IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第十三話
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一夏と凰さんの騒動か ら大体三週間。それだけたっても二人の中は修復されてはおらず、それどころか日増しに悪くなっていっている。一夏と廊下や食堂でばったり会ったとしても、 顔をそむけて一向に歩み寄ろうとはしない。俺もそれとなく一夏に促したりはするのだが、向こうは一夏を避けているので、まるで効果がなかった。

 

「一夏、来週からいよいよクラス対抗戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されるから、実質特訓は今日で最後だな」

 

放課後、いつものメンバーで特訓のため第三アリーナへと向かう。入学から一カ月がたち、女子たちからの質問攻めも無くなったが、以前話題の対象であることには変わりなく、俺たちが訓練を行うアリーナでは常に客席が満員だった。

 

「IS操縦もようやく様になって来たな。今度こそ―」

 

「まあ、わたくしと奏羅さんが訓練に付き合っているんですもの。これくらいは出来て当然、出来ないほうが不自然というものですわ」

 

「ふん。中距離射撃型の戦闘法が役に立つものか。第一、一夏のISには射撃要素がない」

 

言葉を中断されたせいか、やや不機嫌の箒。しかし、彼女が言っていることは正しく、一夏の白式には射撃装備が一切ない。刀型近接ブレードの雪片弐型だけだ。

通常、ISというのは機体ごとに専用装備を持っている。しかし、その『初期装備(プリセット)』だけでは不十分なので、不安な部分を『後付装備(イコライザ)』で補っている。セシリアの装備で言うと、初期装備はBT(ブルー・ティアーズ)、後付装備にライフルと近接ナイフという感じだ。ISにはこの後付装備のために『拡張領域(バススロット)』が設けられており、装備できる量は機体のスペックによるが、平均的には二つほど後付けできるのが一般的ISだ。

しかし、これはあくまで一般的なISの話。俺のプラチナと一夏の白式はイレギュラーなISなのだ。

一夏のISには拡張領域がゼロ。しかも初期装備は書き換えることはできないので結局の所、近接ブレード一本のみ。

俺のISは初期装備が他のISと比べかなり少なく、その代り、このISの最大の特徴ともいえるフレームシステムを後付装備として設定している。つまりプラチナは、本来初期装備と言えるフレームを後付装備として登録しているのだ。

 

「それを言うなら篠ノ之さんの剣術訓練だって同じでしょう。ISを使用しない訓練なんて、時間の無駄ですわ」

 

「な、何を言うか! 剣の道はすなわち見という言葉を知らぬのか。見とはすべての基本において―」

 

「奏羅さん、一夏さん、今日は昨日の無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)からおさらいを始めましょう」

 

「ええいっ! このっ! 聞け、一夏!」

 

「俺は聞いてるって!」

 

三人の怒鳴りあいにすこし呆れながらアリーナへと入ろうとすると、山田先生に突然呼びとめられた。

 

「天加瀬くん、少しいいですか?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「天加瀬くんが所属している研究所から装備が届いています。一緒に第五格納庫まで来ていただけますか?」

 

この調子の三人を放置しているのは少し心配だが、すぐに取りに行かないと山田先生も困るだろう。

 

「わかりました。悪いみんな、先に訓練を始めといてくれ」

 

みんなに一言謝ると、俺は山田先生の後について第五格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが今回送られてきた荷物です」

 

山田先生が指差す先には確かにプラチナの新しいフレームがあった。

 

「先方からの伝言ですが、『もうひとつはロールアウトしているけど、今回のフレームの戦闘データを得てから改めて送る』そうです」

 

なるほど、マリア先生らしいな。とりあえず装備して、各部のチェックを行おうと思ったんだが、山田先生の視線が気になってしまう。

 

「えっと、何か用ですか?」

 

「あ、えっと、今回は旭ちゃんのCDとかついてないのかなって」

 

山田先生はこの前俺宛にとどいた旭のCDのコピーしたデータを譲ったことで何か期待していたようだ。俺の荷物に先生が期待をしてもどうかと思うのだが。

 

「先生、今回は送り主が違います」

 

「あ、そうですよね。ごめんなさい」

 

まったくこの人は・・・。呆れながらも俺はプラチナを展開、今回送られてきた『シューティングフレーム』の点検を行う。今回はさすがにしっかりとマッチング設定までされており、シューティングフレームを展開、ドッキングを行った。

シューティングフレームの大きな特徴として、ソニック・ブレイズをライフルモードで固定、長距離射撃用の折りたたみ式ロングバレルを装着。シールドの役目 も果たす大型ウイングスラスターに加え、腰部左右に可動式レールガンを装備している。そしてハイパーセンサーに、狙撃用のスコープモードが追加された。

