IS -インフィニット・ストラトス- 〜恋夢交響曲〜 第十九話
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「奏羅、なんだこの計画書は? こんなものここで作れってのか?」

 

奏羅の師、マリア・レイン博士は自分の弟子から送られてきた計画書について直接電話で問い詰めていた。

 

『いや、幼なじみに頼まれまして・・・。なんとか作っていただけませんかね・・・?』

 

「頼まれたって、なんでこんなものを・・・。第一、一番必要なものはどうするんだ? 研究所のやつは絶対に出さないよ?」

 

『それは俺が持ってる物を使います。費用は全部あいつが出してくれるようですし・・・』

 

「どんな金持ちだ、その幼なじみは?」

 

『いや、今こっちで流行りのアイドルです・・・』

 

「はあ?」

 

その言葉に驚くマリア。それもそのはず、自分の弟子が今をときめくアイドルの知り合いで、なおかつそのアイドルがこんな企画書を作ったのだ。当然の反応だろう。

 

「なるほど、だからこんな企画書なわけ、か・・・」

 

『無理・・・ですかね?』

 

「いや、興味が沸いてきた。ISの研究所に自分のステージ開発を持ちかけるアイドルに」

 

『へ?』

 

「おい、これお前が設計図描いたのか?」

 

『ええ、まぁ・・・』

 

「このステージに私の研究所の最先端をすべてつぎ込む。だからところどころ改変するわ〜」

 

『え・・・いや・・・あの?』

 

「そうと決まれば明日からさっそくとりかかる。あんたにも意見聞くから覚悟しとけ」

 

いい具合に暴走し始めている彼女、マリア・レインは面白いと思ったものに全身をかける人間であり、決めた道に猪突猛進で突き進むので、周りの人間は多々置いてきぼりになることがある。これは彼女から技術を教わった人間も例外ではない。

 

「で、学校のほうはどうなんだい? うまくいってるのか?」

 

『一応は。でもまた面倒なことが起きそうで・・・。代表候補生としてフランスとドイツから転校生が。ドイツの子は現役の軍人、フランスの子はデュノア社の御曹司です』

 

「御曹司ってことは男なのか。まぁ、お前と織斑一夏の例があるから珍しいとは思えなくなってきたがな。ま、せいぜいがんばりなよ」

 

『はい。じゃあ、さっきの件よろしくお願いしますよ』

 

「わーってるよ」

 

そういって弟子との電話を切ったマリアだが、一つだけ気になっていることがあった。

 

(デュノア社の社長の息子ねぇ・・・。あれ、あそこの社長に息子なんていたっけか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、改めてこれからよろしく」

 

「うん。よろしく、奏羅」

 

夕食を終えて俺とシャルルは自分の部屋へと戻っていた。三人目の男子ということなので、部屋をどう分けるかという話になった時、一夏が「奏羅は移動してき たばっかりだし、俺が移動するよ」と言ってくれたので、今度は一夏が一人部屋になったのだった。正直、また荷物を移動させるのが面倒だったので一夏の申し出はありがたかった。

 

「それにしても、奏羅の本棚にはいろんなISの資料があるんだね」

 

「ああ、これか? 一応俺は将来ISの設計者目指してるからな」

 

このISの資料は、研究所から持って来たものであったり、荷物として向こうから届くものであったりする。結構な量があるのだが、今のところは本棚のキャパシティをオーバーしていないのでよしとしよう。

 

「ちゃんと将来のことを考えてるなんて、奏羅ってすごいね」

 

「そ、そうでもないと思うけどなぁ」

 

シャルルが素直にほめてくれたのと、中性的な顔立ちのせいか、女性の様な笑顔を向けられ、なんだか少し照れてしまう。・・・いや、まてまて。俺は決して男に興味があるとかじゃないはずだ、うん。

 

「え、えーっと。シャワーとか順番決めとこうか? 先に使いたいとかある?」

 

「特にないけど、僕が後でいいよ。奏羅が先に使って」

 

