ぬこの魔法生活 第25話
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 ◆ 第25話 手記 ◆

 

 

 どうも。時の庭園での戦いが終わった現在、怪しげな色見の注射器を持ったセラスさんから逃げ回っているぬこです。

 

 「はっはー、待ちたまえ猫くん! 今ならどれでも好きなのを選ばせてあげるよ」

 (紫も玉虫色も虹色のも御免被りたいです! ご主人助けてぇー!?)

 「せ、セラスさーん! やめてよー!!」

 

 こんな感じで3人で追いかけっこ状態。

 怪我人もとい怪我猫を労わって下さい。

 そしてその両手の怪しげな物はすぐさま廃棄してください。

 

 「むぅ、仕方が無い。なら執務官殿はいかがかな?」

 「えっ、遠慮する!」 

 「なに、安心したまえ。すぐに、よくなる」

 

 性的な意味ではないのは確定的に明らかである。

 とりあえず、九死に一生を得たぬこは他の医務官の人に普通に治療してもらった。

 どうやら、クロノもエイミィさんに助けられて事無きを得たらしいけど、代わりにアレは他の武装局員たちに投与されたらしい。

 ぬこが部屋から出た後に聞こえた断末魔は忘れる事にする。

 虚な目をして何かを呟きながら、作業に没頭している局員の人たちなんて見てないのです。

 

 

 さて、ぬこ達の扱いなんですが、もう少し状況が落ち着いたら海鳴に帰る事ができるそうな。

 その間はアースラでゆっくりしてくれとの事である。

 ちなみにフェイト嬢たちはこの事件の重要参考人としてしばらく軟禁状態です。

 まあ、軟禁といっても警備の人がいるわけでもなし、自室謹慎みたいなものらしい。

 

 またクロノの話では、フェイト嬢たちも時間はかかるかもしれないけどほぼ確実に無実を証明できるとのこと。

 ぬこやレナさんたちが回収した資料のおかげで順調らしい。苦労した甲斐がありましたな!(主にレナさんが)

 

 

 しばらくのお休みができたのでぬこはアースラでいろいろするのであるが、それはまたの機会にまわすことにする。

 

 

 

 今回は資料とともに回収したプレシア女史の手記をフェイト嬢に見せるお話。

 故に、ぬこの出番は今回はここまでなのである。

 主人公(笑)

 

 

 

 

 

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 あの時の事に後悔は無い……なんて口が裂けても言えない。

 結局、私は最期まで母さんと分かり合えなかったのだから。

 『新しい自分を始める』そう決めたけど、そのスタートは2人……ううん、アルフも含めた3人で始めたかった。

 でも、結局私は母さんにとってアリシアのお人形だったみたい……。

 それがやっぱり悲しくて、悔しくて。もっと、上手なやり方があったんじゃないかって考えてしまう。

 

 「失礼します。フェイトさん、それにアルフさんお話があるのだけれど……少し、いいかしら?」

 「あっ、はい。どうぞ……」

 

 ベッドに腰掛けてアルフの横で思いに耽っていると、ここの艦長のリンディさんがやってきた。

 お話……何のことだろう? と思っていたら、私たちの今後の処遇についてだった。

 まとめると、しばらく拘束されることになるけどほぼ無罪になるらしい。

 その事を聞いたアルフが何度もリンディさんに感謝していた。

 

 「あのっ、ありがとうございます……」

 「いいえ、当然のことをしただけよ。

 それじゃあ、すみませんが、しばらくはここにいてもらうことになります。

 何か困ったことが遠慮なく行って頂戴ね?

 何でも……とはいかないかもしれないけど、できるだけのことはさせてもらうわ」

 

 何か、と言われても、こんなによくしてもらっているのにこれ以上の事は気が引けちゃうな……。

 でもひとつだけ、頼みたい事があったのを思い出した。

 

 私はまだ、あの娘に返事をしていなかった。

 ずっと私の名前を読んでいてくれたあの娘に、友達になろうって言ってくれた、あの娘に。

 

 「あの、あの娘たちに会うことはできませんか…?」

 「あの娘……ああ、なのはさんたちね?

 うーん、本来はおいそれと出歩かせるわけには行かないのよねぇ……」

 「私からも頼むよ……私もまだちゃんとお礼を言ってないんだ」

 「そうねぇ、なのはさんも会いたそうにしていたし……それに、バレなきゃ問題ないしね」

 

 そう言って私たちにウインクをするリンディさん。

 

 「! それじゃあ……」

 「ええ、許可します。でも、もう少し落ち着いてからにしましょう?

