人類には早すぎた御使いが恋姫入り 三十三話
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華琳SIDE

 

関から降りてくる二人の手にあるものを見て私は一瞬背筋が凍った。

凪の手には木の箱が握られていた。それは普段、その人間を殺したという証拠とし

 

て首だけを運ぶための箱。

そして、劉備の手に握られているものは、紛れもなく一刀の上着だった。

この二つから出てくる可能性は…

 

一つしかなかった。

 

「華琳さま」

 

そんなことを思っていたら、いつの間に凪は私の前まで来ていた。

彼女の顔に悲しみは見えない。

それを何かを決心した顔だというべきか、寧ろ悲しみのあまりに開き直ったという

 

べきか…

どっちにしろもしこれが私が考えているようなものだとしたら、彼女がこんなに剛

 

健で居られるはずがない。これは良い信号だった。

 

「…それは?」

「……一刀様の…」

 

凪は話を続けぬまま顔を俯いた。

 

「はっきり言いなさい。一刀の…何?」

「…ご自分で確かめてください」

 

そう言いながら凪は私に箱を差し伸べた。

 

「…」

 

開けたくない。

開けてみる価値もないはずよ。

彼が死んだはずがないのだから…

でも、もし万が一にでも……

 

「顔の皮が…引っ剥かれてました」

「…!」

「見ない方が……いいかも知れません」

 

劉備が震える声でそう言った。

 

「私は…こんなのだったら…見ない方が…良かった……」

「劉備…」

 

私は俯いて震えている劉備の肩に手を乗せながらこう言った。

 

「…あなたはもう少しうまく演技した方が良いわ。それじゃあ誰にも気づかれるわ

 

よ」

「……え?」

「凪、その箱は預けましょう。確認するまでもないわ」

 

そうよ。

最初から考える必要もないわ。

彼が死んだという可能性なんて…。

彼が死ぬはずがない。

 

余計な心配だったわ。

ほんと…

 

「お気づきになられましたか」

「半分は願望だったけどね。劉備が言ってくれたおかげで気付いたわ」

 

捕らえた将の顔の皮を剥いたということは、一見残酷な仕打ちで敵軍を挑発し、時

 

には敵兵士の士気を落すこともできるかもしれない。

だけど、逆に皮を剥いてそれが誰なのかはっきりと判別できなくするということに

 

もなる。

そこに一刀の服を置いたら一刀だろうと思いはするでしょう。

状況を鑑みても一刀以外にはありえない。

 

でも、相手が一刀だからこそ、こんな小細工はそれに引っかかる程度の者たちのた

 

めの小細工でしかない。

もちろん、箱を見て確認しようとした瞬間、私もそんな奴らを同じ扱いになるので

 

しょうね。

 

「劉備、何故一刀がこんな仕掛けをしたのか分かるかしら」

「え?…と…凪ちゃんが言う限りには、自分が死んだことにしておきたかったから

 

…」

「そう。こうすることであなたや私が連合軍にて責められる可能性を無くし、その

 

間董卓軍でまた自分好き勝手にやっていこうという算段よ」

 

どんなことを企んでいるかは知らないけれど、もう私に手の打ちどころはないわ。

 

彼の好きなようにさせるしかない。

また無闇に彼の思惑から外れることをしたら後が怖いし。

 

「他の軍はもちろん、部下たちにも隠すべきよ。気づく娘は仕方ないとしても、知

 

っている者は少ない方が良いわ」

「私も同じ考えです。しかし、一刀様は一体何をするつもりでしょう」

「分からないわね。だけど、良からぬことなのは確かね」

 

昔から彼がやることには何一つ過程がうるさくないものがなかったわ。

 

「彼の遺品はあなたたちに任せましょう。後、そうね。協力する代わりに虎牢関を

 

落とした功はこっちがもらうわよ」

「え?」

「あれって…落ちたと表現するべきなのですか。誰も居ないみたいでしたけど」

 

そう、そもそも誰かいたらあなたたちは死んでたわよ。

恐らく夜中に洛陽に向かって出発したでしょうね。

 

「あなた達が空っぽな虎牢関に入って一刀の遺品を持ってきたと言ったら、麗羽や

 

他の諸侯たちが更に牽制することになるまでよ。静かに凌いだ方が良いわ」

「…分かりました」

「朝には諸侯たちが集まって今後どうするべきか話しあうはずよ。その時また会い

 

ましょう。その時は傷があるフリぐらいはしなさいよ」

「え?ああ……」

 

