いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した |
第五十四話 ひねくれたツンデレさん
「…まあ、このクロウはおいといて。…次はあなた。いえ、あなた達の事よ『悲しみの乙女』に『傷だらけの獅子』」
暴れたクロウに様々な拘束具をはめて局員に連行されていったのを見送ったアリアさんが俺とリインフォースを見る。
俺とリインフォースは互いに視線をかわすが俺としては『傷だらけの獅子』のスフィアでアリシアが蘇生したことを伝えたくはない。
目の前に家族を失ったことのある人間。ハラオウン親子にこのことを伝えるのはちょっと気が引けるし、同じリアクターのリインフォースも、どうして同じスフィアリアクターなのにこんなに差があるのだろうかと落ち込まれても困る。
「…はい。私は私にいつの間にか組み込まれた『悲しみの乙女』が引き起こす因果に何人ものの人を不幸にしてきました。所有者だけではなくその周りの人達に及びます」
そんなことを考えているとリインフォースから自分の事をしゃべり始めた。
「…因果。と言ったな。それはもう収まったのか?タカの『傷だらけの獅子』は『痛み』を感じることでその因果が強まるとか聞いたが?」
「私の因子。いや、因果は『悲しみ』だ。私が悲しまなければスフィアも増長しない。ただ、私の周りでは必ず不幸が訪れることになるだろうな」
「…リインフォースさん。あなたは自分自身の道をどう進んでいくつもりなのかしら?」
「…私を構成しているプログラムはあの暴走体と共に吹き飛んだ。どう足掻いても『悲しみの乙女』スフィアの影響は受ける。いや、近い将来スフィアが無いと私は存在すら出来なくなる。ですから、私は私の滅びを選びます」
ハラオウン親子とリインフォースの質疑応答を聞いてはやてが目を見開く。
「…どういうことやっ、リインフォース!呪いは!『悲しみの乙女』の呪いは高志君が剥ぎ取ってくれたんやないか!」
闇の書の呪いから抜け出した俺達。
あの時、闇の書の管理内で合流を果たした俺ははやてとリインフォースが言う呪いをペインシャウターで吹き飛ばした。だが、あれで呪いが消えたわけでは無い。というよりも呪いそのものが今のリインフォースを象っていたとしたら…。
「私が現存している。…『悲しみの乙女』がある限り、またこのような事件が起きてしまう可能性があります」
「…なら、封印するしかない。いや、それよりも完全には壊したほうがいいんじゃないかしら?」
「アリアッ」
「貴様ッ」
アリアさんの言葉にクロノとシグナムが忠告するかのように語気を強めてアリアさんを睨むがそれをどこ吹く風と言わんばかりに俺の方を見る。
「この子も言っていたじゃない。『悲しみの乙女』が一番厄介だ。見つけたら封印したほうがいいと」
「保護の方も言ったと思うんだけど?」
『傷だらけの獅子』の俺とアリシアも助けて欲しいところだ。
でも、プレシア曰くそれを弱みに俺をこき使うかもしれない。スフィアの研究をするかもしれない。そうしたらアリシアも危ない。と言った具合に事が運びそうになるのであまり深く関わらない方がいいとのこと。
「それにまた同じスフィアの持ち主アサキムの事も気になるわ。リインフォース。あなたも言っていたわよね、『太極』。…その単語も気になる。答えなさいスフィアリアクター」
「…太極はスフィアを集めることで至れると言われる大いなる力としか言えないな。ただ、私のスフィアの呪いをかき消すぐらいは出来る力は持っている。としか感じられなかった」
「…感じられる?私達は何も感じないけど?たしかにリインフォースと高志君からは魔力以外の力を感じ取ることが出来るけど?」
補助のエキスパート。シャマルさんがそう言うのならそうだろう。
スフィアと魔力はやはり別物という事か。
「タカ。君は知っているのか『太極』を?」
「…俺もリインフォースさん以上の事は知らないな。ただ、アサキムがそれを狙って俺達をまた襲う可能性は大だな」
「あなたもそれを欲するの?」
「俺は…」
もし『太極』が手に入れることで元の世界に戻れるとしたら俺は…。
「「「………」」」
アリシアとリインフォース。そして、はやての視線が俺にぶつかる。
アリシアは何となくだがこの世界以外に俺の本当の家族のいる世界があることを知っている。そして、俺がそこに帰りたがっているのを知っている。
『悲しみの乙女』の呪いを受けていたリインフォースも俺には言ってこないが気付いているだろう。俺が異世界人であることに。
そして、はやては夜天の書の主。そして、闇の書の暴走に巻き込まれた際に俺の記憶を少しばかり覗いてしまったんだろう。その表情はリインフォースと同じだ。
「…そんな力はいらない。俺には『傷だらけの獅子』で十分だ。メリットもデメリットもこれ以上はいらないよ」
…嘘だ。
あの時、暴走体を攻撃した時。
『太極』のことなど忘れていた。
だけど、もし、実際に、元の世界に戻れる日が来たら?
