魔法少女リリカルなのは〜生まれ墜ちるは悪魔の子〜 四十四話
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「フェイトちゃん! どう!?」

「だめ! まだ時間もかかりそう!」

 

遥か上空にまで飛ばされたなのはとフェイトはバインドに加えて結界による拘束を強いられていた。

 

込められた術式も魔力も強力なだけあって解くのに時間がかかる。

 

「ヴィータちゃん……!」

「シグナム!」

 

今、どんな状況になっているのかが気になり、抜けだそうと躍起になっている時だった。

 

 

 

 

 

「エレクトロアロー!」

 

突然、紫の雷の矢がなのはたちを囲う結界に突き刺さり、爆ぜた。

 

「「!?」」

 

結界は嘘のようにガラスのように砕けた。

 

それどころか器用にフェイトとなのはのバインドだけを砕き、本人たちは無傷のまま落下しようとする。

 

「なのは!」

「うん、大丈夫……だけど一体……」

 

なのはが考えていると、フェイトはその場で考え込んでしまう。

 

その前に二人は飛行魔法を駆使して立てなおす。

 

なのはが考えていると、フェイトは信じられないと言った表情で体を震わせる。

 

「まさか……今の魔力って……そんな……」

「フェイトちゃん? どうしたの?」

 

震えるフェイトの肩に手を置いて呼びかけると、そこへ新たな来訪者が現れる。

 

「やっぱり……私を怖がっているのね……」

「「!?」」

 

突如として上空から聞こえた声に二人は咄嗟に向き直った。

 

そして驚愕した。

 

そこにはいるはずのない人間……死んだとされるフェイトの母がいたのだから……

 

「フェイトー! だいじょう……!?」

 

結界を抜けて駆けつけてきたアルフもがその姿に絶句した。

 

上空に佇み、悲しそうな表情でフェイトたちを見下ろす

 

 

 

 

 

 

プレシアの姿はこの場の全員を驚愕させるには充分過ぎた。

 

「母さん……うそ……なんで……」

「フェイト……今は落ちついて……!」

 

動揺するフェイトを宥めようとプレシアが手を伸ばしてきた時だった。

 

「近寄るな!」

「!!」

 

アルフがプレシアの手を払い、手を広げてフェイトの前に立ち塞がって牙を立てる。

 

その表情には悲しみ、怒り、戸惑いが見て取れた。

 

後ろのフェイトも生唾を飲みながら戸惑いを隠せていない。

 

なのははどうしていいのかオロオロするばかり。

 

プレシアは当然だと言わんばかりに項垂れていた。

 

「今更ノコノコ現れて何の用だい!? 何が目的だい!!」

「そ……それは……」

「なんでカリフに近付いた!? あんたのせいで何もかも目茶苦茶になったんだよ! まだあたしたちを好き勝手に人形みたいに操ろうってのかい!!」

「違う!……私は……!」

 

プレシアが弁解しようとした時

 

 

 

 

 

 

 

金色の炎の嵐が

 

 

 

 

 

 

ビルの上から爆ぜた。

 

「「「「!!」」」」

 

かつてないほどの力の波動を感じ、皆の目が釘付けとなった。

 

「な、なに!? これ!」

 

プレシアは未知のエネルギーを前に動揺を隠せずにいた。

 

だが、なのは、フェイトにアルフは見覚えがあった。

 

以前感じたものよりも強力だが、この神々しくも荒々しい黄金の風には覚えがあった。

 

「これ……フェイトちゃん! アルフさん!」

「うん! 前よりも強力だけど、間違いないよ!」

「カリフ!!」

 

三者三様の反応を見せて驚愕する中、一際大きな声が下から響いた。

 

『だから邪魔すんなぁ! このちっぽけな駄猫があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

怒りと狂気、恨みなどと負の感情が籠った怒声の直後、なのはたちは見た。

 

 

 

ビルの屋上からの罅がビル全体を覆い……

 

ビルを中心とした半径一キロ圏内の地面が陥没し……

 

周りの高層ビルまでもが巻き込まれて地面に飲み込まれていく。

 

映画でしか見れないような衝撃的な地獄絵図が地上では広がっていた。

 

中心地のビルは倒壊し、キノコ型の雲が海鳴市を覆い尽くしていた。

 

「こ、これは……」

「な、なんだっていうんだい……」

 

皆が十数分で廃墟と化した街を絶句しながら見つめていた時だった。

 

「なのは!」

「フェイト! アルフ!」

 

地上からクロノとユーノがやって来た。

 

