遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その3
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しばらく時間が経ち、入学式も滞り無く終了した。この後は各寮にて歓迎会があるのみなので、それまでは各自自由時間となっている。

 歓迎会は夕食時と同じようで、随分と空き時間が大きい。どうしたものかと考えていると、不意に背中をつつかれた。

 

「ようケイ。この後暇かい?」

 

「ん、吹雪か。まあ特にすることもないが」

 

「じゃあ、ちょっと寮内探検でもしない? やたら大きいし、面白い物も発掘できるかもしれないよ」

 

 ふむ、と俺は考えた。

 自分がこれから世話になる寮を調べておくのは確かに良い。今後なにかあった時、慌てず動けるよう避難路の確認もついでにしておきたい。

 しかし、と思いとどまった。

 今朝の様子を見る限りでは、吹雪はトラブルメーカーだ。自分から首を突っ込んで、勝手に巻き込まれるタイプの。

 その吹雪がただ寮内探検するだけとは思えない。

 

「……本音は?」

 

「探検とかワクワクするよね!」

 

 ものすごく輝いた目で言いきられた。

 結局たいした不満もないため、俺と吹雪は寮内探検を開始するのだった。

 

 

 

 

 

「というわけで、『ブルー寮探検隊』?! ドンドンパフパフ?♪」

 

「可及的速やかに五十字以内にまとめて二人に説明しろ」

 

 場所はブルー寮前。人数は四人。

 なぜ増えているかというと、全ての元凶はハイテンション且つノリノリな吹雪にあった。

 くる途中亮を見つけ、

 

『亮! 今暇? 暇だよね! ブルー寮探検しようぜ!』

 

 と無理矢理に亮を拉致し、途中偶然遭遇した優介を、

 

『お、ケイの友達? じゃあ僕の友達も同然だね! よし探索に行こう!』

 

 と話の流れが全く読めていない優介を無理矢理引っ張ってきたのである。

 

「はい、周りの意見は無視します!」

 

「ケイ、ペンチを貸してくれ」

 

「俺は釘バットを」

 

「ごめんなさい!」

 

 二人の並々ならぬ殺気を感じたのか、意見を一八〇度変えて頭を下げる吹雪。最初から素直に下げておけばいいものを。

 未だ状況を掴みきれていない二人に俺が説明すると、意外にもあっさり承諾した。

 

「吹雪にしては、まともな考えだな」

 

「俺はどっちでもいいよ」

 

 概ね好印象のようだった。何故だろう。なにか釈然としない。

 

「はい! では賛同を得られたところで、まずは一階から行ってみよう!」

 

 当の本人は無駄にテンションが高いまま、ブルー寮へと入って行った。

 俺達は互いに肩をすくめながら、その後ろを着いていくのだった。

 

 

 

 

 

「大体見終わったか?」

 

「だねー。しかしまあ、本当に無駄に広いよね」

 

 一階から大食堂、専用デュエルステージ、個人部屋と見て回り、再び一階のホールにて一段落ついていた。

 紙コップ形式の自販機もあったので、それぞれで飲み物を買ってベンチに座る形だ。

 ちなみに俺はコーヒー、亮はスポーツドリンク、吹雪はコーラ、優介は紅茶だった。見事にバラバラである。

 

「大食堂って本当にでかいよね。あそこまで大きくする必要はあったのかな」

 

「聞いた話では、様々な用途に使うために大きく設計したと聞いた事があるな」

 

 各場所では、このように亮の雑学が大いに活躍してくれた。

 他にも、バイキング形式で変色気味の生徒が多いとか、ここが歓迎会の場所だとか、そういったことを教えてくれた。

 

「……ったく、あの先輩ときたら……」

 

「優介、大丈夫か?」

 

「別に。ただちょっと近づいただけで一年は引っ込んでろとか……上級生はマナーが悪いってのは本当みたいだね」

 

 専用デュエルステージに立ち寄った際、そこでは上級生によるデュエルが行われていた。

 と言っても公式な試合ではなく、デッキ調整を兼ねた形式的なものだったらしい。

 その場で優介が何気なくデュエルリングに近づいたら、上級生から叱咤が飛んだ。

 曰く、新入生は使う事はできない、さっさと行け、らしい。

 これにムッときた優介が文句を言おうとしたところ、俺達がその場から引っ張りだしてそれを阻止した。

 以降、優介の機嫌は悪いままである。

 

「まあ、藤原の気持ちも分からなくはないな」

 

「まあね。あんなこと言われたら、流石の僕でもちょっとクルかもね」

 

「どの口が言っているんだか」

 

「亮、それはどういう意味カナ?」

 

 あの二人は放っておいてもよさそうだ。

 未だ優介の機嫌が直らないでいると、通路側から人影が見えた。

 影は二つ。さっきの上級生達だ。

 上級生達は俺達に気づくと、意地の悪そうな笑みを顔に張り付け、俺達のそばにやってきた。

 

