恋姫無双 〜決別と誓い〜 第二十話
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「報告します。山越の後方部隊が壊滅状態に。作戦は成功です!!!」

 

「よし。このまま一気に攻め込むぞ!!」

 

籠城戦で敵を今迄防いでこれたのはこの為に周到に準備を重ねてきたからだ。

 

何重にもなる堀、そして迷路のような塀が行く手で敵を分断させ、さらに敵を足止めする大量の茨や多くの罠。

 

今この要塞は反董卓連合で戦ったあの関所よりも強大なものであった。

 

この拠点は要塞はまさしく迷路。どこに攻撃目標あるのかわからない。魯粛は地の利を利用して敵を待ち伏せし、出会い頭に必殺するして引き返す一撃離脱の戦法を採っていた。

 

敵を必殺しては追いかける敵を罠におびき寄せ残った敵を殲滅する。山越はどこから来るかわからない敵と待ち受ける多くの罠で足止めをくらっていた。

 

数はあちらが上だが今迄修練を積み上げた兵士、軍師達は自分の出来ることを完璧にこなしてくれている。

 

さらに劉備軍の有能な将兵たちが加わり、この要塞はまさに鉄壁と呼べる状態であった。

 

大きいのはこの戦争状態である程度成長している兵士を安定して毎月この地に送ってこれるということ。

 

素人が戦争に参加することなく総力戦で戦争に挑める。これは民兵でまかなわれていた孫呉にとっては大きな躍進だった。

 

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「しかしまさかこれほどの要塞ができていたとは・・・」

 

私は今は友軍として働いているが呉がこれほどの技術力と斬新さを持っている国だとは思ってはいなかった。

 

「ああ、要塞内は非常に入り組んでて地の利も向こうにある。突破するのさえ難しいな」

 

星もお手上げといった感じだ。

 

「雛里には呉がどれくらい出来るのか偵察がてら救援に向かえと言われたが・・・・」

 

「格の違いを見せつけられたと言ったところか」

 

「うむ・・・」

 

戦いはいま一段落つき休める兵士は休めという指示が出されたので前線にいた二人はこうして休んでいる。

 

だが呉の粘り強い攻防にも関わらず蜀の将軍二人の顔つきは険しく気分は最悪だった。

 

星も自前のメンマと酒を飲んでいたが、全く酔える気分じゃない。自分の秘伝のメンマの味がしないのは初めてのことだった。

 

「山越の奇襲で次々と南の方の拠点が奪われたがそのあと態勢を見事に立て直したのも見事だったな」

 

呉は魏や蜀と違い天下無双の武将、軍師がいなかった。

 

魏なら夏侯惇、夏侯淵を筆頭とした強力な軍と荀ケ、程c、郭嘉など数多くの素晴らしい軍師がいるし、蜀も関羽、趙雲、張飛、馬超、黄忠の五虎将軍を筆頭とした武将が揃い、その強力な武将を動かす諸葛孔明、?統、董卓の軍師だった賈駆、陳宮そして呂布といった強力な武将がいた。

 

穀物の生産量でも魏が穀物が一番取れる袁紹の領地を奪ってからは凄まじい生産量を誇るし、それに負けず劣らず蜀も沃土な土地を持ち生産量も負けてはいない。

 

呉は孫策、甘寧、黄蓋といるがあまりに強い武将や軍師がいなかったし、生産量も二国に比べると多くはない。

 

そのぶん、その弱点を補う方法というのは皆が他の武将に見劣りしてもどの国の兵よりも極めて高い水準の兵士、官僚、軍師を育成することだと結論づけたことだった。

 

農耕も孫権を筆頭に研究が進みそれを市民に無料で教育する。

 

学舎を設け勉学をしたい子には勉学をさせてやる。といったふうに教育に予算をかけ、国民全体が高い教育水準になるよう目指した。

 

特定の人間に頼らない互いが互いを補っていくという方法は呉ならではといったところか。

 

 

「この戦いは連合軍が圧勝だろうな・・・」

 

ぼそりと星が言う。今呉は奪われた拠点を一つずつ奪取していくという策をとっている。

 

戦力を各地に分散させず、物資が届かない拠点を一気に大量の戦力を投入することで四面楚歌の状態にさせる。

 

その策は朱里や雛里が立案する奇抜な策とは違い、誰でもできるような策だが兵士を効率よく稼働させるという点ではこのほうが良かった。

 