劉備は自分が重傷を負っていることになってるのをまた忘れていた。

包帯ぐらい巻いていなさいよ。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

陣に戻ると、春蘭が秋蘭と一緒に居た。

そう言えば日が昇る前に陳留に言っておいたわね。

 

「…華琳さま」

「一刀が死んだわ」

「……え?」

 

私は思わず私を見て向かってきた秋蘭にしか聞こえないようにそう言ってしまった

 

 

「良かったわね」

「あ……」

「今直ぐ私の前から消えなさい」

 

なんでそう言ったのだろう。

彼が生きていると確信しているはずなのに…。

何故私は私が選んだ者にそんな酷いことを言ってしまったのかしら。

 

「…華琳さま」

「春蘭、部隊を五十人ぐらい連れていきなさい。旗もね。虎牢関に我が軍の旗を置

 

いてきなさい」

「はい?…はい、分かりました」

「……」

 

春蘭は秋蘭を心配そうに見ながら私の命令を遂行するために去っていった。

 

何故秋蘭にああ言ったのか。

最初は私の覇道を傷つけた彼女に罰を与えるつもりだった。

でも、いざ彼が死んでいないことに気づくと、そういう事務的なものではなく、心

 

の底から彼女に怒っているのだと気づいた。

 

だけど、それが何故どういう感情が芽生えたのか当時の私は気づけなかった。

そのため傷つくのが私ではないことを気づいていたら、もっと必死に考えてたはず

 

なのに。

 

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「一刀が死んだわ」

 

虎牢関から帰ってきて直ぐに、私は流琉と秋蘭以外の皆が集めてそう告げた。

 

「…華琳さま、私の耳がおかしくなっているわけではありませんよね」

「一刀は死んだと言ったのよ。聞き間違いじゃないわ」

 

桂花のためにもう一度話して、私は話を続けた。

 

「さっき虎牢関で一刀の首と彼が着ていた服が城壁の上に吊るされているのを確認

 

したわ」

「兄ちゃんが…」

「ウソやろ…隊長が死ぬはずが…」

「じゃあ凪ちゃんは、」

「華琳さま!」

 

 

今度は春蘭だった。

 

「本当なんですか。アイツが…アイツが死んだのですか!」

「…私が確認したわ」

「……!」

 

春蘭がこう出ることは少し以外ではあったけれど、春蘭としては何故一刀があの時

 

あのようなことをしたのか聞きたい気持ちもあったでしょうし、大体秋蘭のために

 

も一刀が死んでは困ると思ったのかもしれない。一刀が死んだ以上、私が秋蘭を絶

 

対許すまいと。

 

「しかし、アイツはこんな所で死ぬような奴ではありません!大体、アイツは張遼

 

と内通しているのではなかったのですか」

「それはあなたの言う通りよ。だけど、一刀には死ぬしかない理由があったわ」

「理由、ですか?」

「そう、彼が生きていると、劉備軍に危険が迫るの」

 

一刀は董卓軍に攫われている。

逆賊とされている董卓軍の将がこちらの軍の将を攫って協商に出るというのは話が

 

合わない。

だからと言って何の動きもなければそうでなくとも麗羽の軍の被害を与える原因と

 

なった一刀が内通していたという疑いを受けかねない。

そうなると困るのは劉備軍なのよ。

最悪麗羽に逆賊と組んだ裏切り者として全員斬首することも出来る。

そしてその濡れ衣は私たちにも通用される。

 

だから、一刀はそうならないように自分が死んで、それをこちらに晒す方を選んだ

 

そしたら今回の惨事はただ麗羽の甘さが原因だと言ってお終いだ。

 

「しかし、アイツが劉備軍のためにそんなことをするはずが…!」

「彼は私の元に帰らず劉備の元に居た。それだけでも十分彼女を助ける理由になる

 

わ」

「し、しかし、華琳さま」

「春蘭、もうよしなさい」

 

それでも春蘭は納得いかない様子だったけど、桂花が制止した。

 

「桂花!貴様はなんともないのか!」

「アイツは既にこの軍の人じゃないわ。」

「うっ…貴様本気で…!」

「最も今はアイツが死んだか否かよりももっと重要な問題があるわ。下手をすれば

 

、この連合軍自体が崩れるかもしれないのよ」

 

桂花がそうやって話題を変えようとしたけど、

 

「桂花さまは、本当にそれでいいのですか」

「……」

 

食いついたのは流琉の友達、季衣だった。

 

「華琳さま、この話を流琉が知ったら、流琉は死んでしまうかもしれません」

「……分かっているわ」

 

