魔法幽霊ソウルフル田中 〜魔法少年? 初めから死んでます。〜 トイレのスッポンって名前は『ラバーカップ』って言うらしい、な27話 |
昼の聖祥大付属小学校屋上、俺の10メートル前方には『空き缶』があった。
学校の机を並べてその上に20個ほど横一列においてあるそれを、俺は睨みつけている。
腰のあたりに構えた両手に『シュボッ!』と人魂を生み出し意識を集中させる、まるでどっかの西部劇みたいだ。
(考えろ、出来る限り『鋭く』そして『速く』フェイトちゃんのフォトンランサーを小さくしたようなイメージを。そんで、打ち出し方も忍者が手裏剣を投げるような隙のない動きで……!)
両手の人魂が圧縮され、手のひらサイズから小石ほどの大きさに変わっていく。
あとはこれを空き缶と同じ数だけ作って――――
「そらそらそらそらぁっ!!!」
シュババババババババッ!
ガガガガガガガガガガンッ!
眼にもとまらぬ速さで打ち出された人魂は、見事20個の空き缶に全弾命中し爆風で吹き飛ばす。
命中精度もなかなか正確になってきた。
「どうですか? 花子さん」
「今のは悪くなかった、ひとまず合格ってところだね。大分いいイメージが出来るようになったじゃないか」
「うっし! ありがとうございます!」
横から見てもらっていた花子さんにも褒められた。
うんうん、やっぱり直になのはちゃん達の戦いを見学したのが良い経験になったみたいだ。
見て分かると思うが、俺は現在猛特訓中である。
俺の決死の説得が通じてくれたおかげで花子さんはリニスさんに襲いかかることをやめて、俺とリニスさんがもう一度戦うことを許してくれたのだ。
しかし、今のまま俺がリニスさんと戦っても勝ち目が無いのは事実なのでこうして数日間、聖祥へ通い花子さんに特訓してもらっているわけ。
ちなみに今のは人魂の射撃訓練、威力の方じゃなくて動きに無駄のない撃ち方の研究や弾速を速くしたりとか、いろいろな形に変化させたりして命中精度を向上させることが目的だ。
「じゃあ射撃訓練はここまでにして次にいくよ」
「はい、お願いします」
合格を貰えたので今日の射撃訓練は終わりにし、花子さんと次の特訓に移ることにする。
俺と花子さんは少し距離をおいて、お互い向かい合わせる形になった。
「今から10分間コイツをかわし続けな、防御してもいいけど爆発飛行は使うんじゃないよ。というかアレで避け続けてたら30秒ももたないしね、威力は加減してあるから安心しな」
ボッボッボッ! と花子さんの周りには青白く燃える人魂が5つほど浮かび上がる。
それを合図に俺は空中へ飛んだ。
「準備オーケーです! いつでもどうぞ!」
「いい返事だっ、いくよ!」
花子さんが俺に向かって手を振り下ろすと、バシュッ!!! という音と共に周りにあった人魂が俺にめがけて襲来する。
それぞれが違う軌道、緩急つけたスピード、バラバラな形をとっているので非常に躱しづらい……だが!
「っく!」
俺の頭を狙ってきた、人魂の中ではひときわ小さくもっとも速いスピードのものを顔を横に振って回避する。
こういうのはまず、真っ先に自分に向かってくる奴から対処すればいい!
あ、ちょっとだけ頬を掠ってた。
あぶないあぶない、いきなりミスするとこだった。
次に向かって来るのは、レーザーのような細い人魂が2つ。
どうやら追尾性能が高いらしく俺の動きに合わせて軌道をクネクネさせてるようだ。
「それと、コイツも速いな……!」
空中を飛び回ってかわそうとしてるんだけど、この人魂は俺の後を正確に追いかけて来る。
引き離そうとしても距離が空かないのだ。
「なら、こいつでどうだっ!」
両手をピストルの形で、人差し指に先ほどの訓練で撃ったものと同じ人魂を作り出す。
後は軌道を予測して……当たれ!
バシュバシュ!