「ユーノくん!」

「クロノ!? 大丈夫!?」

「あぁ、結果的には大丈夫だが、そうも言ってられない。単刀直入に言うが、力を貸してほしい!」

 

普段は民間協力者であるなのはたちに頼ることをしないクロノが躍起になっている。

 

不思議に思いながらもそれほど緊迫した状況なのかと判断してなのはたちは頷いた。

 

それを見たクロノは悔しそうに歯を食いしばる。

 

「すまない! 理由は行きながら話す! それからだが、恥を忍んで貴女の力も貸してほしい。プレシア・テスタロッサ」

「なんだって!?」

 

クロノの言葉にアルフが噛みついた。

 

「冗談じゃないよ! なんだってこんな奴に……!」

「アルフ、君の気持ちは分かるけど緊急を要する。できればプレシアさんの力も借りたいんだ」

「ユーノ、あんたまで!」

 

納得できていないアルフだが、今まで静観してきたプレシアが頷いた。

 

「……分かったわ。なんでも強力する」

「なっ!?」

 

予想外の応答にアルフが驚愕し、さらに噛みつこうとした時だった。

 

クロノが諌めるかのごとく事を進める。

 

「速くしてくれ! これ以上は手遅れになる!」

「う、うん!」

「分かったの!」

 

なのははもちろん、カリフのことが気になるフェイトでさえも降下していった。

 

全員が急ぐように降下する中、残されたアルフはプレシアの後ろ姿を睨んでいた。

 

「もう騙されるもんか……!」

 

そう呟いた後、アルフも皆に続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパーサイヤ人2

 

少し前の時間まで遡る。

 

痛みで悶えるリーゼ姉妹

 

それを見下すカリフ

 

そして、カリフの変貌を一度は見ていたクロノは驚愕し、初めての変貌を前に騎士たちは畏怖していた。

 

「な、なんなんだよあれ……カリフなのかよ……」

「そうとしか言いようがない……言えないが……」

「シグナム、言いたいことは分かる……しかしこれは……」

「こ、こんなことが……」

 

歴代の戦いの中でも今ほど自分たちを戦慄させるような存在は無かった。

 

初めて味わう絶望的なほどの力の差

 

才能なんて言葉では片付けられない……謂わば必然的な格差

 

アリが象に勝てないというくらいに実感させられる。

 

対し、クロノはカリフに詰め寄ろうとしていた。

 

「まさか君は……本気で殺す気か!?」

「……」

 

何も返されないことに不安が募る。

 

あの姿はなんであるかは知らないが、とてつもなく危険だということが分かる。

 

ジュエルシードの強力な魔力をも捩じ伏せるほどの力を宿す金色の姿に嫌な予感を覚える。

 

なんとしても止めなければならない。

 

管理局としての仕事、恩師の真相の解明もある。

 

しかし、それ以前に取り返しのつかないことが起こるかもしれない。

 

デバイスを構えようとした時だった。

 

「スプーンドーム!」

「なっ!?」

 

カリフはクロノを二つの巨大なスプーンがクロノを包みこむように挟みこんだ。

 

瞬く間に捕まってしまったクロノは成す術も無く閉じこめられた。

 

そして、カリフはどこまでも冷めた目で猫姉妹を視線で射抜く。

 

ロッテは自力で手を治して睨み返す。

 

「ふん! 金髪になったくらいで何が変わるってんだよ!」

「……お前は近距離戦闘担当だったな……前に受けた傷は大分治ったようだなぁ」

 

カリフはロッテの気の微量な乱れを感じとって傷を見分ける。

 

そして、比較的完治していない傷を見て、

 

 

有無を言わずに踵落としを傷口に叩きこんだ。

 

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「完治するまで病院のベッドで寝てればいいものを……」

 

踵が傷口を深く抉り、鮮血がカリフの頬へ飛び散る。

 

そして、さらに力を入れ、地面には罅が入っていく。

 

ロッテはカリフの足をどけようと掴んで引き剥がそうとするも、全く動かない。

 

だが、それも空しくカリフは足の指でロッテを摘まみ上げてそのまま宙に晒す。

 

「ふん!」

 

ロッテを未だにうずくまっているアリアに投げてぶつけた。

 

「うぐあぁ!」

 

どっちのかも分からない悲鳴にも構わずにカリフはそこに足を振り上げて思いっきり蹴る。

 

「レッグナイフ!」

 

蹴りの斬撃は姉妹に直撃し、夥しい血が舞った。

 

