IS インフィニット・ストラトス 〜転入生は女嫌い!?〜 第四十四話 〜作戦開始〜
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ブリーフィングから一時間後、クロウと一夏、箒の三人は旅館から一番近い砂浜に─に並んで立っていた。空には雲ひとつ無く、日本晴れという言葉がピッタリだった。三人の耳に千冬からの通信が入る。

 

≪作戦開始十分前だ、各自ISを展開しろ≫

 

「行こうぜ、ブラスタ!!」

 

「来い、白式!!」

 

「行くぞ、紅椿」

 

三人が名前を呼ぶと、それぞれの体が光の粒子に包まれる。次の瞬間、砂浜には銀、白、紅が並び立っていた。無事ISの展開を完了したクロウ達の耳に再び通信が届く。

 

≪各員、機体の最終確認をしろ。予定時刻になったらこちらから伝える≫

 

「さて、という訳だ。お前達もしっかりやっとけ」

 

二人に声をかけてクロウもブラスタのコンディションの最終確認を行う。二人もクロウにならって機体の確認を始めた。

 

(今回の俺の仕事は一夏達の護衛だ、紅椿のスピードについていくのは問題ない。だが、むしろ問題はそれ以外だろうな……)

 

そう、ブリーフィングの時に考えていた懸念は今もクロウの頭の中に残ったままだった。あの後からずっと考えていたのだが疑念は小さくなるどころかどんどん大きくなる一方で、クロウの勘は“何かが起こる”と告げていた。思考中のクロウに千冬の声が届く。

 

≪クロウ、少しいいか?≫

 

「何でしょうか、織斑先生」

 

≪まず言っておく、この通信は((秘匿回線|シークレットチャネル))だ。誰にも聞かれないから普段通りの口調で構わん≫

 

「そうか、んで何だ?」

 

≪単刀直入に言う、篠ノ之の様子がおかしい事には気づいているな?≫

 

「……ああ」

 

そう言ってクロウは二人の方に目を向ける。一夏と箒は自分のISの調整をしながら話をしていた。

 

「箒、大丈夫か?クロウも言ってたけど初めての専用機でこんな事……」

 

「不安なのか?大丈夫だ一夏、お前は私がきっちりと送り届ける。大船に乗ったつもりでいるがいい」

 

「箒……」

 

先程からこの調子である。いくら一夏が注意の言葉を箒に投げかけても、当の本人は気にもとめない、全く話を聞かなかった。いつもの篠ノ之 箒を知っている人物がこれを見たら十人中十人何処かおかしいと判断を下すだろう。

 

「箒はうわついている。おそらく自分の専用機が手に入ったのと一夏と同じ立ち位置になれたからだろうな」

 

≪一夏にも先程、篠ノ之の手綱をしっかりと握っておけと言っておいたがお前も頼むぞ。言わなくても分かっているかもしれんが作戦の性質上、一旦戦闘空域に上がってしまえば増援は送ることが出来ないからな≫

 

「大丈夫だ、子供のお守りは始めてじゃないんでな。きっちりやってみせるさ」

 

≪そうか、それでは頼むぞ。無事で戻ってきてくれ≫

 

そう言って耳元から一旦千冬の声が途切れるが、再び((開放回線|オープンチャネル))で千冬の声が届く。

 

≪全員聞け、作戦開始五分前だ。作戦の最終確認を行う≫

 

三人は神妙な面持ちで千冬の言葉に耳を傾ける。特に一夏は作戦のプレッシャーからだろう、顔が強ばっていた。

 

≪今作戦の目的は福音の行動停止。攻撃に参加するのは篠ノ之 箒及び織斑 一夏、クロウ・ブルースとは周囲の警戒と不測の事態にあたれ。接敵予想ポイントはそこから2km先の海上だ。ブルーストは単独で、織斑はエネルギーの関係上篠ノ之の機体を使用して当該空域まで移動。その後は織斑と篠ノ之にて共同で福音を行動停止に追い込め。織斑の攻撃が一番効果的だ、いいな?≫

 

「了解」

 

「「はい!!」」

 

≪それでは三人とも、準備に入れ≫

 

その声に従う様に、一夏が箒の背中に乗る。白式のエネルギーを節約する為に、一夏は福音の位置まで箒に運んでもらう手はずだった。

 

「本来なら、女の上に男が乗るなど私の矜持が許さないが今回は特別だぞ」

 

「分かってるって、箒も十分に気をつけろよ?」

 

「ああ、大丈夫だ。一夏もだぞ?」

 