 まだちゃんと心の整理、ついてないんでしょ?」

 「はい、ありがとうございます」

 「よかったね、フェイト!」

 「うん……」

 

 あの娘に私の気持ちを伝える。まずはそこから始めようと思う。

 新しい自分を始めるためにも、あの娘と向かい合うためにも。

 

 「……それと、あなたに渡したいものがあるの」 

 「渡したい物、ですか?」

 「えぇ、時の庭園で証拠品と一緒に回収した、プレシア・テスタロッサの手記……」

 「……ッ!」

 「本当にこれをあなたに渡すべきなのか、正直なところ分からないわ。

 少なくとも、時間を置いてから、フェイトさんが自分自身に向き合えるようになった時に渡すべきなんじゃないかって思ってる」

 「………」

 

 母さんの手記……たぶん私の事が書いてあるのだろう……。

 ひどい事がいっぱい書いてあるんだと思う。私は、母さんが望んだアリシアになれなかったのだから……。

 

 「〜〜〜ッ! そんなッ、そんなもの見せなくたっていいよ!

 そんなものを見たってフェイトが傷付くだけじゃないかッ!!」

 「……えぇ、そうね。きっと傷付くことになるわ。でもね、みぃさんに言われたの」

 

 『確かに傷つけちゃうんでしょうね。実際、ひどい事が書いてありました。

 だけど、それだけじゃないってことを知っていて欲しいとも思うのですよ。

 少なくとも、望まれて生まれてきたという事は……知っていて欲しい。新しい自分を始めるためにも』

 

 リンディさんは静かにみぃが言った言葉を伝えてくれる。

 

 「………」  

 「さっき言ったように、時間を置いてもいいのよ?

 もちろん、これを見なくたっていい。それを決めるのはフェイトさん、あなたよ」 

 「フェイト……」

 

 リンディさんが心配そうにこちらを見ている。

 

 正直、怖い。

 

 でも、逃げちゃいけないんだと思う。

 答えを見つけるためにも、自分の行く道を見つけるためにも、新しい自分を始めるためにも。

 これは私がこころで決めたことだから。

 向き合おうと思う。母さんと。あの時やり通せなかったことを。

 

 「……大丈夫、です。読ませてください」

 「そう、決めたのね?」

 

 リンディさんのその言葉に、私は黙って頷く。

 

 「わかりました。……きっとひとりの方がいいでしょう。アルフさん、場所を移しましょう?」

 「……フェイトが決めたことだもんね。大丈夫だよ、フェイトには私がいる。

 もちろんあの娘達だって……だから、がんばってね。私のご主人様」

 

 アルフは私を抱きしめながらそう言って、部屋から出て行ってくれた。

 アルフ、ありがとう。

 

 

 そして、私はそれを読み始めた―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ プレシアの手記 ※抜粋 ◆

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ついに、あの娘が生まれる。これほど待ち望んだことはない。

 ようやく、ようやく私はあの娘に会えるのだ。

 これでまた、二人で暮らせる。アリシア……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 記憶の定着はうまくいってる……なのに、この娘はどうやらアリシアではなかったようだ。

 アリシアの記憶を持っているみたいだけど、どうにも違和感がある。

 意図的に組み込んだ魔力資質はともかく、利き腕は逆だった。

 性格もこの子はアリシアと違ってどちらかといえば内気のような気がする。

 

 やはり、別の存在に上書きすると言うのは無理だったのか。

 結局、私がやってることは生命への陵辱に過ぎないということか。

 

 これまでの事は全て徒労となったのか……目の前が真っ暗になり膝から崩れ落ちそうになる。

 それを見てあの娘は心配そうに駆け寄ってきた。舌足らずな言葉で大丈夫って泣きそうな顔をして。

 ふふ、そんな顔はよく似ているのにね。

 大丈夫よと言ってなでる。ふにゃ、と笑いながら受け入れてくれる。

 

 そういえば、アリシアはいつだったか妹が欲しいって言ってたわね。

 この娘ならきっとやんちゃなアリシアに振り回されちゃうわね、と苦笑する。

 

 ……そうね、生み出した私には責任がある。

 この娘は私がちゃんと育てよう。アリシアもきっと取り戻してみせる。

 

 そして今度こそ幸せに暮らそう。

 そんな幸福な想像に思わず頬が緩んだ。

 

 どうしたのって聞いてくるこの娘に、なんでもないと返した所でひとつ思いついた。

 明日は近くの丘でピクニックをしましょう。アリシアといつしか出かけた時のように。

 いつか3人で出かける事のできるそんな素敵な日のための予行演習として……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 今日は久しぶりに外の空気を吸った。

 あの娘は遊び疲れたのか、今は膝の上で寝ている。

 柔らかな金色の髪をなでつつ、柔らかな日差しに目を細める。

 

 そういえば、まだこの娘の名前を決めていなかった。

 いつまでもアリシアと呼ぶわけにもいかない。

 

 

 

 ……フェイト。プロジェクトの名前とかぶるようで癪だけど。

 運命。私があなたを生み出した事。あなたがアリシアの妹になる事。あなたが私の大切な娘であること。

 

 これは偶然なんかじゃない。私は科学者だけど、これは運命なんだって信じたい。

 いつか迎える私たちの幸福への祈り。

 この娘はフェイト。フェイト・テスタロッサ。

 私の大切な娘。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 うまくいかない。

 死者の蘇生と言うのはやはり無理なのか……

 