「か……はぁ……」

「ロ、ロッ……」

「人の心配とは余裕だなぁ?」

「!?」

 

ふき飛ばされ、意識を失っていた妹との間に金色の悪魔が割り込んできた。

 

しかも、腕は異常なほど膨張し、筋肉と血管がくっきりと浮き出るほどに……

 

「や、止め……!」

「小手調べだ……20連……」

 

そして、彼女のボディに極太の拳が叩きこまれた。

 

「釘パンチ!!」

「がぁ!!」

 

アリアはカリフのことを研究に研究を重ね、記録されている技は全て知っていた。

 

その恐ろしさも

 

そして、一つを学んだ。

 

 

 

この少年にはプランなんて通用しない。

 

何もかもが次元が違いすぎて避けることすらできないのだから。

 

殴られた部分が時間差で追撃を喰らう。

 

「うがああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アリアもここまでの連打は想定外であり、痛み、そして殺気をも感じながら成すすべなく弾き飛ばされる。

 

ひとりでに起こる時間差打撃で空中で弾けるように飛ばされ、隣のビルへと突っ込んでいく。

 

そして、ビルを突き抜けて一つ、また一つとビルを貫通しながら飛ばされていく。

 

一直線上にビルの中段に穴が開けられたのをビルの縁に、まるで海賊船の船頭に片足をのせている膝に腕をのせている海賊のようなスタイルのカリフが確認していた時、後ろから重い蹴りを貰った。

 

「ふーっ! ふーっ!」

 

既に痛みと怒りで言葉も出ないロッテは全身が血にまみれていた。

 

横顔を叩きこまれたカリフはそれさえも無視するようになんのダメージも受けていない。

 

それどころか……

 

「あぐぅ!」

 

攻撃したロッテの足から何かが折れる音が響き、ロッテの態勢が崩れた。

 

だが、カリフは振り向きもせずにロッテの足を掴み、呟いた。

 

「貴様等は魔法が力の全てであり、全能だと思っているようだが……実は違う」

 

片足を広げて倒れないスタイルに構える。

 

「この世界にも『武術』という術を編み出してきた……魔法無しでも強くなれることを示したのだ。だからこの世界の住人に成り変わって言ってやろう」

 

それは、柔道で最も知られている技

 

「人間を舐めるな……っ!」

 

『一本背負い』でロッテの体を地面に叩きつけた。

 

それも、円周力と持ち前の腕力で以て増幅された力も上乗せさせて。

 

「がはっ!」

 

ロッテが背中から叩きつけられると同時に、既にボロボロだったビルの屋上にさらにヒビが入る。

 

もう死に体のロッテの胸倉を掴んで天高く掲げる。

 

「オレの友人のハンマ・ユージローから教えてもらったのさ。見せてやろう……」

 

そう言ってロッテの足首に手をかけた時、周りから魔力スフィアが現れた。

 

「ロッテを……離しなさい……」

 

息絶え絶えに吐血しながら腹を押さえるアリアが上空から現れた。

 

スフィアはアリアの制御化にあるだろうということは一目瞭然だった。

 

しかし、カリフは笑いながら言った。

 

「……力づくでどうぞ」

「……っ!」

 

分かりやすい皮肉にアリアはカリフの周りとは別の方向にあらかじめ設置していたスフィアを飛ばす。

 

(これで隙を生んで、転移魔法でロッテを取り戻すしかない!)

 

あまりにリスキーな賭けに賭けるしかない。

 

そう思いながら気付かれないようにカリフの死角からスフィアを撃ち込む。

 

「……できると思っているのかぁ?」

「!?」

 

瞬間、カリフはロッテをブン回して迫っていたスフィアを叩き落とした。

 

「ロッテぇっ!」

 

威力は小さくても、確実にダメージを負った妹の名を叫ぶ。

 

だが、カリフの行動はそれだけに非ず。

 

肉眼では捕らえきれないほどのスピードでロッテの体を自分の周りで回し続ける。

 

ただ、ロッテの手足を巧みに両手で掴んだり離したり、独特なまるで『舞い』のようだった。

 

遠目で見ていた騎士たちもその動きに疑問を抱くが、シグナムがいち早く気付いた。

 

「ま、まさかあれはヌンチャク……なのか?」

「な、なんだよそれ……」

「……似てないか? テレビで見るようなヌンチャクの動きに……」

「そう言われれば……でもまさか……」

 

騎士たちは未だに暴れ回っているカリフを止めあぐねていた。

 

歴戦の騎士としての気概を持っていたつもりだったが、それは自意識過剰だと思い知らされていた。

 

ただの殺気や怒気で既に動けなくなっていた自分たちに情けなさすら覚えている。

 

だが、ここは悲願のために静観しろと心の中で言い訳をしている。

 

普段とは別人のように暴れまくるカリフに騎士全員が複雑な想いを抱いていた。

 

そんな中でもカリフは未だにロッテをヌンチャクとして扱っている。

 

「さぁ……次はどうする?」

 

目の前の怪物の底知れない実力にアリアの恐怖は加速する。

 

(人をまるで道具のように扱うなんて……無茶苦茶じゃない!)