撃ち出された俺の人魂は花子さんの人魂に命中、ガガッ! と衝突して軌道を逸らす事に成功した。
そう、先ほどの射撃訓練は『人魂を防御に使う』ためのものだ。
バリアとかプロテクションのイメージがどうしても湧かないから、攻撃で相殺させる!
ゴオウッ!!!
「っと、なんかデカいの来たっ!?」
3個の人魂を退けた直後、目の前に来ていた4番目の人魂が『巨大化』した。
流石花子さん、人魂が手から離れてもコントロール出来るのか!
直径5メートルはある、これは人魂じゃ相殺出来ないな、威力が高そうだし。
(なら……フェイトちゃん、技術を借りるぜっ)
以前見たフェイトちゃんのスピードを、飛行をイメージして自分に重ね合わせる。
……よし、思い込めた、いける!
「らあああっ!!」
真上に高速で飛び上がり、巨大な人魂を回避。
大分この飛び方のイメージが安定してきたな、うん。
だが。
ギュイイイン!
その後ろにはリニスさんのアークセイバーとよく似た気○斬人魂が隠されていた。
しまった! 巨大人魂はフェイクか!
しかも、それだけじゃない。
ギュンッ! ギュンッ!
「うおおっ!? 返ってきたあっ!」
弾き飛ばした筈のレーザー人魂もUターンして俺の背中を狙っている!
あれの誘導性能はかわしきれない、しかもアークセイバーは人魂じゃ弾けない。
挟み撃ちの状態なのもマズい。
「それなら、『人魂ソード』ッ!」
右手に黄緑色の炎剣を作り出す。
真っ向からアークセイバーを受け止めたらその間にレーザー人魂に撃たれてしまうので、俺は大きく体をひねって……。
「回転切りッ!」
ガガガギッ! と前後から迫り来る人魂達を薙払った。
おー、やれば出来るものなんだな、ゼル○の伝説みたい。
5つ全てをなんとか捌いて、俺は後ろを振り向く。
弾き飛ばした人魂やかわした人魂は、俺の後ろで一瞬だけ停止して、今度は槍やミサイル等様々な形に変化していくのがみえた。
「来い! 10分間耐えきってやんよ!」
リニスさんとの決戦は、ゴールデンウイークの最終日にある温泉旅行の日だ。
今はゴールデンウイーク初日、その日が来るまでやれるだけやってやる……!
「花子ー、来たわよー」
「ああメリー。今ちょうど特訓中なんだけど、アンタも見ていかないかい?」
訓練開始から2,3分が経過した頃、屋上には花子さんの親友ことメリーさんが瞬間移動でお邪魔していた。
特訓中を始めた日から時々こうして都市伝説の面々が田中達の様子を見にきて、ひまであれば一緒に特訓を手伝うこともあるのだった。
花子さんは現在空中にて絶賛回避中の田中を指差し、メリーさんもそれにつられて上空を見ると……。
ドドドドドッ!
「ぬるいぬるい! マァトリックスゥゥゥゥゥ!!!」
ピタリ
「ちょっ、避けてる途中で静止するnわわわわわわ!!!」
「相変わらず調子にのると死にかけるわね、ていうか『マトリッ〇ス避け』なんてどうやってイメージしてるのかしら」
「あれさえなければ殆ど完璧なんだけどねぇ」
弾丸の形に変化した人魂を華麗にマトリッ〇スで避けるものの、体を通り抜ける前に全ての弾丸が一時停止&方向転換、ほぼゼロ距離で田中に向かう図である。
何とか最近覚えた高速飛行でかすり傷を負いながらも脱出してはいるが。
ちなみにこの人魂の動きも、全て花子さんが手動……というか意識して動かしていたりする。
複数の人魂をバラバラに操っているのに他の都市伝説と余裕で会話をしているが、これは人間で言うと『右手で三角形、左手で四角形、ついでに足で円を正確に書ききる』ようなもの、都市伝説級は格が違った。
「しかしまあ、随分動きが良くなってきたじゃない。あたしと戦った時なんてひどいなんてものじゃなかったわよ」
田中の動きを見てメリーさんは初めて遭遇した時を思い出していた。
回避や移動をする度に自殺行為に近い爆発飛行をしていた頃に比べれば、今のフェイトやなのはの飛び方を参考にした田中は確かに成長している、しかもかなりのスピードでだ。
