遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その4
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 入学から二日目。俺達は最初の講義に出席した。

 アカデミアの教室は大学の講堂のようになっており、段差ごとに長机が置かれている。長机にはそれぞれネームプレートが置かれており、生徒はそれに従い席を保持する形式となっていた。

 なお、席順に関しては名簿順等ではない。真ん中に近いほど成績上位者が固まっており、端にいくにつれて成績が下がっている。必ずそうとは言えないが、真ん中にブルー、端にレッドが固まっているのを見れば、おのずと検討はついてしまうものである。

 

「……なぁ、亮」

 

「なんだ」

 

「……酔い止め持ってないか?」

 

「保健室に行け」

 

 身体の内側から這い出ようとするこの感覚に、口を押さえつけながら耐える。

 何故俺が朝から耐え忍んでいるかと言うと、それは現在、目の前に映し出されているスクリーンに起因する。

 

『新入生徒ショクーン! ワタシが今後三年間実技を担当しマース、クロノス・デ・メディチ実技最高責任者でスーノ!』

 

「「「(…………ウッ)」」」

 

 最初の講義は、オベリスクブルーの寮監でもあるクロノス教諭による実技。そして講堂の壁から壁まで届くスクリーンには、クロノス教諭の顔面ドアップが生々しく表示されていた。

 本人は気づいていないのだろうが、その顔色は白く、一瞬魂を押し込まれたホムンクルスなんじゃないだろうか、と思えるほど血色が悪い。それを大画面で見せられるのだから、大半の生徒、特に教諭を初めてみるブルー以外の生徒は内から出る嘔吐感に必死に耐えるのだった。

 

『ワタシの授業内容ーハ、基本的に実技がメインでスーノ。だがしカーシ、いきなり実技と言われテーモ、ワタシはみなさんの実力と言うものを把握しきれていませンーノ。ですカーラ、みなさンーガ、同じスタートラインーニ立てるよウーニ、一学期のうちは基本的に座学をしまスーノ。わかりましターネ!?』

 

 アカデミアはなにもデュエルだけを学ぶところではない。年齢が高等部と同じだけあって、普通の高校の過程を基調として授業は進められる。なので形式としては、デュエルの専門学校という考えが近いだろう。

 

『それデーハ、早速始めたいと思いまスーノ。教科書の最初のページィヲ、開いてくださイーノ』

 

 一斉に紙のめくられる音が立つ。

 どんなに気分が優れずとも、これがこのアカデミアで学んでいくことの第一歩。それぞれが内に秘めた未来を歩むために学ぶ、最初の授業が始まった。

 

 

 

 

 

「…………気持ち悪い」

 

「保健室で寝ていろ」

 

 講義は午前の前後、午後の前後で分けられており、今日はクロノス教諭の授業が午前全てを使って行われた。

 授業内容はそこまで辛いものではないが、如何せん教諭の精神攻撃に揺すぶられた者が多い。かくいう俺も、その一人だった。

 

「いや……まさかクロノス教諭の顔面をドアップで見せられるのは予想外だったから……」

 

「仮にも寮監のはずだが……そんなに慣れないものか?」

 

「少なくとも俺は無理だ……」

 

「……力尽きるな。それにもう昼休みだ。昼飯にしよう」

 

「そういえばそうだったな。よし行こう」

 

 今にも倒れそうな雰囲気を出していた俺が瞬時に切り替えたのを、亮はただただ呆れるように見ていた。

 

 

 

 

 アカデミアの昼休みといえば、購買と行っても過言ではないだろう。

 デュエルアカデミア本校には購買がある。しかし、ただの購買ではない。

 本校というだけあり、ここを運営しているオーナー会社から新作のカードパックが発売日より僅かに早く届く。それを買おうとする生徒たちにより、購買は常に人で溢れかえっていた。

 それだけではない。ここの魅力は、また別のところにあった。

 

「あ、亮〜。ケイ〜。二人もドローパン買いにきたのかい?」

 

「よう吹雪。お前も随分買ったな……」

 

「食いすぎで倒れないようにな」

 