ドッキングが終わると、俺の様子を横で見ていた山田先生が「ふぁ〜」と何とも間抜けな、感嘆したような声をあげた。

 

「それって天加瀬くんが設計したって聞いてるんですけど、本当なんですか?」

 

「ええ、一応は。それでも向こうの主任にはボロクソに言われていくらか修正されてるんですがね」

 

マリア先生は極端な機体や、癖のある装備を作るのが大好きなのだが、俺が提案したプランはとことん修正される。何なんだあの人は、と言いたいが言ったら殺される。

 

「でも、やっぱり凄いですよ、天加瀬くん」

 

「そ、そうですか? ありがとうございます」

 

本当に感動したような様子の山田先生が俺の手を握ってくるので少し照れてしまう。気まずくなってなんとなく周りを見渡すと、格納庫には山田先生と二人っきりだということに気付き、さらに緊張してきた。山田先生もそれに気付いたのかぱっと手を離し、顔を赤くして少し気まずそうだった。

 

「・・・なにをしているんですの?」

 

突然格納庫に響くセシリアの声。恐ろしい感じが伝わるその声にびっくりして現実に引き戻された。

 

「せ、セシリア、どうした?」

 

「いいえ、奏羅さんが遅いからと様子を見に来ただけですが・・・。心配して損しましたわね」

 

口調からすぐにわかる。明らかに怒っている。多分山田先生とのことで怒っているのだろう。先生とのこんな感じになるのは確かに色々とまずいが、なんでここまで怒っているのだろうか。そこまで言い放ったセシリアは「ふん!」とそっぽを向くと、すたすたと廊下を歩いて行った。

 

「ちょ、ちょっと、セシリア! すいません山田先生、ありがとうございました」

 

俺まで一夏と凰さんのようになるのはまずいと思い、山田先生に一言礼を言うと、プラチナを待機状態に戻し、セシリアの後を追いかけた。

 

「待ってくれ、セシリア」

 

俺はセシリアの肩を掴んで引きとめた。

 

「確かに山田先生となにか変な雰囲気になったのはいけないと思うけど、なんで君がそんなに怒るんだよ・・・」

 

「そ、それは・・・。とにかく、奏羅さんが悪いんです!」

 

むぅ、そこまで俺が悪いのか・・・。まぁ、セシリアは結構きっちりしてるところがあるし、風紀が乱れるのが嫌なのかもしれない。

 

「わかったよ、謝る。この通りだ」

 

手を合わせて頭を下げる。さすがに一夏と凰さんの二の舞はごめんだ。

 

「・・・今夜の夕食、奏羅さんのお部屋でご一緒させていただけるなら」

 

「なぜ・・・ってか、そんなことでいいのか?」

 

「こ、これでも優しいほうです!」

 

厳しかったらいったい何をするんだろうか。しかし、どうやらセシリアは機嫌を直してくれたらしい。俺の返答を聞いた途端、なんだか楽しそうにしていた。

 

「さて、遅れた分頑張らないとな」

 

「ええ」

 

第三アリーナに到着した俺たちはピットのドアから中へと入ろうとした。しかし、突如ドカァァァンと大きな音が俺達の目の前の部屋の中から響いた。何事かと急いで中に入ると、そこには右腕だけISを装着した凰さんがいた。

 

「言ったわね・・・。言ってはならないことを、言ったわね!」

 

まずい、なんだかよくわからないが一触即発の状態だ。

 

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」

 

「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってあんたが悪いのよ!」

 

彼女の物言いは一夏の反論を許していない。一夏は何も言い返せないでいる。というか、またこいつはなにか余計なことを言ったのか・・・。

 

「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね・・・。いいわよ、希望通りにしてあげる。――全力で、叩きのめしてあげる」

 

そう言い残すと、凰さんはピットを出て行った。彼女の居た場所の壁を見ると、直径三十センチほどのクレーターが出来ている。

 

「かなりのパワーだな。おそらくは一夏と同じ、近接格闘型のIS・・・」

 

しかし、俺の言葉は一夏の耳に届いていないようだった。どうやら、凰さんを怒らせてしまったことを後悔しているらしい。

 

(あそこまで怒っているとなると、尚更修復が難しいぞ、これは・・・)

 

一夏と彼女が戦うまで、あと数日。今わかるのは最悪の状態で試合を迎えることになるということだけだった。

 

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恋夢交響曲・第十三話
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