真恋姫無双〜風の行くまま雲は流れて〜第77話 |
はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です
原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください。
「でてきませんねえ…」
比呂の隣で彼を真似るように腕組をしながら戦況を見守っていた斗詩の言葉に比呂はそうだなと呟いた
注意深く耳を傾けなければ聴き取れも出来なかったであろうその声に斗詩が彼を見やればやはり開戦時から変わらずに魏軍が籠る城を見つめたまま微動だにしない姿が映る
時折にパチパチと瞬きをする以外にその眼に変化はなく
ただ一点、城の、城壁の上にちらちらと揺れる人影を追ってはやはりこれまた変化のない様相を『追い続けていた』
「このまま城門を突破出来たりしちゃって」
規則的に聞こえてくる破城鎚が城門を叩く音に斗詩が口元に手をやり悪戯毛に見上げたところでようやくに比呂の視線が一瞬ちらりと此方に移る
「…ないな」
その否定に何を言うまでもなく斗詩は再び城へと向き直った
彼女とて十分に理解しているからだ、魏がこのまま見過ごすことなどありえないと
が、当の彼らは先の此方の攻撃に臆してか反撃の様相が見えてこない、戦場に木霊するのは袁紹軍の雄叫び、そして
「おりゃあああ、もういっちょお」
城門に一番に張り付いた彼女の親友が破城鎚に跨り部下を鼓舞する声だけである
(らしいっちゃ、らしいけど…)
およそ戦場に似つかわしくない明るい声に頬の肉が緩む
ここが戦場であり彼女が立つのその先、先の攻撃を受けた城壁の上がどのような状態であるかは想像に難くないのだが、こうも反応が無いとどうにも忘れがちになってしまう、戦争中だと
(逃避…なのかな…これも)
今この開戦前と後で明らかに戦に対してある感情が芽生えつつあることを自覚していた
嫌悪だ
戦に対する
「…暇そうだな」
不意の言葉にドキリと比呂を見やれば彼は斗詩ではなくその反対側の高覧へと顔を向け、首を傾げていた
肩越しに高覧をみれば見尻に涙を浮かべている、欠伸していたのだろうとすぐに気付いた
「あ…その」
バツが悪そうに視線を逸らす高覧の肩に比呂が手をやり
「別に無理をすることはない、俺も頼みがあるのを忘れていたのを思い出したところだ」
普段の彼にない、妙に高い声が斗詩の耳に届いた
(これは…また悪い事を思いついたんだろうなあ)
その鉄面皮から感情は見てとれないが内心ほくそ笑んでいることを斗詩は見抜いていた
しかし当の高覧にはそれが理解できていないらしい、途端に「何でしょう?」と満面の笑みを浮かべて比呂を見つめている、経験が浅いと言えばそこまでか
高覧に比べれば幾分かに付き合いの長い彼女は二人に見えぬ所で指を十字に切った
「実は先ほどに矢が尽きた、調達してきてほしい」
ピシリと空気が凍る音がした…ような気がした
無言に頬を痙攣させる高覧の肩を無理やりに城の方へと向け
「…あそこに矢が『沢山』あるだろう?」
城を取り囲むように折り重なった『死体』の山を指さして彼女の耳元に囁く
今朝の戦闘、並びに先ほどの戦闘で物言わぬ兵になったそれには成程、いくつかにそれが刺さっている
比呂の言葉の意味を須らく理解した彼女は全身を震わせながらゆっくりと彼へと向き直り
「で、でも敵前の目の前ですし…」
まるで死刑宣告を告げられた罪人のような目で彼を見上げた
「千本だ…拾ってこい」
高覧の懇願に顔色一つ変えずに比呂が告げる
「この戦の行く末を担う大事な任務だ…貴様にしか頼めん」
『まるで』は撤回するべきであろう、正しくにそれは死刑宣告だと
「ご、御慈悲を「拾ってこい」…はい」
とぼとぼと歩いていく高覧の背中に向け斗詩はただ合掌するのみだった
「さて、反応してくれるといいのだが」
腕を組み直し涼しげに前方を見やる比呂に斗詩も佇まいを直し同じく城へと視線を戻した