 吹雪が両手いっぱいに抱えている袋。これこそが、ここの名物、ドローパンである。

 外にはデュエルアカデミアのロゴが描かれているだけで、中身は一切見えない包装。買ってから、食べてから初めて味がわかるという、正真正銘運試しのパンである。

 なぜこれが人気なのかと言えば、理由は二つある。

 一つ、袋の中にはパンだけではなく、カードが一枚だけ、ランダムに封入されている。どんなカードが当たるのかというランダム性も魅力の一つであり、中には十二星のレアカードが入っているとの噂が立つほどである。

 そしてもう一つ、総菜パンや菓子パンなど、様々なパンが入り混じったドローパンの山の中、一つだけしか入っていないという幻のパンがあった。

 

「どうだ、幻のパンとやらは当たったか?」

 

「それが全部スカさ! 普通の卵パンはあったんだけど、幻の黄金の卵パンなんてカスリもしなかったよ」

 

 黄金の卵パンとは、ここアカデミアで飼っている金の毛並みをもつ鶏が一日一個だけ産み落とす金の卵を調理したと言われる、まさに幻のパンのことである。

 通常ドローパンはワゴンに山積みにされ、その中から一つを選び買うという方式で売られている。百を超えるパンの中から黄金の卵パンを当てる確率は僅かに一%未満。まさにレア中のレアというものである。

 

「それじゃ、俺も買ってくるとするか。亮、お前はどうする?」

 

「そうだな……俺も腕試しに、一つ頂くか」

 

 そういうと俺達は、未だ賑わう人混みの中にその身をねじ込ませていった。これだけ人がいれば、一度紛れてしまえば見つけるのは至難の技だろう。吹雪は二人を残し、大人しくその場を離れた。

 

「ケイは分からないけど、亮あたりなら当てそうだなー…………うへぇ、甘栗パンだ……」

 

 これどーかんがえても合わないでしょ……と愚痴りながらも、残さず咀嚼していく。口いっぱいに広がった甘さは中々ぬぐえず、急いでほかのパンを開けた吹雪だった。

 

 

 

 

 

「……! これだ!」

 

「ならば、俺はこれだ!」

 

 ワゴンを囲む人混みの中、俺達は目的のパンを手にした。

 生徒が騒がないので、まだ誰も黄金の卵パンを引き当てていないということだが、油断は禁物である。持ち帰ったパンがそれだというケースもあるので、開いて確認するまでは安心できない。

 

「トメさん、これ下さい。あと新作のパックを二つ」

 

「あいよ。新作は二つあるけど、どっちがいいんだい?」

 

「じゃあどっちも一つずつで」

 

 アカデミアのもう一つの名物、購買のトメさんである。その横には見習いのセイコさんがおり、亮が同じようにドローパンを買っていた。

 人混みの中から脱すると、さっそくドローパンを開けた。

 

「さて、何が出るか……………………なんだこれは」

 

 出てきたのは、黒いものが挟まったパン。黄金の卵パンは文字通り黄金色であるため、これは決して黄金の卵パンではない。

 

「……見たところ、菓子パンのようだが……」

 

「あむっ……………………これは、ケーキ?」

 

「色からしてチョコレートケーキ……いや、ティラミスか?」

 

「……そこまで大外れじゃないから良しとするか」

 

 俺が当てたのはティラミスパン。先ほど吹雪の引き当てた甘栗パンに比べれば、決してハズレではない。

 

「俺も見てみるとしよう。あむっ……」

 

「……どうだ?」

 

「………………具なしパンだ。中々旨い」

 

「信じられん」

 

 亮は具なしパンだった。しかし本人が旨いと言っているなら、それはそれで良いのだろう。

 

 

 

 

 

「うあーー疲れたー!」

 

「……なんで俺の部屋にいる」

 

 初日の授業も終わり、亮達はそれぞれ自室へ帰って行った。が、一人だけ部屋に戻らず、他人の部屋で寛いでいる馬鹿がいた。

 

「いやー、亮のトコ行ったら予習するって言ったから逃げてきてねー」

 

「よし吹雪、予習でもするか」

 

「おっとそうはいくか!」

 

 取り出した筆記用具とノートをすかさず掠め取られる。無駄に動きの速いこいつに不意打ちをくらわすのは至難の業だろう。

 

「……だがな吹雪。俺の部屋にいてもすることはないぞ。大人しく女子寮にでも不法侵入してこい」

 

