戦う技術屋さん 十四件目 変化
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 早朝訓練を終え。隊舎には自室へ向かうスバルとティアナの姿があった。

 その表情はどこか晴れず、それぞれの手にはローラーとアンカーガンが。両方共、今朝の早朝訓練でカートリッジシステムが不発に終わったり、ローラーが負荷に耐え切れず煙を上げたり等、各々が不調を訴えていた。一応自分達にメンテナンスはしてきたつもりであったが、どうやら思っていた以上に精密機械だったらしい。

 細かい部分何かはカズヤ手製のマニュアル片手に見ても、デバイサーでない彼女達には殆ど理解出来ない程。おかげで表面の表面を取り繕っての騙し騙しの運用になっていた。改めて考えれば、今まで壊れなかった事が本人達には不思議でならない。

とはいえ、今のスバルが気になっているのは、寧ろ先程のティアナの発言であった。

「ねぇティア。さっきのあれ、酷くない?」

「酷くない」

 そういうティアナは呆れ混じり。自室へ着き、それぞれのデバイスを机の上に置くと、ティアナはトレーニング服を脱ぎ捨て、代わりに六課の制服に身を包んでいく。スバルも同じく制服に身を包み、最後にそれぞれのイメージカラーと同じ色のタイを締めて、着替えは完了。

「機動六課でこれからもやっていくなら、ここで支給されるデバイスの方がいいに決まってるでしょ」

 一足先に着替えを終えたティアナが部屋から出ながらそう正論を言えば、スバルは「そうだけどさ」と返すしかない。それでもチラリと名残惜しげな視線を机に置かれたローラーへ向け、ティアナにそれを目ざとく咎められる。

「スバル。諦めてさっさと行くわよ」

「ティ?ア?。ティアは何とも思わないの?だってあれは――」

「カズヤが私達の――って言いたいんでしょ。わかってるわよ、アンタの言いたいことなんて。大方、あの時、なのはさんにそれを言おうとしたんでしょ」

 図星をつかれスバルが言いよどむ中、でもね、と八つ当たりのように乱暴に頭を掻きながら、ティアナはスバルを睨めつける。

「そろそろ自覚しなさい。忙しいのもあったけど、私達が徹底してカズヤとの連絡を断ってたのも『それ』を自覚しようとしていたから、が理由でしょ。ここは陸士訓練校でなければ陸士368部隊災害担当部でもなく、遺失物管理部対策部隊『機動六課』。今の私たちはトリオじゃなくてコンビで、カズヤ・アイカワ二等陸士は陸士108部隊捜査部捜査課でギンガ・ナガシマ捜査官の補佐。此処にはいないの」

「ティア……」

「私達の持ち込みデバイスが壊れて。部隊が実戦用の新デバイスを支給すると言った以上、私達にはそれに従う義務がある。壊れたデバイスじゃ訓練も実戦もこなせないんだから」

「でも」

「でもじゃない。そりゃ、私だって思うところはあるわ。カズヤのデバイスはSS級デバイスマイスターの資格にふさわしく、私じゃもったいない位のハイスペック。正直使いこなせていた気はしない。なのに、そのデバイスを使いこなせるようになる前に他のデバイスに持ち替えるなんて、私のプライドが許さない。だけど、それはあくまで私の個人意思にしか過ぎないの。管理局員として組織の一員として。上官の言葉に従わない訳にはいかないでしょ。分かったら、さっさとしなさい」

「……うん」

 言うだけ言ってさっさと部屋を出ていくティアナ。自動ドアである扉が閉まり、一人部屋に取り残されたスバルは、一度ローラーに触れた。

 先程まで触れることすら困難なほどの熱量を持っていたローラーの熱は、既にその鱗片すら感じられないほどに冷めていた。現象だけ見れば、何ら不思議もない。動かしていないのだからただ冷めただけ。それだけの事なのに、そのことがスバルにとっては、『カズヤのローラーが自分に何かを訴えようとしていた事を諦めた』ように感じてならない。