呉はまさに鉄の暴風雨と呼ぶにふさわしい猛攻をしている。

 

この籠城戦も後ろから大本営という軍本部が直々に近いうちに来ることで戦意は全く落ちていない。

 

むしろ敵を陥れて戦意が高揚しているようにみえる。

 

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「星、私はわが主である桃香様の剣として仕えることが最大の喜びだった。

 

あの方のためなら命だって惜しくない。今でもそう思っている」

 

「・・・・・・」

 

星はメンマをかじりながら酒を煽る。

 

「桃香様は確かに孫策のような武もなければ、曹操のような知略もない。

 

だがあの方には二人には負けられない仁徳というものがあった。

 

どんなことがあっても怒らず、常に笑顔を絶やさないでいた。皆を笑顔にできる不思議な魅力があった」

 

「ああ、そうだな・・・」

 

「だがこの呉の劇的な変化を目の当たりにして、私の考えは大きく揺らぎ始めている」

 

「・・・ほう?そうはなぜだ?」

 

愛紗に酒を注いで話を促す。

 

「向上心と勇気だ」

 

そう言い、一気に酒を飲む。私はあまり酒は飲めないが今回ばかりは飲めずにはいられなかった。

 

「向上心と勇気?」

 

「そうだ。呉は自分の弱点を克服するため知力を振り絞り改革を断行した。民に教育し、きちんとした規制を作った。

 

たとえば呉との友好協定だって国民に普遍的な教育体制をと謳っている。

 

全国民が教育を受ける権利を有するなんて今迄なかったことだ。

 

蜀を作ってから我々は国をもっと良い方向に持っていこうと努力したのであろうか?」

 

「それは・・・・」

 

星の顔に陰りが見える。彼女も飄々としているが、しっかりと周りを見渡す力がある。彼女も感じ取っていたのだろう。

 

「確かに劉表がいた頃より良くはなった。

 

治安も回復し、穀物もきちんと一定の量は確保できるようになった事は朱里を筆頭とした有能な文官が立て直した間違いない事実だ。

 

だがそれまでだ。

 

我々はそこから一歩踏み出せる今ある世界観を破壊できるような勇気を持てなかった。

 

ここまで呉と差が付いたのは我々の向上心と勇気のなさから来たものではないだろうか・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

星は一言も言葉を発さなかった。いや出来なかったといってもいい。

 

「だから朱里そして文官たちは呉に旅立ったのだろうか・・・?」

 

あのとき私は朱里の考えが理解できなかった。自分の主君をあまりにも蔑ろにする態度だと、内心憤りを感じていた。

 

だが違った。愚かなのは我々だったのだ。

 

現状に満足しきり、より良い方向へ改善するという我々の『原点』とも言えるものをいつの間にか無くしてしまっていた。

 

あの桃園で誓ったはずなのに・・・。

 

星はふっと笑った。

 

「意気揚々と救援に来たはずなのに、打ちのめされたのは我々だったとは・・・。あまりにも皮肉だな」

 

・・・と寂しく言って。

 

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それから二週間後

 

俺はこの要塞で軍師たちとこれからの作戦を立案していた。

 

戦況は最初は敵が数で優勢だった。だが俺たちの懸命な防御の前に籠城している俺たちの方が優勢に傾いていった。

 

そこに伝令兵が急いでくる。

 

「何事だ!!」

 

「大変です。敵主力部隊は現在建業を目指し進軍中!!!」

 

「なんだって!?我々は突破されてないぞ!!!どうやって・・・」

 

他の軍師たちが青ざめる。当然だ。首都が陥落したら、詰め。敗北だ。

 

「救援を・・・、しかし間に合わない!!」

 

「だが我々もここで手一杯だぞ!兵をやれる余裕は・・・・」

 

「何言ってんだ!!俺たちが負けるんだぞ・・・」

 

軍議は混乱をしかけたが、

 

「静かにしろ!!!!」

 

「「!!!!!」

 

俺が大声で一喝。シーンと静まり返る。

 

「慌てるな。俺たちは今ここで慌ててもどうしようもない」

 

「しかしこのままでは建業、大本営が・・・・」

 

「確かにそうだ。大本営が動いていることで首都の防御力は無いに等しい。だが建業に兵を残していたら・・・?」

 