「残念だけど僕は正面突破が好みだね。物事は障害があるからこそ燃え上がると思わないかい?」

 

 知らん。本当にどうでもいい。

 しかし何もすることはないというのは事実。あるとすればデッキ調整くらいだが、入って初日では調整も何もない。

 

「まぁ、暇なら相手してくれないかい? まだ亮以外とはほとんどやったことなくてね」

 

 そう言って吹雪が取り出したのはデッキ。つまるところ、暇だから相手しろということらしい。

 室内では専用ステージ以外でデュエルディスクを使うのは好ましくない。スペースに制限がある上、迫力にも欠ける。必然的に、室内でのデュエルはテーブルを使う形での、従来のデュエルとなる。

 

「……まぁ良いだろう。ただしディスクは使わないぞ」

 

「そうこなくっちゃね」

 

 部屋に備え付けられていたテーブルを挟むように移動する。

 互いに向かい合い、お互いのデッキをシャッフル。デッキを右側にセットし、五枚ドローする。

 これで準備完了である。

 

「さて、手解き願おうか」

 

「お手柔らかにね」

 

「「デュエル!!」」

 

早乙女ケイ LIFE4000

天上院吹雪 LIFE4000

 

「先攻は僕がもらうよ、ドロー。僕は『激昂のミノタウルス』(ATK1700)を召喚。カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 吹雪の出したモンスターはミノタウルス。かの伝説のデュエリスト、海馬瀬人も使っていたという、高パワーモンスターだ。

 海馬瀬人の使っていたカードは通常モンスターだったが、激昂のミノタウルスはリメイクモンスター。効果が付属され、よりデュエルで使いやすくなったものである。

 

「俺のターン、ドロー。俺は『マジック・ストライカー』(ATK600)を召喚して、そのまま吹雪を攻撃する」

 

 二枚の伏せカードが気にはなるが、この場面ではボードアドバンテージの損失も少ない。臆せず攻めた方が効果的だろう。

 

「残念だけど、そう簡単に通すわけにはいかないね。罠発動『攻撃誘導アーマー』!」

 

「なにィ!?」

 

 あまりのカードに、思わず絶叫した。

 

「相手の攻撃宣言時モンスターを一体選択し、その攻撃を選択したモンスターへ向かわせる!」

 

 俺の記憶が確かならば、あのカードはKC(海馬コーポレーション)の海馬瀬人社長が第一回バトルシティで使っていたカード。まさか市販されていたとは思わなかった。

 

「僕が選択するのは勿論『激昂のミノタウルス』! 更に罠発動『幻獣の角』! 発動後装備カードとなり装備モンスターは攻撃力が800アップ! 迎撃だミノタウルス!」

 

 『激昂のミノタウルス』ATK1700 → 2500

 

 攻撃力2500対600では、結果は火を見るより明らか。あえなくマジック・ストライカーは墓地におかれた。

 

「『幻獣の角』は装備モンスターが戦闘に勝利した時、カードを一枚ドローできる。この効果で僕は一枚ドローだ」

 

 相手を破壊しつつ、自分の手も進める。なるほど、よく考えられている。

 見たところ吹雪は攻撃力の高いモンスターで攻めるデッキのようだ。それならすぐに手札が尽きてしまうだろうが、あのカードを一緒に使うことで、攻撃力アップと手札の補充を同時に行うことで解消される。ブルーに入ったのは伊達じゃないということか。

 

「なら俺はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「僕のターン、ドロー。それじゃこのまま攻めさせてもらうよ! ミノタウルスで攻撃!」

 

 直撃を受ければ2500のダメージ。一気にライフの半分以上を持っていかれる。

 

「生憎、そう簡単に勝たせられないな。罠カード『攻撃の無力化』発動! バトルフェイズを終了だ!」

 

「ちぇっ。しぶといね……。僕は『ベイオウルフ』(ATK1650)を召喚して、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。吹雪、ちょっと面白いものを見せてやろう」

 

「ん?」

 

 フィールド上には二体のモンスター。ミノタウルスの効果で、どちらも貫通効果を持っている。

 下手にモンスターを置こうものなら、即座にライフが削りきられるだろう。

 

「お前の場の厄介なモンスターには消えてもらうとしよう。まずは罠カード『おジャマトリオ』発動!」

 

