」

 

 一人で? 体育館裏?

 少々怪しい部分もあったが、俺は深く考えずに承知した。

 

 

 

説明
原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。
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