超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第32話
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協会を出て一行はかなりくたびれた感じで各々背伸びをしたり、肩を回したりとしている。

傷もすっかり癒えて、とりあえず目先のことからとプラネテューヌのモンスターを掃討していっているわけだが、何故かここ数日でモンスターの数は急増する一方で、いくら倒してもキリがなくはっきり言ってかなり面倒くさい事態に陥っていたわけである。

「ハァ……こりゃプラネテューヌのモンスター片付けるだけでも相当時間が居るんじゃないのか?」

いくら百戦錬磨とも呼べるべき戦闘力を持つテラであってもこの状況は流石に辛いか、溜息を吐きつつそう漏らす。ここ数日、休むことなくモンスター退治に明け暮れていた一同にとって最早、この程度の問題はただ体力と時間を消耗するだけの問題となってきている。

「やっぱり本丸を攻めに行った方が楽なんじゃない……? モンスターの元凶を断てば目処も付くわよ」

アイエフが少しばかりくたびれた声で答える。確かにその意見には賛同できるモノがある。

一同は顔を見合わせて仕方ないとばかりに溜息を吐く。

「だよねー……やっぱりマジェコンヌの問題の方が先な気もするんだけどね……」

ネプテューヌはチラリと横の3人に視線を送る。

ノワール、ベール、ブランの三人は出かかった言葉を押しとどめて不承不承頷く。

「確かに、大陸の人達のことを鑑みれば早急に何とかしたいわよね……」

「そうですわね……。マジェコンヌさんがいる限り、コトは収まらないわけですし……」

「じゃあ、相手の本拠地に攻める……?」

ブランの問い掛けに、一同は顔を見合わせた後に、小さく頷いた――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「シンカイにいく――ですか?」