「お、おジャマトリオ?」

 

 困惑する吹雪だが、それも無理はない。このカードは最近発売されたパック、ひいては先程購買で買ったパックに入っていた一枚なのだから、吹雪が効果を知るはずもない。一応事前に公開されてはいたのだが、面倒くさがりな吹雪がチェックしているとも思えない。

 

「このカードが発動した時、相手の場に三体のおジャマトークンを守備表示で特殊召喚する。なお、破壊されたときに一体につき300ポイントのダメージのオマケ付きだ。しかも生贄召喚にも使えない」

 

「ぬぐ……本当に邪魔だね……」

 

「さて、気づかないか吹雪」

 

「へ? なにを?」

 

 まるで分らないといった風に聞き返す吹雪。それもそうだろう。いきなり聞かれても「なんのこっちゃ?」というのが正しい反応である。

 

「相手の場にモンスターが五体いる。この時に有効な魔法カードを三枚上げよ」

 

「は!?」

 

 突然のクイズに困惑を隠せないようだが、ここはデュエルアカデミア。カードに対する知識は深くなければそれだけ不利になる場所である。

 

「チッチッチッチ……」

 

「え、えちょっ! ええと……『ブラック・ホール』、『サンダーボルト』……ええとぉ……」

 

「はい時間切れ」

 

「早い!?」

 

 これでも長い方なのだが。

 

「不正解者には正しいカードの運用を見せよう。魔法カード『封魔一閃』発動!」

 

 今でこそ数ある破壊カードに埋まってしまったが、中々強力な効果を持った一枚である。

 事実、ここに来る前の近所のカードショップでは、一枚十円のバラ売りカードの中に紛れ込んでいた。

 

「えーと、『封魔一閃』の効果は……」

 

「覚えなおせ。相手フィールド上のモンスターカードゾーンが全て埋まっている時、相手モンスターを全て破壊する、だ」

 

「そうそう、それだよ……ええ!!」

 

 ツッコミ属性復活のようだ。

 

「と言うわけでモンスター全破壊! おジャマトークンの効果により300ポイントのダメージを受けろ!」

 

 天上院吹雪 LIFE4000 → 3100

 

「ちょまあああああ!!! ちょ、オマ! 僕のフィールドガラ空きじゃないか!!」

 

「安心しろ。俺のモンスターは相手がいようといまいと関係ない。俺は『強欲な壺』を発動して二枚ドロー。そして『逆巻く炎の精霊』(ATK100)を召喚! 更に装備魔法『魔導師の力』を装備! 更に更に手札を一枚捨てて『閃光の双剣-トライス-』を装備! これで攻撃力は600になり、二回攻撃が可能だ!」

 

『逆巻く炎の精霊』ATK100 → 1100 → 600

 

 魔導師の力は自分の魔法、罠カード一枚につき攻撃力を500ポイント上げるカード。そしてトライスは攻撃力を500ポイント下げる代わりに二回攻撃を可能にするカード。魔導師の力により攻撃力は1000上がり、トライスにより500下がる。

 そして逆巻く炎の精霊は直接攻撃に成功するたび、攻撃力を1000ポイント上げる効果を持つ。

 

「『逆巻く炎の精霊』で吹雪に連続攻撃!」

 

「ちょ、まっ、オイイィィ!!」

 

 天上院吹雪 LIFE3100 → 2500 → 900

 

『逆巻く炎の精霊』ATK600 → 1600 → 2600

 

「あああああああ!! ちょ、ライフが既に風前の灯に!」

 

「炎だけに?」

 

「そうそう……ってやかましい!」

 

 冗談はさておき、これでこちらがかなり優勢になった。このままの勢いでいけば、まず間違いなく勝てるだろう。

 

「俺はターンエンドだ」

 

「くっそぅ……やってくれたね……。ドロー!」

 

 苦しい表情をしていた吹雪だったが、ドローしたカードに目を通した瞬間、それは笑顔に変わった。

 

「ケイ、見せてあげるよ! これが僕のデッキのエースモンスターだ! 召喚、『神獣王バルバロス』(ATK1900)!!」

 

 吹雪が召喚したのは、金色のたてがみが雄々しい獣人のモンスターだった。

 しかしその攻撃力は1900で、逆巻く炎の精霊には届かない。

 