俺は選べるのだろうか?
この世界と元の世界。
たぶん俺もクロウ同様に選べないのかもしれない。
高志君は明らかに迷っていた。
私もうっすらとだが高志君が自分の家族と離ればなれになってこの世界にいることを私は知っている。アリシアちゃんという存在がいなければきっと…。
「…そんな力はいらない」
その言葉には悩んでいる色が濃かった。
きっと今でも迷っている。『太極』はそれほどまでに強大で魅力的なんだ。
もし、私が見ず知らずの世界に来たら?もし帰る方法があるのなら?私は躊躇うことなくそれにしがみつく。
今はヴィータ達、騎士の皆がいるからそうは思わない。だけど…。
それは私の世界がここだからだ。
「…まあ、あのアサキムでも未だに至れていない力を考えていても仕方ない。それより、クロノ。話はそれだけか?」
「…アサキムとシュロウガの事についてなんだが君は何か知らないか?」
「…『太極』の力の一端なんだと思う。俺もそれについてはよくわからない。強大な攻撃力と再生能力。魔力に関してもあの暴走体が人型になったと考えた方がいいかもしれない」
「…まだある。タカ。君とアリシアのスフィア『傷だらけの獅子』に若干だが誤った情報が混ざっているようなんだが。これはどういう事だ?」
「闇の書の呪いの中で成長したとしか言えない。スフィアは俺だって知らないことでいっぱいだから。…嘘じゃねえよ?未だにプレシアやアースラのスタッフにメンテナンスしてもらっているからわかるだろうけどブラックボックス部分が多すぎるんだよ。ガンレオンもスフィアも」
少しだけおどけた拍子で話す高志君を見て、少しは調子が戻ったと思った。
だけど、高志君。
本当にそれでええのん?
「最後の一つなんだが…。『悲しみの乙女』。アサキム曰くそれを持つ者は必然的に不幸な目に合うとある。…君の意見を聞かせて欲しい。これから僕等はどう((処理|・・))すればいいと思う?」
「執務官殿?!それは内密にと…」
処理?どういうこと?
リインフォースがクロノ君の言葉に異を唱える。それは私には知られたくないと懇願よするような顔だった。
「…どういうことや?それじゃあ、まるでリインフォースが」
「我が主。御存知ですよね。私が『悲しみの乙女』のスフィアリアクターであることを…。そして、私が主を悲しませていることを…」
「そんなのわかっている!だから、リインフォースを見捨てるというんか!そんなのゆるさへん!絶対に却下や!」
私は車椅子から転げ落ちそうになりながらもリインフォースの服を掴んで怒鳴る。
…せっかく。
せっかくあのくらい闇の書だった頃を終えたのに何でリインフォースがそんな目に合わないといけないんや!
『悲しみの乙女』の因果なんか私達家族が全員で追っ払う!それでいいんやないか!
「…あのアサキムをまた相手にすることになっても?」
アリアさんが私を見て問いかける。
アサキムの兄ちゃんはスフィアを欲しているのはわかる。だからこそ私達を不幸な目に合わせてリインフォースを悲しませようとするだろう。だけど、それをさせないためにも…。
「何度来ても追い払う!その為だったら私はもっと強くなる!」
「…我が主」
私はリインフォースを抱きしめる。
車椅子から落ちそうになったところをリインフォースに抱きとめられる。
その様子を見て高志君はぽつりと私に質問してきた。
「なあ、はやて。リインフォースさんの事は好きか?」
「当たり前や!家族やもん!」
「…アリサやすずかは好きか?」
「当然や!友達やからな!」
「…他にも好きな人はいるか?」
「…おる、よ?」
高志君の質問の意図が分からない。
何が知りたいんや?