やり取りを聞く限りでは何も問題は無い様に感じるが、話している最中も箒は戦闘前にも関わらず笑っていた。その顔に更なる不安を覚えるクロウ。

 

(何が起ころうと、こいつらはやらせねえ)

 

心にそう誓いながら、バイザーを目元まで下ろす。三人は何時でも飛べる状態で作戦開始を告げる千冬の声を待つ。数秒後、千冬の声が耳朶に響いた。

 

≪作戦開始時刻だ。各員、作戦開始!!≫

 

その声を聞くと、三人は砂を巻き上げながら一気に大空へ飛翔する。まず福音と同じ高度まで上昇するが、クロウは紅椿の性能に感心していた。

 

(へえ、中々早いじゃねえか)

 

飛行速度はブラスタと比較すればまだブラスタの方が勝っているが、クロウが知っている最新鋭とも言える国家代表候補生達の機体とは一線を画した物だった。あっという間に予定高度まで上昇すると、箒が加速の体勢に入る。

 

「行くぞ一夏、振り落とされるな!!」

 

「お、おう!!」

 

バシュッという音を立てながら、紅椿の装甲が展開されていく。そこから燃焼させるための空気を取り込みながら、クロウにも声をかける。

 

「クロウ、しっかりと私についてこい!!」

 

「ああ、思いっきり飛ばせ!!」

 

「行くぞ!!」

 

その瞬間、紅椿が弾丸の様なスピードで大空を飛ぶ。クロウも紅椿に置いて行かれないよう、背部スラスターを一気に吹かして飛び続けた。すると数十秒後、何もなかった空にぽつんと一つの黒い点がクロウの目に映った。

 

「一夏、箒、福音を確認した!仕掛けろ!!」

 

「ああ!!」

 

「一夏!このまま突っ込むぞ!!」

 

箒が叫ぶと、更に紅椿の速度が上がる。一夏は雪片弐型を展開、それと同時に零落白夜を発動させた。白式がエネルギーに包まれ、雪片の刀身がスライドしてエネルギーの刃が形成される。

 

「うおおおおっ!!」

 

箒の背中から飛び降りて福音に斬りかかる一夏、当たればそこで作戦完了の一撃は無防備な福音の背中に迫った。しかしここで福音が驚きの行動をする。

 

「「!!」」

 

「何だと!?」

 

何と福音は一夏に背中を向けたまま雪片を見る事無く空中で一回転して刃を避けた。一夏と箒は攻撃を避けられた事に、クロウはその機動性能に驚きを隠せない。一夏は突撃の勢いを殺しきれず、そのまま福音を通り越して飛んでいき、箒も雨月と空割を展開して福音に斬りかかる。

 

(何だあの運動性能、いくらISでもあんな動きをしたら操縦者に負担がかかる。完全に暴走しているか、考えたくないがもしかすると外部から操作されて無理矢理ああされている可能性も……)

 

クロウもEAGLEを構えて遠距離からの援護射撃を行う。退路を塞ぐように狙撃を続けるが、肝心の一夏と箒の攻撃が全く当たらない。何故か相手は手を出さずに回避に専念し続ける。

 

≪クロウ!どうすんだよ!?≫

 

「二人とも聞け。次に俺が狙撃で追い込むから合図したら同時に攻撃しろ、一発で決めるぞ」

 

≪了解!!≫

 

二人に指示を下した後、クロウはEAGLEのスコープを覗き込み、照準をつける。集中力を高めて、静かに引鉄を引く。

 

「まずは牽制…」

 

EAGLEが吠え、二発の弾丸が発射される。福音は紙一重でその弾丸を避けるがクロウはそれすら予想していた。

 

「誤差修正……」

 

クロウはゆっくりと、覗き込んでいるスコープの中心部に福音を捉える。一夏と箒はクロウの放つ一撃に合わせて攻撃する為に加速の準備をしていた。集中力が極限まで高まった中で必中の一撃を放つ為に引鉄にかけた指に力を入れる。

 

「本命はこ──」

 

≪Pi──Pi──Pi──≫

 

「何っ!?」

 

決め手をクロウが放つ瞬間、ブラスタから警報が鳴った。直感的にクロウは狙撃を中断、背部スラスターの出力に物を言わせて一気にその場から離脱する。次の瞬間、先程までクロウがいた位置に白色の光線が走った。

 

≪クロウ、大丈夫か!?≫

 

クロウはブラスタを反転させてレーザーが来た方向を睨むと遠い空に五つの黒点が見えた。徐々に大きくなっているそれは、正体は分からないが十中八九敵だろうと当たりをつけたクロウは、ブラスタを通常弾に切り替えながら空域を離脱する。