多少なりと衝撃的だったらしいイストワールは落ち着いた表情で、しかしその声は少しばかりの動揺の色を秘めて声を発した。

人間形態となり、本と分離した形で恐らく記述に目を通したのであろうイストワールはいつもの通りに本に腰掛けて一同の方へと身体の向きを変える。

「ずいぶんキュウなハナシですが……」

「まあ、な……」

テラはなんとも歯切れの悪い答えを返した。冷や汗を浮かべてポリポリと頬を掻く。

「ここ数日モンスター退治をしてきたのはいいけど、やっぱりきりがなくてな……」

「それでゲンキョウであるマジェコンヌをたおしにいく、と?」

自分たちの考えていたことをズバリと言い当てられて一同の表情に少しばかりの動揺が走る。

イストワールは「ふむ……」と小さく声を上げて考え込むように顎に手をやって一点を見据えて暫く押し黙った。

……何故だろうか、少しだけ寂しげな表情をしているようだった。

「わたしはかまいませんが、みなさんはそれでいいのですか?」

黙考を終えたイストワールが全員に問い掛けるようにずらりと並ぶ一同を見回す。誰一人、迷うことなく首を縦に振る。

それを確認したテラは決意を込めた瞳でイストワールを見据えて口を開く。

「これ以上、マジェコンヌの横暴を見逃せない。守護神として、止めに行く」

そこまで言ったところで、テラは背後のコンパとアイエフに視線を向ける。

キョトンとした表情を浮かべるコンパとアイエフに近付いてそれぞれの肩に手をやってテラは問い掛ける。

「……何よ?」

「何ですか?」

テラは、少し迷った風に間を開けた後に重々しく口を開く。

「守護神の力はとてつもない。巻き込まれたら、普通の人間なら最悪死ぬかもしれない。それで、お前達はどうする?」

いくら、今までの激戦を乗り越えてきたとはいえ、この娘達は普通の人間。マジェコンヌもきっと本気で自分たちを撃ちに来るだろう。

だとすれば、真っ先に危険が及ぶのは――そんなことは分かりきっていた。

「俺としては、このまま下界に残っていて欲しいんだ。これ以上、俺達の事情で危険な目に遭わせたくないからな……。でも――」

テラがそこで一度、間をおいたときにアイエフは口を開いた。

「私達がそこで押しとどまるなんて思ってない、でしょ?」

「流石だな」

「どんだけ一緒にいたと思ってるのよ」

テラは肩をすくめる。

コンパもアイエフと同じく自信満々の表情で答える。

「ここまで来たら最後まで付き合うです。一緒にマジェコンヌさんをやっつけるです!」

そんな彼女を苦笑気味で見て、テラは彼女の頭を撫でる。

「そうか。なら、俺からは何も言わねえ」

テラは後ろの4人に視線を送る。4人とも、微笑を携えて頷いた。

「だよな」

テラは納得したように小さく声を漏らした。

そしてイストワールの方に身体の向きを変えて小さく頷いた。

イストワールも納得したか、こくんと頷く。

「ではいきましょう! シンカイへ!!」

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

プラネテューヌの大陸の端に位置する今や誰も足を踏み入れることのない離れ小島。

手入れの行き届いていない植物たちが鬱蒼と生い茂っている、と思えばそれがぱったりと止んで辺りには紫色の毒々しい色を帯びた沼地になったりと、非常に景色の激しい小島である。

しかし、その中心とも呼べるべき位置には誰が築いたのか、非常に高度な文明が見て取れる遺跡のような建物が佇んでいる。

一見すると、塔のように高くそびえている。

しかし、一歩中に踏み入れれば、そこにはまるで何かの宗教で使用されるような礼拝堂のような並びになっている。

モンスターの気配も無し、代わりに何かとてつもなく邪悪な気配が辺りに漂っている。

ここ数年、人々が侵入した形跡もないのにこの設備はまるで新品同様にキラキラと光沢すらも放っていた。

「ここが?」

「はい。シンカイへとつづくミチ、そのいりぐちです」

イストワールに連れられて一同はその礼拝堂らしき建物の一番奥手に案内された。

そこには金色の一目見ればオブジェクトのような扉、とも言い難い不思議なモノの前に立たされた。

「これは何なの、いーすん?」

「これがトビラです」

「随分と簡易的な扉ね……」

ノワールが軽く拳で叩く。コンコンと軽い金属のような音を立てて再びその扉は沈黙を守る。どうにも腑に落ちないような空気が流れたため、イストワールは慌てたように声を上げる。

「で、では、もってきた『エイユウのブグ』をかかげてください」

イストワールの指示通り、ネプテューヌ、コンパ、アイエフ、テラの4人が扉に向けてそれぞれ武具を構える。

それぞれが赤、青、緑、黄の光を発して扉にその光が一筋向けられる。

ゴゴゴ……と重々しい音を立ててその扉はゆっくりと左右に開いていく。

一同が顔を見合わせた後に、テラが先頭切って扉の中に足を踏み入れる。

少しばかりの風を感じ、テラは両腕で顔を覆う。目映い光がテラの身体を包み、視界を奪う。

一歩、また一歩と足を踏み入れていつの間にか無くなっていた光を確認してテラはそっと目を開ける。

穏やかな緑が蔓延る手入れのなされた美しい庭。厳然たる雰囲気を醸し出し、いつ見てもそれは色あせることなくずっとその場に綺麗と呼べる白を映した大屋敷。空には相変わらずの青空が広がり、時折小鳥のさえずる音のみが響いている。

