fate imaginary unit 第十四話 |
「統二。あれで良かったのか?今ならあの二人を何の苦もなく倒せただろうに」
エーデルフェルト姉妹と別れた後、周囲に人がいないことを確認してライダーが実体化して統二に問う。
確かに魔術師として考えるのならば、統二の取った行動は愚かとしか言いようがない。
なぜ無防備に近寄ってくる敵を見逃すのか。
そしてあまつさえ自分がマスターであることを伝えるのかライダーには理解出来なかった。
「海賊王ともあろうものが、正々堂々の美学も分からないのか?」
統二は意外そうな声を上げたが、考えてみれば海賊は不意打ちで生きるような人種であったと統二は思い出す。
「いや、申し訳ないなライダー。しかし、これは言うなれば、お前を信頼しているから出来る芸当だぞ?」
「ふむ?」
統二の一言が耳に残ったのかライダーはマスターの言葉に耳を傾けた。
「簡単な話で、俺がライダーならば勝てるという自信を持っているからわざわざ手の内を明かしたんだ」
得意気にそう言う統二の顔を見てライダーはふんと鼻を鳴らす。
「なに当たり前のこと言ってんだよ。ただの漁師の癖に」
違いない。そう言って統二は歩を進める。
ライダーには秘密にしておいたがもう一つ理由があったのだ。
確かに、あの場で一人を殺すことは魔術云々を考慮に入れずとも出来ただろう。
しかしそれは、姉妹共々俺のそばまで寄ってきてくれたらばの話だ。
「あの眼……中々の大物な気がするな」
俺と姉から一歩引いて見ていたあの妹の眼が視線が統二に攻撃をためらわせたのだ。
じろじろと見ないように気を配っていたようだが、確実に見られている。
統二はそう勘づいていた。
二人とも魔術師。
恐らく姉妹と言うのだから、同系統の魔術を行使するか、はたまた正反対の魔術を行使するだろう。
ともかくそこに対策がとれない以上攻撃は控えるべきだという結論に至ったために会話に興じていたのが真実である。
それに、先程ライダーには正々堂々に勝負するのが理由だからと伝えた。
ライダーが納得したとするならば、どうやら俺は他人から見て正々堂々と勝負を楽しむタイプの人種のように見えるのであろう。
恐らくあの姉妹の二人共、最低でも一人はそう思っているに違いない。
むしろそうでなければ困る。
「ライダー」
統二がそう呼ぶと隣を実体化して歩いていたライダーが首を傾けることなく、返事をする。
「次にあの二人に会った時、お前はあの二人の後ろから攻撃を仕掛けろ」
統二の台詞に驚いたのかライダーは一瞬統二の顔を覗いたが統二の横顔を見るとニヤニヤと口を歪めた。
どうやら、ライダーも自分のマスターはどういう人種なのか認識を改めたようだ。
正直な話、正々堂々という言葉嫌いじゃない。
己が力量と相手が力量を試す行為は素晴らしい。
しかし、それは相手が自分と同等、もしくは自分以下の場合に限るのだ。
俄かであるが魔術師になった統二は姉妹と初めて話した時こうも感じていたのだ。
自分とは魔術師としての格が違うと。
統二達はほどなくしてこの冬木の地における宿に着いた。
当然のことだがこの地に知り合いがいるわけでもないので、村の知り合いでこっちに出稼ぎに来ている人の家に居候するという形を取った。
統二が扉を開けようとするとドアがギシギシ軋む音が聞こえる。
正直かなりみすぼらしいというか老朽化が顕著な住宅だ。
それでも雨風をしのげる場所があるのは有難いことだ。
「おぅ。統二か。釣りは上手くいったか?」
家主の問いに統二は今日の戦果を投げる。
魚数匹だった。
「まぁ、これだけあれば平気だろ?」
そりゃな。と言って家主は魚を料理し始める。
家主は仕事の行く準備をしていたのかすでに作業着に身を包んでいた。
ここの家主は統二の子供の頃から知り合いで名を首藤恭平と言う。
恭平も漁を営む家系だったのだが、早くに父を亡くし、母に漁を禁じられ仕方なく冬木の工場で働いている。
普通ならば徴兵されてもいい年頃なのだが恭平は一度結核の疑いがかけられ日本に強制送還されたのだ。
それから現在に至るまで運よく徴兵の赤紙は届いていない。
「今日はどうしたんだ?」
恭平が魚を捌きながら統二に話掛ける。
「どうしたとは?」
「やけに楽しそうな顔をしてる。そういう時のお前は決まって悪いことを思いついてるんだよ」
どうやら旧知の仲の恭平には統二の性格は見破られていたようだ。
統二はまぁな。とだけ答えると恭平の目の前に座る。
「これ、何か分かるか?」
そう言って統二は恭平に令呪を見せる。
恭平は統二の手を一瞥すると知らんと答えた。
「そうか……実はな」
そこで統二は経緯を話す。
水神の加護のことを。
聖杯戦争のことを。
話を聞いた後恭平は改めて令呪を触る。
「なるほどなぁ。じいさん共の妄言かと思ってたがこうしてその権化があるんじゃ疑いようがないな。じゃあ、さっきからピリピリと感じてる視線ってのは幽霊でもなんでもねぇんだな」
そう言うと恭平はライダーの方を見る。
ライダーは霊体化しているのに場所を見破られたことに驚く。
一般人が霊体の視線などを感じ取ることが出来るのだろうか。
西洋で言う所の悪魔払いなどが悪魔や幽霊を見ることが出来るのと同じようなものなのだろうか。とライダーは考える。
「ライダー。そんな一般人はこいつ以外に存在しないだろうから気にしなくてもいいぞ」
統二はライダーに背を向けたままそう言った。
「こいつはどうも昔から動物的勘というのか第六勘が強い。人間よりもむしろ人間以外の方が見えてるかもしれない。もしかしたら呼び名があるかもしれないが俺は知らん」
「流石にそれは言い過ぎだろ。俺だってその…ライダー?だっけか。その人は目つきが悪い女の人にしか見えない」
そう言うと恭平はライダーに向かってほほ笑む。
その双方の眼は少し濁っているとライダーの目には映った。
「ところで統二一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「そこまで話したってことは俺に何かやらせたいってことか?」
「察しが良くて助かる。実はその通りなんだ。俺達が動くと目立つ。街で働いてる時に何か異変を感じたら教えてくれるだけでいい」
「それだけでいいのか?」
「あぁ」
意外に頼み事が少なくて驚いたような視線を恭平は統二に送る。
分かった。と一言だけ言うと恭平は魚を調理し終わったのか統二達の前に出す。
簡単な刺身と玄米だった。
「とりあえず、飯にするか」
話を変えるために恭平は敢えて機転を利かせたのか笑顔で統二に語りかける。
「随分と遅い朝食だがな」
違いない。
統二はいただきますと手を合わせて刺身に手を伸ばした。
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何故彼は彼女たちを見逃したのだろうか……。 最強のサーヴァントを総べる彼女たちを |
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