リリカルなのは×デビルサバイバー As編 |
カイトは荷物を持って外に出る。吐く息は白く、肌寒いが、今のカイトは全く寒さを感じない。
それ程までに、今日という日を楽しみにしていた。ということなのだろう。
最も、カイトの心を占めているのは、楽しみだけではなく、心配や、それに類する負の感情もあるのだが。
「これでよし、と」
戸締りもきっちりと行い、会場へと向かう。
『D-VA……。原初の歌姫か、この世界ではどういう役目を持つやら』
「……持たないよ。いや、持たせない。だから、俺が行くんだ」
アヤという人物は、カイトにとって、知り合いの大事な人……という、ちょっと遠い存在であり、東京封鎖での被害者その一、と言えるかもしれない。
悪魔を召喚するためのサーバー、その部品の一つとして、彼女は世界に溶けた…らしい。らしい、というのはその話を聞いただけであり、実際にその光景を見たわけではないからだ。唯一つ確かなのは、カイトの世界にアヤという人物はもう居ない、ということ。
今回D-VAのコンサートに向かう理由の一つとして、アヤの状況確認を行うためでもある。
翔門会がこの世界に存在しないのは、ネット等で調べて確認している。しかし、翔門会が無くとも、アベルの転生体である、ナオヤに当たる人物が居るはずだ。その為、色々と警戒しなくてはならない。
『とはいえ、神の気配が一切しない世界で、あのアベルが何かしらの行動を起こすとは、思えんがな』
とは、ベルの談。たしかにそのとおりかもしれないが、安否の確認ぐらいはしても問題はないと、カイトは判断したのだ。
まぁ……コンサート自体、楽しみというのもあるのだけれど。
「さて……行くかっ!」
いつもよりも五割増ぐらい元気に、カイトは出かける。
……元気すぎて、着信に気づかないぐらい、カイトは舞い上がっていた。
* * *
海鳴市は、準都市とでも言うべき場所と評することができる。都市部のようにビル群が多いわけでもなく、かといって少ないわけじゃない。それに加え、自然にも気を使っているのか、木などを植える活動もしているらしく、その結果の一つが、あの海上公園というわけだ。
D-VAのコンサート会場は、海鳴市の中心からやや外れたところにある。店主……というより、オーナーの意向でそうなったらしいが、詳しいことはカイトも知らない。けれども、ちょっとした穴場として、様々な人々の集まる場として、皆に親しまれているのだ。
コンサートが始まるまでまで、後三十分程といったところで、カイトは会場へと入場した。
カイト以外の人々は、十代の後半から三十代前半に掛けての若者、と言われるだろう、人々が未だ数は少ないものの、そこそこといった感じで居た。
カイトは端の方の、カウンター席へと座る。
少年が座るのを見て、カウンターに居る一人の青年がカイトに声を掛ける。
「君一人かい?」
「……?」
店員が声をかけてくるのなら分かるが、カイトが見たところその青年は、カイトと同じ、客側の人間に思え、更には何処かで見たことのある顔の作りをしていた。
カイトが不審がっているのが分かったのか、青年は少し慌てたように言う。
「おっと、別に怪しいものじゃない。こんな場所に、君みたいな子供が一人で来るなんて珍しくてな」
「あぁ、それもそうでしょうね。見たところ、俺みたいなガキは俺以外に居ないみたいだし」
先ほどの通り、カイトと同年齢ぐらいの子供は居ない。
そもそも、子供が来るべき場所ではないのだから、当然かもしれないけれど。
「……そういえば、質問に答えてなかった。たしかに俺は一人ですよ? でも、ちゃんとしたチケットで入場しましたから」
カイトは懐から一枚のチケットを出し、青年へと見せる。青年はそのチケットを確認すると「確かに」と頷いていた。
「っと、悪いな。本当はそんな事を聞きたかったんじゃなかったんだ」
「だったら、何なんです?」
「親御さんと離れてしまったんじゃないか? そう思ったんだが…いらぬ心配だったようだな」
どうやらこの青年は、純粋にカイトを心配し、そして、カイトに声をかけたのだ。
それが分かり、カイトは青年に謝罪の言葉を述べた。
「おっと、気にしないでくれ。最初に勘違いしたのは、俺の方なんだからな。……そうだな、どうだい? 俺と一緒に、ライブを聞かないか?」
青年の提案に、少し考えこんでから、了承の意を表すために頷いた。
カイトが頷いたのを見て、青年はホッとした表情を見せ、顔を綻ばせながら言う。
「そうだ、自己紹介をしてなかったな……俺の名前は詠司、神谷 詠司だ。『ジン』と呼んでくれ」
カイトはその名を聞き、やっと気づいた。
この眼の前に居る人物が、自身の仲間の一人であり『アヤ』の恋人だった、悪魔使い『ジン』だということを。
