ある外史のメイジ11 ― 前虎後狼 ―
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張魯の降伏後のある晩、俺は久しぶりに七乃と美羽と揃って寛いでいた。

七乃が夫々に茶を注ぎ終えると俺に尋ねる。

「結局、魏に仕える事になったんですか?」

「子遠殿(許攸)の代わりをしろと言われまして」

俺の若隠居ライフは遠ざかった。がっでむ。

「お主もう少し考えて行動せぬか」

呆れた口調の美羽。

「まあ、『子遠殿の代わり』なので、文官としてです。

 もう、南宮長万に追い回されるような目に遭う心配はありません」

張遼や夏候惇に追われた時は肝が冷えたからな。

「そこは李広かせめて項羽といわんか?」

その2人も碌な最期じゃないぞ美羽。

「それで、どんなお役目を頂いたんですか?」

続けて、仕事内容を確認してくる七乃。

「医官です。今度、先生(華佗)と一緒に孟徳様の一族の倉舒殿(曹沖)の治療に行きます。

 あと、非常任で韓元嗣(韓浩)という人の下で農地開発を手伝う事になりました」

「天変の術で雨を降らして乾燥地の灌漑ですか」

「そんなに大した物ではありません。夕方の水遣り程度のものです」

面積に比べれば微々たる量でしかない。まあ、ヨウ化銀を使わないだけマシではある。

「まあ、普通の文官とその家族なら前みたいにのんびりできるかの」

「全くその通りですね。少しは一緒にいる時間が増やせるでしょう」

 

 

 

勿論そんなわけはなかった。

 

 

 

「先生、孟徳様になにを吹き込んでくれたんですか!」

曹沖の治療の帰りに俺は師匠に向かって喚く。

「むう、俺はただ中原最大の国力をもつ国の主の責任として、

 民草の為にも国の安定を保証する後継を作る事を薦めただけなのだが」

「それは結構なことですが、何で魏王の王配として私の名があがるんですかぁ!」

アレの番いなんて泣いちゃうよ俺。過労死間違いなしじゃないか。

「お前さんが、魏の将軍と渡り合った実績もあるから、納得させやすいのではないかと思ってな。

 そして、お前さんが『天の御遣い』である事もな、陳簡、いやさ、フランソワ・アンリ・ド・モンモラシよ。

 まあ、酒の席での雑談だ。気にするなこ奴め、ハハハ」

ハハハじゃねえ。夏候惇と荀ケの顔を見てなかったんかい。

しかも、隠し通していた『天の御使い』の事までばらしやがって。

「元譲殿や文若殿に聞かせてあげたら、さぞ安心なさるでしょう」

 俺は入れ替わりでハルケギニアにいる北郷とは違って嫁と娘がいりゃそれでいいんだよ。

 ハルケギニアで内政無双する夢が破れた今、家庭があればそれでいいっつーの。

「また、逃げ出すか? しかし、この外史は正史に近い流れだから、いずれ魏が中原を制するぞ。

 しかも、正史より早く事態が動いているから、華琳が統一を果たすだろうな。

 その後の事、仲達(司馬懿)や昭伯(曹爽)がどうなるかまではわからんが」

「が、外国は……」

「ローマもパルティアもサータヴァーハナ朝もクシャーナ朝も今はゴタゴタしてるな。

 北も鮮卑が暴れまわっているし、倭も卑弥呼がいないから乱れている」

「チャンパーかアクスム、遠いですがマヤなら……」

「美羽と七乃が暮らしていけるのか?」

「ぐぬぬ……」

返す言葉のない俺に師匠は続ける。

「ところで、卑弥呼が行方不明で左慈と于吉がその捜索にかかりきり。

 貂蝉だけでは手が回らない事も多くてな。管輅はやる気がないし」

「……何が言いたいのですか」

俺の逃げ道を塞ぐ言い方をする師匠に警戒しつつ問う。

警戒が役に立った事はないが。

「俺の助手だけでなく、管理人の助手もやらないか?

 そうすれば中原の文化圏に留まったまま、柵からも逃げられる。

 俺も医者としての務めも果たせるしな。お前への手解きも続けられるし」

俺は諾うしかなかった。

「ちょっと忙しいかもしれないけど、魏にいるよりはマシよん?」

いつの間にか俺の後ろに立っていた貂蝉がにこやかに言う。

ど ち く し ょ う 。 こ れ が シ メ か よ 。

 

貂蝉と華佗は人事担当としては貪欲なようだった。

 

 

⌒゚( ´∀`)゚⌒  \(;>д<)/  (´゚c_,゚` )

 

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「問おう。うぬが儂の だありん か」(冬木に出張中の漢女)
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