「……」

 そんなローラーへ、何かを言いたげに開いた口は、しかし何も言うことなくそのまま閉じられて。

迷いを振り切るようにローラーを机へ置いたまま。スバルはティアナを追って部屋を出ていく。

 後に残されたローラーもアンカーガンも。窓辺からの光を、ただ反射するのみ。

***

 その一方で。給湯室から緑茶の入った急須に湯呑を二つ載せた盆を手に出て来たのはカズヤである。

「……そろそろ、スバルとティアナのデバイス、フルメンテの時期かも」

 本当にすっかり忘れていたらしい。その顔は呆けていた。忘れていたことすら忘れていた。そんな様子。

 そんな自身に驚き、苦笑。そして(すいません、ギンガさん)と心中で謝罪しながら、自分への罰を言う意味を込め、カズヤは自らの頭上で急須の天地を逆転させる。

「熱っ」

 降りかかった緑茶の熱さに思わず声を上げる。相変わらず緑茶は熱湯で煎れるなというギンガの教えは守れない。ずっと紅茶やコーヒーしか飲んでこなかったから、ついその癖が出てしまう。そんな癖がつく程に紅茶やコーヒーを淹れる事になったのは、彼女達が原因か。

「あー……駄目だこりゃ」

 茶葉の乗った濡れた頭を、ティアナのように八つ当たり気味に乱暴に掻いて、カズヤはギンガへ連絡を繋ぐ。あえてのサウンドオンリー。繋がった先、ギンガに『どうしたの?』と尋ねられた。

「派手に転んで、頭からお茶を被ってしまって。シャワー浴びてきますね」

『分かった。風邪ひいてもあれだし、ちゃんと暖まってくるのよ』

「ありがとうございます、ギンガさん。ついでに、コンビネーション、どんなのがいいか、考えてみてください」

『だから疎いんだってば』

「ギンガさんなりに、こんなのがあったら面白そう……もとい、楽しそうだなって言うのでいいんですよ」

『言い直したのに、意味に大差が無いんだけど』

「気のせいですよ。まあ、あったら便利そうなのを考えてみてください」

 それだけ告げ、カズヤは通信を切る。それから手元に視線を落とし、シャワーを浴びるのに邪魔な急須やら湯呑は一旦給湯室へ戻して。持ち主同様にお茶まみれになった制服は、ロッカールームの自分のロッカーへしまい、代わりにトレーニング服とタオルを取り出す。トレーニング服に関してはM-10χの試走で着ていた事もあって、少し汗で湿っているが、ワガママは言えない。その二つを手にシャワー室へ向い、他に誰もいないシャワー室で手早く服を脱いで、シャワーを浴び始めた。

 体は別に構わないが、とにかく心を引き締める為に冷水シャワーをその身に浴びて。カズヤはくしゃみを一つした。

「寒い……」

 濡れた身で冷水を浴びれば当然だ。鼻をすすり、ギンガのアドバイス通り、お湯に変えて体を暖める。

「しかし、どうするかな」

 体が暖まったら暖まったで、脳裏に過ぎるのはスバルとティアナのこと。デバイスは壊れていないだろうか。時期的に正直五分五分な気がしてならない。壊れたら壊れたで、機動六課のロングアーチスタッフなら直せるのかもしれないが、カズヤ個人として、自分の制作したデバイスを自分の許可無く誰かに触れられたいとは思わない。ましてやそれが分解、修理などといった作業なら尚更。

