恋姫無双〜決別と誓い〜 第十九話 |
俺たち第三連隊は甘寧三佐がいる開拓庁へと向かった。任務は甘寧三佐率いる屯田兵と連携をとり敵の補給線を叩くことだ。
「ここが開拓庁ですか・・・・」
周泰がポツリという。兵士が集まるというよりは農耕場を連想させるかのような場所だった。
耕すための馬や農作工具が数多く置いてあった。
「ふむ・・・・。分かりました。我々の予備兵力を使って敵を叩けと」
甘寧が魯粛からの伝聞を読むとこちらを一瞥した。
「はい。敵は海と陸二つに分かれて補給線を引いているようです。それを甘寧三佐は海の方、私たちは陸上の部隊を攻めます。
「ふむ了解しました。ですが予備兵力だけではいかんともしがたい。そちらの部隊から人数を出していただけたらと」
「どれぐらい人数がいりますか?」
「およそ千人でお願いしたい」
「分かりました。そちらに派遣します。尚軍師の朱然も派遣しますので作戦立案の時にでも・・・」
「はい」
というわけで俺の部隊と同期の徐盛部隊での一個大隊と参謀になんと朱然がつくこととなった。
新しい行政官がくることになってたとき彼が軍師になってたことに徐盛も俺もまさかのビックリだったが、
「言えなくてすまん。軍師になれるかまだ不明確だったから言えなかったんだ。これからは軍師として戦っていくつもりだ。よろしく」
というわけで俺たち二人は彼の転換を自分の事のように喜んだ。
「これから補給線を叩く上での考案した策を説明したいと思います。現在呉の各方面軍は敵の補給線を同時に叩くという策を実行します。我々もこれに参加、任された地域はこことここ」
朱然は地図で山がある場所と海岸をさす。
「まず全部隊を二つに分割。一つは海上から攻撃。敵を攻撃するのではなく、遠くから火矢で船を攻撃するだけでいいです」
「矢だけでいいのか?兵をぶつけないのは?」
甘寧が朱然に疑問を投げかける。
「我々の任務はあくまでも補給線を叩くことです。それと呂蒙さんには言っておりますが、周泰二佐の攻撃が終わってから我々は攻撃するのがいいかと。時間差攻撃というわけです」
「敵は聞く限りでは複数の道を使って補給している。そのことから敵をあちらに注意を引きつけておくというわけか・・・・」
甘寧は納得したように頷き、
「しかしなんで敵は補給する道を複数にしているんだ?こちらより少ない兵力なのに・・・」
徐盛が質問すると、
「敵は建業につながる魯粛准将の要塞を攻めるのに手一杯だ。後方に遣れる数はない。だから補給が少なくても確実に受けれるようにと複数にしているだろう。ひとつの道から補給したときその部隊がやられたら、補給できなくなるからな」
「なるほど。よくわかったぜ」
徐盛もウンウン頷いた。
「敵はこのことを知らないだろうな?」
俺が聞くと
「ああ。敵の間諜には嘘の情報を流しているので安心してくれ」
「ふむ」
「簡単ですがこれが一番効果的な作戦かと・・・。あとは制海権を掌握し劉備軍と連携をとり補給を根絶やしにします」
「よしその策でいこう。流石は冥琳様が推した人物、頼り甲斐がある」
「・・・・恐縮です」
甘寧が珍しく人を褒めた。そのことに軍議に参加していた人、主に北郷、徐盛の部隊の人間は驚いたように顔を合わせた。
「おい・・・。あの甘寧三佐が褒めたぞ?」
徐盛が俺にヒソヒソ声で耳打ちしてくる。俺も驚きだ。彼女が感情を露にするときは罵倒するときか、敵を殺そうと殺気を出す時だけだったからだ。
魯粛の言葉を思い出す。彼女は反省し心を入れ替えて努めていると。
(まさか本当に変わったのか?)