「いいや、アイツはまだ未熟だよ」
しかし、花子さんの表情は険しかった。
親友の意外な返答にメリーさんは眉をひそめる。
そのまま花子さんは、今の田中にある『欠点』を話した。
「確かに田中は前と比べれば随分飛ぶのが上手くなった」
「でも、よーく見てるとさっきから人魂を避けきれてないんだよ。直撃こそないけどかすり傷は多い」
「アイツは、前に見たっていう魔法少女の飛び方をまさしく『見様見真似』でやってる。参考なんてレベルじゃない、あれは殆どコピーに近い」
「だからこそ、動きに齟齬が生じるのさ。『第三者から見た動き方を自分の視点で再現する』なんて芸等はそうそう出来るもんじゃないからね」
「まあ、簡単に言えば『動画を見ただけで素人がダンスを踊ろうとする』みたいなもんだよ。10分間耐えきるとは思うけどね」
的確なその観察眼に「へぇー」とメリーさんは舌を巻く。
流石の花子も田中には甘いかな、なんて思っていたのだがそんな事は無かったようだ。
「なる程ね、納得したわ。……それにしてもよく『田中がもう一度戦う』ことを認めたわね。花子の性格なら即行で相手の頭をスナイプすると思ったんだけど……」
「アタイはどこのゴル○13だ。いや確かに隣町のマンションぐらいの距離なら学校から余裕で打ち抜けるけどさ」
ついでに、一つ疑問も聞いてみるとやっぱりとんでもない答えが返ってきた。
同じ都市伝説でもそこまで細かいコントロールはそうそう出来ないのである。
メリーさんがこれをやろうとすると相手に当てるために人魂の火力を上げて、マンションごと爆破するしかない。
そして『田中がもう一度戦うこと』については、花子さんは顔を赤らめて言う。
「だって……卑怯じゃないかい。昔のこと引き合いに出されたらアタイだって人の事いえないんだよ……」
「!」
その猛烈なラブ臭にメリーさんは『ピキーン!』と超直感、すかさず、なおかつさりげなーく追及してみる!
「昔の事って……、もしかして出会った頃の話とか?」
にやにやと緩みそうになる表情を出来うる限り抑える。
一方そんな思惑はつゆ知らず、花子さんは「ん? ああ……そうだよ」と口を開いた。
「アタイがアイツに出会ったのは3年前、ちょうどアイツのご主人の入学式が終わったころさ――――
その日、学校の怪談である『トイレの花子さん』は暇で仕方なかった。
「んんっ……」
洋式トイレの上に腰掛け、大きく伸びを一つ。
「ふわぁ……」
ついでに欠伸も一つ、幽霊は三大欲求が無いのだが実は都市伝説や学校の怪談級の『実体を持つ幽霊』にはキチンと三大欲求が復活しているのだ。
(意識が途切れても普通に気絶します)
「最近の小学生共はいい子ばっかりだね……、肝試しの一つもしないからアタイもやることがない……」
そう、ぶっちゃけ暇なのは今日だけではなくここ数年、細かく言えば6年ぐらいはこんな状態だったのである。
まあ今日は入学式だから生徒達も早く帰宅するし、それでなくともこの聖祥大付属小学校は素行も良いことで知られる有名校、昔のように夜の学校に忍び込むような子供はいない。
「アタイはそう簡単に忘れ去られるような幽霊じゃないから、別にいいんだけどね。それに今年入って来た子達は……」
花子さんは何年もこの街に留まる理由を思い出す。
今年入学した子供たちはあの日『神隠し』から運良く生き残れた赤ん坊達。
子供というのは花子さん達学校の怪談を語り継ぐ、言わば語り部なのだ。
だから、学校の怪談達は子供たちを襲いはすれども殺すことは殆どしないし、その子供たちが突然現れた『神隠し』に攫われるような事態は見過ごせなかった。
しかし、結局『神隠し』は警察の手に負えないどころか、花子さん達幽霊ですらその足取りを掴めることができないまま終わってしまう。
責任感の強い彼女は、せめて生き残った子供達を守ろうとするために、または再び現れるかもしれない『神隠し』に対抗するためにこの海鳴に残っているのだった。