テラには見覚えがあった。いや、記憶があった。思い出があった。

「ここは――」

テラだけでない、ネプテューヌも、ノワールも、ベールも、ブランも。

幼き日を過ごしたあの、皆で過ごしたあの屋敷が、瞳の奥に映し出されていた。

「ちょっと、待て! イストワール!?」

背後から遅れて付いてきたイストワールにテラは怒号を飛ばす。

「どういうことだ?」

テラの記憶では、ここは神界と下界の狭間に位置する、つまり神界とは別世界のハズであった。

しかし、彼らはイストワールに協力を申し出て『神界』へ向かうはずだった。

「……マジェコンヌのシワザでしょう」

「マジェコンヌが?」

「はい。おそらくマジェコンヌはハザマのセカイをシンカイにハンエイさせたのでしょう。だから、シンカイはいまこのようなケシキをうつしている……」

何故、彼女がこのような行動に出たのかは彼らには理解できなかった。ただ、これが自分たちの動揺を誘うための行動だとすればまさしくしてやられたとテラは思う。

「っ……俺達の因縁を終わらせるには絶好のスペースってことかよ……」

テラはきゅっと歯噛みする。

忘れられるはずの無かった大切な場所。思い出の場所。

すべてが始まった場所。

「懐かしいね……」

ネプテューヌは庭の一角に配置されているテラスに視線を向けた。

それにつられて、一同もそちらに視線を向ける。

以前のままの姿で、白いテーブルとチェアが配置されて、変わらない姿でそこにジッと佇んでいた。

「ここか……」

思わずテラも感極まった声を上げる。全ての始まり、テラ自身が彼女たちと生きようと感じた、決意した場所。

当時の面影がそのまま残るテーブルを指先で軽くなぞり、テラは思わず吐息を漏らす。

「アンタら……思い出にふけるのもいいけど、私達が何しに来たか分かってるの?」

半ば呆れ気味にアイエフが声を上げる。

しかし、ベールは苦笑を交えて弁明する。

「でも、私達にとっては生まれ故郷みたいな場所なの。もう少しゆっくりさせて、ね? あいちゃん」

「う……」

ベールにそう言われてアイエフは少したじろぐ。

「仕方ないです。ねぷねぷ達にとっては里帰りですから、もう少しゆっくりさせてあげるです」

コンパのマイペースな意見を聞きつけてアイエフは一層大きな溜息を吐いた。

「……ここ」

ブランはその真横の地べたに腰を下ろして空を見上げた。

テラもその横に腰を下ろし、同じように天を仰ぐ。

「ここ、お前好きだったよな」

「……ここは日当たりもいいし、天気がいいと気持ちいい」

ブランは、照りつける仄かな太陽光に目を閉じて気持ちの良さそうに表情を綻ばせる。

それを見ていたノワールが微苦笑を浮かべて二人に近寄る。

「二人とも、ずっとそこにいて倒れたことあったわよね」

「む……苦い思い出だ」

テラは視線を反らす。

「だよな……そんで怒られて……怒られ……?」

そこで初めて気付いた疑問にテラは立ち上がり、イストワールに視線を向けた。

「イストワール……アプリコは? あの人は何処に行ったんだ?」

5人にとっては育ての親とも呼べるべき、彼女の存在が妙にテラは気がかりとなった。そういえばと、残る4人もイストワールに視線を向けるが、イストワールは俯き、重々しく口を開いた。

「亡くなりました。もう数百年も前に……」

「そっ、か……」

当然と言えば当然である。いくら神界と下界を行き来することの出来る特別な存在だからと言っても所詮は人間。寿命だってある。

一様に顔を伏せてしばらくの悲しみにうちひしがれる。

「このセカイに、カノジョのボヒョウがソンザイします。いきますか?」

是非もない、テラは大きく首肯した。

 

 

先程のテラスとは正反対の位置に、墓標は存在していた。

小さく、ぽつんと悲しみさえ覚えてしまうような孤独な様相であった。

「何で……」

「カノジョがここがいいといったのです。ですから……」

イストワールはすとんと身体を地面に降ろして墓標の前に座り込む。

テラは表情を悲観に染めて膝を突いた。

「ゴメン……」

小さく、呟いた。

結局、自分は彼女に何もしてやれなかった。

彼女に悲しみだけを与えて、結局何も与えてやることは出来なかった。

自責の念と後悔が浮かぶ。

彼には、彼女たちにはただ祈ることしかできなかった。

せめて、せめてあの世では幸福でいて欲しい、と――。

その願いだけを込めて、一同は暫しの間、祈り続けていた。

 