「でも…意外に敵方も冷静なようですけど」
「見定めているのさ…あそこだ」
比呂が促す先には城壁からひょっこり顔を出した二つの影
「目ぇ良いですねえ」
よくも気付いたものだ感心する彼女
「此方の意図を読もうと見定めているのだろう…ご苦労なことだ」
「でも…昨夜は此方の罠を看破されたわけですし」
口に出してから『しまった』とばかりに恐る恐る比呂を見る斗詩だがその眼に映った比呂は余裕ありありとでもいうかのように笑みを浮かべていた
「桂花が読んでいたのは渓谷での挟撃とそこに悠がいるということまでだ…肝心の…『悠が何故そうしたか?』を見抜いてのことじゃない」
ハッと短い笑い声を上げさも自信あり気に目を細める比呂
桂花…しばらく前に袁家を出奔した彼の幼馴染の名前だ…先のそれは『田豊』という人間を読まれての事だったのだと今ようやくに彼女は理解した、しかし
「なら、尚更に」
同時に今し方の自身の抱いた嫌悪感の理由にも気付いた、また大事な人が居なくなってしまうかもしれないという恐怖に
「だから俺がいる、心配はいらん」
俯いた彼女に聞こえたそれが此方の心の内を読んでのものだと気付き思わずに笑みが零れた…と、それまで破城鎚が鳴らしていた音とは別の轟音が辺りに響いた
「あれが投石機とやらか?」
「…そうです」
城門の正に目の前、土煙が上がる其処に見えたのはおよそ人の倍はあろうかという巨岩
突然に降ってきたそれに騒然となる前線部隊に続いて次々と矢が降り注いだ
「城門に取り付いた兵を一掃しろ」
矢が届かぬ此方にも届いたその声に彼は肩を揺らして笑った
そして彼らの前に走ってくる一つの影
「こ、工作隊が攻撃を!」
胸に抱えるように矢を抱いて走る高覧
「それで何本拾ってきたんだ?」
普段に二割増しに低い声にあわわと
「や、その…何分一人で抱えるにも限度がありまして…その…三十本しかまだ…」
「上出来だ、お手柄だな高覧」
「…はい?」
頭上に?マークを浮かべる高覧から矢を受け取り矢筒に収めると比呂が斗詩へと振り向く
「投石機の弾切れまで頼めるか?」
時間を稼げというその言葉に斗詩が頷くの確認すると同時にすたすたと城へと向け歩きだす比呂
その後ろ、今だ状況が飲み込めずにキョロキョロと二人を交互に見やる高覧に今度は斗詩が彼女へと命じた
「高覧、前線の文ちゃんに兵を取り纏めるように言ってきて、もう何度か岩が飛んでくるからその陰に隠れるようにって」
「え?あ、はい、いや…でも何で」
その『何で』が理解できぬ彼女に頬笑み
「高覧が矢を拾ってくれてたおかげで向こうが乗ってくれたの、『今なら攻撃しても大丈夫だって』」
まったくもって理解もできない彼女が首を傾げる毎に頭の上の?マークがいくつも現れては揺れた。その姿に深いため息を吐く斗詩、説明しても無駄かと
「…まあとりあえずいいや」
「は?え?」
目をぐるぐると回しながら走る高覧の前を走りながら斗詩は感心しきりだった彼と、彼の親友に
よくもこうも知恵が回るものだと
「敵わないなあ…もう」
「撃て、撃て、撃てぇ!」
これまでのお返しとばかりに矢を放つ城壁の上
秋蘭は自身の部下が矢を放ち再びに構えるまでに三本の矢を放っていた
先程に城のすぐ傍で矢を拾っていた高覧のそれは袁紹軍が城門の攻撃を開始した理由を明確にしていた、足りないのだ、唯一の攻撃手段であったそれが
更に城門へと取り付かんと増えた袁紹軍の頭上へ秋蘭のその後ろ、城壁を挟んで内側から巨大なそれが唸りを上げて着弾する
その周辺を巨岩に囲まれ、または押し潰されて身動きの取れぬそれは格好の獲物に相違なかった
思わずに馬鹿目と悪態が突いて出る
口元に浮かぶ嘲笑を抑えることなく十七本目の矢を構えたその時
風を切る音とともに彼女の隣で矢を射っていた兵が後方へと倒れた
彼女が今だ矢が飛んできたことに驚き、それを理解するまでの一瞬、ほんの一瞬に彼女の周りにいた兵の既に六人目が声を上げることもなく絶命していた
その全てが