「……? どうした」
「あ、いえ……」
頭を振って冷静になるように務める。
「えっと、俺の名前はカイトです。天音 カイト」
「そうか、よろしくなカイト」
ジンはカイトに向かって手を差し出した。
それがなんであるか、少し考えてから握手をしようとしていることに気づき、カイトもまた手を差し出し、ジンの手を握る。
「よろしく、お願いします」
「あぁ、よろしくな」
ありえぬ筈の名出会い、それが今ここに、形となって表されていた。
* * *
「にしても、嬉しいものだな」
「……?」
頼んだ飲み物、カイトでならサイダー、ジンならカクテルを飲みながら、ジンが独り言のように言う。
「なに、アヤの居るバンドのコンサートで、こんな小さな子供も来てくれたのだからな」
「……知り合いなんですか? アヤさんと」
恋人同士である事を、カイトは知っているのだが、コレを聞かないと明らかにおかしいので聞いている。
「知り合い……というより、俺の彼女でな?」
鼻の下が伸びている、とはこういう事を言うのだろうか? とにかく今のジンの表情は緩みまくっている。
「彼女の初めてのライブ・コンサート。聞きに来るのが当然だろ?」
「まぁ、確かに」と、カイトは思う。彼女でなくても、友達友達の晴れ舞台なら必ずくるだろうと。それが、彼女ならなおさらだ。
「その晴れ舞台に、君みたいな子供まで来てくれた。それは、嬉しいことだと、俺は思う」
「……」
子供という単語に、ちょっと罪悪感を抱きつつも、カイトは黙しながら微笑む。いや、微笑むというより、苦笑いといったほうが正しいのかもしれないが。
「……おっと、人が増えてきたな」
「ですね」
先ほどまでまばらだった人の数。それが今では、人でごった返している。
「最前列に行かなくても良いのかい? 楽しみにしていたんだろう?」
「ジンさんこそそうでしょ? 俺は一度でいいから、生で聴いてみたかったんです。アヤさんの歌を」
向こうのジンとハル――春沢 芳野から、アヤの歌について、よく聞いていた。
曰く、人の生き方さえ変えてしまうほどの歌声だと。
「……何故そう思ったのか分からんが、まぁいいか。っと、そろそろ始まるようだな」
辺りが暗くなり、ざわついていた人々が一斉に沈黙する。先ほどまでとは違いすぎるその雰囲気に、まるで違う世界に来たかのように錯覚する。
「さて、そろそろだな……」
ジンのその言葉と同時、ステージにライトが灯る。暗がりに慣れた目にはちょっと刺激が強く感じる。
「皆ー! 今日は、私達『D-VA』のライブ・コンサートに来てくれてありがとーー!!!」
女性の透き通るような声が、マイクで増幅されあたりに響く。それと同時に、観客の怒声ともとれるような、歓声が当たりに響く。
「うん! 皆元気だね! それと、私たちはいつもストリート・ライブって形でやってて、こういう……ちゃんとした設備って言うのかな? で、皆の前で歌ったり、演奏したりするのは初めてだから、ちょっと緊張してるんだけど……だけど、そんな緊張を吹っ飛ばすぐらいっ! 張り切っていこうね!」
再び観客の歓声が会場に響く。
その反応に満足したかのように、女性は頷き、深呼吸――。
「いっくよー! みんなっ、最初の曲は――!!」
* * *
ライブも終了した頃には陽も暮れ、太陽が夕陽となり、大地を紅く染めていた。
カイトの周りには、先ほどのライブの熱も冷めず、熱くなっている人たちで溢れていた。
『気づいたか?』
「あぁ……」
当然、その人の中にはカイトも入っているのだが、冷静に考えるべき事象がひとつあった。
『あの歌……原初の歌でないにも関わらず、悪魔を惹きつけるとは……さすがは、原初の歌を歌う、歌姫といったところか?』
「原初の共通言語を使わずして、悪魔を惹きつける力かぁ……そりゃ、悪魔が惹きつけられるんだ。人もまた惹きつけられるよ」
まるで他人事のように言っているカイとではあるが、カイトもまたその惹きつけられた人の中の一人である。
「まぁ……見たところ、アヤさんに接触するあやしいやつも居なかったし、俺達の世界のアヤさんみたいにはならないかな」
『だと、いいがな』
それからは会話もなく、カイトは唯歩くのみだった。
話すことも無くなったし、何よりアヤの歌の余韻に浸りたかったというのが、大きな理由だ。
しかし少年のそんなちょっとした思いも虚しく、余韻に浸る少年を一人の少女の声が打ち砕く。
「おいっ! お前!!」
かなり大きな声なのだがヘッドホンをして且つ、アヤの歌の余韻に浸ってボケ〜っとしている、カイトは全く気づかない。
「おい! なんで無視するんだよっ!」