 

「こっちは気にすんな、お前達はそっちを頼むぜ!」

 

≪了解だ!行くぞ一夏!!≫

 

≪おう!!≫

 

二人の声を耳に受けながら((未確認機|アンノウン))に近づいていく。相手との距離が50m程に縮まった時、敵の姿がはっきりと見えてきた。

 

「おいおいマジかよ……」

 

その敵機はいくつかの点を除けば4月に学園を襲ってきた無人ISと似たような外見をしていた。異なる点としてまずは下半身がスカート状のスラスターに換装されている事。右腕が砲身に、左腕は両刃の大剣に換装されている事だった。それ以外は背部が少々肥大化している位で特に変わりはなく、頭部に複数個設置されているレンズでクロウを捕らえている。

 

(まさか前回の乱入者と似たような機体とはな、バックにいるのは前回と同じ奴か?)

 

先手を取るべく、クロウはEAGLEによる射撃を開始する。五機の敵機は散開して、クロウを包囲する形を取った。

 

「数が足りなきゃ増やせばいいってか?」

 

軽口を叩きながら、手近な一機にバンカーによる斬撃を仕掛ける。敵も左腕の大剣で迎え撃ち、鍔迫り合いとなる。すると何故か他の敵機は攻撃に参加せず、その内の二機が何やら背部から小さい球体を射出し始めた。その行動に不安を感じたクロウは目の前の敵機に蹴りを入れて引き離して、球体を射出中の無防備になっている敵機へ銃による攻撃を仕掛ける。

 

「……やっぱそう簡単にはやらしてくれねえか」

 

球体を射出している敵機に向かって銃弾を放つも、あっさりと避けられる。射撃をしていたクロウに向かって、先程蹴りを食らわせた敵機が接近して再びクロウと鍔迫り合いを繰り広げた。

 

「うおっと!!」

 

しかし今度は周りの敵機からの援護射撃がクロウに向かって放たれる。慌てて距離を取ろうとするクロウだが目の前の鍔迫り合いの相手である敵機がそれを許してくれない。距離を取ろうとするとスラスターを勢い良く吹かせて距離を詰める。数十秒間、離しては詰められ、離しては詰められるという状況が続いた。いつの間にか一夏達とは大きく離れてしまったのだが、クロウはもっと重要な事について考える。

 

(さてと、まずはこいつらを片付けないとな。取り敢えずさっきの丸いのは一体何だ?)

 

先程敵機は射出した球体はクロウ達を取り囲むように空中を漂っている。今も動きに合わせて空中を滑るように移動していた。

 

(……やってみるしかねえか!)

 

クロウはブラスタのスラスターを吹かせ、敵と距離を取る。そして今度は敵に向かってではなく、空に浮かぶ球体に向かって発砲した。だが、その行動の結果はクロウの予想を遥かに上回る物だった。

 

「何だとっ!?」

 

銃弾が当たった球体は一瞬強い光を放ったかと思うと、爆発した。誘爆はしなかったがそれなりに大きい爆発にクロウは驚く。

 

(おいおいマジかよ?あんな爆発、いくらブラスタでもそんなに耐えられねえぞ)

 

そう考えつつ、クロウは自分の周囲を見渡す。周囲の空中にはクロウを包囲するかのように上下左右に敵IS、クロウを中心に立体的な円を描くようにして球体がクロウを取り囲んでいた。

 

(囲まれちゃいるが、敵はバラけている。だったら目の前の奴から!)

 

クロウは一体ずつ片付けようとバンカーとEAGLEを構え直し、目の前の敵機に突撃を仕掛ける。だが敵はクロウと切り結ぶ事なく後退、それに合わせて他の四機がクロウに接近してくる。

 

(何だこいつら?動きが急に──)

 

一瞬クロウが訝しむと同時に、クロウに近づいてきた四機が先程の球体と同じく内部から輝きだした。しかもおまけとばかりに周囲の球体がクロウに接近する。

 

(マズイ!これはっ!!)

 

急いで離脱しようとするが間に合わず、四機と球体はクロウを巻き込んで同時に自爆した。海上に爆炎が立ち込める中、残った敵機が静かに黒煙を見つめる。

 

説明
第四十四話です。
ここから数話、クロウに似つかわしくない言動があるかもしれません。
ご了承ください。
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タグ
IS インフィニット・ストラトス SF 恋愛 クロウ・ブルースト スーパーロボット大戦 ちょっと原作ブレイク 主人公が若干チート ハーレム だけどヒロインは千冬 

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