『左目』に
矢を受けて
それが何を示すのか理解し、外へと向きやった彼女の『左頬』を風が切り、とろりと一筋の血が流れた
まるで、否、確実にそこを狙ったのだ
「き…きさ…ま」
もはや全身の震えが止まらぬ彼女の視線の先、優雅に黒髪を風に靡かせ
自身の『左目』を指さす男の姿
「おのれえぇ!」
次々と放つその何れもが男を通り過ぎるかのように地面へと突き刺さる、怒りが彼女の手元をほんの僅かに鈍らせていた
地面に刺さった幾つもの矢を見下ろしたその男は尚も挑発するかのように彼女を見上げ、その口元がゆっくりと動いた
戦場の喧騒に聞こえぬ程の声も
彼女にははっきりと聞き取れた
「流れ矢に当たる
間抜けな姉上は息災か?」
次の瞬間
彼女は城壁のその高さをものともせずに飛び出していた
城壁の上から戦況を見つめていた風と稟がそれを理解したのは比呂の足元で蹲る秋蘭のその姿を確認した時だった
田豊はこれが目的だった、玉を引きずり出さずとも戦に勝てる事を知り
それが尚更に、魏軍であればこそと
渓谷に罠を張ったのは『彼女達』を捕えるため
城に籠らせたのは『彼女達』を見せつけるため
「…精々に大袈裟に鳴いてくれ」
あの男に聞こえるように
組み敷いた彼女の腕を踏みつけ、体重をかけていく
不意にボキリと乾いた音とともに彼女の叫び声が響いた
その声に満足げな表情を浮かべ城壁へと視線を移す
『彼』へと
城壁の上にあって其処は騒然としていた、成程、ようやくに此方の意図に気付いたか
彼と彼を取り押さえる無数の影に鼻を鳴らし、今度は自身の声が聞こえるようにと息を大きく吸い込んだ
「降りてこい天の使い!貴様の女が死ぬぞ!」
一瞬の静寂の後、再びに暴れるその影達の叫ぶ声が比呂に届いた
「放せ!放してくれ!」
「それが向こうの狙いだと言うとるやんか!」
「お願いです!自重してください!」
降りてこれる筈が降りれずにいるその様から『彼の能力』の分析も出来た
(あの男に跳躍の力は『無い』ともすれば…)
彼が取り押さえられながらに抜かんとしているあの『刀』であろう
(抜かねばその効力は無い…か)
しかし、それでは今度は彼が困る、降りてきてもらわねばならないのだ『彼と彼の刀』の力をもってして
もう少し頑張ってくれよという期待を乗せ、再びに息を吸う
「そうやって何時まで女の尻に隠れているつもりだ?貴様それでも男か?」
「はなせえええええええ!」
これまでに彼女等が聞いたこともない程の彼の絶叫が木霊した
つづく
説明 | ||
またまたこっそり またあしたから仕事がんばるぞ(遠い目) |
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コメント | ||
皆様コメント有難うございます。昨年、一昨年のコメントに今更の返信というのもあれですがちょいと頑張ってみます。(ねこじゃらし) ここまで一気に読みました^^続き待ってます。(ロックオン) ここで終わりかあ。ぜひとも続きをお願いします。(Daisuke) 続きが楽しみです(ヒナたん) >「そうやって何時まで女の尻に隠れているつもりだ?貴様それでも男か?」 これすごく思ってた(ぽとんふ) 追いついたのに続きがががが(がるでにあ) ようやく追いつけました。続きを楽しみにしています^^(アーバックス) 更新お疲れ様です。ある人は言いました。 『明日から頑張るんじゃないっ!今日だけ頑張るんだっ!(物凄く遠い目)』(thule) 更新お疲れ様です! 前回『例え敗北しか見えずとも〜』なんて書いてしまいましたが……これはまさか考えを改めなくてはならないのでしょうか。『力』を持つ『彼』を相手に何らかの対策があるのでしょうか。さすがは比呂さん、ある意味一人で袁家を取り仕切ってきただけありますね……。(R.sarada) |
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