「とはいったもののあれからずっと『神隠し』は現れず、かぁ……」
「はぁ……」とため息をすく花子さん、今日も一日中トイレに引きこもるのかねー、なんて考えてる時である。
「……のはちゃーん、なのはちゃーん!」
「? 誰だい……?」
女子トイレの扉の向こうから聞き覚えのない男の声が聞こえてきた。
声変りをしているからここの生徒ではない、親か先生かと問われれば若すぎる。
どう聞いても高校生ぐらいの男の声だった。
(『なのはちゃん』? 生徒の兄弟か何かが迷子の妹を探してるのかい? いや、それなら職員室で先生に頼んで放送をかけるなりすればいいし……)
「なのはちゃあぁぁん!!! あーもー! ようやく聖祥まで来たのになんでいないんだー!?」
(あんな馬鹿でかい声出してたら普通警備員が来る。なのに来ない、てことは……)
もしかすると自分と同類なのかもしれないと見て、花子さんは女子トイレの入り口で聞き耳を立てることにした。
「誰が予想できるんだよ……、まさか体がバスをすり抜けるなんてさぁ」
近づいてくる存在は声は聞こえても足音をまったく立てずにこちらに近寄ってきた。
言っている言葉からも、ますます幽霊である可能性が高まってきた。
(子供に危害を加えるつもりなら、容赦しないよ……!)
まだ今の時点では悪霊かどうかまでは判別がつかないため、もう少しだけ花子さんは様子を見る。
ただし、悪霊だった場合は即座に人魂で頭を吹き飛ばすつもりだ。
「ああでもどうせ俺がいたって何にも変わらないしなぁ。こんな体じゃあなのはちゃんどころか生きてる人には見えないし、声は聞こえないし、物には触れないし……」
「守護霊気取って早3年たつけど役に立ってないし、俺ってなんで生きて……もとい、死んでるんだろうか。はぁ、死にたい。いや、死んでるんだけどそもそも幽霊の死に方とかわかんないし」
「だいたいこの体じゃ自分のやりたい事なんて何一つできないじゃん。うわあああぁぁもうどうしたらいいんだよ帰り道も分かってないんだぞぉぉ……」
(なにこいつ滅茶苦茶暗い)
花子さんが手を下すまでもなく自殺でもしそうなぐらいネガティブだった。
聞いたところ守護霊らしいが、あんなに負のオーラを出してたら悪霊に間違えられても文句が言えない。
しかも花子さんに気付いてないのかよりによって女子トイレの前でうなだれてるらしい、独り言が丸聞こえである。
「はぁ……。駄目だ駄目だ、どうも会話してないから暗くなるみたいだ。こんなんじゃなのはちゃんを守ることなんて夢のまた夢だぞ。よーし、大声で叫んでストレス発散するか! どうせ誰も聞いてないし」
パンパン! とどうやら頬を叩いてるらしい、気分を一新するために男は『スォォォ……』と息を吸う真似をして
「ぬぅああのはぁちゃあああああああんんんんん!!!!! いったいどこに「うるっさーーーーーい!!! 生徒はもう帰ったよっ!!!」ブバハッ!!?」
あんまりにも耳に響くからドアごと蹴り飛ばしてしまった花子さん。
ズバコーーン! とマンガみたいに吹っ飛んでく学生服の男が視界から遠ざかっていった。
「はぁ……一体なんだってんだいアイツは」
学校のかべを通り抜けて行った男のわけのわからなさにため息をつく。
ついでに外れてしまったドアをどうやって直そうかと考えていた時
「お、お、俺が見えるんですか!!? ってか今聞こえてましたよね蹴ってましたよねもしかして貴女も幽霊なんですかそうですよねやっほおおお「だ か ら ! う る さ い !」いぎしっ!!!」
喜びと涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら飛んで帰ってきたものだから、鳩尾に肘鉄を喰らわせました。
「ホントすいませんでしたっ!」
「全くだよ、学校に来たからには『学校の怪談』がいる。幽霊の常識じゃないか」
ガクンと90上半身を折り曲げ、サラリーマンも顔負けの低姿勢を見せる男を、花子さんは『多分悪い奴じゃないんだろうけど、一応監視』の名目のもと女子トイレに入れていた。