「そんなことはありえません。孫権様を中心の大本営の部隊がおよそ五万。これで全戦力です!!」

 

「お前らよく考えろ。劉備軍がいるだろう」

 

「しかし准将。劉備軍では距離が遠すぎ、間に合いません」

 

「そうだ。なら建業にいたら?」

 

「「・・・・・え?」」

 

皆ポカンと呆気に取られる。それを俺は気にすることなく説明する。

 

「俺と周瑜は大本営の中枢に間者がいると見破っていた。そこで俺たちはその間者と接触している者を『懐柔』させることで事前に情報を掴んでいた。

 

だが間者を斡旋する親玉が特定できず山越の進行を未然に防ぐことはできなかった。

 

だから俺は保険として劉備軍の黄忠将軍と連携をとり、蜀軍を民間人として潜ませ、周瑜は大本営に芝居を打つよう頼んだんだ。どうやらこの保険は当たったらしいな」

 

山越のこの部隊は囮だったのだ。こちらに視線を集中するように芝居をうった。

 

国力が劣る山越では短期決戦で来るとと予想させるようにだ。

 

攻め込まれた劣勢になったら呉の主力部隊が救援にくる。

 

呉は山越がまさか建業を攻めるとは地理的にも不可能だから全戦力を投入すると踏む。

 

そこで密かに何らかの方法で潜ませていた主力部隊で敵の心臓を潰す。

 

全てはこのときのために・・・・。

 

だが周瑜と魯粛はそれを逆手にとった。

 

二人は建業から一番近い基地の司令だった黄忠と連携をとって蜀の兵隊を密かに潜ませたのだ。

 

山越も呉と蜀が通商的にも協力関係にあるのは知っていた。

 

関所の撤廃で蜀から呉、呉から蜀へと人の出入りが活発になることに何も疑問を持たなかった。

 

周瑜と魯粛はそこに目をつけ兵士たちは敵の監視から逃れられたのだ。

 

相手の考えを二手三手も読みそれを逆手に取る大胆な策。

 

当然蜀に建業を任せることは寝返りの裏切りがある可能性も否定できないが、呉の国民のしつこさは袁術の反乱で分かっている。

 

義に背く卑怯な行いを国民は絶対に許さない。そうなると黄巾党のような状態にまた逆戻りする。

 

周瑜が魏の交渉のように黄忠に揺さぶりをかけたのだ。裏切ったらただでは済まないと。

 

踊らされたのは連合軍ではなく完全に山越だった。

 

大本営は転換して建業にいる蜀と五万の主力部隊の挟撃による部隊殲滅戦。

 

(逃げられない・・・)

 

それに気づいた軍師達は目の前にいる魯粛を出し抜ける人間がいないことを悟り、恐れおのくと同時に敵主力部隊の冥福を祈った。

 

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「なんだと?蜀の軍勢が!?」

 

男はうろたえていた。自分が仕掛けた作戦が失敗したのだ、顔面は蒼白で震えて歯がカチカチとなっている。

 

 

「はい。策は失敗に終わりました。このままでは貴方の命が危ぶまれます。どうか身を隠してください・・・」

 

「・・・・くっ!」

 

逃げようと踵を返したその時、

 

「何処に行かれるのですか?孫静さま?」

 

目の前に周瑜とその後ろに大勢の兵がいた。

 

「周瑜・・・!!」

 

「そんな怖い顔なさらないでください。どこへ行こうとしてるのか聞いているだけではありませんか」

 

周瑜はどこかとぼけた態度で接しているが、男のやった行いを知っている。

 

と目で語っていた。

 

「孫静様お逃げください・・・!ここは私が時間を・・・」

 

山越の間者が小刀をもって周瑜に突撃するが周瑜のムチが間者の手を器用に巻きつけ、態勢を崩す。

 

「ふっ!!」

 

崩した敵の顔面に強烈な回し蹴りを当て吹っ飛ばす。吹っ飛ばされた相手はピクピクと痙攣し動かなかった。

 

「連れて行け。まだ殺すなよ」

 

「はっ!!」

 

兵士が間者に猿轡をねじ込み担いで天幕を出ていった。

 

「さて孫静様。貴方には間者と敵軍に機密情報を漏らした事は国家反逆罪の適用となります。これは前王の孫策の叔父でもあっても免れることはできません。何か言いたいことは?」

 

「孫権様のような軟弱者ではこの呉の国難をなんとかできるとは思えない!!」

 