「……クロノ。リンディさん。俺は((条件次第|・・・・))ならリインフォースの存命を希望する。それが通らない場合は…いや、まずは出来るかどうか教えて欲しい」
「『傷だらけの獅子』。あなたは何を言っているのかご理解しているのか!?」
高志君の言葉にリインフォースは驚愕した。まさか、自分を保護するとは思わなかったんだろう。
高志君はじっくりと考えてからクロノ君の方に向き直る。
「…条件次第?どういうことだ?」
「一つ。八神はやてと騎士達の身柄の保護と相互監視」
「…彼女達もこの事件の被害者でもある。やってみよう」
「一つ。八神はやての親しい人間関係の把握。そしてその人達に気づかれずに監視・警護を頼む」
「…なんでそこまでする必要があるの?」
「…リインフォースの主ははやてだから。はやての知り合いが不幸な目に合えばはやては悲しみ、それを見たリインフォースも悲しむから」
「…なるほど間接的に彼女のスフィアを増長させるわけね」
「…悪い言い方をするけど『悲しみの乙女』は。…あるだけで有害だ」
私はその言葉を聞いて頭に血が上るのを感じた。
「高志君!それはいくらなんでも言い過ぎや!」
「タカシ!それは酷すぎるよ!」
フェイトちゃんも私と一緒になって高志君を責めようとしたけど…。
「お前の騎士達はお前のために何をしたか思い出せ!八神はやて!」
だけど、私よりも大きな声尾を張り上げる高志君に皆が驚いた。
「…主はやての為に?」
「私達が…?」
「…あ」
「…そうだ。我々は」
…そうや。騎士の皆は私を助けるために。
…世界を敵にしても蒐集活動を続けた。
「アサキムもそうだろう。『太極に至れる』なら『世界をも敵にする』」
太極を私に入れ替えるだけで彼と私達は何も変わらない。
「…私も。…同じだ」
「…フェイト」
フェイトちゃんが俯いて言葉を漏らす。それを見たアルフさんがそれに寄り添う。そして、プレシアさんもまた同様にアリシアちゃんを自分の所に引き寄せていた。
「…耳が痛いわね」
「…お母さん」
一同が静まり返る。
沈黙がしばらく続くとアリアさんが意を決して高志君に声をかける。
「それなら…。なんであなたは彼女の存命を希望するの?」
「…それは。…対アサキム対策」
高志君は言いよどみながらもアリアさんの質問に答える。
ただ、その様子はとてもたどたどしく聞こえた。
「そんな理由で?あなたは周りの人間を不幸にするの?」
「俺にとって大事なのはテスタロッサの名前を名乗る人間だけだ。あとの人間の命なんてどうでもいい」
「な!?」
「悪いな。クロノ。俺にとって、自分の命以上に大切なものはテスタロッサだけだ。それが俺の心の天秤だ」
「…ぐ」
クロノ君は高志君の言葉に驚いていたが彼の言葉は自分にもわからないことでもない。と、思ったのか開きかけた口を閉じる。
「俺だって無用な殺生は好まない。お前達。『管理局の正義』は『尽きぬ水瓶』みたいに善意でやっているかもしれない。だけど、俺にそんな殊勝なものは無い。俺には『家族』以上に大切なものは存在しないから」
「「………」」
アリアさんやリンディさんも口を閉じた。
誰だって自分の家族が犠牲になるのは好まない。
誰も。…誰もがその言葉を思い知っていた。
家族を持ったことのある人ならなおのことだったから。
「…俺は家族の為ならなんだってやる。…だから、はやて。お前の家族を俺に助けさせてくれ」
「…え?」
「…だ、だからだな。俺がお前の家族を守る。その代わりお前達が俺の家族を守る。ギブ&テイクだ」
「…『傷だらけの獅子』。だが、それではあなたとあなたの守りたい家族も」
「…何度も言わせるな。言っただろう。((家族の為|・・・・))なら何でもするって」
…あ。
もしかして、それは…。
八神はやての家族も守るという事?
私の考えたことに気づいたのか高志君は少し照れたかのように顔を逸らす。
つまりはこうゆう事だ。
家族が守れるなら何でもやる。
それは守れるなら誰でも見捨てるけど誰でも助けるという事。
だけど、それは何も自分だけの話じゃない。
((八神はやて|・・・・・))の家族にも当てはまるという事だ。
きっと、なのはちゃんにフェイトちゃん。クロノ君にアリサちゃんやすずかちゃんもそこに含まれているだろう。
…クロウ君はギリギリアウトかな。
「それに…。俺は本当の両親から『自分がやられて嫌な事はするな』って、言われているんだ。自分を助けてくれる力を持った人に見捨てられるのは嫌だからな。…それだけだ」
思いっきり顔を赤らめている高志君を見て私は確信した。
この『傷だらけの獅子』は私の味方になってくれると。見捨てないでくれると。
「…高志君はひねくれたツンデレさんやな」
この日の会話を私は後になってから思う。
わざと厳しい言葉と現実を見せつけて私達の覚悟を確かめる。そして、その覚悟を見た高志君は更に私達の現状を正確に伝えたかった。
そして、それを知らされ崩れかけそうになった。この時。
私達がまた同じような局面に遭遇しても立ち上がれるように叱咤してくれたんだと。
「誰がアリサか!」
その証拠は顔を真っ赤にした高志君自身。
ツッコミを入れる高志君は初めて会った時のように、愉快で悪戯心を揺さぶる雰囲気を醸し出していた。
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第五十四話 ひねくれたツンデレさん | ||
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コメント | ||
猫猫姉妹は確か最後まで凍結封印にこだわっていたから、自分達のしたことに対する罪悪感はないだろうから、平気なんでしょうね。リンディさんはかわいそうですね。この件は確実にプレシアさんにつっこまれるから処理が大変^^;(Leccee) てか、なんでアリアは平然と偉そうにそこに居る?お前だって原因の一つじゃねぇか。自分の事棚に上げて何を言うか。(孝(たか)) いやツンデレはいいからアリア帰れ(鎖紅十字) 高志のツンデレ……ゴクリ。ツンデレは女性キャラの特権。(カケル) |
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