「いやあ、自分ほかの幽霊に会ったことなかったから、まさかホントに『学校の怪談』が実在するなんて知らなかったんで……」
田中太郎と名乗った高校の学生服を着た男は、恥ずかしそうに頭を掻いている。
なんでも、今日入学したばかりの高町なのはという女生徒の守護霊をやっていて、この学校まで憑いていこうと思ってたらバスに置いてかれたとか。
アホかコイツ。
「あ、えっと『トイレの花子さん』だから花子さんって呼びますね。花子さん、この聖祥から『翠屋』っていう喫茶店がどの方角にあるか知りませんか? 翠屋は俺が守護してるなのはちゃんの両親が経営してるとこなんですけど……
(というか、よく喋る奴だね……。一応『トイレの花子さん』って言えば生徒を驚かす存在なんだけど、ご主人のことポンポン教えていいのかい。守護霊なのに)
内心呆れている花子さん、さっきから田中がこんな調子でペラペラしゃべるため花子さんはすでに『高町なのは』という少女の外見とか性格とか家族構成とか住所とか、他に話すことないのかといいたいぐらい個人情報をゲットしてしまっていた。
まあ住所を知っててもわざわざ家まで行って驚かすなんてことはしないが。
「……で、なのはちゃんのお父さんである士郎さんがボディーガードの仕事をやめて、元々夢だった喫茶店を奥さんの桃子さんと一緒に開くという経緯が
「あー、もういいから。ようはアンタは『なのはちゃん』がどこにいるのかを知りたいんだろう?」
なぜか翠屋が誕生する経緯を話している田中に花子さんが待ったをかける。
翠屋のことは生徒も先生も噂になっているぐらい評判がいいのでどこにあるかぐらいは知っているのだ。
さすがに誕生秘話とかは知らないがぶっちゃけどうでもいい。
こうして話してみると、間抜けではあるが悪い奴じゃなさそうなので花子さんは助言することにした。
「あ、はい。まあ多分家に帰ってると思うんですけど、道が分からなくて……」
「なら、とりあえず落ち着いて、目を瞑ってみな。動くんじゃないよ」
ビシリ、と花子さんは田中の目に指を突きつける。
素直な性格なのか、「わかりました」と田中はおとなしく両目を瞑りその場でふよふよ浮いていた。
するとどうであろう。
ふよふよ……ス……
「ん?」
スス……ス…………
「なんか、引っ張られる…?」
そう、田中は微妙にだが数秒に数センチほど、何もしていないのに『何か』に引っ張られているかのごとく動いていたのだ。
そしてその方向は『高町家のある方角』である。
「守護霊ならね、大概ご主人様と『繋がり』をもってるんだよ。それは具体的な形を持ってるんだ。オーラみたいな感じでね、守護霊がご主人様の危機に駆けつけれるように常に守護霊を引き寄せてる。アタイは守護は専門外だけどこれぐらい普通は守護霊やってる奴等なら本能で感じ取れるものなんだけどね」
「じゃあ、この引っ張られてる方向になのはちゃんがいるってことですか!」
「やったあぁ! これで帰れる!」と安堵の表情を浮かべる田中、それを見て「アンタ本当に何も知らないんだね」と呆れ交じりに花子さんは言う。
「はは……無知でスミマセン、俺今まで幽霊って何が出来るのか全然知らなくて。そんで、ありがとうございます。貴女に教えてもらわなかったら、俺ずっと迷ってました」
「え、あ、ああ。これぐらい大したことじゃないね」
何の意図もない、純粋な感謝に花子さんは少しうろたえてしまう。
都市伝説や学校の怪談は恐れられてこそいるが感謝されることなんて一部を除けば無いに等しいからである。
謙遜する花子さんを見て田中は勢いよく首を横に振る、その時だった。
「そんなことないです! 見ず知らずの俺にここまで親切にしてくれて、ほんと、初めて会えた幽霊が貴女でよか――――あ、あれ?」
「な、アンタ。一体どうしたんだい!?」
それは、涙だった。
気付けば田中の両目から大粒の涙が次から次へ流れていたのだ。