「だから孫家でありながらこのような暴挙を?」

 

「そうだ!!」

 

「それが将来国の繁栄に繋がるのならば行うさ!」

 

周瑜はツカツカと前に出て孫静の胸ぐらを掴む。

 

「ひっ!?」

 

「お前のその考えで何人もの関係ない人々が殺されたと思ってる・・・・!あの戦場で死んでいった者たちにも無事に帰りを待っている人がいるのだぞ・・・・!!」

 

周瑜の顔は怒ってはいなかった。

 

むしろ穏やかでまるで友人にでも話をしているかのようだ。

 

しかし目が違った。前王孫策に匹敵する目つきの鋭さだった。

 

彼女の目つきだけで孫静は涙を流し尿を漏らす有様、まさに虎さえ殺せる眼差しといったところか。

 

掴んでいた胸ぐらを離すと、腰を抜かしてしまう。

 

「連れて行け」

 

「は・・・、はっ!!」

 

同行していた兵もたじろいでしまうぐらい周瑜は殺気を出していた。

 

孫静を連れていったのと入れ替わりで、

 

「周瑜将軍。我々大本営はこのまま半転、一気に敵を叩きます」

 

「そうか。分かった」

 

そう言って去っていった。

 

以前孫策が死んだとき寂しそうで泣いているような弱々しい背中が今では誰もが寄せ付けない巨大な背中に兵士たちは見えていた。

 

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どうもコックです。

 

これで一応「再会・戦編」は終了しました。

 

自分的には結構うまくかけたようでしたけど、どうでしたか?

 

なんとか伏線を回収できて良かったとホッとしています。

 

今回蜀がブルーでしたね(汗)

 

なんかアンチ臭がするのは否めないような雰囲気が出てきましたが、筆者は蜀は好きですよー。

 

どっかで活躍させたいですね(;´д`)

 

それと我らが冥琳さんがかなり熱い人間になってしまいました。

 

だけどいいですよね?ほらゲームでも呉の人間は直情的な性格の人ばかりでしたから(^_^;)

 

あと冥琳さんが武器を使う描写って自分が見てきたssにはあまりなかったので入れてみました。

 

白虎九尾という冥琳の武器はムチみたいなのと聞いています。

 

あと魯粛さんが言っていた要塞ですが、函館にある五稜郭や豊臣秀吉が建城した大坂城を連想していただけたらと思います。

 

なお冥琳さんの武器が違う!!という人は教えていただけると助かります。

 

ではこの前描きたいなと言っていた一刀と冥琳のところを載せられたらなと思います。

 

最初は蓮華√を期待してたのに、

 

いつの間にか冥琳√かガチムチ√にしかならなさそうだなぁ(・□・;)

 

では再見!!

説明
溜まってた分を投稿します。

これでなんとか出せた。

感想、指摘待ってます。
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コメント
アーモンドさんコメントありがとうございます。私もできる限りはガチムチ√は避けるようには頑張りますが、最初蓮華デレデレ√でいこうと考えていた筆者が予想と大きくかけ離れた話になっているのを考えたら・・・・(´Д`;)(コック)
待ったましたよ!!引き続き楽しみにさせてもらいます。すみませんガチムチ√は勘弁してあげてくださいw(アーモンド)
黄金拍車さんコメントありがとうございます。自分でやっていたら変な日本語になってたり変な漢字になっていてもわからないので修正のコメントを出してもらって凄い感謝してます!!(コック)
一気に読ませていただきました。面白いので完結まで頑張って下さい。なお、いくつか誤字脱字がありましたのでコメントに記入しておきました。修正お願いします(黄金拍車)
指摘ありがとうございます。漢字の変換間違えでした。修正いたしますのでどうか許してやってください(´;ω;`)(コック)
2ページ目の13行目、程普とありますが程cの間違いでは?魏の幕僚の中に呉の宿将が混じっちゃダメでしょうwww(紅蓮のアーティスト)
指摘ありがとうございます。周瑜と魯粛二人で作戦を立ててますよ。前の話で周瑜が手紙で間者がいると教えていますのでそのあたりから協力していたと思って頂けたらと。(コック)
3pに誤字、桃花→桃香です。あと、周瑜と話して、作戦をたてたのは、魯粛であってますか?少しわかりにくくて・・・(たこきむち@ちぇりおの伝道師)
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