「では移動は虎の刻に出発。敵を待ち伏せるぞ。海上の部隊は私の部隊で、そちらは陸で待機ということで依存はないな?では時間が来るまで待機だ」
簡単なブリーフィングと言うやつが終わった。
「それと・・・北郷、お前に少し話がある」
「!!」
甘寧から呼ばれ心臓がはねる。
「甘寧三佐。北郷一尉は各部隊長と話し合いがありますので私事の要件でしたら自分が」
徐盛が一歩前に出て言う。階級が上の者に許可なく進言等の行為をすることはあまり良しとはされていない。
規則にはないが暗黙のルールってやつだ。
彼の顔をチラリと一瞥するといいから俺に任せとけっと顔で言っている。またあんな事が起こるのではと危惧しているのだ。
「北郷を庇いたい気持ちは私にも分かっているつもりだ。安心してくれ、彼とは一度話がしたいだけだ」
甘寧が言うと徐盛、朱然はチラッと互いに目をやり、
「分かりました」
といい。皆へやから出てっていった。
「久しいな北郷。お前に喧嘩を売ってからもう随分立つな。時間の経過は早いと認識させられる」
「・・・・・・」
「そう警戒するな。今回お前を呼び出したのは、この前の非礼を詫びようと思ってな。この前はすまなかった。お前の事情を知りながらあのような蛮行、武官として恥ずべき行為だと思っている」
「いえ、そんな・・・・」
「あの後、冥琳様と魯粛准将にきつく叱られてな。
お前のしていることはお前が慕う孫権の信頼を踏みにじる行為だと。そんなはずはないと思っていた。
あの時の私はお前がいなかったら雪蓮様が死に、蓮華様があんなにも悲しむことはないとそう思っていた。
おそらく私自身、雪蓮様が不慮の事故でなくなって、憎むべき敵がいなくてお前に全部責任転嫁していたのだろう。
国にしてもそうだが憎むべき敵というのを常に作らなければ不満が爆発してしまう。今の山越だってそう言える。
私も海賊でありながら命を救ってくれた雪蓮様を守れなかった自分の不満をお前にぶつけていたのかもしれない。
あのときは本当にすまなかった。お前はその不満をぶつけることなく、こうしてまた大きく成長しているのにな。まったくどっちが上官かわからんな」
「甘寧三佐・・・・」
「お前の事は天の御使いとしてもう見ない。これからお前は孫呉に仕える兵士として見ていきたいのだ」
手をさしだす甘寧。
「お前の所ではこれは親睦の証を表すのだろう?」
「この戦い、貴方に命を預けられることを誇りに思います。三佐」
ガッチリと組みあう手と手。今まであった凝りがスッとなくなった。
俺はそんな気がした。
それから敵が来るであろう場所から少し離れたところで陣をしき、タイミングを見計らっていた。深夜に周泰からの伝令兵がこちらに来た。
「甘寧三佐。伝令兵が!!」
「よし通せ」
「伝令です。周泰の部隊が敵を襲撃。見事成功したようです」
「大方予想通りだ。ではこれより出陣だ。打ち合わせ通り陸の部隊、海の部隊とで分かれるぞ」
全部で二千弱の兵力を海が屯田兵主力の七百、残りを俺たちの部隊で分けることとなった。
朱然は海上の指揮をするため甘寧と共に戦地へ、他の軍師はこの陣で待機して指示を行うとういことになっている。
朱然はもともと俺たちと引けを取らない武官だったから、現場で指揮を取りながら戦うのだろう。
俺たちは体中に泥を付けて敵を待ち伏せていた。これは俺が提案したものだ。まぁフェイスペイントと言ってもいいか。
ワーワー声が聞こえる戦闘が始まったらしい。金属がぶつかる音はしない。しかし海岸方向から何かが焦げる臭いが・・・。
「上手くいったみたいだな・・・」
「そうですな隊長」
敵が上陸したら攻撃開始だ。・・・・・・・そろそろ頃合だな。俺を含めた弓兵が敵を狙撃していく。
「ぐぁ!!」
放たれた弓がつぎつぎと敵兵に刺さっていく。
「敵だ!!敵がまだいるぞ!!!」
「くそ!!!俺たちを逃がさないつもりか!」
補給部隊はつぎつぎと物資を捨て逃げていく。なかには物資を守る勇敢な兵もいたがまもなく射殺された。
「ナンマイダブ。ナンマイダブ・・・」
俺はそれをブツブツ言いながら次々と敵を殺していく。なかには俺より若い明らかに少年の面影を残す者もいたが関係なく、船から降りようとする兵士の胸部、頭部を狙い連射していく。
「退却だ!!退却!!」
「退却っていったって何処に逃げるんだ!!?」
敵は俺たちの時間差攻撃でかなりの混乱状態に陥っていた。
敵の補給部隊はおよそ1,000人。数字が互角でもこれだけ混乱すれば勝ち目はない。ましては相手にしてるのは呉の最強部隊である第三連隊の分隊だ。
「俺に続けぇ〜!!!」
弓から逃げようとするものは待ち伏せされていた徐盛たちに倒されていく。
徐盛の装備は変わってる。手に鉄のような手袋をつけ、靴の底が鉄でできている。彼のオーダーメイドらしく、彼の村で賊と戦うために村の鍛冶場が作ってくれたらしい。
また武器も双剣でその姿はまるで西洋の騎士に近い。
徐盛は器用にその双剣を振り回しながら敵をなぎ倒していく。
「一人でダメなら多数でいけ!!!」
多数に無勢といった状況だったが、徐盛は別に何とでもないといった顔をして敵に切りつけてくる。