「連絡するかなぁ……。でもなぁ……」

 どうにも気乗りしない。スバルとティアナに会いたいというのは、正しくカズヤの本心である。

 しかし、そういうわけにもいかない。彼女達が連絡を断っている理由は、おそらく自分と同じと、カズヤは分かっているから。

「スバルとティアナは此処に居ない。俺は108部隊であいつらは機動六課だ」

 分かっている。分かってはいる。それを自覚するために連絡は取らないし、連絡をしないのだ。

機動六課が活動を始める前。たった一度の連絡。あれが最後だったのだ。

 再会の約束はした。頑張れの言葉に、肯定も返した。意図していたわけではなかったが、別れの挨拶には十分ではないか。

 ……だが。誰もが思っている以上に、カズヤの中でのスバルとティアナの存在は大きい。あの二人は、カズヤの夢なのだから。

「……」

 溜息をつくこと無く、舌打ちをすることも八つ当たりのように壁を殴ることもなく。

 考えることをやめたカズヤは、思考内容よ流れ出ろと言わんばかりに、シャワーの出を上げ、全身に浴び始め……ふと思い至り一度シャワー室を出て行った。

 数分後。ギンガから連絡。

『ちょっとカズヤ、いつまでシャワー浴びて……何やってるの?』

「いえ、ついでですし、制服洗おうかなと」

『アホなことやってないで、さっさと戻ってきなさい』

「了解」

***

 場所は戻って機動六課。フォワード四名がそれぞれ見つめる先。宝石やプレート、腕時計など様々な形をしているそれらは六課生まれのデバイス達。とはいえエリオのストラーダ、キャロのケリュケイオンは基礎フレームと最低限の機能だったものをアップグレードしたに過ぎず、実質的な完全新作はスバルのマッハキャリバーとティアナのクロスミラージュである。

「なんか待機状態って新鮮だね」

「そうね」

 各々の見つめる先、ネックレスのようになっている空色の宝石と橙色の宝石が埋め込まれたプレートを見つめながら一言。何とない会話に、食いついたのはシャーリーであった。

「そういえば、スバルとティアナのデバイスには、待機状態無かったよね。どうして?」

「容量の無駄って言ってました。特に持ち運びに困らないなら、待機状態を作らないで、他の事に使った方が建設的だって」

 ついでにその時、カズヤは「まあ、高町一尉の歳を考えない魔法少女っぽい杖なんかは、持ち運び困るよな」とか言っていたのだが、そこはティアナ。空気の読めるいい子であるから、余計なことは言わない。ついでに本人を前に、そんな事を宣う勇気も無い。

「なるほど。そういう考え方もありか……」

 ふむふむ、と納得するように頷くシャーリー。

「まあ、持ち運びに困らないデバイスの方が珍しいくらいですから。あまり意識しない方が」

 ミッドチルダ式の基本である杖型や近代と古代問わず武器を使うベルカ式も、そのままであれば、当然嵩む。ティアナの銃型やキャロのケリュケイオン、カズヤのA-21αなどのグローブ型位しか、嵩まないデバイスは思い至らない。

「ううん、貴重な意見だよ?あまり聞かない意見だから」

「それはそうですけど」

 言っていた本人が、手持ちのデバイスの数のせいで、待機状態を組み込んでいたからあまり説得力が無かったのだ。おまけに待機状態でも両手の指に一つずつそれをつけても、足らないのだから余計に。

「この子達はですね」

 とそういったのはリィン。導かれるまま、スバルとティアナは振り返り、エリオとキャロもまた振り返り、少し高い所に浮くリィンを見上げる。

「機動六課の前線メンバー、メカニックスタッフが技術と経験の推移を結集させて作り上げた、四人の為の文句なしに最高の機体です」

 リィンの言葉に導かれるように宙へ浮いたデバイス四機が、それぞれの持ち主の手の内へと降りていく。

「この子達は生まれたばかりですが。色んな人たちの想いと、たくさんの時間で出来たこの子達を、ただの道具や武器と思わないで大切に。だけど、性能の限界まで思いっきり全開に使って欲しいです」

 意図したわけではないのだろう。おそらく、多くのデバイサーは同じことを考えている。

『こいつら、インテリジェンスと違って意識があるわけじゃないけどさ』

 だからこそなのだ。リィンの言った言葉は、奇しくも初めての時の言葉とそっくりであった。

『こいつらはお前らの手助けの為に生まれてきた。だから大切にはして欲しいけど、遠慮することはない。使い倒してくれ。こいつらの限界まで』

 だから、という訳ではない。ただデバイサーとして、誰かにデバイスを託す言葉がどれほど重いのか、スバルとティアナは良く知っているから。

「「はいっ!」」

 リィンの言葉に思わず答え。その結果として室内にいた他の全員を驚かせることになった。

 

説明
十五件目→http://www.tinami.com/view/480630
十三件目→http://www.tinami.com/view/470547

暑い夏。まだまだ続きますが、夏休みは終わりました。


一件目→http://www.tinami.com/view/446201
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