科学技術部の大敗2
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 芦崎詩歌が隣に並んだ。

 凛一は、つい顔を凝視してしまう。

「おはよう、桜城くん」

「お、おはよう」

「ん、なんか付いてた?」

「いや、べ、べつに」

 目を逸らす。

 時間は少し戻り、入学式の朝だ。

 駅から山道を歩くことになる高校だったが、これでもうイジメられたりしないと思えば立地の悪さなんて全く苦痛じゃなかった。

 ……いや、どんなに頭のいい学校でもイジメはあるのかもしれないが、少なくとも元同級生のバカ面を見なくてよくなるというだけでも、凛一にとっては大分救いがある。

 

 同年代の他の人間よりも口下手になってしまったのは、イジメが原因で間違いないと思う。加害者たちにイジメをしたなどという自覚があるかは知らないが、凛一は間違いなく実害を被った。

 学校内で誰かと話すことはなく、廊下ですれ違う人間が少しでも腕を動かそうものなら殴られるのかと怯え、授業中は黙々と教科書とにらめっこをする。物がなくなるから学校へはなるべく物を持っていかず、無防備になる体育の着替えが一番キライな時間だった。

 中学校を選んだ理由は、近いからだった。

 後悔したときには遅かった。その中学校は市内どころか県内でも有数のバカ校だった。

 市内にある他の中学校は家から遠く、転校するのは難しい。父親が夢だったメイド喫茶を初めてしまい、転校や引越しなど、金のかかる要求を出すことはできなかった。

 悔しくて、勉強した。成績がよくなり教師の受けもよくなり、ますます睨まれることとなったが、幸い振るわれる暴力で命の危険を感じることはなかった。

 テレビに流れる自殺やイジメ問題を見て、「ああ、そこまで酷い学校でなくて良かった」と安堵の溜息をつくのは、他人の会社を見てまだ自分のほうがマシだと溜息をつくサラリーマンのような気分だった。腐った給食を食わされたことはあるけれど、カエルや犬のフンの味はしらない。塩素臭いプールの水や女子トイレの汚物入れで窒息しそうになったことはあるけれど、病院に運ばれたことは今のところない。

 

 そんな、事務的で機械的で心を殺した中学校生活も、三年生になって、少しだけ報われた。

 隣の席に座ることとなった、芦崎詩歌のお陰だった。

「よろしくね」

 天使の笑顔だ、と冗談抜きで思う。

 芦崎も、凛一や他の一部の生徒と同じ、成績上位の人間だった。

 家のメイド喫茶をバカにされることもなく、暴力も振るわず、自分なんかに話しかけてくれる女子生徒、……勘違いしやすい中学三年生が、恋に落ちないわけがない。

 自分でも、芦崎が自分に好意を抱いてくれるなんてことはあり得ないと分かっていた。だから毎日話ができるだけで良かったし、多くは望まなかった。

 なにせ相手は、学級委員でバスケ部のエースで、可愛くて愛想が良くて、……自分とは、大違いなのだ。

 そして、入学式の今日、二回目の「よろしくね」、だ。

説明
高校一年生になった桜城凛一は入学式で突如拉致されて!?連れてこられたのは科学技術部を名乗る集団だった―― 長編の冒頭のみ掲載しています。続きは(http://ncode.syosetu.com/n2571bi/2/)よりお願いします。
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