就活生と少女
[全1ページ]

うだるような熱気と溢れる蝉の鳴き声の中、1人近所の駅のベンチに腰かけていた。

 

八月にも関わらずスーツを着てネクタイを締め、手には茶封筒を握り締めている。

 

また企業から不採用通知が届いたのだ。

 

これで一体何通目になったろうか。

 

数えるのも嫌になる。

 

僕は同封されていた自分の履歴書を広げ、目を落とした。

 

唇を引き結んだ自分の写真。

 

小さな器をさかさまにして、やっと取り出した自己PR。

 

薄っぺらな自分の、それでも精一杯表現した一枚。

 

それを魂を切り売りするような思いで出し続けた。

 

しかし誰の心にも響くことはなかった。

 

それが当然であることは分かっていた。

 

それでも辛かった。とても辛かった。

 

苦しかった。とても苦しかった。

 

本当に空っぽになってしまった自分の器に、黒く淀んだ煙が立ち込めていく。

 

そして捻じれて、ひびが入っていく。

 

崩壊寸前の前兆だった。

 

願ってはだめだろうか。

 

もう何もかも投げ出してしまいたいと。

 

視界が魚眼レンズを覗いたように歪み、小さな嗚咽が漏れ出す。

 

僕は前を向いていられず、たまらず俯いた。

 

 

 

 

 

、、、、、、どれくらいそうしていたのだろう、いつの間にか空が赤く燃えていた。

 

時間は午後六時。

 

逢魔が時と言われる時間。

 

本当に魔が僕を訪れて、知らない世界に連れて行ってはくれないだろうか。

 

そんなことを考えていた僕は、不意に人の気配を感じた。

 

隣を見ると、そこには小さな女がちょこんと腰かけていた。

 

サクラの花弁の形をした、珍しい髪飾りを着けている。

 

「お兄ちゃん、泣いていたの?」

 

少女は丸い瞳をくるんと動かして尋ねてきた。

 

僕は慌ててスーツの袖で目と頬にあった涙の跡を拭う。

 

「なんでもないよ。」

 

気恥ずかしさを隠すように無理矢理笑顔で答えた。

 

少女は首を傾げて僕の顔を見つめ続け、ふいに立ちあがった。

 

帰るのかと思い少し視線を前に流した時、ふわっと何かが僕の頭に触れた。

 

「泣いちゃダメ。いい子いい子。」

 

少女はそう言って何度も僕の頭を撫でた後、自分の髪飾りをはずして僕に差し出した。

 

「あげる。綺麗でしょ。」

 

どうしていいのか分からずしばらく目の前の顔を眺めていると、小さな手が僕にそれを握らせた。

 

そして少女は微笑んで改札に向かって走っていった。

 

手に残った髪飾りを見て、何故か僕の視界はまた歪んでいった。

説明
文章は短く、内容も特に深いものというわけではありません。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
146 146 0
タグ
少女 就活 

xxxさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com