「そうはいっても・・・。実習終わりとか、暑くていつもより汗かいたからとかでシャワー先に浴びたくならないのか?」

 

「大丈夫。僕って汗をかかない方だから、すぐにシャワーを浴びなくてもそんなに気にならないし」

 

「そうか。まあ、そこまで言ってくれるんだったらお言葉に甘えようかな。でも、転校してきたばっかだからとか考えて遠慮しなくていいから」

 

「うん、ありがとう奏羅」

 

うーん、やっぱりなれない。笑顔が自然だから、そう感じてしまうんだろうか。

 

「さっきの話だけど、奏羅は研究者目指してるんでしょ? わざわざIS学園に来てまで操縦者の授業とか受けてるのはどうしてなのかな?」

 

確かに、男の俺がここに来てまで開発者の勉強をするのか疑問に思うのは当然だろうな。実際操縦者目指してないんだし。

 

「あー、これにはいろいろあってだな・・・。まず、俺がISを動かせるってことは研究者になるにあたっていい経験になる。ちょっと意味は違うけど百聞は一見に如かずってやつさ。それに俺の使ってる専用機、これって俺が装備を考えてるんだ。俺が考えた計画書を渡して、それを研究所の人に作ってもらうんだけ ど、当然コストがかかってしまう。その費用と引き換えに、テストパイロットをやってプラチナのデータを集めてるんだ」

 

「そうなんだ・・・。だったら、僕も協力できないかな?」

 

「どういうことだ?」

 

「奏羅達って、放課後に模擬戦やってるんでしょ? そこに僕も加わるよ。専用機もあるし、何かの役には立てると思うんだ」

 

これは願ってもない申し出だ。シャルルの専用機についてはまだよくわからないが、いろいろな相手と戦うのはいい経験になるとともにさまざまなデータが取れる。

 

「本当か? じゃあお願いするよ」

 

「うん、まかせて」

 

どうやら、頼もしい味方が仲間になったようだな。一夏には悪いが、アイツにない安心感を感じる。学園に入ってからの一番の僥倖に、俺は寝る前に信じてもいない神様にお礼を言って寝たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「そ、そうなのか? 一応わかってるつもりだったんだが・・・」

 

二人の代表候補者が転校してきてから5日がたち、今日は土曜日。土曜日は午後から自由時間、なおかつアリーナが完全解放されているのでほとんどの生徒が実習に使う。それは俺たちも同じで、今日もこうしてみんなで元気に特訓を行っていた。今は一夏とシャルルの模擬戦の復習の時間。

 

「シャルルって教えるの上手だよなぁ・・・」

 

シャルルが俺たちの特訓に付き合うようになってから、模擬戦後の反省の質が大幅に上昇した。今まで俺たちに教えてくれていた人たちは、

 

『こう、ずばーっとやってから、がきんっ! どかんっ! という感じだ』

 

『なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。・・・はぁ? なんでわからないのよバカ』

 

『防御の時は右半身を斜め上前方に五度傾けて、回避の時は後方へ二十度回転ですわ』

 

といった感じだった。一夏は本当にありがたがっているようで、熱心にシャルルの説明を聞いていた。

 

「奏羅さんも、わたくしの説明はご不満でしたの?」

 

今のつぶやきが聞かれていたようで、セシリアが俺の横にやってくる。なんだか、いやな予感がする。

 

「い、いや、そんなことはないんだけど、なんていうか詳しすぎて逆に分かりづらいって言うか・・・」

 

「そうですか、なら今度はさらに詳しく教えて差し上げますわね」

 

スターライトMK-3を構えるセシリア。えっ、ちょっと待って・・・

 

「では模擬戦を始めましょう!」

 

その言葉とともに俺に向かってレーザーを放ってくる。俺はその場でしゃがんで、なんとかレーザーをよけれたが、プラチナをまだ展開していない。展開している間にもう一発とセシリアがライフルで狙いを定める。人生が終わっただろ、これ。

 

「・・・?」

 