そう、流琉はまだ秋蘭のことも知らない。

私が静かに去るように命じたから。

まだ自分が一刀に拒まれたこと、虎牢関で私が行けないようにした衝撃から抜け出

 

せない流琉がすべてを知ったらどうなるかは明らかだった。

 

「流琉には軍議が終わった後私が行きましょう。だからあなたは安心しなさい」

「………」

「大丈夫よ。私を信じなさい」

「…はい」

 

私はそう季衣を安心させた後桂花を見た。

 

桂花は暫く私を見つめて、次の案件に進んでいった。

 

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桂花SIDE

 

 

アイツは死んでいない。

 

華琳さまの話を聞いた時気づいた。

 

根拠はない。

だけど、何故か分かってしまう。

 

確かに華琳さまのあの顔、何の感情も見せないあの覇王の顔、アイツは本当に死ん

 

だのかもしれない。

 

だけど、

あんな化物がこんなに静かに死ぬはずがないのよ。

古来より大きな人物が死ぬと星が落ちると言った。昨夜星なんて落ちていない。

 

もちろんそんなことで決めつけるのは夢を抱きすぎなのかもしれない。

 

だけど、本当にあんなのが死ぬのに何も気づかないとしたら私にこれから覇王を支

 

える者の資格があるのだろうか。

王佐の才がある者と言えるのだろうか。

 

否。

 

はっきりと言える。

アイツは、北郷一刀は死んでいない。

 

では何故華琳さまは死んだと断言なさるのだろう。それは恐らく、我々だけではな

 

く、連合軍すべてにそう信じさせるため。

きっと劉備軍でも同じことをしているはずよ。

敵を騙すためには先ず味方を騙せと言った。味方に本当のことを話してしまえば、

 

ウソだということが相手に簡単にバレてしまう。

そうさせないために、華琳さまも、劉備軍も絶対に本当のことを口に出さない。

 

そして、その事実を隠し尽くした先にあるものは……

 

「桂花」

「はい」

 

他の皆が自分たちの仕事のために戻った後、華琳さまは流琉の所に行く前に私に言

 

った。

 

「あの時私が春蘭たちを行かさなかったら、一刀がああなることもなかったかもし

 

れないわ。秋蘭もね」

「……はい」

 

原因は確かに華琳さまのその命令にあった。

だけど

 

「もし華琳さまがそう命令なさらなければ、それこそ華琳さまでなく『偽物』だっ

 

たのかもしれません」

「……やはりあなたは気づいてたのね。当然ね」

 

華琳さまの選択は覇王として当然のものだった。

そう、覇王を目指す華琳さまなら当然そう仰っただろう。

でも覇王であるからして、必ずしも全てを得ることは出来ない。

得るために失うものも確かにあるはずよ。

 

「…流琉のところに行くわ。一緒に来る?」

「はい」

 

例えば、自分のことならなんでも分かってくれるこの世で一番気持ち悪い男。

 

 

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流琉SIDE

 

一日中泣いていた気がします。

 

兄様に拒まれた日も、すごく苦しかったですけど、

華琳さまが言った言葉、

 

『くどいぞ、典韋!!戦場は遊びじゃない。己の私情を巻き込むな!』

 

ただそうしてでも兄様に近づきたかったんです。

でも、それさえも許してくれない華琳さまが酷いと思う以前に…。

 

その言葉が私が兄様が言った言葉を思い出させました。

 

住んでいた村に帰らないのだったら、もう子供扱いしてあげるとは思うな、と。

 

それでも私は…兄様の『特別』で居たかったです。

ちょっと辛くても、兄様と一緒に居られるならそれで良いって。

でも兄様はそういう甘えさえも許してくれませんでした。

思い返せば最初から私は甘えていたばかりです。

 

『子供扱い』されて当然でした。

 

「流琉?」

「!」

 

華琳さまの声がして私は寝床から体を起こしました。

 

「入っていいかしら」

「は、はい」

 

私が返事をすると、華琳さまが入ってこられました。

 

「調子はどうかしら」

「……もう大丈夫です」

 

私は実はそうじゃないくせにそう答えました。

 

「あなたに言わなければならないことがあるわ」

 

華琳さまは桂花さまと一緒に私がいる寝床に座って私を見ながら仰りました。

 

「…先ず昨日のことは謝りましょう。私が言い過ぎたわ」

「いえ、私のせいです。私が我侭言って……華琳さま」

「何?」

「私…帰ったら村に戻ろうと思います」

「!」

 

兄様の言う通りでした。

私は…まだ子供です。

もう耐えることができません。

 