 

あそこまで精密に、忠実に武器として人体さえも操る高い技術

 

パワー、タフネス、スタミナ、テクニック

 

どれをとっても一流なんて言葉では言い表せるレベルじゃない。

 

それだけならまだ良かったが、彼には常識には捕らわれない洞察力と神がかった本能と奇抜すぎる一手を繰り出してくる。

 

常人でも無理なことを目の前の存在は平然とやってのけてしまう。

 

(落ち着け……! 次は何をする!? 普通の一手でなく、もっと実現できなさそうな……武器を手にしたら次は……!!)

 

ここで思い至った。

 

 

 

 

 

武器

 

今、自分の妹は『武器』になっている。

 

武器がすることは限られている。

 

そうだ……武器を取ったら……することは一つ!!

 

「そろそろいいか?」

「!?」

 

アリアはいつのまにか目の前にまで接近していたカリフに無意識にシールドを張った。

 

「しまっ!」

 

だが、直後に後悔した。

 

カリフはロッテを片手で持ってシールドに叩きつけた。

 

「ごぶっ!」

「ロッテぇ!」

 

そう、カリフは『武器』でシールドを破壊しようとしたのだった。

 

さらなる追撃を『武器』で行おうとするが、それより先にアリアはシールドを解除する。

 

カリフの手は止まり、アリアは距離を置く。

 

「離れたか……ならオレは防御に徹するとしようか」

 

そう言ってカリフは再びロッテを回す。

 

そのスピードは速くなり、ロッテの姿は黙視できないほどに

 

そして、ロッテの残像はカリフを保護する透明の服のように見える。

 

故に……この技を『ドレス』という。

 

ロッテと言う名のドレスのおかげでカリフの身は守られている。

 

しかし、猛スピードで振り回されるロッテの頭には血が溜まり、穴と言う穴から出血を起こし始める。

 

血がらせん状を模って飛び散っていく。

 

床に血が落ちるのを見て、アリアはもう成す術がないと判断した。

 

「あなたがこんなことしても何もならない! あの子は……八神はやての覚醒は世界の崩壊なのよ!」

「ほぉ……それは面白そうだ」

 

アリアの説得にカリフは一旦手を止めて話を聞く。

 

ロッテは鼻や目から血を出して意識を失っている。

 

「今の状態でも助からないなら別の可能性に賭けるしかないだろう? 違うか?」

「無駄よ! そんな方法などありはしない!」

「貴様等は闇の書の全てを理解したのか?」

「知る訳が無い! あんな物にも、主にも救いなんて誰も見つけられなかった! だから……!」

「……」

「たとえあるとしても、私たちが一番確実に……!」

「よし、ならなおさら覚醒させてやろう」

「なっ!?」

 

まさかの返しにアリアは絶句した。

 

「話を聞いていたの!? そんなことすれば世界が……!」

「じゃあ止める。オレがな」

「そんなこと……!」

「できる。策に溺れるような貴様等とは違うんだよオレは」

 

自分のこめかみに指をさして小馬鹿にする。

 

「この世界はまだ滅ぶ時ではない。この世界はオレを高みに登らせる要素がまだまだある。それまでは何者も荒らすことは許可しない」

「自意識過剰ね。それで八神はやてをも救えると?」

「できるできないじゃなくてやる。奴が死ねばオレの“コケン”に関わる」

「……もしそれで多くの命が犠牲になったらどうする気だ……」

 

苦しそうに問うアリアにカリフは少し考えた後、大いに歯を見せて笑いかける。

 

「それで死んだら仕方ないことだ。別に罪悪感もなければ後悔もない」

「なっ!?」

「いや、むしろオレはそのことに感謝を捧げる」

 

あっけらかんと言った一言にアリアは何も言えなかった。

 

なんという自己中心的思想

 

自分のためなら他人の命さえも簡単に散らす暴君そのもの

 

