天の迷い子 第十一話
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“反董卓連合集結”

この報を受け、董卓軍は警戒を一層強化した。

特に、水関、虎牢関という二つの関は大軍が通ることが出来、なおかつ連合軍の駐屯している場所から最も近いことから、呂布、張遼、華雄といった董卓軍最強の将がそれぞれ振り分けられた。

 

董卓軍が二つの関を固めている頃、連合軍陣地には二人の少年の姿があった。

 

「はあ〜〜、さすがに壮観だぜ。ほら、あっちには袁紹、向こうには孫堅、話で聞いてた英傑・名家がそろい踏みだぜ。」

「暢気な事言ってんなあ。それ全部敵なんだぜ?とりあえずは情報収集だ。真面目にやれよ、高順。」

「わかってるって、流騎。そういや聞いたぜ、お前董卓様から字を頂いたんだって?ったくうらやましいね〜、俺も授かりたいぜ。」

「へへ〜、羨ましいか。…なんていうかさ、胸がいっぱいになるってこういうことを言うんだって思ったよ。」

「くくくっ、そっか〜、だから号泣したんだな?わんわんと泣いてたって噂で持ちきりだぜ〜。」

「はぁ!?なんで知ってんだよ!つか、号泣なんてしてないって!ちょっとほろっときただけ…って、待て!おい!高順!!」

「んじゃ、俺はこっち側で色々調べてみるわ。また後で合流しようぜ〜。」

 

そう言うと高順は走っていった。

ため息を吐き、流騎は歩き出す。

 

(確かこの鎧は劉備軍の物だったはず)

 

劉備の陣に辿り着いた流騎は、あたりを見回し、後ろ向きに入っていく。

すると、

 

「おい!そこのお前!」

 

見張りの兵に見つかる、が。

 

「ったく、見張りが退屈なのはわかるけど、抜け出してさぼるなよ。ほら、黙っててやるからさっさと戻れ。」

「うっす、すんません。」

 

抜け出そうとしていると勘違いした兵は、それだけ言うと持ち場に戻っていく。

 

(勘違い、どうもありがとう。)

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Side 流騎

 

中に入ると、なにやら話し合いが始まっていた。

聞くと、軍議によって連合軍で最も兵数の少ない劉備軍が先陣を切ることになったらしい。

軍議中に斥候を放っておいたから、おっつけ情報が入ると軍師らしい少女が言っている。

 

(何か斥候を出すの遅くないか?情報収集は戦の前段階の仕事だって習ったけど。)

 

経験不足かな?まだ子供みたいだしな。

そんなことを考えていると、

 

「劉備様、陳留刺史・曹孟徳様がお見えになり、お会いしたいと。」

 

と兵士が報告に来た。

その後、何故か会う・会わないの話ではなく、曹操の人物像の話になっていた。

一応相手の方が身分が上なんだから、あまり待たせるのは失礼になると思うんだけど。

 

ようやく会うことになり、兵士に呼びに行かせるとすぐに金髪の縦ロールツインテールの少女(あれが曹操か)が陣に入ってきた。

黒髪ポニーテールの姉さん(おそらくあれが関雲長だろう)、曹操が来たって言ってんのに、何者だは無いだろう。曹操に決まってんじゃん、どう考えても。

 

流石は曹操、その程度のことで怒るほど、器は小さくないらしい。

そして、劉備が自己紹介をする。

 

「劉備、良い名ね。…そっちのブ男が天の御使い・北郷一刀ね?」

 

うわ、いきなりブ男扱いかよ。ひどいなあ、男が嫌いなのか?