「フン、いつまでも過去に頼る軟弱な者共め」

嘲笑を浮かべ、いつの間にかマジェコンヌは一同の背後に立っていた。

「久しぶりだな。お前達」

テラは、いやテラだけでない皆、拳を握り、全ての元凶たる彼女を睨んでいた。

しかし、それすらも弄ぶようにマジェコンヌは小さく声を漏らして笑う。

「逃げ出した腰抜けの守護神共が私に敵うと思っているのか?」

マジェコンヌは武器である杖を構えてククク……と喉を鳴らして不敵に笑う。

「敵うさ」

テラは低い声音で答えた。右手に握られていた大剣の柄がギリギリと音を立てるほどに握りしめられてテラはそれを肩に担ぐ。

その間に、守護神全員が守護神擬人化形態へと変身して武器を構える。

コンパとアイエフもそれぞれの武器を構えて戦闘態勢を取る。

「私に挑むなどということがどれだけ愚かな行為か、その身にしかと焼き付けるがいい!!」

マジェコンヌは構え、隠していた気を惜しみなく放出させた。

 

 

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いつの間にか、周りに広がっていた屋敷の景色はなく、どこか神々しさすら放つような城のような建物の風景が広がっていた。

「ここだっ!」

「ッ!」

守護神のようにプロセッサのような装備を出現させたマジェコンヌが

右手だけでなく、つかの間に左手にも構えられていた小さな棍棒のような装備でテラを叩く。

いくら防御性の高い大剣と言っても守護神全員の力を集約した先代女神の力にはテラも苦戦を喫するのか表情を歪めて鍔迫り合いを繰り広げる。

「テラ、退け!」

ブランが背後からマジェコンヌにめがけてハンマーを振り下ろす。ガキン! と金属音が響くと同時に濛々と砂煙が舞い上がり、巨大な体躯を持つサイクロプスが同じく巨大な斧でブランのハンマーを防いでいた。

「んなっ!」

一瞬、呆気にとられたブランが脇から狙うティアマットの姿を捉えた瞬間にはブランの華奢な身体は吹き飛ばされて壁に叩き付けられる。

「ブラン!?」

「貴様は己の身を案じるのだな!」

マジェコンヌは左手の棍棒をもう一度振り下ろし、テラは地面に強かな身体を打ち付ける。

「がっ、は――!」

痛みに表情を歪めて思わず目を閉じる。正気に戻り、もう一度目を開けたとき、テラの視線の先には自分に向かって突っ込んでくるヨルムンガンドとアスガルドの姿を捉えた。

ドガン! 爆発音のような大きな音を立てて巨大な衝撃がテラの身体を襲う。

マジェコンヌは空中でテラを嘲笑の笑みで見下ろしていた。

「貴様等7人に対し、私の戦力はほぼ無限だ。勝ち目など無い!」

しかし、次の瞬間にヨルムンガンドとアスガルドは吹き飛び、その姿はブレて消える。

大剣を両手で構えてテラは再び大地を蹴ってマジェコンヌに向かう。

「ネプ!」

「分かってる!」

王者蟲を太刀で切り伏せたネプテューヌが同じく壁を蹴ってマジェコンヌに向かう。

「「おおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」

それぞれの一撃を片手で受けて武器を奪い、テラには蹴りを、ネプテューヌには大雷球を発射して迎撃する。

『ッガ!』

テラは魔力を発して雷球を掻き消し、蹴りを右手でガードする。その間にネプテューヌはマジェコンヌにアッパーカットを繰り出す。軽々避けたマジェコンヌにハイキックを浴びせてその隙にテラの大剣を奪い取る。

「テラ!」

大剣をパスしてマジェコンヌに視線を向けるがマジェコンヌは杖を構えてネプテューヌに振り下ろす。

重撃を受けてネプテューヌは地面に落下、モンスターに取り囲まれる。

「ッ! コンパ、行くわよ!」

「はいです!」

モンスターの迎撃に当たっていたコンパとアイエフが落下したネプテューヌの援護に向かう。

複数のモンスターがネプテューヌを取り囲み、今にも飛びかかろうと構えている。未だネプテューヌの武器を取り返せていないためにネプテューヌは跳んでモンスターの一撃を避ける。しかし、跳んだ先のベテルギウスが武器を構えてネプテューヌに振りかぶっていた。

