珈琲 |
今日は水曜日。大学の授業が2時半に終わり、3時にはこの喫茶店でコーヒーを楽しむ――これが毎週の私の楽しみです。
もちろん毎週のことですから、いつも座る指定席のようなものがあるのです……が、
「あっ、蒼崎先輩! お疲れ様です!」
店の隅、私のいつもの席を横取りしている不届き者、
「星野君じゃないですか……。こんなところで何をしているのですか?」
我が文芸部、期待の新人がそこにいました。
「『何をしているのですか』は無いですよー。コーヒーくらい飲んでたっていいじゃないですか」
「はいはい、でもその席は毎週私の使っている席なのですよ。譲ってくれれば幸いなのですが」
「もうっ、別に席ぐらいどこでもいいじゃないですか。というか一緒に座りましょうよ! 二人がけの席なんですからっ」
「ふむ。では、まぁ――そうしましょうか」
本当は一人で楽しむ午後のひととき、というのがおつなのですが……まぁたまには良しとしましょう。
「マスター、いつものをお願いします」
「はい、かしこまりました」
いつもの注文にいつもの返事、違うのはいつもはいない同席者。
「ねっ、蒼崎先輩はここによく来るんですよね? ここのコーヒー好きなんですか?」
どうやら、いつものように読書に勤しむ時間はなさそうです。
「そうですね、ここはこだわりのコーヒーを提供してくれますから。それに店の雰囲気も大好きです」
「あー、店の雰囲気って大事ですもんね!」
「ええ。それよりも星野君がこういう店に来るのは意外でした」
「えー! 結構飲むんですよ、コーヒー」
いえ、飲むか飲まないかが問題なのではなく。
「そうではなくて、こういう店は堅苦しく感じる質なのではないかな、と」
「むしろそんな事を気にする質だと思いますか?」
あぁ、確かに、
「全然、ですね」
この新入部員は好奇心と行動力の固まりみたいな性格で、特に小説のネタ探しとなると、お金の許す限りどこまでも行ってしまいそうなくらいですから。
「どうぞ、お待たせしました」
「はい。いつもありがとうございます、マスター」
話の切れ目という丁度良いタイミング。もしかすると、そこら辺を計ってくれたのかもしれません。
では早速いただくとしますか。コーヒーは淹れたてが最も美味しいですからね。
…………。
ん〜、やはり家で飲むインスタントとはわけが違いますね。
「ところで……蒼崎先輩」
真顔で少し顔を近づけて、いきなり小声で話しかけてくる星野君。
「どうしました?」
こちらも小声で聞き返します。
「今日のコーヒー、いつもと少し味が違いませんか?」
「……そうですか?」
ではもう一口。
…………。
「――私はいつもと同じに感じますよ。とてもおいしいです」
「よかった〜!! この店の常連の蒼崎先輩にそう言ってもらえるなら安心です!」
「?」
真顔かと思ったら、今度はいきなり笑顔。言っている事も何が何だかよく分かりません。
「実はですね〜、――今日のコーヒー、私が淹れたんですよっ!」
「えっ?」
「で、す、か、ら〜。今日のコーヒーはこの店の看板娘である私が入れたんですっ!」
「ええっ!?」
星野君がこのコーヒーを入れたですって!?
ええと……。整理すると、つまりここは星野君の家で、あの落ち着いたマスターは星野君のお父さんって事で――。
「すみません! 蒼崎先輩が常連さんなのも知ってたんですが……」
「いえいえ、謝る必要はありませんけど……驚きました。でも何故? 私を驚かすためにわざわざ、ですか?」
「えっと〜……あの、あのですね」
またいきなり真面目な顔になった星野君。今日の彼女は少し変です。
内緒話をするように手を口に近づけて、またテーブルに身を乗り出す星野君。
私が耳を近づけると。
「一度しか言わないですから。よく聞いててくださいね」
「はい」
「わ、私――蒼崎先輩の事ずっと前から、だ、大好きでした。……えっと、蒼崎先輩にこの店のコーヒーが出せるようになったら言おうって、思ってたんです! あの、付き合って、もらえないでしょうか?」
――――。
ええっと、頭が真っ白というのはこういう事を言うんでしょうね。
あまりの驚きにどうしていいのか……。
元の体勢に戻り、でも顔はうつむいて恥ずかしそうにしている星野君。
星野君とは、同じ文芸部で趣味もあいますし、一番話しやすい女性ですし、話していてとても楽しいですし、何よりもとても――可愛い。
――断る理由、無いじゃないですか。
「……はい。是非、お願いします」
未だかつて無い早さで胸がドキドキと高鳴っています。ああ、小説とかで表現される告白シーンは、なるほどこのような感じなのですね。
緊張と恥ずかしさと暖かさと、こんなの言葉では表しきれないです。
「――はいっ! ありがとうございます!!」
彼女も同じ気持ちなのでしょう。恥ずかしそうに、でも最高の笑顔を私に向けてくれています。
…………。
星野君が入れてくれたというコーヒーをもう一度、ゆっくりと味わっていると、
「あっ、でもやっぱりこのコーヒーいつもと違いますよ!! だって――」
「私の愛情がたっぷり入ってますから!」
説明 | ||
2〜3年前に書いたSSなのですが……^^; まぁ、試しに投稿してみようかなと。 そんなに長くないですので、読んでいただけると幸いです。 |
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コメント | ||
初めまして。かわいいお話ですね(*^_^*)(天ヶ森雀) | ||
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