北郷さんは結構男前だと思うけど。

 

「ご、ご主人様は不細工なんかじゃないです!」

 

ごしゅじんさま!?ご主人様って、ありえねえ!恥ずかしすぎるだろ!ほら、北郷さんも恥ずかしそうにしてる。

まあ、呼び名のことは置いといて、話は進む。

しかし、北郷さん。この世界の人間じゃないから身分差は関係ないとは言え、もう少し口調をなんとかしたほうがいいと思うよ。

ほら、孔明ちゃんと士元ちゃんがおろおろしてるし。

 

曹操は劉備に自信が掲げる理想について問いかけている。

その質問に対して劉備の答えは“誰しもが笑顔で暮らせる平和な世界にしたい”というものだった。

 

へえ、立派な志だ。

 

理想って物は、高ければ高いほど良い。

何故なら理想ってものは、それを掲げる人間の最高の到達点だから。

低い頂を目指したものは、結局上りきっても低い位置でしかない。

だが、高みを目指したものは、たとえ届かなくても、自ずと高い位置まで上る事が出来る。

もちろんその為の努力を怠らなければ、だけど。

彼女の言葉が理想か、それともただの妄言になるかはこれからの彼女次第、かな。

 

「なるほど。なら、その答えの礼に、糧食と資材を多少融通してあげる。困っているのでしょう?」

「あ、ありがとうございます!!」

「桂花、手配を。春蘭、秋蘭、戻るわよ!」

「「「はっ!」」」

 

踵を返して去っていく曹操。

 

このわずかな時間でも判る。

力の宿った眼。よく通る威厳のある声。なにより、全身を包む王としての威。

しかも、ある種の天才が纏う空気を持っている。

武の気配、智の気配、王の器。正に万能の天才、か。

 

おそらく、今この場に集まっている者達の中で、最も危険なのは彼女だ。俺が知っている以上に強く、力がある。それに夏候惇・夏候淵の武、荀ケの知恵と部下にも恵まれている。さらに兵たちの精強さでは今のところ群を抜いているらしいし。

 

俺は、改めて曹孟徳という人物に対する警戒を強めた。

 

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Side 曹操

 

ぞわり。

 

ばっ、と劉備の天幕を振り返る。

 

「どうかなさいましたか?華琳様。」

「いいえ、何でもないわ、秋蘭。」

 

そう、なんでもないはず。

私を振り返らせる程の威圧を感じたなんて、気のせいに決まっている。

今、その器を確かめに来た劉備には、まだそれ程の力は無い。

あの北郷とか言うブ男は、確かに多少の才覚は感じたけどまだまだ未熟。

 

自分の感覚を信じるならば、それ程の、それこそ私と同格の力、才覚、もしくは可能性を秘めた人間があの場に居たことになる。

 

見えざる強敵、ね。

ふふ、もし居るというのならば、登ってきなさい。

更なる高みで待っているわ。

 

私は、ほんの少し、唇を歪ませた。

 

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Side 霞

 

今、うちらは水関で連合軍に対するための準備を進めとる。

敵の総数はおよそ十五万、対してこっちの兵数は六万程度。

ぶっちゃけた話、篭城以外に術は無いやろな。

そういえば、そろそろ偵察に行ってた流騎が戻ってくる頃やな。

 

おっ、噂をすれば、戻ってきよった。

 

「張遼将軍!流鋼信、偵察より帰還いたしました!」

「んな畏まった挨拶なんかせんでええって。身体中痒うなるわ。」

「一応でも形式は整えておかないと示しがつかないでしょう?それでは、報告します。連合軍は…。」

 

「…なるほどな。まず、先陣は劉備軍と公孫?軍が勤めるわけやな?そんで兵数は、劉備軍五千に袁紹の兵五千、公孫?軍八千で計一万八千か。」

 

それは何とかなるとしても、その後ろには十三万強の軍勢。

緒戦を最小の被害で抑えんことには、どうしようもないか。

まあこっちは関に拠って戦えるから、打つ手なしっちゅう訳でもないけど、唯一問題なんが…。

 

「ただ怖いのが、雄姉の暴走なんだよな。挑発されたらすぐに出て行っちまいそうだし。」

 

それや。

華雄一人の戦いやったら討って出ようが好きにしたらええけど、これは防衛戦やからな。

何かしら考えとかなあかんな。

 