「ッ!」

ドガァ! 爆撃音が響き、ベテルギウスの右腕の武装が破壊される。コンパの射撃砲が次々と命中してモンスター達を倒していく。

「だぁっ!」

アイエフはカタールを構えてモンスターの足を奪っていく。

5体目のモンスターを切り伏せたとき、背後からケンタウロスが拳を振りかぶっている。

「ッ!」

アイエフが武器を構えて防ごうとした瞬間に、ノワールが剣で一閃、体勢を崩した瞬間に頭上から叩き斬る。

「ありがと……」

「いいわよ、これくらい」

ノワールは左手をヒラヒラと揺らして再びモンスターの大群を見やる。

「ッ! 二人とも、ネプテューヌを連れて下がって!」

「ノワ、私は戦えるわ!」

「武器も持ってないのに出来るわけないでしょ! いいから退いて!」

ノワールの怒号に押されてコンパとアイエフはネプテューヌを連れてモンスターの間を縫って一時退却。

「ベール! ネプの武器を取り返す!」

「了解!」

ベールは武器を構えてテラと戦闘を繰り広げているマジェコンヌに視線を向ける。二人の意図を読み取ったのか、モンスター達が立ち塞がるように配置し、行く手を阻む。

「ッ!」

「邪魔なモンスター達ね……!」

 

 

「マジェコンヌ、もうやめろ!」

テラはマジェコンヌと剣を交えながら叫ぶ。

チリチリと火花を飛ばしながら剣と太刀が小刻みを続けながら互いの進行を弱めている。

「何がお前をそんなに……お前は何がしたかったんだ!?」

渾身の力で振り切られた太刀をいなして左手で強打を与える。しかし、それはマジェコンヌの杖で阻まれてテラは身体を浮かせて更に回し蹴りを放つ。

マジェコンヌの身体が後ろへと下がり、再び武器を構える。

「言っただろう、私は世界を滅ぼす。それだけだ」

マジェコンヌは微笑を浮かべる。しかし、テラはそれに怪訝な表情をしてマジェコンヌを睨む。

「何故、世界を滅ぼす必要がある!? お前は先代の女神だろう!? 世界を滅ぼす理由なんて無いハズだ!」

「フン、何も知らぬ小僧が舐めた口をきくな。お前は昔から察しは良かったからな。気付いているんじゃないか?」

マジェコンヌは閉じていた瞳を薄く開いてテラを見据える。テラはますます剣を握る力を強めて構える。

「イストワールの力を、手に入れる――か?」

世界である史書、史書である世界。世界を滅ぼせば、イストワールは消える。そしてその力は何処へ……?

答えは明白だ。元は女神、マジェコンヌの力だった創造の力。きっとそれはマジェコンヌの力になるに違いなかった。

「そうだ。世界を滅ぼせばイストワールは私に抗う術を失う。全て私のモノだ……」

「……でも、それからお前は何をするんだ!?」

世界を滅ぼす。そうすれば、何も残らない。

その無の状態から一体何を望む? 何もかもが消え去った世界、その中に残り、何を起こそうとしている――?

「――私は世界を完全に統べる。貴様等など、もう必要ではない!!」

マジェコンヌは5つの魔法弾を生成し、テラに標準を合わせて放射する。左手に魔力を込めて5つの内2つを打ち落とし、1つを大剣で防ぐ。残った二つはテラの左脇腹にヒットする。

「っぐぁ!」

負傷した箇所を抑えてテラは地に膝を突く。マジェコンヌはその間にテラにゆっくりと接近し、杖をテラの首筋に当てる。

「……貴様は邪魔だ」

テラは苦々しい表情でマジェコンヌを睨む。

「貴様の存在は、魔王ユニミテスの存在を隠してしまうからな。我が野望に、貴様は最も邪魔だ」

負の神、鬼神。人々の絶望を集め、それを信仰心として集約させる鬼神と魔王は酷似している。遥か昔から存在する神、新たに現れた魔王。人々がどちらを信じるかは明確であった。