当たる覚悟は紛いなりにもできていたのだが、いつまでたってもレーザーが飛んでこない。おそるおそる見てみると、なんとシャルルが専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムU』のシールドを展開してレーザーを止めてくれたようだ。

 

「駄目だよオルコットさん。奏羅はまだISを展開してないんだから」

 

顔は笑顔だが、声がわらってない。冷静になったのか、セシリアはやりすぎた事の後悔と、シャルルの笑顔の威圧でばつが悪そうにぶつぶつ文句を言っていた。

 

「大丈夫、奏羅?」

 

「ああ、どうやら命は助かったみたいだな・・・」

 

シャルルが差し伸べる手を取って立ち上がる。しかし、危機が去った安堵からか足がふらついてしまい、

 

「あっ・・・」

 

「お・・・っと、悪い」

 

シャルルにもたれかかるような形に。すぐさま離れたのだが、シャルルの顔を見るとなんと真っ赤になっていた。

 

「あ、え、う・・・」

 

「・・・えっと、シャルルさん、どうしたんですか?」

 

「え・・・。あ、いや、なんでもないよ。うん、なんでもないよ」

 

居心地が悪いのか、一夏のほうへさっきの続きを説明しに行ってしまった。まさか不可抗力とはいえ男子に抱きついて照れられるとは思わなかった。フランスではハグの習慣とかなかったっけな・・・? そういえば更衣室の時もこっちをみてたような気がしたし、やっぱりそっちの人なんじゃ・・・? フランスでは法律で同性でも結婚できるということなので、もしかしたらっていうこともありうる。そういえば男子にしてはいいにおいがしたような・・・。

 

「やましいこと考えていらっしゃるようですわね。奏羅さん、そっちの人でしたの?」

 

なんだか幻滅したように話しかけてきたセシリア。そ、その目はやめてくれ・・・。

 

「い、いや、なんでそうなるんだよ?」

 

「鼻の下のびてますわよ」

 

「えっ?」

 

思わず鼻の下を触ってしまう。触ってから気づいたが、これは誘導尋問だ。目を向けなくてもわかるぐらいセシリアの冷たい目線を感じる。

 

「どうやら図星の様ですわね」

 

「だから違うっての!」

 

しかしセシリアは「フン!」といってそっぽを向いてしまった。・・・まぁ、いつも通りの距離で接してくれてるだけましか。しかし、周りはさっきの一件を見ていたようで、「天加瀬君とデュノア君ってそういう関係・・・?」とか「部屋が一緒だし、夜のプロレスごっこしてるんじゃ・・・」だの変な妄言が飛び交っ ている。

 

(なんだか、入学当初のノリだなぁ・・・)

 

嫌な懐かしさを感じながら、一夏とシャルルの特訓風景を見る。どうやら、サブマシンガンを使用許可(アンロック)して使わせているようだ。

シャルルのIS、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムU』は、名前の通りリヴァイヴをカスタムした機体である。リヴァイヴの推進翼を改良し、機動性と加速 性を強化。アーマー部分も全体的にスマートになっており、スカート部分にはマルチ・ウェポンラックがついている。そして何より違うのは肩部分のアーマー で、本来ついている四枚のシールドはなく、左腕にシールドと一体化した腕部装甲、右腕は射撃しやすいようにスキンアーマーのみという使用だった。

 

(そういえば、基本装備を外した代わりに拡張領域を増やしてあるとか言ってたっけ。そこら辺は俺のプラチナと一緒だな)

 

プラチナは拡張領域に多数のフレームを組み込むため、基本装備は可変型銃複合剣『ソニック・ブレイズ』と近接ナイフ『フェザーダガ―』に左腕部のシールド だけにしてある。しかし、話によればリヴァイヴ・カスタムには武装が20も登録されているらしく、その数は通常のISの大体3〜4倍である。そこまで管理 できるのは彼に何かしらの技能があるということだろうか。

 

「ねぇ、ちょっとあれ・・・」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代機だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いたけど・・・」

 