しかし、その事実をしらない少女は、"唯無視されているだけだ"と思い憤る。だが、少女の隣にいる男はカイトの様子を見て答えにたどり着く。
「ヴィータ、お前の声はヘッドホンで遮られているのではないか?」
「へ?」
男にそう言われ、少女ことヴィータは、カイトの様子を改めて見る。ちなみに、ヴィータは後ろから声をかけているので、カイトの表情などを見ることは出来ない。
しかし、ヘッドホンを付けているかか否かを判断する事ぐらいは可能だ。そして、男の言うとおりカイトはヘッドホンを付けているのを確認し、ヴィータはカイトに勢い良く近づくとヘッドホンを取り上げた。
「うわっ!? 何だっ!」
ゆったりとした世界から一変、現実の世界に引き戻されカイトは困惑する。だが一瞬で正気を取り戻し、ヘッドホンを外した犯人を確認するため、周りを見る。
「……何処だっ!?」
「ここだっ!!」
自分を見つけられないカイトに腹を立て、ヴィータは脛を蹴りあげた。
「いってっ……! って、お前はヴィータだっけ? 何なんだよ、いきなり」
「"何なんだ"は、こっちの台詞だ! なんで、はやてのメール無視するんだよっ!」
「……メール?」
「そうだっ! 『怪我してからできた初めての友達に、メールするんやもん楽しみや!』って言って、ずっと携帯の前で返信待ってるんだぞっ! なのに全然返してこねーし……」
そのままマシンガンの様に、言葉を発するヴィータと、困惑してどうすればいいか行動に迷っているカイト。その様はまさしく、滑稽なものだったという。
その争い? に、終止符を打ったのは、その両者ではなく一人の男だった。
「待てヴィータ。カイトと言ったな? 携帯を見てみろ」
男に言われるがままにカイトは携帯を取り出し、画面を見ると、確かにメールを受信していた。
送り主は、はやてとすずか。
はやては誘いのメールで、すずかは確認のメールのようだ。
「あー……本当にメール着てたよ、今気づいたわ」
「本当に気づいてなかったのか?」
「気づくわけないだろ。マナーモードにしてたし、バイブ機能も切ってたし……何より、さっきまで集中してたから」
今思い出しても身体の芯から……いや、心から熱くなる。と、カイトは思う。僅か数時間の出来事ではあったが、カイトにとってはもっと長く感じた出来事だった……と、当時のことを思い返しているせいで、ボケーっとしてしまっている。
「大丈夫か?」
「ハッ!? あぁ、大丈夫。うん」
男の声で正気を取り戻し取り繕う。
「で、だ。はやてのメールに応じるのか、それともはやてと遊ぶのか、どっちだよっ!」
「二択になってないじゃないか」と、思いながらカイトは、少し考える。
はやてという少女と遊ぶ。コレについては特に異議はありはしない。だが、特に意義があるわけではない。
しかし、メールに書かれていた日にちに何かしら用があるわけでもない。
だが、応じなければ目の前の人物達から、いらぬ憎悪を向けられることになるかもしれない。
それは中々に面倒そうだ。
「分かった、行くよ。細かい日程とかはそっちで決めて欲しいと、八神さんに伝えて欲しい……いや、俺からメールしとくよ」
カイトがそう言うと、二人の表情が傍目からも分かるくらいに明るくなる。
「まだ自己紹介をしてなかったな。俺の名はザフィーラだ。よろしく頼む」
「天音。天音カイトです。よろしく」
自己紹介もした所で一息つく。
最初の陰湿な雰囲気はどこへやら、今ではもうそんな陰湿な雰囲気は吹き飛んでしまっていた。
それどころかヴィータに至っては、鼻歌を混じりのテンションである。
そこでカイトはヴィータが持っているあるものに気づいた。
「ところで、買い物かごを持ってるみたいだけど、行かなくても良いのか?」
「いけねッ!? はやてに頼まれて、買い物の途中だったんだ! 行こっ! ザフィーラ」
「うむ」
ヴィータに手を引かれながら、ザフィーラは頷いた。
そして、カイトの方を向きながら一言。
「では、またな」
「あぁ、また」
ヴィータもまた大声で「またなー!」と言っている。
それを苦笑い気味ではあるが、カイトは微笑みながら思う。
はやてが何故、明るく過ごせているのか。それはきっとあの二人と、シグナムという人が近くに居るからなんだろうな。と。
書き溜めしながら書いているのですが……はやて語って言うんですかね? 難しい……。
書いては直し、書いては直し……気を抜くと、ジークリンデみたいな言葉使いなってしまう。こればかりは、要勉強ですかね。
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3rd Day D-VA | ||
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