「なるほどな。魔王に対する信仰心がお前の力になるってワケか……!」

「分かったところでもう遅い!」

マジェコンヌは杖を上段に構えて振りかぶる。

絶体絶命かと思われた瞬間に声が響く。

「テラ、伏せなさい!」

何事かと認識する前にテラの身体は動いていた。一瞬で頭を下げて剣を握る。

直後に背後から白い機影が飛びこむ。マジェコンヌが左手に構えていたネプテューヌの太刀を弾き、ベールがそれをキャッチする。

ノワールがその隙に剣を振る、しかしマジェコンヌはそれを見切って半身をずらし避けた。

テラが剣を構えて一閃突き、マジェコンヌの脇をかすめる。テラは強く一歩踏み込み、大上段から振り下ろす。防ぎきれなかったマジェコンヌの身体が地面に叩き付けられて濛々と砂煙を上げている。

しかし油断はしない、すぐにマジェコンヌの倒れている場所まで接近しテラは渾身の力を込めて掌底を叩き込む。

恐らくマジェコンヌの呻き声が聞こえて、その後にテラは後ろに引き下がる。

「ノワール、ベール、サンキュ」

「油断しないでよ」

「まだ倒してはいませんわ」

ベールの言葉でテラは再び視線を向ける。少しばかり強く打ちすぎたかなかなか砂煙は晴れない。視界も悪く、マジェコンヌの姿も確認できない。

たまに襲いかかってくるモンスター達を斬り伏せながら相手の出方をうかがう。

『ククク……』

不気味な声と共に地響きがなる。妙な違和感に駆られながらもテラは声のする方に視線を向ける。

『いいぞ……この内に広がる力……!』

一際大きな衝撃と共に、周りにいた大群のモンスターの姿が消えていく。不可解な現象に戸惑っているところで何か、黒い物体がテラを吹き飛ばす。

「ッ!」

ガードが間に合わず、モロに衝撃を受けてテラの身体が吹き飛ぶ。

「テラ!?」

地響き、それと同時に砂煙が晴れ、そして巨大な黒々しい体躯を持った竜が姿を現した。禍々しきオーラを放つその竜は微かに口元を揺らしながら言葉を発する。

『クク……もう何もかもどうでもいい……! 全て、壊し尽くす!!』

それは微かにマジェコンヌに酷似した声で叫び、その竜の右腕でノワールとベールの身体がなぎ払われる。

「く……!」

「っあ!」

二人諸共壁に叩き付けられてズル、と地面に落下する。

それを横目に竜は肩を震わせて嘲笑を浮かべてまた微かに口元を揺らす。

『これこそ……私の求めていた力……! グハハハハハハ!』

最早、正気などではない。狂気に飲まれ、何もかもを見失っている悲しき姿へ変貌してしまっている。

「何よ……アレ」

アイエフはそれを見て小さく声を漏らした。

「おそらく、あつめたイフのネンがボウソウしているジョウタイでしょう。ひとのココロのやみはそうカンタンにセイギョできない……」

イストワールは目を伏せてそう呟く。

『最早、イストワールなど必要ではない……力がみなぎる……!!』

マジェコンヌは底知れぬ快感に溺れるように肩を震わせて声を漏らす。

ネプテューヌとブランは武器を構えてマジェコンヌに飛びかかる。

「だぁあああッ!」

「おぉおおおッ!」

しかし、厚く堅い装甲がそれらの進行を阻み、代わりに二人の身体を衝撃波で弾く。

テラは苦痛に表情を歪めながら剣を杖の代わりにしてボロボロの身体を起こし叫ぶ。

「マジェコンヌ! 落ち着け、意志が暴走していてはいずれ――!」

そう言い終わらぬうちにマジェコンヌの右手がテラに伸びる。躊躇いなくその身体を掴み、己の顔の前まで寄せる。

口元に黒い炎が収束し、次第に大きさを増していく。

「や、めろ――っ! 正気、に戻、れ――っ!」

抵抗するも、両手を防がれては為す術もない。次第に大きさを増す黒い球体はテラの目の前まで迫っている。

「く――!」

テラは思わず目を瞑る。しかし、次の瞬間には背中に微妙な衝撃が走り、薄く目を開けるとそこには両手を地についてどこか苦しそうに小さく震えているマジェコンヌの姿があった。