周りがざわざわし始める。その注目の的はドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。さっきから一夏とにらみ合ってるが、声は聞こえてこない。どうやらプライベート・チャネルで会話しているようだ。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成しえただろうということは容易に想像できる。だから、私は貴様を、貴様の存在を認めない」

 

彼女がプライベート・チャネルではなく口で一夏に告げる、それほど大事なこと。しかし、俺の中では彼女の言い放った『存在を認めない』が引っ掛かっていた。

 

(いやな予感がする。あの言葉は冗談で言ってない。本気だ)

 

しかし、一夏はどうやら気づいていない。念のためにプラチナを展開する。それと同時に入ってくる彼女のISが戦闘状態へと移行したという情報――

 

ゴガギンッ!

 

銃弾が近距離で何かにぶつかる音が聞こえた。俺が飛び込む前にシャルルがシールドで銃弾をはじき、銃をボーデヴィッヒさんに向けている。どうやら、俺より先にシャルルが対処したようだ。

 

「・・・こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様・・・」

 

あー、まずい。シャルルのやつが火に油を注いでしまったようで、一難去ってまた一難みたいだ。

 

「フランスの第二世代型(アンティーク)ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「いまだに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型(ルーキー)よりかは動けるだろうからね」

 

「二人とも、そこまでだ。騒ぎになって、鬼教官からグラウンド10周とか授かるぞ」

 

今にも戦いの火ぶたを切りそうな二人の間に割って入る。シャルルもさっきは俺とセシリアを冷静に止めたのに今回はなんでノリノリなんだよ。

 

「・・・ふん、今日は引こう」

 

どうやら興がそがれたようで、あっさりとゲートへと去っていく。どうやら面倒事にはならなかったようだ。

 

「一夏、大丈夫?」

 

「あ、ああ、助かったよ」

 

先ほどまでの雰囲気を一変させ、いつものシャルルに戻る。どうやら、普段優しい人は怒らせると怖いという理屈が当てはまるような奴なんだろう。

 

「みんな、もうあがろうぜ。もうそろそろ閉館時間だ」

 

気づくとアリーナ閉館時間である4時になっていた。あんなことがあったとはいえ、時間を守らないと誰かのお姉さんがうるさそうだ。

 

「おう、そうだな。シャルル、今日は銃サンキュ。いろいろ参考になった」

 

「それならよかった」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・えっと、先に着替えて戻ってて」

 

これはいつものパターン。初めて一緒に授業を受けた時から、シャルルは俺たちと一緒に着替えようとしない。まあ、本人が嫌がってるのだから強制はしないけど――

 

「たまには一緒に着替えようぜ」

 

「イヤ」

 

こいつは・・・。前から嫌がってんだから無理強いしなくても・・・。

 

「そんなこと言わ――むぐ!?」

 

「じゃあ、シャルル。先に行ってるぞ」

 

「うん、ありがと奏羅」

 

俺はしつこい一夏の口をふさいで更衣室へと引っ張って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前さ、嫌がってるんだから無理強いするのはやめろよ」

 

「いや、でもたまには一緒に着替えたいじゃないか」

 

口をとがらせて訴える一夏。たぶんそんな気はないと思うんだが、その発言はなんだかアレっぽいぞ。

 

「よし、着替え終わり。奏羅、今日は早めに飯行こうぜ」

 

「ああ、そうだな――」

 

「あのー。天加瀬くんはいますかー?」

 

「あ、はい。いますけど」

 

ドア越しに聞こえてくる山田先生の声。なんとまあ、ちょうど着替え終わったタイミングである。

 

「入っても大丈夫ですかー?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

俺の返答を聞いて入ってくる山田先生。大体どんな用事かは想像がつく。

 

「天加瀬くん、第4格納庫に所属する研究所から荷物が届いてます。一緒にに取りに来ていただけますか?」

 

想像通りこのパターン。まぁ、そろそろだと思っていたんだが。

 

「というわけだ一夏。悪いけど先に行っててくれ」

 

「そうか、残念だな」

 