「とりあえず、雄姉のことは遼姉に任せるとして…「なんでやねん!」冗談だって、俺も止めるの手伝うから。後は、伏兵と奇襲の準備、攻城兵器の為の油と火矢を用意して、もしかしたら地形調査に見落としがあるかもしれないからもう一度調べて、万が一ここを抜かれたときの為の虎牢関への逃走経路の確保と、時間稼ぎのための準備もしないと。後は…。」

「ちょっと待ち!あんたちょっと考えすぎやて!負けたときの事まで考えてたら勝てるもんも勝たれへんようになってまうわ!」

「何言ってんだ。あらゆる事態に備えとかないと、いざって時に動けなくなるだろ?後からああしていたら、こうしていればなんて言っても無駄なんだから。」

「むう、それはそうやけど…。」

「後悔はしたくないからな。守りの戦いは臆病な位で丁度いいんじゃないかな。最悪の事態を想定しておかないと、恐怖に囚われて動けなくなってしまうって文和が言ってたし。」

 

一理ある。

せやけど、やっぱりうちの性には合わん。

 

「ははっ、遼姉はそれでいいよ。こういうのは小心者の俺みたいな奴が考えればいいんだし。」

 

それやったら心配すんのは流騎に任しとこ。

うちは戦うことだけ考えるようにする。

適材適所っちゅう奴やな。

 

時間が経つにつれて、緊張が高まっていく。

それはうちら武将も例外や無い。

緊張が最高潮まで高まった時、十万を超える連合軍が目の前に現れた。

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が、

 

「なあ、華雄。えらい連合軍の士気、低ないか?」

「霞もそう思うか?やはり私の勘違いでは無いようだな。」

 

そう、目の前に軍を展開している連合軍の士気がめっちゃ低い。

一部例外はあるけども、軒並み同じ状況や。

何があったんやろうか。

 

「それじゃ、説明しま〜す。」

「ん?おお、高順か。説明ということは、お前が何かしたのか?」

「ふっふっふっ。連合軍の士気の低下はこの天才軍師・高順が…≪スパーン!!≫いってぇ!!」

「何を言っているんだ、君は。この策は皆で考え実行した物で、誰の手柄でもないだろうが。」

「って〜、冗談じゃねえかよ。ちょっとしたお茶目だよ、お茶目。」

「失礼しました「無視!?」。では、改めて私から説明させていただきます。と言ってもとても単純で簡単なことなのですが。」

 

やったことは単純明快。

連合軍が行軍してる間中、鬨の声やら夜に篝火焚いたりして相手を常に緊張状態にさせて、疲弊させたっちゅうことらしい。

ただ、錬度の低い軍には効果は適面やけど、曹操軍や孫堅軍なんかの精兵部隊には効果は薄いようやった。

とは言うても先鋒の劉備軍に引きずられて公孫?軍も士気が低下しとるし、何より大兵力を持つ袁紹や袁術の部隊の士気の低下が半端や無い。

 

これは、戦前の準備段階としては、最高の戦果になるんちゃうか?

こっちには全く被害なく、相手の士気をここまで下げるって相手からしたら最悪や。

 

「よっしゃ!二人ともようやった!持ち場に戻って戦況を見て今までどおり好きにやり!」

「「はっ!!」」

 

二人は部隊に戻っていく。

 

ほんなら、こっちは士気を上げさせてもらおか。

 

「さあて、そろそろ始めよか。あんたら全員気合入れや!」

「華雄隊!気勢を上げろ!連合軍を叩き潰すぞ!!」

『おおぉぉぉおおおおおお!!!』

 

説明
どうも、へたれど素人です。
とうとう十話を超えました。
ほんの少しでも皆様の娯楽になってくれれば幸いです。
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コメント
k・k様  ご指摘ありがとうございます。申し訳ないです、このあたりまで実は徐晃と高順逆だったんです。その修正のし忘れです。ごめんなさい。(杯に注ぐ清酒と浮かぶ月)
毎回楽しく読ませていただいておます。名前が徐公明になっていますが、話の流れや話し方で高順ではないでしょうか?(K.K)
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