「……?」

訝しげな視線を向けてテラはゆっくりと身体を起こす。しかし、すぐに倒れ込む。

『――グ、ァ……』

どう見ても彼女は疲弊している。それは恐らく己の中の望まぬ意志を抑え込むのに限界が来たのだろう。

チャンスである、とは思う。しかし、そう思うほどにテラの身体にも痛みと疲れが走り、思うように進めない。

「はっ……はっ……」

両手をついて立ち上がろうと力を込める。両足はブルブルと痙攣し、すぐに崩れ落ちる。

(少しだけでいい! せめて、近くまで――!)

心中で己を叱咤して立ち上がる。ヨロヨロと覚束ない足取りで一歩、一歩と静かに歩み寄る。

「ッ!」

両足に激痛が走り、片膝を押さえてしゃがみ込む。どうやら負傷していたらしい、右足から紅血が溢れ、地面を濡らしていく。

「くそ……くそっ!」

もう一度、己を叱責して剣を使って立ち上がろうとするも上手く立てない。どうやら本格的に傷口が開いたらしい。先程よりも大量の血が溢れてより一層大きな地溜まりを作っていく。

きゅっと目を閉じた。最後の敵を目の前にして、立ち上がることも出来ない不甲斐なさ――そんな感情に掻き立てられて思わず涙を零す。

しかし、次の瞬間にテラの身体は幾分か軽くなっていた。スッと目を開ければ、傍らにネプテューヌが同じくボロボロの身体でテラの肩を担いでいる。

「ネプ……」

「ほら、立って」

ネプテューヌの言葉にせめて左足だけでもと力を込めて立ち上がる。

ゆっくりと近付いていく。一歩、踏み出すごとに身体が軽くなる。

 

ノワール

 

ベール

 

ブラン

 

コンパ

 

アイエフ

 

皆、テラの身体を支えてマジェコンヌへと距離を詰めていく。

そして、それと同時にテラは握っていた剣を、そして『ナイフ』を握る。以前に父から受け取ったナイフを握り、両手でそっと胸に当てる。

(親父……)

心中で父を呼ぶ。彼の死は無駄ではなかった、自分を正しい道へと進めてくれた大切な存在であったと思いたかった。

全てを、決断した。

 

 

――全ての終わり。

 

 

大剣を上段に構え、まだ少し瞳に色を残したマジェコンヌを見る。

「はあっ……はあっ……!」

ゆっくりと力を込めて、もう一度、剣の柄を握り直す。

(――父さんッ!)

チャキ、と剣の音が鳴り、呼吸を整えて、テラは目を瞑り、そして剣を振り下ろした――。

 

 

 

 

まるで糠に釘でも打つように抵抗無く、マジェコンヌの額に剣が突き刺さる。

勢い無く血が滴り地面に零れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだ……マジェコンヌ――」

 

テラの、その声だけが

 

 

 

 

異常なまでに、神界に響き渡っていた――。

 

説明
32話です。しばらく本編投稿できてなかったですね
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コメント
藾弑サマ> テラ「みんな仲間であり、家族だった。楽しかったよ」 なんで家族設定にしたのか苦悩中… テラ「今更か」 だってこれから先イチャつく感じにできないもん!(泣) テラ「泣くなよ…」(ME-GA)
何故だか泣いてしまった。…はどうでも良いとしてやっぱり仲間って大事ですね。 クァム「俺にも仲間ってできるのか?」さあな。(駆蘭)
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