「バルバロスは星八のモンスター。本来は生贄が必要だけど、攻撃力を1900にすることで生贄無しで召喚できる! さらに僕はカードを一枚伏せ、速攻魔法『突進』を発動! バルバロスの攻撃力を700ポイントアップさせる!」

 

『神獣王バルバロス』ATK1900 → 2600

 

 互いの攻撃力が並んだ。しかし、吹雪の動きはどこか妙なものだった。

 突進を使い攻撃力を上げる所まではわかる。だが、何故今カードを伏せたのだろうか。

 バトルの後にあるメインフェイズ2の方が、確実に置けるはずなのだが。

 

「バトル! バルバロスで、炎の精霊を攻撃だ!」

 

 攻撃力は互角。当然相討ちとなり、互いのモンスターは墓地に置かれた。

 これでフィールドからモンスターは消えた。加えて俺は魔法・罠もない。だが、吹雪もこのターンはもう召喚できない。

 

「分かるよケイ。君の考えが」

 

「……なに?」

 

「このターンはもう追撃は無いと思っているね? ところがどっこいそうは問屋が卸さない! 僕はここで罠を発動する!」

 

 罠……ということは予め伏せられていたもう一枚。今発動ということは戦闘破壊された時に発動する類のもの。

 罠……戦闘破壊……カードのセット……。

 そこではたと気がついた。バルバロスの能力を活用しつつ、この状況に最適な罠の存在に。

 そしてその予想が正しければ、このターン……俺はやばい。

 

「気がついたようだね」

 

 あれこれ対策法を練っていると、吹雪が話しかけてきた。

 

「ケイ。君は圧倒的な情報量を持っている。それこそ、僕なんかじゃ到底追いつけないほどのね。だからこそ気がついたんだろう? この罠、『命の綱』の存在にね!!」

 

 リバースされたカード、それは命の綱。

 現状もっとも有効であり、考えうる限り最高のカード。

 そしてようやく合点がいった。

 伏せられたカード。不自然に残された一枚の手札。

 全てはこの、一撃のための布石。

 

「手札を全て捨てて、たった今墓地に送られたモンスターを蘇らせる! 蘇れバルバロス!」

 

 再び吹雪のフィールドに現れるバルバロス。その攻撃力は、先程とは違い3000もある。

 

「バルバロスはさっき妥協召喚した時と違い、今の攻撃力は3000だ!」

 

「……更に命の綱の効果はまだある、だろ?」

 

「そうさ。命の綱の第二の効果! このカードで蘇生したモンスターの攻撃力は、800ポイントアップする!」

 

 最悪の状況が出来てしまった。

 現在バルバロスの攻撃力は3800。それに引き換え俺の場にはカードが一枚もない。

 つまり……。

 

「さあ、さっきのダメージ利子をつけて返そうじゃないか! バルバロスで直接攻撃だァ!!」

 

「ぐ……防げん……!」

 

『神獣王バルバロス』ATK3000 → 3800

 

 早乙女ケイ LIFE4000 → 200

 

「よし! 僕はセットしてあった罠『強欲な瓶』を発動。カードを一枚ドローするよ。更にさっき伏せた魔法『死者転生』を発動。たった今引いた『野性解放』を墓地に捨て、墓地の『激昂のミノタウルス』を手札に加えるよ」

 

 吹雪はすでにバルバロスを召喚しているため、今はミノタウルスは召喚できない。

 だが次のターン、モンスターを壁にしたところでミノタウルスの貫通効果により俺のライフは尽きるだろう。

 

「僕はこれでターンエンド! さあ、どうするんだい?」

 

「なぁに、すぐに捲ってやるさ。ドロー!」

 

 既に手札はゼロ。このカードで何かしらの手を打たなければ、その時点で俺の負けだろう。

 引いたカードを確認する。……これならいける!