「そう……分かったわ。気が変わったらいつでも言ってちょうだい」

 

華琳さまは何も言わずそう私の我侭を認めてくれました。

 

「…でもその前にあなたに言わなければいけないことがあるわ」

「はい?」

 

華琳さまはいつもと違って不安が篭った顔をしていらしゃってました。

その顔を見ていたら、私も何か悪いことを告げられるのかと思って少し不安になり

 

ました。

 

「貴女がここに居る間、虎牢関で幾つか事件があったわ。それで…一刀が虎牢関で

 

張遼に連れて行かれたわ」

「…はい?」

 

連れて行かれたって…でも軍議では張遼と兄様が内通しているって

 

「兄様は大丈夫なんですか?」

「……」

 

華琳さまはしばらく答えずに私を見ていました。

その間私は最悪の境遇を想像していて、いつの間に頭の中が真っ白になってしまっ

 

てました。

 

「ええ、彼は大丈夫よ」

「!」

 

だけど華琳さまがそう仰って、なんとか正気を保つことが出来ました。

 

「ただし、今連合軍では彼が死んだことになっているわ」

「え?どうして…」

「一刀がそうなるように仕掛けたわ。私や劉備がこれについて知っているけど、他

 

の軍は知らない。だからこれに関しては全員騙すつもりよ。季衣や他の皆も含めて

 

ね」

「…兄様がそうしたのですか?」

 

私たちにまで死んでいることにして…一体なにをするつもりですか、兄様。

 

「だから、あなたもこれについては内緒にしてなさい。他の娘たちに言わずに、あ

 

なたも一刀が死んだと思ってるように振る舞ってちょうだい」

「…分かりました」

 

ただ、これだけははっきりと聞きたいです。

 

「本当に、兄様は大丈夫なんですよね?」

「ええ、私が保証するわ」

「本当になんともないんですよね。怪我とかもないんですよね」

「………ええ」

 

良かった。

 

「分かりました」

「良いわね。これからあなたがどんな決定をするだろうかはあなたが決めることだ

 

けど、これだけは分かっていなさい。一刀も私も、一度もあなたを傷つけようと思

 

ったことなんてないわ」

「…」

 

そうでした。

本当に…そうでした。

 

 

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桂花SIDE

 

「一刀の言った通りだったわね」

 

流琉の部屋を出て華琳さまは仰った。

 

「あの娘たちを戦場に立たせたのが間違いだったのかもしれないわ」

 

華琳さまは他の皆のように流琉に言うつもりだったはず。

でも、あの娘が帰りたいと言った時、私も華琳さまも気付いた。

この娘はもうこれ以上を耐えられないと。

だから流琉に一刀に関しての嘘を伝えることはもちろん、秋蘭に関しての話は口に

 

も出せなかった。

 

そしてそこまで追い詰めたのは……

 

「華琳さまは覇王になるお方です」

「分かってるわ。だから私はあの娘を壊してしまったのよ。我が覇道を歩むために

 

ね」

 

華琳さまは頭痛が酷いのか脚を止めて額に手を当てられた。

 

「自分しか知らないのよ。彼に文句言えないぐらい…」

 

弱くなっていた。

華琳さまもこの軍も皆弱くなっていた。

 

そしてその原因が明らかすぎて私は思わず虎牢関、その向こう側を見つめた。

 

「無事でいなさい…じゃなきゃ許さないわよ」

 

 

 

説明
すみません。
前回のは忘れてください。
気が動転して変なの出しちゃいました。次からは気をつけます。
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コメント
侵略!?イヌ娘さん>>ちょっと脳内の韓国語を直訳したらそうなってました。わかりにくくてすみません。(TAPEt)
私しか知らないのよ。彼のこと言えないほど   すみません、何を知らないといってるのでしょうか?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
秋蘭は復活できるんでしょうかね?魏軍が非常に心配です。(山県阿波守景勝)
秋蘭が心配ですね。何かやけになって行動を起こさなければ良いけど・・・。(YYT-ZU)
秋蘭は大丈夫でしょうか?呆然としてましたからね・・・(本郷 刃)
桂花のヒロイン力が上がってる…だと…(eitogu)
一刀さんSIDEが早く見たいですね(たこきむち@ちぇりおの伝道師)
続き楽しみにしてるッス〜。(鬼神)
流琉の決意に各人は何を思うのか、次回を楽しみにしております。(アルヤ)
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L.Lawlietみたいな一刀 真・恋姫†無双 恋姫  華琳 桂花 流琉 韓国人 

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