「お、お前には……人の命の重みが分からないのかよ……」

「ロッテ!」

「あら、起きた」

 

地べたを血で染めながらカリフの足元を掴んで離さないロッテ

 

もはや、何もできないことは確かである。

 

「自分さえよければ……人が死んでもいいのか……」

「All right。そいつらの死はたくさんの物を残し、オレに教えてくれるのだ。嬉しくて仕方が無いのだ」

 

ロッテは息絶え絶えに続ける。

 

「……お前は欲が深すぎる……そしてそれを可能にする力をも持っている……」

「ほう?」

「……世の中には死にたくなくても死んでしまう人がいる……闇の書を解き放てば死は拡散するんだ……」

「……」

「そんな“こんなはずじゃなかった人生”を送る人に……無駄な死は残酷すぎるんだ……それがお前には分からないのかぁっ!」

「……あぁ、よーく分かった」

 

ロッテの必死の言霊にカリフは肯定の言葉と共に言い放った。

 

「やっぱり貴様等には虫唾が奔るってなぁ!」

 

ここでカリフは初めて姉妹に理性ある怒りを向けた。

 

姉妹は驚愕に目を見開く。

 

「そもそもこの世に無駄な“死”などない。死は人に多くのことを教えてくれる尊ぶべき神聖な儀式だ」

 

カリフは歯ぎしりしながら力を入れる。

 

「今まで巻き込んできた無関係な命にオレは懺悔などしない! 感謝しかない! 自分の弱さや未熟さやバカさ加減を教えてくれる戒めとなってオレの中に生き続ける!」

 

カリフの戦う理由

 

それは本能的な戦闘好きがほとんどだろう。

 

だが、カリフは命の奪い合いを通して感謝することも戦う理由の一つ。

 

「だからオレは花と子供と平和が好きな聖人を巻き込んで殺すことになろうが後悔だけはしない! 彼らの命はオレの血肉となって生き、二度と繰り返させない戒めでもあればオレの人生でもある! これまでの後悔は彼らへの……言わば侮辱だ!」

 

誰だって死ぬことは怖い。

 

だが、“平和”は命への感謝の念を殺す。

 

普段は健康な人が病気になり、苦しんだ後に健康の大切さを思い出すのと同義である。

 

“死闘”という死と隣り合わせの状況下に身を置くことで命の大事さ、儚さを思い出し、感謝する。

 

「だからこそこの力を手に入れた! 誰よりも強欲で! 我儘で! 傲慢だからこそ手に入れた力だ!」

 

そして、もう一つの戦う理由がある。

 

「てめえ等の物差しで決められた“悪”や“正義”など関係ない! これからも殺したい奴は殺し、戦いたい時に戦う! 周りなど知ったことではない!!」

 

それは、“約束”

 

ありきたりだが、カリフにとっては一生のテーマである。

 

純粋なサイヤ人がそんなことに固執することは充分に異質といえよう。

 

「無関係な者を巻きこまないための強さも約束を守る力も手に入れればいい! そのためには貴様等が邪魔なんだよ!」

「くっ!」

 

カリフはフライングフォークをアリアに飛ばすが、アリアは大振りの攻撃を転げて回避すると、フォークは後ろへと飛んでいく。

 

そして、カリフは足を掴むロッテに足を振り上げた。

 

「だから邪魔すんなぁ! このちっぽけな駄猫があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「!?」

 

そしてカリフが勢いよく踏みつけるように足を振り下ろした。

 

 

 

 

 

ビルの屋上は割れ

 

 

 

 

海鳴市が倒壊した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒壊した海鳴市の地にカリフは降り立った。

 

そしてカリフはビル倒壊の際にショックで気絶したリーゼ姉妹を無作為に投げた。

 

流石に殺しはせず、内臓だけを痛めて骨はあまり折っていないから死なないことは想定済みだった。

 

カリフはどこか苛立ちながら死んだように気絶する血まみれの姉妹を睨んでいると後ろへシグナムたちが降り立った。

 

「早くしろ。でないとすぐに起きるぞ」

「お、おう……」

「じゃ、じゃあ私が……」

 

未だに小規模の雷を纏うスーパーサイヤ人2のカリフにヴィータもシャマルもオドオドしており、シグナムとザフィーラも冷や汗をかいている。

 

収集をシャマルに任せてすれ違い、カリフはシグナムたちの元へ行って散らばっていたビルの破片に腰を下ろす。

 

「……」

(き、気まずい……)

(疲れているのか? 何も言わない方がいいのか?)