剣の遠心力を利用することで通常の剣では有り得ない速度で剣が振り回される。
戦っている相手が二人だろうが三人だろうが彼の武器の餌食にされていく。リーチが長いためだ。
が徐盛の剣が砂場に刺さって抜けなくなってしまった。
「バカめ!!その首もらったぁ!!!」
その隙をついて反撃しようとした兵士が剣を振りかざしたが、
「フン!!」
斬りつけようとした敵は顔を切られ絶命していた。
なんと徐盛は足で思いっきり蹴って抜けなくなった剣が抜け、そのままを敵を切ったのだ。隙ができても鉄の部分を使って蹴ることでそれをなくす。
破壊力もありそれでいて隙がない。
徐盛の後ろには大量の血で染まっていた。
「次死にたい奴は誰だ?」
血に染まった徐盛と後ろにある死体を見て敵は戦意がなくなり次々と投降していった。
俺も矢が尽きたら剣で接近戦に持ち込む。
剣で流したところに急所にすかさず殴打を加えて体勢を崩したところで切りつける。時には目潰しをしたりといった外道戦法を使って敵を倒す。
その繰り返しだ。俺たちは戦争をやっているのだ。一騎打ちなんかは犬にでも食わせておけ。どんな形であれ生き延びて敵を討つ。それが俺の戦法だった。
これだけ混戦なら敵も弓は使えない。接近戦で敵を徐盛同様なぎ倒していく。
部隊では孤立することなく、常に固まって戦っているため統率が取れ効率よく攻撃が出来た。
山越はというと海からの攻撃を逃げ切ったかと思えば強襲をうけ統率が取れず混乱が生じた。
これに海から追撃に来た甘寧、朱然の予備兵部隊と挟撃され敗北は決定的となった。
「〇▲◆×〜」
「ああ?!こいつら何言ってんだ?」
「言葉がわからん。どうするよ?」
武器を捨てて投降する兵士だが言語が違って何を言ってるのかわからない。
「めんどくさいしな〜。おっ!いい方法思いついたぜ」
「なんだよ?」
「こうすんだよ〜」
武器を捨てた無抵抗な兵士を弓で射殺する。
「良い的になっだろ?」
「お?!いい考えだな!!」
呉の二人の兵士はそこの投降しようとした兵士たちを次々と殺していった。
「なんて言ってたんだろうな?」
「≪俺実は男色趣味なんだよ〜》とか言ってんじゃねえの?」
「ぎゃははは!!なんだよそれ、ウケるわ!!」
殺した兵を見ながらゲラゲラと笑っているのを俺は注意しなかった。彼らだって仲間が殺されてるのだ。そう思うと殺さずにはいられないのだろう。
周りを見渡すとチラホラと呉の兵士の死体が混じっている。頭を割られているもの、腸を引きずり出されて死んでいるものその他もろもろ。
あの殺戮の現場であの二人をあのように変えてしまう何かがある。俺は改めてそう感じた。そしてなかにはこうゆう兵士もいる。そう割り切っていくしかなかった。
呉は近代化に成功した各方面軍による補給線掌握作戦は成功という形となった。
その結果山越は制海権を掌握されてしまい補給ルートを脆弱にしてしまった。
負けた原因は朱然の予想通りだった。
山越は魯粛の拠点基地攻略戦に戦力をつぎ込んでおり補給部隊に救援を出すことができなかったし、過去に戦ってきて今迄互角だった相手がまさかここまで強国になっていたなんて予想だにしていなかったのだ。
この作戦の成功を機に呉の反撃が始まろうとしていた。
どうもコックです。
溜まっていた分をなんとか書けました。
次は魯粛、冥琳観点から戦争を進めていきたいと思っています。
そうそう余談ですが、兵士が捕虜を殺害するシーンがありましたがこれは実際にありえる行為だと思います。
実際イラクでアメリカ軍が捕虜に虐待するなんて聞きますよね。
人間というのはあまりに弱い生き物です。
それをやっちゃいけないと分かりながらやってしまう。
何がやらせるか?
戦争を知る上で一番知らなければいけない部分だと筆者は思います。
ついでに話で書いた捕虜殺害シーンはある戦争映画のオマージュとしてとっています。
1990年代に作られた戦争映画とでも言っておきましょうか。
某SF映画の巨匠さんが作った映画です。
ではまた、再見!
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題名を少し変えました。 溜まってた分を投稿します。 感想や誤字指摘待ってます。 |
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コメント | ||
コメントありがとうございます。そうですね甘寧さんは成長したと思います。自分の行いから左遷させられてかなり堪えたんだと思います。階級も下がってますから部下だった周泰に敬語を使ってますしね(((゜Д゜;)))(コック) 甘寧が少し成長したか(たこきむち@ちぇりおの伝道師) eitoguさんコメントありがとうございます。甘寧との蟠りはこれで一応なくなったと思ってください。(コック) 甘寧との蟠りがなくなったか?(eitogu) |
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