「よう新入生。歓迎会はまだやらないぜ?」

 

「こんなとこで何やってんだぁ?」

 

 先程のことを忘れていない優介の手に、力が入る。紅茶の入ったコップがやや歪む。

 

「……ちょっと小休止ですよ。そういう先輩方はどうされたんですか?」

 

「俺達か? アカデミアの模範生として、ちょっと腕試しをな」

 

「お前達も、俺達を見習うんだぞ?」

 

 オベリスクブルー生は、俗にいうエリートだ。

 三段階の寮の格付けからなるデュエルアカデミアでは、レッドは落ちこぼれ、イエローは普通、ブルーはエリートという意識がある。

 そのエリート意識が全面に出たような態度。優介は一気に紅茶を飲み干し、紙コップを握りつぶした。

 

「……尊敬できるようならば、見習いがいもあるのですが」

 

 ポツリ、と誰かが洩らした。

 その言葉に、目つきが更に悪くなる上級生達。その視線の先には、先程まで吹雪とじゃれあっていた亮の姿があった。

 

「おい……お前、丸藤とか言ったな。そりゃどういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味ですが。相手を見下したその態度。とても尊敬できるようなものではありませんね」

 

「ンだとコラァ!!」

 

「やんのかテメェ!!」

 

 売り言葉に買い言葉。場はまさに一触即発といった雰囲気だ。

 静観していた俺がどうこの場を切り抜けるか、と考えていると、隣に座っていた優介がボソリと呟いた。

 

「……デュエル、で決めれば良いんじゃないですか?」

 

「「ああ?」」

 

「ここはデュエルアカデミアで、デュエルが全ての学校です。歓迎会まで時間もありますし、一回くらいなら出来るんじゃないですか?」

 

 突然の提案。優介は、デュエルで片付けろと言うのだ。 

 確かにここはデュエルがその大半を占めると言っても過言ではない。

 この提案に、上級生二人はニヤリと笑った。

 

「よーし……いいぜ、乗ってやる。さっきのデュエルリングで決着をつけてやるよ」

 

「俺も構いません。すぐに──」

 

「おっと待ちな! ただのデュエルじゃ詰まらねえ、アンティデュエルとしようぜ?」

 

「な……っ」

 

 いきなりの申し出に亮も言葉が詰まる。

 アンティデュエルは校則にも書かれている通り、校則違反になる禁止事項だ。

 ばれれば当然停学、最悪の場合は退学にもなり得る。

 しかし亮が言葉に詰まったのも一瞬。次の瞬間には、元通りだった。

 

「……いいでしょう。受けて立ちます」

 

「亮!?」

 

「へへへ、そうこなくっちゃぁなぁ。俺はこの『ダイヤモンド・ドラゴン』をアンティに賭けるぜ。お前もアンティカードを出しな」

 

 相手の提示したカードは、時価十万円はすると言われた程のレアカードだった。今でこそそこまでの値打ちは無いが、それでも中々のカードだ。

 亮は自分のデュエルディスクからデッキを抜き、更にその中からカードを一枚引き抜いた。

 

「俺はこの『サイバー・ドラゴン』を賭ける」

 

「「さ、『サイバー・ドラゴン』!?」」

 

 上級生二人が、亮の提示したカードに驚愕した。

 『サイバー・ドラゴン』の価値を知っているから故の反応だとは思うが、そこまで驚くものなのだろうか。

 

「へ、へへへ。いいぜ、着いてこいよ」

 

 二人は来たばかりの道を引き返す。その方向にデュエルリングがあるからである。

 それに着いて行く亮。その顔は、絶対に勝つという自信が隠されていた。

 

「……亮、なんであのカードを……」

 

「吹雪、何か知っているのか?」

 

 『サイバー・ドラゴン』は確かにレアカードだ。しかし、俺はそれ以外の情報を知らない。

 

「……確か、『サイバー・ドラゴン』はデュエルの流派・サイバー流の伝承者しか持つ事を許されない、伝統のカードじゃなかったか?」

 

 優介が俺の問いに答える。吹雪も、その通りだと言わんばかりに頷いた。

 

「……なんにせよ、俺達はこのデュエルを見届ける必要があるな。行くぞ、二人とも」

 

 そう言って、俺達も亮の後に続いた。

 

 

 

 

 

「(やっべーなオイ! まさかこんなところで『サイバー・ドラゴン』をゲットするチャンスがくるなんてよ!)」

 

「(ああ! あのカードは裏ルートじゃ数十万の値が張るからな! 一瞬で億万長者だ!)」

 

 オレ達はブルーのエリート、相手は中学から出たばかりのヒヨッ子。こりゃオレは勝ったも同然だな!

 待ってろよレアカード。すぐにこの、襟糸伊色(えりいと いしき)がもらってやるぜ!