(と、とりあえずツッコんだ方がいいのか? その金髪とか……)

 

一息吐くカリフに他の面々は念話でどうすべきかを相談していた。

 

「……」

「……」

「……」

「……くそ」

「ど、どうした?」

 

そんな彼女たちに気付いたのか、カリフは一息吐いて喋ったのに対して動揺する。

 

だが、カリフは構うこと無く続ける。

 

「本音をいったことはいいが、こいつ等如き二喋らされたと思うとムカついてきたんだよ……この姿になると興奮してしまうのが難点だな……」

「そ、そうなのか?」

「あぁ、そいつ等を殺すようなヘマはしないように済まそうと思ったんだが、思わず一割も出しちまった」

「そうか……」

 

何を一割? と聞きたいところだが、怖くて聞けなかった。

 

そんな時、カリフたちの元へさらなる客が招かれた。

 

「カリフ!」

「カリフくん!」

 

聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはフェイトとなのはを筆頭にユーノ、アルフ、そして閉じこめたはずのクロノもいた。

 

そして、後方からプレシアの姿もあった。

 

「てめえ等!」

「くっ!」

 

騎士たちは臨戦態勢に入ると、なのはたちもデバイスを構える。

 

「カリフ……なのかしら?」

「よく見ろ。この姿でオレ以外に誰がいる?」

「カリフ……その姿……」

 

プレシアとフェイトの戸惑い気味の疑問にカリフは気を良くしたように笑って答える。

 

「おっと、あまり刺激するなよ? この状態だと少々気も短くなる……そしてクロノ、お前もよく抜け出せたな」

「君が出してくれたんだ。君の遠距離用のフォークがね……」

「? あぁ〜……そういうことか……」

 

クロノの一言に上空のスプーンを見ると、そこにはアリアに放って空ぶりしたフォークがスプーンドームを破壊しているのが見えた。

 

「やっちまった」という表情をするカリフにユーノは急いでいる様子でカリフに言う。

 

「それよりもカリフ。蒐集を止めるんだ」

「却下だ」

 

バッサリと切ったカリフにユーノは言葉が詰まったが、カリフは笑みを浮かべて続ける。

 

「……と言いたい所だが、この時点でお前の情報が一番真に近いのだろうな。話せ」

「おい! 耳を貸すなよ! そいつ等に闇の書の何が分かるってんだ!」

「闇の書については我々が一番理解している」

 

ヴィータとシグナムがなのはたちを睨んで言うと、なのはが悲しそうに叫ぶ。

 

「本当に理解してるなら、なんで本当の名前を呼んであげないの!?」

「!? 本当の……名前?」

 

なのはの言葉にヴィータは一瞬驚くが、すぐに思い当たる。

 

以前から感じていた不安の根源に迫っている。

 

「本当の名前が……あったでしょ?」

「そう……だっけ?……そうか……そういえば……!」

「あぁ、何となくだが私も何かが引っ掛かって……」

「我もだ……何か大事なことを……」

「……どういうことだ?」

 

ヴィータを始めとした騎士たちは何かを思い出すかのように呟くのを見てカリフはユーノに問う。

 

「それよりもそこをどいて! 闇の書が完成してしまったらはやては……!」

 

そこまで言った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「眠れ。永遠に」

 

誰かが小さく呟いた時、異変が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あぁ……」

「こ、これは……!」

「なん……だと……」

 

騎士たちの体が薄れていた。

 

まるで、この世から消えるように……

 

その光景になのはとフェイトとアルフ、そしてクロノが目を見開く。

 

「ヴィータちゃん!」

「シグナム!!」

「ザフィーラ!」

「この反応……まさか!」

 

クロノが振り向いた先を既にカリフが見据えていた。

 

シグナムたちが消えているのにも目を向けずに背を向けて、視線の先を淡白な瞳で捉える。

 

 

 

闇夜を背にして四枚の漆黒の羽を羽ばたかせる銀髪の女性に口を開いた。

 

「なんだ貴様は?」

 

感情の見えない声に対し、女性も感情のこもらない声で返した。

 

「名も無き……呪われた魔道書さ……」

 

女性はそう答えただけだった。

 

 

 

 

 

両眼から雫を流しながら……答えたのだった。

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魔法少女リリカルなのは 原作キャラ登場 公認犯罪者 ドラゴンボール ジョジョ、バキ、トリコのネタ多数 クロスオーバー オリ主チート&傍若無人 オリ主サイヤ人 ご都合主義 

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