「へ……? なんで、なんで涙? あ、すみません、なんか……止まらない……。おかしいな、別に、何ともないんですよ」
突然の涙はどうやら本人も訳が分かっていないらしく、不思議そうに何度も涙を拭っている。
しかし、花子さんはその原因を感づいていた。
(……コイツ、『今まで一度も幽霊に会ってない』から、誰かと話すのなんて久しぶりなんだ)
それは、幽霊なら誰もが通る道。守護霊でも悪霊でも、初めは生きている人間全てに認識されない。
自分は確かに居るはずなのに、誰もが自分を見ることも、声を聞くことも、触れ合うことも無い世界。
そんな中で何年も存在していれば自然と人恋しくなるだろう。
それが今の花子さんとの会話で決壊してしまったという話。
(懐かしいね……。アタイもこんな時期があったか)
随分と昔、もう碌に理由も覚えていないが一人ぼっちのまま学校の女子トイレで自殺した自分。
生前は本当に辛くて、だから死んでしまえば楽になれると思って、でも本当は死ぬのが怖くて、結局は地縛霊としてこの世に残ってしまった。
それから学校の怪談になるまで何年も気付いてもらえない日々が続き、本当に一人ぼっちになった時、もう死んでしまってるというのに孤独感から『死にたい』と呟き続けていた。
実を言うと、この『死にたい』という呟きが生者にも聞こえていた時があったらしく『怪談トイレの花子さん』の大元になってたようである日突然花子さんは実体化したのだった。
(実体化した時はホント嬉しくって、アタイも泣きながら生徒に飛びかかってたっけ。物にさわれる! ってトイレのスッポン片手に)
この行為のせいで一部の学校では『花子さんを呼ぶと、トイレのスッポン片手に勝負を挑んでくる』という怪談があるとかないとか。
それはさておき、花子さんは目の前で号泣している男が他人に思えなかった。
殆ど同情に近い感情から、つい言ってしまったのである。
「なあ、アタイの舎弟にならないかい? もっと教えてやるよ、幽霊に出来ることをさ」
「……えっ?」
最近あんまりにも暇だったものだから、どうにもこの男がほっとけないようだ。
「――――そんな感じで今に至るという訳さ。いやああの時はアタイもどうかしてたと思うね、だって出会って一日も経ってない上に何も知らない奴を舎弟にするって言っちゃったし。実際アイツはポルターガイストとか人魂すら知らなかったから教えるのも大変でさ――――」
(ちぃっ! 普通にいい話じゃない! せっかく花子の弱み――――もとい、デレた話を聞いていじるネタにしようと思ったのに!)
田中と花子さんの邂逅の話を聞いていたメリーさんの内心はこんな感じだった。
まあ、共感しないと言われればウソになる。
メリーさんだってはやてといるのも『優しい』『一緒に遊んでくれる』という理由だからだ。
(せっかく特訓を見に来たんだから絶対何か一つぐらい、ネタを掴んで見せるわよ!)
表面上は「へー、そうなのー」と言ってはいるものの満足はしていないメリーさん。
彼女は花子さんが恋に落ちた決定的瞬間を聞きだすために質問していく。
「ねえ花子、田中に幽霊の事を教える時ってどんな感じだったの?」
「ん? ああまずはポルターガイストから教えるために鉛筆操作させて百マス計算を――――
「ちょ、花子さゴブッ! そろそろっ、10分たってガハッ! なんか、もう避けきれないほど早ぼべっ、多っ、うわああああああああなにこの弾幕アレか怒〇領蜂か洗濯機かフグ刺しかああああ!!?」
実は20分経過しています、花子さんとメリーさんが会話を終えるまであともう20分である。
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大変長らくお待たせしてしまいました……。 修行回を書いていたら、予想以上に長文になってしまい2話に分けてます。 |
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