 

「始めるぞ! ディスクを構えろ!」

 

「……よろしくお願いします」

 

「「デュエル!!」」

 

襟糸伊色 LIFE4000

丸藤亮 LIFE4000

 

「まずはオレのターンからだ! ドロー!」

 

 手札は……よーし、中々の立ち上がりだ。一気に攻めてやるぜ!

 

「オレは『サファイヤ・ドラゴン』(ATK1900)を召喚! 更に装備魔法『デーモンの斧』を装備! 攻撃力を1000ポイントアップして、ターンエンドだ!」

 

『サファイヤ・ドラゴン』ATK1900 → 2900

 

 いきなり攻撃力2900のモンスターだぜ、どうだ新入生! これが上級生の実力だ!

 

「俺のターン、ドロー。俺は『サイバー・ドラゴン』(ATK2100)を特殊召喚する!」

 

「んな!? じょ、上級モンスターを特殊召喚だと!?」

 

 巫山戯んな! 何かインチキしてんだろコイツ!

 

「『サイバー・ドラゴン』は相手フィールドにのみモンスターがいる時、特殊召喚する事が出来るモンスターです。更に手札から『エヴォリューション・バースト』を発動! 『サイバー・ドラゴン』がいる時に限り、相手フィールド上のカードを一枚破壊する! いけ『サイバー・ドラゴン』!! エヴォリューション・バースト!!」

 

 敵のサイバー・ドラゴンの熱戦が、オレのサファイヤ・ドラゴンを焼き切りやがった!

 装備されていたデーモンの斧も墓地、オレのフィールドは空になった。

 

「『エヴォリューション・バースト』を発動したターン、『サイバー・ドラゴン』は攻撃できません」

 

「は? ……な、なんだ、結局ただのこけおどしじゃねえか」

 

 焦った自分が馬鹿みたいだぜ。だがこれで奴は無防備にサイバー・ドラゴンを召喚しただけになった。次のターン、もっと協力なモンスターを出して破壊してやる!

 

「なにを考えているかわかりませんが、次のターンはありません」

 

「へぁ?」

 

「魔法カード『融合』発動! 場の『サイバー・ドラゴン』と手札の『サイバー・ドラゴン』を融合! 現れろ、『サイバー・ツイン・ドラゴン』(ATK2800)!!」

 

『『ギュアアアアアアァァ!!』』

 

「さ、『サイバー・ツイン・ドラゴン』!?」

 

 サイバー・ドラゴンにサイバー・ツイン・ドラゴン……ま、まさかコイツ……!

 

「お、お前まさか、九歳にしてサイバー流を免許皆伝した、天才デュエリストの……」

 

「『サイバー・ツイン・ドラゴン』は一度に二回の攻撃が出来る! 粉砕しろ、エヴォリューション・ツイン・バーストォ!!!」

 

「あぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 

襟糸伊色 LIFE 4000 → 1200 → 0

 

 最後の一撃のもと、オレの身体はリング外に吹き飛ばされ、意識を失った。

 最後に見たのは、オレを睨みつけるサイバー・ツイン・ドラゴンの二つの首だった。

 

 

 

 

 

「まあ分かっていたことだけどね」

 

 デュエルが終わると同時に、吹雪が呟いた。

 試合は圧倒的に、一方的に終わった。無論、亮の勝利で。

 

「亮が負けるはず無いよ。あんな見下し精神全開の先輩なんかに」

 

 それには同感だと言えよう。

 デュエルリングでは上級生の片割れが吹き飛んだ方を担いで、逃げるように走って行った。

 残された亮もリングを降りた。

 

「お疲れ、亮」

 

「疲れるほどの事もしていないがな」

 

 よほど先程のデュエルが不服だったのだろう。目に見えて機嫌がよろしくないことが分かる。

 戻ってきた亮を見て、優介が口を開いた。

 

「なあ丸藤。後で俺ともデュエルしないか? 少なくとも、さっきのデュエルよりはまともな戦いが出来ると思うけど」

 

「ああ、良いとも。俺としてもこのままでは消化不良だしな」

 

 そう互いに笑い合う。どうやら二人は友人というよりは好敵手、ライバルと呼べる間柄になりそうだ。

 

「ところで、そろそろ時間なんだが」

 

 時計を見ると、既に歓迎会三分前である。

 それを告げると、三人は面白いように焦りだした。

 

「なんだって!? 君達、急いで食堂までダッシュだ!」

 

「落ち着け吹雪! 廊下は走るんじゃない!」

 

「ていうかケイ! 時間詰まってたなら早く教えてくれよ!」

 

「いや、すまない。デュエルに夢中だった」

 

 結局着いたのはギリギリで、歓迎会の準備は少し遅れていたのだった。

 歓迎会は、それから十二分後に始まった。

 

 

 

 

「クンクン、くくくのクーン……サイバー流の若き天才ーニ、いきなり上級生相手に一ターンキルを決めるほドーノ腕マーエ。これはワタシが目指す理想のアカデミアーノ、模範となるべき生徒でスーノ……アラビアーノ……」

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