 いや、きっと方法はあるはず。もう一度、最初から理論を詰めていきましょう。

 リニスに抱かれて、穏やかに眠るフェイトのためにもがんばらなくては。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 無限書庫に赴き、いろんな次元世界の資料を探した。

 けれど、いまだに方法が見つからない。

 何か、何かないのか……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 実験の最中、私は血を吐いて倒れた、らしい。

 らしいというのは、リニスから聞いたからだ。フェイトに見られなくてよかった。

 

 リニスの勧めで医師に掛かった。どうやら私は病を患ったらしい。

 しかし、伏せってなんていられない。

 

 薬で抑えるしかないか……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 リニスからフェイトへの虐待を止めろと言われた。

 虐待……? 何の事だろうか。

 そんな事をした覚えは……

 

 そういえば、最近薬の効き目が薄れてきたように思う。

 病魔の進行が早いせいなのか……ひどく体が痛む。

 鎮痛剤も服用するべきか。 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

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 やはり、見つからない。

 イライラする。

 この憂さはあの人形にぶつける事にする。

 

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 計画の駒として利用してやるための基礎教育が終わったらしい。

 さっそくリニスとの契約を切る。これで魔力に多少ながら余裕が出る。

 あとはアルハザードへの道を開くための鍵が必要だ。何かないものか。

 

 ひどく頭が痛い。あの人形が視界に入るだけでイライラする。

 いっそのこと■してやろうか……

 いや、どうせなら存分に苦しませて、嬲り、辱め、痛めつけ、絶望を味あわせてからにしよう。

 そしてボロ雑巾のように捨ててやればいい。

 

 あの顔が絶望に歪む瞬間が見たい、見タい、見タイ、ミタイ、ミタイミタイミタイミタイミタイミタイミタイ!! 

 

 

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 ついに見つけた。

 あの偏屈な墓荒らしどもも、たまには役に立つようだ。

 『ジュエルシード』これさえあれば……!!

 辿り着けるわ、アルハザードへ!!

 取り戻して見せる! 何もかも!

 

 

 アハハハハ!! ついにあの哀れな人形ともお別れ。

 でも、これで痛めつけるものがなくなってしまうというのも残念だわ、残念ね。

 あんなに嬲り甲斐があって、頑丈なものはめったになさそうだわ。

 そうね、それだけが残念だわ。

 

 

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 役立たず。役立たず。役立たず。役立たず。役立たずッ!!

 本当に使えない。使えない道具ほど無価値なものはない。所詮はまがいものか。

 無能め。無能め。無能め。無能め。無能め。無能めッ!!

 

 

 本当にクビリ■してやろうかしら?

 

 

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 手記 最後のページ

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 まともな思考が残っているうちにここに記しておく。

 

 どうやら、薬の副作用に並行して禁断症状が出ているらしい。

 多量の摂取は精神に異常をきたすようだ。暴力性が増す。

 さらに、この病気も徐々にだが進行しているようだ。

 正気じゃない間にフェイトやリニスに暴力を振るっているらしい。

 あれほど、フェイトやアリシアのためと考えていたというのに……。

 

 本当に最低な母親……いえ、母親なんて名乗るのもおこがましいわね。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんね、フェイト。

 

 それでもやめる事も、止まることもできない私が本当に嫌になる。

 あの娘はきっと私を嫌うのでしょうね。怨むのでしょうね。

 でもその方がいい。私の事なんて置いてどこかでリニスと一緒に暮らしてくれた方がいい……。

 

 いっそのこと私を■してくれても、かまわない。

 

 でも、優しいあの娘にそんな物を背負わせるわけにもいかないわね……。

 本当にごめんなさい。

 フェイト、愛してる。愛しているわ。

 

 

 願わくば、フェイト、私の娘が幸せでありますように。

 

 

 

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 最後のページは涙と血で滲んでいた。

 

 その上に私の涙が重なる。

 私はやっぱり母さんの娘だった。

 母さんも、そう思っていてくれた。

 

 涙が、嗚咽が、止まらなかった。

 私が見た夢は偽物じゃなかった。

 母さんは確かに私を見ていてくれた。愛していてくれた。

 アリシアではなく、フェイト・テスタロッサとしての私を……―――!

 

 

 

 「……母さん、母さんっ、かあ、さんッ!!」  

 

 

 

 ―――忘れません、あなたが私を愛してくれた事を。

 ―――私も、大好きです。愛しています。

 ―――ずっと。いつまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その日から、この手記が私の大切な宝物となった。

 

 

 

 

 

 

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コメント
>コスメントさん 正確には ぬこがシリアスを壊す ×  ぬこはシリアスとかできない ○ だったりしますw(pluet)
ぬこが居ればこの様なシリアスなどぶち壊してくれるはず(コスメント)
>黄金拍車さん ヤメテ! シリアスさんが息をしてないの! って、なっちゃいますからw (pluet)
かゆ・・・うま・・・とかの日記最後を考えた自分は末期だろうか・・・(黄金拍車)
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