 

「俺は魔法カード『壺の中の魔術書』を発動。互いのプレイヤーはカードを三枚ドローする」

 

「む……ここで手札補強か……」

 

 新たに引いたカードを確認する。

 ライフポイントが少ない今、吹雪のようにモンスターで自爆特攻するなどという荒業は使えない。

 なればこそ、この手札で決める。

 

「俺は『機動砦のギア・ゴーレム』(ATK800)を召喚する」

 

「ギア・ゴーレムを攻撃表示だって?」

 

 吹雪が疑問の声を上げる。

 ギア・ゴーレムは基本的に、守備表示で出すのが普通だ。守備力が2200もあるのだから、そうした方が断然使いやすい。

 しかしギア・ゴーレムには効果があった。

 

「ケイ。確かにギア・ゴーレムは直接攻撃できる効果を持っているよ。でもそれは800ライフを払った場合だし、君の今のライフじゃ使えない。それにたとえ使えても僕のライフを削りきることはできないけど?」

 

 吹雪の言うとおり、ライフを払わなければこのモンスターの直接攻撃能力は使えない。さらに使えても与えられるダメージは800であり、吹雪のライフ900を削りきるには僅かに足りない。

 しかし、俺はこのカードに賭けた。

 

「吹雪。お前は最初、面白い罠を見せてくれたな」

 

「最初……? 『攻撃誘導アーマー』のことかい?」

 

 あのカードは元々海馬社長しか持っていないレアカードだった。今でこそ普通に入手できるカードだが……これから使うのもそれと同じ類だ。

 

「ああ。だから俺も面白いカードを見せてやろう。手札から魔法発動! 俺が使うのは、『フォース』!」

 

「ふぉ、フォース!? あの、かつて幻の超レアカードと謳われていた、あのフォースか!?」

 

 目に見えて動揺する吹雪。このカードも元は幻とまで言われ入手困難だったカードの一枚。

 だがバトルシティのお陰でデュエルモンスターズの知名度が上がり、カードもそれに伴い増産。故に俺でも入手できるほどにお手軽なカードとなった。

 

「『フォース』の効果発動! 相手モンスターの攻撃力を半分にし、自分モンスターに半分にした数値分攻撃力を加算する! 故にバルバロスは再び1900となり、ギア・ゴーレムの攻撃力は2700となる! そのままギア・ゴーレムで、バルバロスを攻撃だ!!」

 

「だ、だけど! これでバルバロスを攻撃したところでライフは1000残る! 更に『フォース』の効果はこのターンのみ。次の僕のターン、ミノタウルスで攻撃すれば僕の勝ちだ!」

 

 甘い……甘すぎる!

 

「吹雪! お前の妄言など、きなこ練乳より甘い! 速攻魔法『リミッター解除』発動! 機械族の攻撃力は倍となり、ギア・ゴーレムの攻撃力は5400! バルバロスを破壊して──!」

 

『神獣王バルバロス』ATK3800 → 1900

『機動砦のギア・ゴーレム』ATK800 → 2700 → 5400

 

 天上院吹雪 LIFE900 → 0

 

「──俺の勝ちだ!!」

 

 

 

 

 

「あ”ーーーー負けたァーーーー!!」

 

「フッ、甘いな吹雪、蜂蜜をかけたクリームパフェよりも甘い!」

 

 デュエルが終わるやいなや、俺達は今のデュエルの反省会を始めた。内容はおおむね、使ったコンボに関する話である。

 

「思うに吹雪は高火力で攻めるデッキだろう。なら、まず相手の罠や速攻魔法に引っかからないようなカードを入れるべきじゃないか?」

 

「そうは思うんだけど、実のところ一杯いっぱいでね。持ってるのも『フォースフィールド』くらいだし……」

 

「モンスター一体に対する魔法を無効にするカウンター罠か……。『八式多重魔法結界』ならあるが、いるか?」

 

「ぜひお願いします!」

 

 こんな感じの会話が、夕飯時に亮が呼びに来るまで続いた。

 たまにはこうして手合せするのも、悪くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

「(コンコン)ケイ、ちょっといいか?」

 

「ん、優介か? どうしたんだこんな夜中に」

 

「いや、トレードしてもらいたいカードがあって。確か持ってたと思うんだけど」

 

「ああ構わないぞ、入れ…………その手のパンはなんだ?」

 

「夜食用に買っといた」

 

「そうか。………………ところで具が金色に見えるんだが」

 

「そうだね。美味いな、これ」

 

「黄金の卵パンだな。レアらしいぞ」

 

「へえ」

 

「………………」

 

「………………一口いる?」

 

「ああ」

 

 

To be continued...

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