山田先生に会釈した後「また明日な」といって出ていく一夏。まぁ、あいつは箒や鈴という一緒に食べる相手がいるんだから大丈夫だろう。

 

「あ、そういえば山田先生。六月の終わりに塚乃旭のサードシングルがでるらしいんで、そろそろ予約が始まると思いますよ」

 

「えっ!? そうなんですか!? 情報ありがとうございます、天加瀬くん!」

 

「あ、いや、喜んでいただけて何よりですよ」

 

嬉しそうに俺の手を握ってくる山田先生。まてよ、山田先生と手をつないで二人っきり。どこかでこんな展開があった気がする。そのあとよくないことがあったような・・・。

 

「・・・奏羅、何してるの?」

 

その声にドキッとして振り向くとそこにはシャルルがいた。なぜだかわからないが、怒っている気がする。

 

「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生ととても仲よさそうだけど何してるの?」

 

「あ、いや、なんでもないよ」

 

握っていた手をぱっと離す。山田先生も言われて恥ずかしくなったのか、後ろを向いてしまった。

 

「あー、えっと、今から俺は第4格納庫に研究所の荷物取りに行くから、先に帰ってシャワー浴びといてくれ」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあ、またあとでな」

 

俺はそう言い残すと山田先生とともに第四格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・。はぁ・・・」

 

寮のドアを閉め、自分ひとりだけの空間になった所でシャルルは大きなため息を吐いた。

 

(何イライラしてるんだろ・・・)

 

先ほどの更衣室での奏羅への態度が、今になって恥ずかしくなってきた。奏羅も驚いていたに違いない。

 

(・・・シャワーでも浴びて気分を変えよう)

 

シャルルは自分の着替えを取り出すとシャワールームへと向かう。脱衣所で服を脱ぎ、シャワールームへと入った。シャワーを浴び、いざ体を洗おうとしたら石鹸の類が見当たらない。

 

(そういえば、昨日僕が使って無くなったから捨てたんだっけ・・・)

 

シャルルは新品のボディソープがクローゼットの中においてあった事を思い出し、シャワールームを出ると、脱衣所に合ったタオルで体を隠しながらクローゼットへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば」

 

俺は格納庫に向かう途中、あることを思い出した。マリア先生に旭の計画書を渡した後、すぐに改正案が送られてきた。その改正案をまとめた報告書を山田先生に頼んで送ってもらおうと考えていたのだ。

 

「すいません、先に格納庫に行っててもらえますか? 俺、研究所に送らなきゃならない資料があるんで取ってきます」

 

「そうですか? じゃあ、先に行ってますね」

 

「はい!」

 

俺は自分の部屋に向かって一直線に駆けだす。あまり山田先生を待たせるのも悪い。幸い、ここから寮の自分の部屋まで5分もかからない。俺はいつも使ってる階段を下り、寮の入口へと入る。

 

(そういや、シャルルがシャワー浴びてるかもしれないな・・・)

 

シャルルは自分の肌を見られるのが嫌いなのか脱衣所からしっかり服を着て出てくる。風呂上がりで暑くないのか気になって聞いたことがあるが、そうでもないらしい。

 

(ま、シャワールームに入るわけじゃないんだし関係ないかな)

 

いろいろ考えている間に自分の部屋の前へ。ドアを開けた。

 

「えーっと、あの資料・・・は・・・」

 

部屋の中を見た俺の思考が止まる。クローゼットの前に金髪の女の子がタオル一枚で立っていた。これはいくらなんでも想定外すぎる。真夏の夜の白昼夢というやつだろうか?

 

(部屋を間違えた・・・?)

 

しかしその考えもその女の子から発せられた声でかき消された。

 

「奏・・・羅・・・?」

 

どこかで聞いたことがある、茫然としたその子の声。そして我に返ったようにシャワールームの中へと逃げ込んだ彼女は今日まで同じ部屋で暮らしていた人物。

 

「シャ、シャルル・・・?」

 

フランスからの転校生、シャルル・デュノアだった。

 

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